当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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一章 泡沫の夢に

42話 『苦渋』

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 あれから、十分くらい経ったと思う。もう夕方で、レイカちゃんも泣き止んでくれた。
 だけど、今日、ミズキさんのお葬式と言ったら、レイカちゃんがまた泣いて……明日と思っていたらしい。そう言いながら泣いていたから。
 レイカちゃんを宥め始めて気付いた。
 僕は、血を、流し過ぎたみたい……。
 頭がボーッとしてきて、何か星みたいな点々が見える。セピア色になって、段々暗くなってきた……。

「レイカちゃん、ちょっと、ごめん、なさい……」
「どうしたの……?」

 あ、もう、ダメ……。

「レイ、くん……?」

 答えない
 いや、答えられない
 レイはレイカの肩にぐったりと体重をかけて小さな息をしている

「ねえ、大丈夫なの?」少し離れてレイの顔を見詰める「ねえ、ねえ! ねえってば!」

 そう叫びながら揺らす
 揺れてそのまま地面に倒れてしまったレイの体を揺する。声をかける。頬を引っ張る
 だが、起きない

「ねえ! 起きて! 起きてよ! ねえっ!」
「レイカちゃん!?」
「あっ、ネネさん……!」

 レイカは戻って来たネネに事の経緯いきさつを話しているが、「あとで聞くから」とレイを抱えてドアを開け、応急処置を施した
 とは言ってもそこまで深い傷は無かった
 軽い打撲傷が腹部や頭部にいくつかあるだけで、血は出ているものの、その血が誰のものかは分からなかった

 そしてリビングで「レイカちゃん、レイくんの事なんだけどね……」二人は対面に座り、少し話をしていた
「少し前にも、て言うか最近、色々と、ほら、ね……? あったじゃない?」
「うん……」
「いや、怒るわけじゃないのよ? レイくんには、そりゃあ無茶はして欲しくないし、いっぱい笑ってくれる方が嬉しいと思ってる。私はね。だけど、レイカちゃんは、その、もう少し仲良くできないかな……? その……ミッちゃんが…………レイくんと、仲悪いみたいだから……」
「仲直り、したもん……」
「それなら、良いけど……でも、人ってね、どこにも居場所が無いと悪い人達にすぐ引っ掛かるから……それで……その……ケンカ、したんでしょ? レイくん」
「うん……」
「だから、仲良くして欲しいなって思ったの」
「レイくんとはもう仲直りしたもん……。ちゃんと、謝ったもん……」
「でもね、ほら、レイくんが許してくれたか……」
「ちゃんと良いよって言ってくれたもん!」机を叩いてリビングを出て行く「部屋に行く!」
「ちょっと、レイカちゃん……!」

 呼び止めるネネの声も聞かずにレイカは自室へと大きな足音を立てながら戻って行った
 残されたネネは椅子に座り、頭を抱え込んだ「ちょっと、ヤバイわ……」


※※※


 暗い。でも、足元は白い。少し奥に座っている彼女の服も白い。

「ねえレイ、大丈夫?」

 え……何が……?

「なんだか、辛そうだったから」

 いや、なんでもな──くはないかな。嘘を、いてしまって……。

「嘘くらい誰でも吐くよ?」

 だけど……約束、破ってしまって……。

「誰でも約束の一つや二つは破るよ?」

 でも、これは……その、すごく、大事な約束だから……。

「ふーん。そうだ、レイ?」

 なにかな?

「僕ね、少し思い出した事があるよ」

 何を思い出したの。

「真っ暗で何も見えなくて、熱くて、死にそうだったけど、誰かが『大丈夫』ってギュッてしてくれてた事」

 誰なんだろうね、その人。

「レイも、何か思い出してたよね?」

 えっと……うん。思い出した、のかな……。分からないけど……。その……どこかの教室で、ミズキさんに話しかけた事。話の内容は憶えていないけど。

「へー。レイはそんな事思い出したんだー」

 うん。

「そー言えば──」

 白と黒が変わり始めた。ゆっくりと対照の色になってまた戻っていく。その過程で灰色になった時、全てが白くなってすっと溶けていく。

「レイって……」


※※※


 なんだったんだろう……。モヤっとして思い出せない。夢の中で誰かと話してたのは憶えているけど、誰と、どんな話をしていたか思い出せない。
 ……? この声は……レイカちゃん? ドスドスって音を立てて、上がって来た。
 部屋に戻ったみたい。

「はあ……。やっぱり……。そう言えば、うん。このままで行こう」

 もうすぐ夜だけどアイカちゃんに会いに行かないと、約束もしたし……。
 部屋から出て階段を下りたらたまたまネネさんと会った。

「すみません。ネネさん」
「良いのよ。あ、そうだ。レイくん、夜ご飯の材料買いに行くの手伝って貰えないかしら」
「……少し、用事があるので……」
「もう夜よ? こんな遅くにどんな用事?」
「えっと……人に会いに……」
「こんなに遅くなっちゃその人にも迷惑よね?」
「えっと……その……………………分かり、ました……」
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