当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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一章 泡沫の夢に

29話 『非力』

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 ……今だ。

 レイはブロック塀から飛び出て孤児院の前に立つ
 立ちはだかる

「ぁ……?」

 その一声で萎縮してしまった。
 っ……! だって……、見られている。
 僕が出る前から見ていた。
 なんで気付かれたのかは分からない。
 けど……、稲継くんをこのままにしていたら、また被害者が増えるんだ。
 やらなきゃならないっ。
 今、ここで……!

「なんだ。お前かよ。……どっか行け」

 ……ぇっ……?
 あれ……?
 急に、ホッとした。
 っ……。ダメだダメだ。しっかりしなきゃ!
 ここで、やるんだ……!

「退けよ。殺すぞ」
「っ……! ぼ、ぼぼぼ、僕だって……! まま、負けない……! からっ……!」
 大きく溜め息を吐いて頭を掻いて「何? なんなの? あれか? 復讐か?」手を止めた「だったらやめとけ。死ぬぞ。お前も、身内も」

 その冷たい眼光に、その圧に、小さく悲鳴を上げて尻餅を着いてしまった。
 だって……目が、光ったみたいに、見えたんだ、もん……。

「だ、だだだったら……! い、いい稲継くんの、方こそ……、その……、……やめてよ……っ!」
「は? お前何言ってんの? お前になんかするかよ」
「ぼっ、僕にじゃ、なくて……! その……他の、人にも……」
「あのさ、いい加減にしろよ? コッチが我慢してたら……何? それ? たかだかで俺を倒そうとしてんのか?」

 ブワッと、途端に冷や汗が出て来た。
 今までと違う……!
 明らかに、全然違う……!
 何……! この──!

「調子のんなよ?」

 っ!
 い、いつの間に……!?
 だって、さっきは、ドアの前に……!
 どうやって僕の顔の前まで……!?

「大体、お前程度いつでも殺せんだよ。何? 殺して欲しいの? それともなんだ? 正義のヒーローか? それにさぁ、なんで強者が弱者を喰っちゃいけねえんだよ。なんだ? 皆幸せに──か? ふざけんなよ? この世の幸せなんてな、下に苦しい奴が居るから成り立ってんだ。それを忘れんじゃねえ」と、唾をレイの額に吐いて左に曲がる

 ど、どこかに行く……!
 っ……ダメだ…………うご、かな、い……。
 怖い……。
 なんなの……、あれは……。
 ……っ……行っ、ちゃっ……た……。


※※※


「……もう、朝……」

 時計には〇四、〇〇と表示されていた。四時……。
 眠れなかった。
 やるって決めたのに、出来なかった。
 もう、何も出来る気がしない……。
 もう、出たくない……。
 でも……、出なきゃ……。
 せめて、ミズキさんと勉強した、テストだけは……、せめて……。

「レイくん? 起きてるの?」
「はい。起きてます」

 ネネさんが入って来た。
 どこか辛そうにしている。
 やっぱり、僕のせいだ。ミズキさんはここの人達ととても仲が良かったはずなんだ。

「あのね……ミッちゃんの、事なんだけど……」

 少し、言いづらそうにしている。
 何をそんなに言いづらそうに──、

「ミッちゃんのね、直葬……二日後だって……」

 二日後……。テストが終わる日……。

「ミッちゃんのご両親からその場所の地図が届いたの。切手は無いから……多分、じかで入れたんだと思う」

 ミズキさんの……親……。
 ……ぁれ……。
 ミズキさん、一人暮らしじゃ…………、ああ……、多分……言いたくなかったんだと、思う。
 僕も、言いたくなかった事、言ってなかったから……。

「レイくんは……行く?」
「行き、ます……」
「レイカちゃんが起きたら話しておくね。今、喧嘩中でしょ……?」
「…………ありがとうございます」

 ネネさんが出て行った。
 ……結局、ネネさんと一度も目を合わせられなかった。
 眼帯も着け忘れて……多分、眼窩がんかの奥までも見えてたんだと思う……。
 義眼も付けてないから、気持ち悪かったと思う。
 でも、それより、そんな事より──……、とても、悪い気がして……目を下に向けていた……。
 ……つい、ギュッと右手を左手で握ってた。

「バカみたい……」

 っ……!
 慌てて手で押さえても、既に出てしまった言葉は押し戻せない。
 僕は溜め息を吐いて、そのまま手を膝下に下ろした。
 ……バカみたいに強気になって……、バカみたいに泣いて……、バカみたいに仲良くしようとして……、バカみたいに助けようとして……、無理だって分かってるのに。
 それでも、ついこの間までの生活が嬉しくて、楽しくて、好きで、大好きで……、でも……、僕に、そこまで戻せる技量は無い。
 なのに、頑張って……、更に軋轢あつれきを作って……、

「ああ……、無理、だったんだ……」

 これ以上頑張っても、多分、悪くなる一方だと思う。
 だから……、何もしない方がいい。
 今なら、素直にそう、思える……。
 ごめんなさい、ミズキさん……。
 僕は──、

 『非力』だ……。
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