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エレン(公爵令嬢エセル)とアル(王太子アルヴィン)の偽物生活
訳あり下女エレンの素性を探せ●
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時折、王太子アルヴィンは王都に出向く。
それは、自分の手駒にするための人材探しと自分の経営する商会の経営にかかわるためである。
人材探しはどこにでもいる平民の子供のような恰好をして、ごく普通に王都内を歩き、更に変装してスラム街や孤児院を見て回る。スラム街によくいるボロのような服を着た汚れた子供には誰も目を向けない。女の子であれば、娼館などに売れる可能性があるから危険が伴うが、男でしかも薄汚れたやせた子供には用はないはずだ。
スラム街の中に住むまだ悪に染まらない人たちを探す。悪に堕ちた人間は信頼できない。またいつ裏切るかわからないからだ。生活に困窮する者に職を与える。親のいない孤児が自分一人で立ち上がれるようにする。それは母である王妃が率先して行っていることである。そうした人材の中にたまに影になるのにふさわしい資質を持つ者もいる。
もともとは王妃の国にあった侍女養成学校(別名冥土の虎の穴)と従僕・貴族養成学校(別名羊の虎の穴)を真似た学校を王妃がこの国にもと自費で設立した。侍女となり従僕や執事となり、貴族の家に雇われることになれば、それだけでも生活が楽になるからとそういう趣旨での設立だったが、父である愚王は自分の懐(国庫)が痛まなければ好きにしろと言ったらしい。アルが生まれる前のことなので実際にどんな話し合いが行われたかは知らない。
とにかく、この国にも侍女養成学校(別名冥土の虎の穴)と従僕・貴族養成学校(別名羊の虎の穴)ができたことで、王妃は仕事がやりやすくなったらしい。極秘に行われているそれらの学校での特別コースは影の養成コースでもある。ここに彼はエセルを入れることに決めた。彼女は上手く使えば、いい影になる。
ただ、彼女の素性が気になる。そこで、彼は彼の手駒になったスラム街のストリートチルドレンを使うことにした。子供なら、大人が気づかないことでもわかることがある。
「おっす、また何か問題でもあったか」
スラム街の隅の家に住むこの男トム(たぶん偽名)は、最初にアルヴィンが保護し、王妃の経営する孤児院に入れたのだが、いつの間にかまたここに戻ってくるということを何度も繰り返し、アルヴィンと一時は犬猿の仲になりもしたが、最後はスラム街に堕ちてきた人の情報を彼に渡す代わりに彼が子飼いにしている子供たち(広義の意味でのストリートチルドレン)の支援をすることで今は契約している。トムは自分だけが保護されることを良しとしなかった。それはとある貴族(素性はすでに把握済み)の庶子として生まれ、母親ともども捨てられた挙句に、辛酸をなめた。母の死と共にまた利用価値があるとして父親である貴族の元に戻されることを嫌い、好きでスラム街に住み込んでいるのだという。そこで、アルヴィンは父親である貴族と話し合い(弱みをついた脅迫ともいう)、彼を自分の手駒にすることでトムと父との縁を切らせたのだ。
スラム街に堕ちてきた子供たちが全員孤児院に収容されるのであれば、何の問題もないのだが、親がいる子供まで孤児院に入れることはできない。得てしてそういう子供たちは、親に犯罪もしくは犯罪まがいのことを強要される。そうした子供を食い物にするような親にはアルヴィン自身も手を差し伸べる気になれない。その子供たちを集めて、まとも仕事を与えているのがトムの表向きの仕事になった。その資金面と仕事面を提供するのがアルヴィンの仕事である。それの見返りにもらうのが王都内の様々な情報だった。
彼らの持ち帰る情報は馬鹿にできない。たくさんの影を放っても、思うような情報が得られない時は彼らのような地域密着型の人間がもたらす情報が生きてくる。彼らが生活しているうえで集める世間の噂という情報は生き物だ。それらのどれを取捨選択するかはアルヴィンの仕事ではあるが、意外と巷の噂話で面白い話が聞けるのだ。
「エレンという名前で最近下女として勤めだした少女の素性を知りたい」
