当たり前の幸せを

紅蓮の焔

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二章 無意味の象徴

68話 『戦逃』

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 レイトが起き上がれるようになるまで今後の方針諸々をその場で話し合い、軽めの休息をとってから移動を開始した
 目指す先は──展望台。あそこへ戻って、誰かが居たなら協力を仰ぐ。──そういう作戦だ。作戦と言うにはあまりに不格好で、あまりに計画性もないのだが、間に傷が付いたレイ達に出来るのはそれくらいしかなかった

「レイ、お前、もう絶対にやるんじゃねーぞ」
「……うん。分かった」
「最初の間が気になるけどな。──まあ良いだろ。今考えても分かんねーし」

 コーイチくんがどこか遠い所を見ているような気がして、コーイチくんの視線を追って前を見た。そこはまだまだ終わりの見えない森が続いていて、あんまり見たくもないような気もした。

「──あれっ? おいレイ」
「どうしたの? コーイチくん」
「あの忍者みてーな奴、知ってるか?」
「忍者──?」

 コーイチくんが示した先に、少し遠くの方に、それは居た。僕達と同じ方向に走っている。──コスプレ……? こんな所まで来て、コスプレなんて……。

「──っ!」
「ぁ──」

 いきなり、大きな悲鳴が聞こえた。この声はたしか──そうだ、ナツミちゃんとナツメちゃんのお母さんの加茂チトセさん。

「「おかあさんッ!!」」

「マジかよ──! おいレイ! 俺らも行くぞ!」
「えっ、うん。分かった」

 コーイチとレイは急停止して泣き声の聴こえる方向へと走って行く。他にも、エミがチトセの方へと走って来ていた。残りの二人はエミが助けを呼びに行って。とその場から立ち去らせたのだが

「──な、なんなの、このコスプレ? みたいな奴……」
「知るか! 自分で考えろよ!」

 ナツミ、ナツメの二人はまだ倒れたチトセの下で泣いている。もう動かないチトセを前にして、体中に血を付けながら二人は延々と泣き続けている

 ──フッと、何かが落ちた気がした。──そこから気が付くと、戦っていた。一対一。レイトさんが追いかけて来ているけれども追いついていない。なんで、戦ってるんだろう。右から蹴りが来て──しゃがんで避けて足を掴むと相手がパンチを胸に繰り出してきた。避けれたけれど。代わりに脚を離して少し距離をとった。そして──、

「レイ! 殺すんじゃねーぞ!」

 そう叫んだコーイチくんはチトセさんを横抱きにしていた。……エミさんは動かない二人を説得するのに手間取っているみたいだ。

「……うん。分かってるよ」

 返事をしながらパンチや蹴りを避けているけれど、まだ、何かはずっと落ちたままだ。まだまだ上がる気配が無くて、少し考えに夢中になってしまった。

 ──エミさんが二人を抱えて逃げて、ホッと一息吐きたい気持ちに駆られてしまったけれど、目の前から襲いかかって来るコスプレか何かの人はずっと攻撃しようとしてきてそんな暇もない。あと、なんだかとっても遅く見える。なんでだろう。右から来ている。それをちょっと押し離すようにして手を叩いたら、ちょっとだけ相手はバランスも崩すし、それに少しだけ時間も稼げる。

 ──それが、本当にふざけている様に見えて仕方がない。

「だッ──ハアあああああああ!?」

 ──コーイチくんだ。何か、あったのだろうか。……あ、少しだけど、上がった。何かが上がったのは分かった。お腹の奥深くに沈殿していた『何か』が少しだけ浮上した。けれども、これが何かは未だ見えてこなかった。

 ※※※

「なんッ──なんだよこりゃあああああ!!」

 ──コーイチ達が森を駆け抜けていると、正面からそれが襲い掛かってきた。それは蛇のような外見で──、

「こんなのいてたまるかああああああああ!」
「煩いって! 体力使ってどうすんのよ!」

 のたくりまわり、木々をへし折りながら横に逃げるコーイチ達を追いかけ回す

「こ、こんなの! っざけんなよ! こんなのが現実世界リアルにいてたまるかよ!」

 息を切らして腕の中で眠るヒトを不安に思いながらも何も出来ずにいるコーイチは横目でエミを再確認。「おいっ! ミミ!」

「エミだから! ──なんなのっ!?」
「片方!」
「あぁ!? かたほ──うッ!?」左腕から彼女が居なくなっていた。双子の片割れであり、妹のナツメが。「ウソっ! なんで!?」

 慌てふためくエミは、だが止まれずに辺りを確認する事しか出来ない。大蛇は未だに暴れ回ってコーイチ達を追いかけている。まだ潰されていないのがおかしなくらいに

「──マッジで! 早く連れてかねーと死ぬんだよボケがああああああああ!!」
「煩いって!」

 ──おかあさん、ナツメぇ……。なんで……なんで……。

 大蛇から逃げて逃げて逃げ回る。右へ左へ木々の間を縫い付けて、止まる暇もありはしない。数秒に何度かは後ろを見返すが、迫って来ていると言えば迫って来ているが一定の距離を保っているようにも見える。この大蛇は何をしたいのか。コーイチには知る術もない

「コーイチくん?」
「バッ……! レイ! 逃げろおおおおお!」

 キョトンとした顔で振り返ったレイに叫びながら倒れていた木を飛び越える。と同時に大蛇が動きを止めた。のっそりと首を持ち上げ辺りを見回して、何かを見つけたのかその方向へとのたくって行った

「──ったく……なんなんだよアレ……」
「……ねえ、コーイチくん」
「アァ? なんだよ……」
「加茂さん。助けないと」
「ぁ──ッわあってるつの! あの蛇がいない間にとっとと行くぞ!」
「なんでか知んないけど、なんでアンタがリーダーみたいになってんのよ。──まあ、良いけど」
「一言余計だっつんだよボケ! ──そうだ、レイ!」
「何?」
「その……誰だっけ!? 双子のもう一人の方! 居なくなったから探してくれ!」

 レイはちらりと走って行くコーイチの隣にいるエミの手の中にいた少女を見て、「ぁっ──」と声を漏らしたがすぐに口をつぐんで頷いた

「分かった。ナツメちゃん、だよね」
「お、おう? いや、どっちかは分かんねーけど。とにかく探せ! 俺らは連れて行くから!」
「うん。分かった」

 そう返事をして、レイは上がってきていた『何か』を無理矢理腹の底へと沈めてしまった
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