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一章 泡沫の夢に
41話 『感謝』
しおりを挟む思い出した事がある。昔、僕はミズキさんに会っていた。ただ、いつの事か分からない。だけど、アレはミズキさんだった。小学生の頃か幼稚園の頃だと思う。生憎、僕は小学校の四年生からの記憶しか持ち合わせていない。一番古い記憶だったものも孤児院に連れて行かれた時の事くらい。
それより前の記憶がない。記憶障害なのか、それとも、ただ、忘れているだけか、よく分からない。違うのだとしたら、きっと、忘れたい事だったんだと思う。
でも、その内の一つを思い出した。思い出せた。
たぶん、あの時初めてミズキさんと会ったんだ。
たぶんどこかの教室で。座っているミズキさんに話しかけた事がキッカケだった。
何を話したのかは思い出せない。だけど、僕はミズキさんと話していた。友達になれていたのかな……?
なれていたのなら嬉しいな。
なんだか、寒くなってきた。
まだ、お昼。だけど、少し後ろの方の空が赤くなり始めてる。
少し、ボーッともするけど、大丈夫。まだ歩けている。
……さっき、隣を歩いていた人から、変な目で見られた。でも、気持ち悪いものじゃなくて、何か、突き刺さるような、嫌がるような、そんな目で見られた。
今も。ほら。あの人にも。
小さな子にも。お祖父さんにも、おばさんにも、学生……だと思うけど……その人達にも、そんな目で見られた。
もうすぐ。もうすぐで着く。
そこの角を右に曲がって少し行った所にある。少し高そうな家。
レイカちゃんの家。でも、僕の家でもある。
もうすぐ……もうすぐで、着く。やっと、やっとだ……。もう、ほら、すぐそこを曲がれば家がある。
「はあ……はあ……はあ……」
「……ッ! レイくん!?」慌てて立ち上がって杖を突きながらレイの方へ走って行く
「あ、ははは……レイカちゃん……」
「どうしたのそれ!? なんで傷だらけなの!?」
「えっ……と……、少し、喧嘩しちゃって……。でも、大丈夫だか──」
「信じられない……」
えっと……今、信じられないって、言ったよね……。なに、が……? えっと……。
「なんで、レイくんはさ、ミッちゃんが死んじゃって、そんなに平気なの? なんで、ケンカなんかしちゃうの? ミッちゃんが大事にしてくれてたのに、なんでそう危険な事ばかりするの? 意味分かんないよ……。なんで? 私さ、これでもけっこうガマンしたんだよ? レイくんが女の子に会いに行っても、レイくんが夜中にどこかに行っても、ガマンしたんだよ? 何度も、何度も怒りそうになった。でも、ガマンした。それなのに、それなのに……! なんでっ? 分かんない。なんでレイくんはミッちゃんが守ってくれたのにそれをムダにするような事するの?」
「僕は──」
言って、後悔した……。だって、何も間違っていない。稲継くんをやっつけようとしたり、見られてる気がするからって、路地の行き止まりまで歩いて行ったり……勝手に、危ない人達の中に入ったり……。
僕は、何がしたかったんだろう。レイカちゃん達を守りたい? 本当に? 本当は、復讐、とか、怒りをぶつけたい、とか……。……ッ!そんなのじゃ──そんなのじゃない……! 僕は、本当にレイカちゃんを守りたかったんだ!
「僕は、レイカちゃんを守りたくて……」
「私を助けるために、レイくんが傷付くなら、守らなくて良い」
「でも……」
「それとも、何か別の言い訳でもあるの?」
「無い……けれど……」
「じゃあ、良いでしょ」
「だけど……」
「だけど、なんなの……? 私はもう誰にも傷ついて欲しくないの。もう、誰にも死んで欲しくないの……! コウちゃんも、ネネさんも……みんな、死んでほしくない……! もちろん、レイくんにも……っ! もう、嫌がらせ、しないから、仲良くするから、お願い……。死なないでよ……っ」レイの背に手を回して、声を殺して静かに涙を流す
……きっと、レイカちゃんは、死んで欲しくなくて、でも、哀しくてどうして良いか分からなくて、だけど、それを見せたくないから強がって、そして、あんな態度を取ったんだと思う。
「ごめんなさい……僕も、気付けば良かった……」
「うっ……うぐっ……」肩に生暖かい水が、染みてきた。レイカちゃんは、僕の肩から顔を上げようとしない。
「もう、無茶はしないから」
「ゔん……ありがど……」
……強くなった。ギュッて。凄く痛い。でも、嬉しい。レイカちゃんが変わってなくて。レイカちゃんが、優しくて……。
だからかな……。
凄く、すごく、罪悪感がある。
……嘘を、吐いてしまった。ミズキさんとも約束したのに、嘘を吐いた。
無茶は、する。しないといけない。ミズキさん、ごめんなさい。約束、こんなにも早く、破ってしまいました。
破るつもりじゃなかったなんて、嘘は言いません。嘘と分かっていて、言いました。
レイカちゃんを安心させてあげたくて、嘘を吐いてしまいました。
ごめんなさい……。
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