それが今回のアルのトムへの依頼である。推薦状通りなら、彼女は王都の下町出身者ということになっているが、それは嘘だと思っている。その裏付け調査だ。トムにエレンという少女の特徴と住んでいた下町らしき場所を教える。トムは心得たとばかりに配下の子供たちに指示を与える。だが、そうして調べてもらった結果、該当者はいなかった。その結果に一応満足する。
アルヴィン自身としてはエレンは貴族の出だと思っている。立ち居振る舞いがどう見ても、貴族としてのマナーを身に着けたものとしか思えない。本人はだいぶ庶民としてなじんでいるようだが、ところどころで育ちの良さが出てくる。最初はアビントン公爵の庶子ではと疑ってみたが、どう考えても社交界で有名なあのバカップル夫婦の夫が浮気するなど考えられないことだ。しかも彼らは王族の血を引きながらも王家とは一線を画している。まあ、それもアルヴィンの親世時代にあったある出来事が原因なのだがと彼は顔を顰めた。
その不快な気分を振り払うように頭を振る。
アルヴィンはまた普通の平民の子供の服に着替えると今度は商会に顔を出す。表立って行動できない彼のために補佐する人材を集めてきた。商会の裏口からこっそり入ると表向きはこの商会の会頭となっている元王妃の影であった男がやってきた。
「マスクの売れ行きはどうだ?」
「あれはすごい発明品ですな。医療関係者だけでなく、様々なところで使えると大人気で品薄状態が続いております。それで商品を真似する商会も増えてきたので、これに力を入れるのはこの当たりが引きどきかと」
「そうか、仕方ないな。マスクは布さえあれば簡単にできる。自分でも作ろうとすれば作れるものだ。今まで、マスクという発想がなかっただけで想定内だ。まあ、引き続き商品に乗せておくにしても大量に作るのは止めておこう。薄利多売がモットーだが、売れなければそれもできないからな」
「まあ、今は他国でも大量に売りまくっておりますから、その分の儲けはまだまだ見込めますな」
アルヴィンはマスクを見た時にこれは売れると思ったが、すぐに真似されるとも思っていたので、最初にマスクを各地で大量生産させ、万全を期して売り出したのだ。それも自国だけでなく他国にも同時販売したのである。真似されるものは先に売り抜けた者が勝ちなのだ。需要と供給のアンバランスは大量の在庫を抱える。自国で先に売り出しても、人気になればすぐに他国にも流通する。それから売り出していては遅いのだ。
他にも帳簿を見たり、いくつもの案件を商会の主だったものを集めて会議をしながら決めていく。そこでふとエレンがチラッと見せたものを思い出す。薬は効能を調べなければならないが、香水らしきものはどうだろうかと頭の中でいろいろと計算をはじき出す。最初は売る気満々だった彼女が空間魔法を突っ込まれてしまいこんでなかったことにされたが、空間魔法を魔導具化して使いでのいいバックにすれば、あれは儲かると密かに思う。そのためにはエレンの協力が必要だった。今、空間魔法を使えるものは数少ないうえ、魔道具化に協力してくれそうな人は皆無と言えよう。
空間魔法をアイテムボックスとして使う。それは昔から考えられてきたことだが、協力してくれる空間魔法使いがいなかったのである。空間魔法使いは重宝される故に、彼らの存在を脅かすかもしれない魔道具制作に協力などしてくれるはずもない。これが実現化できれば、アルヴィンの独占取り扱いにできる。魔道具を作るのは楽しい。最初はトムが拾ってきた巷の噂話の中から、王都の住民があったらいいなと話していた物を魔導具化し、薄利多売で売り出したのが始まりだった。魔道具の工房を作り、魔石に簡単な魔法陣を組み込むのはアルヴィンが行った。簡単に魔石の魔法陣を解析されないようにそこは厳重に封印した。
他に簡単に真似されては商会の売り上げに響く。廉価な魔導具を中心に順調に売り上げを伸ばしてきたアルヴィンの商会は、今や彼の大切な資金源でもある。商会からの資金援助がなければ、何もできないのだ。国庫は最初からあてにしていないし、そもそも王妃と王太子に関わる予算が一切ついていない。それは愚王が王妃の出身国から二人の使う金額の援助があると思い込んでいるからだ。母である王妃は自身の資金源が愚王に悟られないようにしていた。それはアルヴィンも同じことだ。
