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エレン(公爵令嬢エセル)とアル(王太子アルヴィン)の偽物生活
やさぐれるエセル○
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毎日のように大量に出てくる洗濯物。とうとうこの日は盥が五つに増えた。どこのコインランドリーだと突っ込みたい。
五つ同時に洗濯魔法を酷使させられるなんてどんな罰だとエセルは心の中で文句を言い続ける。魔法を行使するのは止めないがな。今、首になったら元も子もないからだ。ここで頑張れば、厨房の下女になれるかもしれないとその一心でひたすら洗濯魔法を使っていると自然と無我の境地になりつつある。
が、それもすぐに性懲りもなくやってきたアルにより破壊される。
「実はここしばらく調査されてきたのだが、お前がその怪しげな洗濯魔法で洗濯したものは、汚れが一切ないし汚れにくい効果がある。更に洗濯物には強度がつき、騎士団員の服には防御力が付加されているらしい」
その言葉に一瞬固まるエセル。やらかした。王太子の言葉は破壊力抜群だった。
その後、下女たちの休憩室で、エセルが教えたマスクがとある商会から売り出されている話を聞いた。その商会は薄利多売をモットーにしているらしく、一般庶民でも手軽に買える値段で売られているらしい。一体どこからそんな情報を手に入れたのだろうか?マスクなんて簡単に思いつくものなので、まさかエセルが作ったものだと文句を言うつもりはない。つもりはないが面白くない。
「ああ、マスクって商売になるなら、先に売っておけばよかった」
アルにちょっとぼやいてみると彼の目が泳いでいるのを目ざとく見つけた。お前かとエセルはアルの前に腕を組み仁王立ちする。
「マスクの利権をよこしなさいよ」
「な、何のことかな?」
「とぼけるな、マスクの情報を売ったのはあなたでしょう」
せわしなく動くアルの目。疚しさ感がありありとわかる。
「いくらで売ったの?その半分くらいは、私に権利あるわよね」
笑っていない目つきで薄笑いを浮かべてみせる。エセルはお金が欲しかったのだ。料理人になって自分の店を持つ、それが今のエセルの夢だ。お金があれば、簡単にレストランを自分で開くことができるとこの時は単純に思っていた。
「それに商会にコネがあるなら、いい値段で売れるものがあるのだけれど」
と言いつつ、エセルは自分の空間魔法で収納しておいた空間の中から、料理魔法を使うつもりでなぜかできた薬と香料を出した。
アルが目をまん丸くして何もない空間から出てきたものを見ている。目が何度も何もない空間と目の前のものを見る。
「お、お前、一体何をした?」
慌てたようにエセルの肩を掴んで揺さぶるアルに彼女はぽかんとして首を傾げた。彼がなぜこんなに驚愕しているのか理解できなかったからだ。
空間魔法は前世では割とよく小説やマンガやゲームで出てきたものだ。収納ボックスとか道具袋とか便利カバンとかいろいろな名称で呼ばれるもので、お約束のごとく時間凍結魔法がかけられている便利なもの。魔法のあるこの世界なら当然あるだろうと思っていた。前世の有名な青い猫型ロボットのお得意の四次元○ケットみたいなものはこの世界にも存在するのが当たり前だと思っていたのである。なので、何の疑問も持たずに空間魔法を行使したのだ。
「何?何って、これってみんな持っているんじゃないの?」
エセルの疑問にアルははあっと深い溜息を吐いた。
「お前、規格外だと思っていたが、まさか空間魔法まで使えるとは思わなかった」
「え?空間魔法って使えるの当たり前じゃないの?」
「料理魔法を極めたものがたまに空間魔法を使えるらしいが、そんなにいないっていうことはお前は料理魔法まで覚えているのか?」
「え、だって、初めに覚えたのが料理魔法だったから」