もともと王妃の出身国であるディフェイン王国に愚王との政略結婚を持ち掛けたのは先代の賢王と言われた男だ。愚王が王位につく条件に当時はディフェイン王国の第四王女だった王妃との政略結婚を義務付けたのである。王太子は正妃である王妃が産んだ第一子がなる。この国のこの法律は愚王でも変えることができない。それは愚王が愚王の地位にいられる唯一の拠り所だからだ。馬鹿だと内心アルヴィンは思っている。
「頼むから、この国を潰さないでくれ」
愚王のせいで苦労した挙句に早死にしたと思われる祖父である賢王がアルヴィンの母である王妃に何度も何度もこの言葉を口にし、頭を下げたらしい。そのために王妃と彼はこの国にいるのだ。いずれ愚王を追い落とし、この国を賢王が治めていた時代のように正常に戻す。それがアルヴィンが生まれ落ちた時から課せられた課題と言える。
アルヴィンはまた各貴族の家に手駒を入れてある。それは侍女として、従僕として、または執事として様々な伝手を使い、潜り込ませた。各貴族の動向を探るためだ。彼らにもエレンの素性を探らせる。考えられるのは貴族の庶子だ。エレンの特徴を伝え、いなくなった子供がいないか調べさせたが、該当者はいない。
一つ気がかりなのは、エレンが現れたと思われる時期にアビントン公爵の娘が体調を崩し、病弱となりほとんど寝たきり状態だということだ。彼女に関しては、アルヴィンには苦い思いがある。アビントン公爵令嬢エセルは一応彼の婚約者候補であるが、魔力値が基準値すれすれの彼女は一番可能性は低いはずなのだが、どうしても愚王は彼女を王太子の婚約者にしたいらしい。それはくそ生意気な息子である彼と公爵家の外れ姫と言われる彼女を物笑いの種にしたいというただそういう私怨的な問題だ。愚王は優秀な王妃と弟夫婦を妬んでいる。それを貶めるためにもこの婚約を勧めたいのだ。馬鹿な男である。そんなことで王妃も弟夫婦を貶めることはできやしない。アルヴィンくらい魔力値が高いとたとえエセルが婚約者となっても彼女の魔力値がギリギリであっても生まれる子供の魔力は高いと思われる。
エレンがエセルである可能性は低いと思っている。エレンの魔力値は間違いなくアルヴィンとほぼ同じかそれ以上はある。
これでエレンの素性を探る手は手詰まりとなった。
それは、自分の手駒にするための人材探しと自分の経営する商会の経営にかかわるためである。
人材探しはどこにでもいる平民の子供のような恰好をして、ごく普通に王都内を歩き、更に変装してスラム街や孤児院を見て回る。スラム街によくいるボロのような服を着た汚れた子供には誰も目を向けない。女の子であれば、娼館などに売れる可能性があるから危険が伴うが、男でしかも薄汚れたやせた子供には用はないはずだ。
スラム街の中に住むまだ悪に染まらない人たちを探す。悪に堕ちた人間は信頼できない。またいつ裏切るかわからないからだ。生活に困窮する者に職を与える。親のいない孤児が自分一人で立ち上がれるようにする。それは母である王妃が率先して行っていることである。そうした人材の中にたまに影になるのにふさわしい資質を持つ者もいる。
もともとは王妃の国にあった侍女養成学校(別名冥土の虎の穴)と従僕・貴族養成学校(別名羊の虎の穴)を真似た学校を王妃がこの国にもと自費で設立した。侍女となり従僕や執事となり、貴族の家に雇われることになれば、それだけでも生活が楽になるからとそういう趣旨での設立だったが、父である愚王は自分の懐(国庫)が痛まなければ好きにしろと言ったらしい。アルが生まれる前のことなので実際にどんな話し合いが行われたかは知らない。
とにかく、この国にも侍女養成学校(別名冥土の虎の穴)と従僕・貴族養成学校(別名羊の虎の穴)ができたことで、王妃は仕事がやりやすくなったらしい。極秘に行われているそれらの学校での特別コースは影の養成コースでもある。ここに彼はエセルを入れることに決めた。彼女は上手く使えば、いい影になる。
ただ、彼女の素性が気になる。そこで、彼は彼の手駒になったスラム街のストリートチルドレンを使うことにした。子供なら、大人が気づかないことでもわかることがある。
「おっす、また何か問題でもあったか」