小さく呟くようにエセルは答えた。アルの顔が愕然とした顔になる。それから彼は何かを考え込むかのように俯いた。それから急に笑い出す。エセルは思わず後ずさりしてしまった。それに気づいた彼はまるでエセルを逃がさないとでもいうようにまた肩をがしっと捕まれる。
「初めてで料理魔法を覚えるのか?」
怒ったような顔をするアルにエセルは子リスの様にびくびくとする。何か拙いことをしでかしたのかと怯えた。そんなエセルを見て、また脱力したようにアルは深く溜息を吐いた。
「お前、普通はな、生活魔法を自由に使えるようになって、それから生活魔法の上位魔法である料理魔法や洗濯魔法を覚えるものなんだ」
ああ、やらかしたとエセルは頭を抱えたくなった。前世の常識がこの世界の常識ではないと痛感したのはこれが初めてだった。
背筋を伝う冷たい汗の感覚、冷や汗をかくということはこういうことかと思った。
「それにこれは何だ?これは薬か?こっちはいい香りがする。香水か?」
やらかした感があるエセルは、どうしようか悩む。またきっとこれも料理魔法を使って作りましたと言えば、規格外だと言われることは間違いない。そこで、エセルは証拠を消すことにした。つまり、ぽいっぽいっとまた空間に収納したのである。証拠隠滅とばかりに、仕事に戻ることにする。
何も言わずに物を消したエセルはまるで何事もなかったように洗濯魔法を使い、五つの盥を回し始めた。その後ろからアルが彼女の頭をベシッと叩く。
「おい、何もなかった振りをするんじゃない」
「ええ、何かありました?きっと幻覚でも見たんですよ。そうそう、王太子殿下を探し疲れたせいで、見た幻覚、幻覚」
ニコニコと笑顔を振りまいて、張り切って仕事をしてますと言うように洗濯魔法を使いまくるエセル。スルースキルは大事だ。何もなかった。そう、すべては幻覚なのだと言い張る。毎日のようにここに王太子を探しに来るアルが見た幻覚。そして、彼女はマスクの利権すら捨てることにした。むやみに欲をかくもんじゃないと後悔する。
五つの盥の中で洗濯物がいつもよりも勢いよく回る。それに伴い泡と水もはねる。追及するのをひとまずやめたのか、アルはじっとそれを見ていた。
「お前の魔力はどのくらいあるんだ」
ぽつんと呟かれ、エセルは首を横に傾げた。そういえば、今の魔力を測ったことがないのを思い出した。
エセルが初めて魔力を測ったのは十歳の年。この国貴族の子供のほとんどは、十歳で初めて魔力を測り、それに応じて魔法の勉強を始める。ある一定の基準値を持つ魔力持ちは王侯貴族に多い。たまに平民にも基準値以上の魔力持ちが現れるが、基準値以上の魔力持ちのほとんどは王侯貴族だ。
その時の魔力はたしか、基準値ギリギリだったと記憶している。それを見て、両親がホッとしたことまで覚えている。膨大な魔力持ちの女性は年の近い王太子の婚約者候補にされる。元王子の父親と現王が王太子時代の元婚約者の母親もかなりの魔力持ちで、エセルの兄も両親に劣らないほどの魔力を持っていた。高位貴族からすれば、エセルの魔力は普通以下である。本来ならば残念な子として見られるはずだ。それなのに、エセルは王太子の婚約者候補の末端に追加された。彼女が王太子の婚約者候補に末席に名を連ねたことに両親は落胆した。「兄の嫌がらせだ」と父親が怒っていたのも知っている。両親と現王の間に深い溝があるのは周知の事実である。強い魔力持ちの両親と兄がいるのに、平均値ギリギリでしかない凡庸な娘は公爵家の欠点だと噂された。そんな娘を王太子の婚約者候補の末席に入れるということは、公爵家に恥をかかせたい現王の嫌がらせ以外の何物でもない。
あの魔力の枯渇のあと、寝込んでからエセルはどういうわけか自分の魔力が膨大であると気が付いた。なので、それを知られないように魔力を隠すようになったのだ。なぜ魔力隠しができたのかもわからないが、社交界では公爵家の外れ姫などと言われているのを知っている。だから、彼女は自分の身代わりロボットを病弱に設定した。魔力が基準値すれすれで更に病弱であれば、末席のエセルはそのうち王太子の婚約者候補から外されるだろうと期待したのだ。