スラム街の隅の家に住むこの男トム(たぶん偽名)は、最初にアルヴィンが保護し、王妃の経営する孤児院に入れたのだが、いつの間にかまたここに戻ってくるということを何度も繰り返し、アルヴィンと一時は犬猿の仲になりもしたが、最後はスラム街に堕ちてきた人の情報を彼に渡す代わりに彼が子飼いにしている子供たち(広義の意味でのストリートチルドレン)の支援をすることで今は契約している。トムは自分だけが保護されることを良しとしなかった。それはとある貴族(素性はすでに把握済み)の庶子として生まれ、母親ともども捨てられた挙句に、辛酸をなめた。母の死と共にまた利用価値があるとして父親である貴族の元に戻されることを嫌い、好きでスラム街に住み込んでいるのだという。そこで、アルヴィンは父親である貴族と話し合い(弱みをついた脅迫ともいう)、彼を自分の手駒にすることでトムと父との縁を切らせたのだ。
スラム街に堕ちてきた子供たちが全員孤児院に収容されるのであれば、何の問題もないのだが、親がいる子供まで孤児院に入れることはできない。得てしてそういう子供たちは、親に犯罪もしくは犯罪まがいのことを強要される。そうした子供を食い物にするような親にはアルヴィン自身も手を差し伸べる気になれない。その子供たちを集めて、まとも仕事を与えているのがトムの表向きの仕事になった。その資金面と仕事面を提供するのがアルヴィンの仕事である。それの見返りにもらうのが王都内の様々な情報だった。
彼らの持ち帰る情報は馬鹿にできない。たくさんの影を放っても、思うような情報が得られない時は彼らのような地域密着型の人間がもたらす情報が生きてくる。彼らが生活しているうえで集める世間の噂という情報は生き物だ。それらのどれを取捨選択するかはアルヴィンの仕事ではあるが、意外と巷の噂話で面白い話が聞けるのだ。
「エレンという名前で最近下女として勤めだした少女の素性を知りたい」
それが今回のアルのトムへの依頼である。推薦状通りなら、彼女は王都の下町出身者ということになっているが、それは嘘だと思っている。その裏付け調査だ。トムにエレンという少女の特徴と住んでいた下町らしき場所を教える。トムは心得たとばかりに配下の子供たちに指示を与える。だが、そうして調べてもらった結果、該当者はいなかった。その結果に一応満足する。
アルヴィン自身としてはエレンは貴族の出だと思っている。立ち居振る舞いがどう見ても、貴族としてのマナーを身に着けたものとしか思えない。本人はだいぶ庶民としてなじんでいるようだが、ところどころで育ちの良さが出てくる。最初はアビントン公爵の庶子ではと疑ってみたが、どう考えても社交界で有名なあのバカップル夫婦の夫が浮気するなど考えられないことだ。しかも彼らは王族の血を引きながらも王家とは一線を画している。まあ、それもアルヴィンの親世時代にあったある出来事が原因なのだがと彼は顔を顰めた。
その不快な気分を振り払うように頭を振る。
アルヴィンはまた普通の平民の子供の服に着替えると今度は商会に顔を出す。表立って行動できない彼のために補佐する人材を集めてきた。商会の裏口からこっそり入ると表向きはこの商会の会頭となっている元王妃の影であった男がやってきた。
「マスクの売れ行きはどうだ?」
「あれはすごい発明品ですな。医療関係者だけでなく、様々なところで使えると大人気で品薄状態が続いております。それで商品を真似する商会も増えてきたので、これに力を入れるのはこの当たりが引きどきかと」
「そうか、仕方ないな。マスクは布さえあれば簡単にできる。自分でも作ろうとすれば作れるものだ。今まで、マスクという発想がなかっただけで想定内だ。まあ、引き続き商品に乗せておくにしても大量に作るのは止めておこう。薄利多売がモットーだが、売れなければそれもできないからな」
「まあ、今は他国でも大量に売りまくっておりますから、その分の儲けはまだまだ見込めますな」
アルヴィンはマスクを見た時にこれは売れると思ったが、すぐに真似されるとも思っていたので、最初にマスクを各地で大量生産させ、万全を期して売り出したのだ。それも自国だけでなく他国にも同時販売したのである。真似されるものは先に売り抜けた者が勝ちなのだ。需要と供給のアンバランスは大量の在庫を抱える。自国で先に売り出しても、人気になればすぐに他国にも流通する。それから売り出していては遅いのだ。