エセルが追憶しながらぼんやりとしているのに気づいたのか、アルがまたエセルの頭をベシッと叩いた。
「痛いじゃない」
「お前がぼんやりしているからだ。手が止まっているぞ」
気がつくと洗濯魔法が止まっていた。そこで再び魔法を発動させる。
「魔力を測ったことがないのか?」
「ええっと、一応は基準値ギリギリでした」
とそこは笑顔で答えておく。下手に誤魔化すとアルは聡いので気が付かれる。だから真実を告げた。そう、測ったことがあるのは事実だし、それが基準値ギリギリだったのも事実だ。
また、ベシッと頭を叩かれた。
「嘘つけ」
「嘘じゃありませんよ。本当に基準値ギリギリでしたから」
「平民が魔力を測るなんて珍しい」
あ、とエセルは口を押さえた。またやらかしたと気付いた時は遅かった。
この世界の平民と言われる一般庶民の暮らしをエセルは知らない。貴族に生まれ、ずっと貴族のご令嬢として育ってきた。なのでこの世界の常識は貴族の常識しか知らないのだ。
「お前、一体何者なんだ」
「ごく普通の一般庶民です」
しれっと答えるエセル。もう何も言うまい。アルの誘導尋問に引っかかったのだ。流石は王太子付きの従僕、侮れない奴。エセルの中でアルは要注意人物として認定された。
「お前が普通などありえない」
またベシッとアルに頭を叩かれた。叩くなよ、痛いだろうがと頭を押さえて恨めしげに見る。
「お前の正体を絶対に暴いてやるからな」
まるで、悪役か何かの捨て台詞のごとく言い放ち、アルは去って行った。ああ、またこれでしばらく彼から付きまとわれるかと思うとがっくしと肩を落とした。
「エレンが来てから、仕事が楽でいいわあ」
先輩下女たちはエレンが洗濯した物干すだけですむのでずいぶんと楽になったらしい。あとは取り込み、火熨斗で洗濯物のしわを伸ばしたたんで配るだけだ。洗濯する時間が短縮されたために、人数が減り、掃除や厨房に回された者もいた。エレンもそっちに回されたかったと遠い目になる。
これでは本末転倒だ。エセルはどんどんやさぐれていく。
五つ同時に洗濯魔法を酷使させられるなんてどんな罰だとエセルは心の中で文句を言い続ける。魔法を行使するのは止めないがな。今、首になったら元も子もないからだ。ここで頑張れば、厨房の下女になれるかもしれないとその一心でひたすら洗濯魔法を使っていると自然と無我の境地になりつつある。
が、それもすぐに性懲りもなくやってきたアルにより破壊される。
「実はここしばらく調査されてきたのだが、お前がその怪しげな洗濯魔法で洗濯したものは、汚れが一切ないし汚れにくい効果がある。更に洗濯物には強度がつき、騎士団員の服には防御力が付加されているらしい」
その言葉に一瞬固まるエセル。やらかした。王太子の言葉は破壊力抜群だった。
その後、下女たちの休憩室で、エセルが教えたマスクがとある商会から売り出されている話を聞いた。その商会は薄利多売をモットーにしているらしく、一般庶民でも手軽に買える値段で売られているらしい。一体どこからそんな情報を手に入れたのだろうか?マスクなんて簡単に思いつくものなので、まさかエセルが作ったものだと文句を言うつもりはない。つもりはないが面白くない。
「ああ、マスクって商売になるなら、先に売っておけばよかった」
アルにちょっとぼやいてみると彼の目が泳いでいるのを目ざとく見つけた。お前かとエセルはアルの前に腕を組み仁王立ちする。
「マスクの利権をよこしなさいよ」
「な、何のことかな?」
「とぼけるな、マスクの情報を売ったのはあなたでしょう」
せわしなく動くアルの目。疚しさ感がありありとわかる。
「いくらで売ったの?その半分くらいは、私に権利あるわよね」
笑っていない目つきで薄笑いを浮かべてみせる。エセルはお金が欲しかったのだ。料理人になって自分の店を持つ、それが今のエセルの夢だ。お金があれば、簡単にレストランを自分で開くことができるとこの時は単純に思っていた。