他にも帳簿を見たり、いくつもの案件を商会の主だったものを集めて会議をしながら決めていく。そこでふとエレンがチラッと見せたものを思い出す。薬は効能を調べなければならないが、香水らしきものはどうだろうかと頭の中でいろいろと計算をはじき出す。最初は売る気満々だった彼女が空間魔法を突っ込まれてしまいこんでなかったことにされたが、空間魔法を魔導具化して使いでのいいバックにすれば、あれは儲かると密かに思う。そのためにはエレンの協力が必要だった。今、空間魔法を使えるものは数少ないうえ、魔道具化に協力してくれそうな人は皆無と言えよう。
空間魔法をアイテムボックスとして使う。それは昔から考えられてきたことだが、協力してくれる空間魔法使いがいなかったのである。空間魔法使いは重宝される故に、彼らの存在を脅かすかもしれない魔道具制作に協力などしてくれるはずもない。これが実現化できれば、アルヴィンの独占取り扱いにできる。魔道具を作るのは楽しい。最初はトムが拾ってきた巷の噂話の中から、王都の住民があったらいいなと話していた物を魔導具化し、薄利多売で売り出したのが始まりだった。魔道具の工房を作り、魔石に簡単な魔法陣を組み込むのはアルヴィンが行った。簡単に魔石の魔法陣を解析されないようにそこは厳重に封印した。
他に簡単に真似されては商会の売り上げに響く。廉価な魔導具を中心に順調に売り上げを伸ばしてきたアルヴィンの商会は、今や彼の大切な資金源でもある。商会からの資金援助がなければ、何もできないのだ。国庫は最初からあてにしていないし、そもそも王妃と王太子に関わる予算が一切ついていない。それは愚王が王妃の出身国から二人の使う金額の援助があると思い込んでいるからだ。母である王妃は自身の資金源が愚王に悟られないようにしていた。それはアルヴィンも同じことだ。
もともと王妃の出身国であるディフェイン王国に愚王との政略結婚を持ち掛けたのは先代の賢王と言われた男だ。愚王が王位につく条件に当時はディフェイン王国の第四王女だった王妃との政略結婚を義務付けたのである。王太子は正妃である王妃が産んだ第一子がなる。この国のこの法律は愚王でも変えることができない。それは愚王が愚王の地位にいられる唯一の拠り所だからだ。馬鹿だと内心アルヴィンは思っている。
「頼むから、この国を潰さないでくれ」
愚王のせいで苦労した挙句に早死にしたと思われる祖父である賢王がアルヴィンの母である王妃に何度も何度もこの言葉を口にし、頭を下げたらしい。そのために王妃と彼はこの国にいるのだ。いずれ愚王を追い落とし、この国を賢王が治めていた時代のように正常に戻す。それがアルヴィンが生まれ落ちた時から課せられた課題と言える。
アルヴィンはまた各貴族の家に手駒を入れてある。それは侍女として、従僕として、または執事として様々な伝手を使い、潜り込ませた。各貴族の動向を探るためだ。彼らにもエレンの素性を探らせる。考えられるのは貴族の庶子だ。エレンの特徴を伝え、いなくなった子供がいないか調べさせたが、該当者はいない。
一つ気がかりなのは、エレンが現れたと思われる時期にアビントン公爵の娘が体調を崩し、病弱となりほとんど寝たきり状態だということだ。彼女に関しては、アルヴィンには苦い思いがある。アビントン公爵令嬢エセルは一応彼の婚約者候補であるが、魔力値が基準値すれすれの彼女は一番可能性は低いはずなのだが、どうしても愚王は彼女を王太子の婚約者にしたいらしい。それはくそ生意気な息子である彼と公爵家の外れ姫と言われる彼女を物笑いの種にしたいというただそういう私怨的な問題だ。愚王は優秀な王妃と弟夫婦を妬んでいる。それを貶めるためにもこの婚約を勧めたいのだ。馬鹿な男である。そんなことで王妃も弟夫婦を貶めることはできやしない。アルヴィンくらい魔力値が高いとたとえエセルが婚約者となっても彼女の魔力値がギリギリであっても生まれる子供の魔力は高いと思われる。
エレンがエセルである可能性は低いと思っている。エレンの魔力値は間違いなくアルヴィンとほぼ同じかそれ以上はある。
これでエレンの素性を探る手は手詰まりとなった。
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