「それに商会にコネがあるなら、いい値段で売れるものがあるのだけれど」
と言いつつ、エセルは自分の空間魔法で収納しておいた空間の中から、料理魔法を使うつもりでなぜかできた薬と香料を出した。
アルが目をまん丸くして何もない空間から出てきたものを見ている。目が何度も何もない空間と目の前のものを見る。
「お、お前、一体何をした?」
慌てたようにエセルの肩を掴んで揺さぶるアルに彼女はぽかんとして首を傾げた。彼がなぜこんなに驚愕しているのか理解できなかったからだ。
空間魔法は前世では割とよく小説やマンガやゲームで出てきたものだ。収納ボックスとか道具袋とか便利カバンとかいろいろな名称で呼ばれるもので、お約束のごとく時間凍結魔法がかけられている便利なもの。魔法のあるこの世界なら当然あるだろうと思っていた。前世の有名な青い猫型ロボットのお得意の四次元○ケットみたいなものはこの世界にも存在するのが当たり前だと思っていたのである。なので、何の疑問も持たずに空間魔法を行使したのだ。
「何?何って、これってみんな持っているんじゃないの?」
エセルの疑問にアルははあっと深い溜息を吐いた。
「お前、規格外だと思っていたが、まさか空間魔法まで使えるとは思わなかった」
「え?空間魔法って使えるの当たり前じゃないの?」
「料理魔法を極めたものがたまに空間魔法を使えるらしいが、そんなにいないっていうことはお前は料理魔法まで覚えているのか?」
「え、だって、初めに覚えたのが料理魔法だったから」
小さく呟くようにエセルは答えた。アルの顔が愕然とした顔になる。それから彼は何かを考え込むかのように俯いた。それから急に笑い出す。エセルは思わず後ずさりしてしまった。それに気づいた彼はまるでエセルを逃がさないとでもいうようにまた肩をがしっと捕まれる。
「初めてで料理魔法を覚えるのか?」
怒ったような顔をするアルにエセルは子リスの様にびくびくとする。何か拙いことをしでかしたのかと怯えた。そんなエセルを見て、また脱力したようにアルは深く溜息を吐いた。
「お前、普通はな、生活魔法を自由に使えるようになって、それから生活魔法の上位魔法である料理魔法や洗濯魔法を覚えるものなんだ」
ああ、やらかしたとエセルは頭を抱えたくなった。前世の常識がこの世界の常識ではないと痛感したのはこれが初めてだった。
背筋を伝う冷たい汗の感覚、冷や汗をかくということはこういうことかと思った。
「それにこれは何だ?これは薬か?こっちはいい香りがする。香水か?」
やらかした感があるエセルは、どうしようか悩む。またきっとこれも料理魔法を使って作りましたと言えば、規格外だと言われることは間違いない。そこで、エセルは証拠を消すことにした。つまり、ぽいっぽいっとまた空間に収納したのである。証拠隠滅とばかりに、仕事に戻ることにする。
何も言わずに物を消したエセルはまるで何事もなかったように洗濯魔法を使い、五つの盥を回し始めた。その後ろからアルが彼女の頭をベシッと叩く。
「おい、何もなかった振りをするんじゃない」
「ええ、何かありました?きっと幻覚でも見たんですよ。そうそう、王太子殿下を探し疲れたせいで、見た幻覚、幻覚」
ニコニコと笑顔を振りまいて、張り切って仕事をしてますと言うように洗濯魔法を使いまくるエセル。スルースキルは大事だ。何もなかった。そう、すべては幻覚なのだと言い張る。毎日のようにここに王太子を探しに来るアルが見た幻覚。そして、彼女はマスクの利権すら捨てることにした。むやみに欲をかくもんじゃないと後悔する。
五つの盥の中で洗濯物がいつもよりも勢いよく回る。それに伴い泡と水もはねる。追及するのをひとまずやめたのか、アルはじっとそれを見ていた。
「お前の魔力はどのくらいあるんだ」
ぽつんと呟かれ、エセルは首を横に傾げた。そういえば、今の魔力を測ったことがないのを思い出した。
エセルが初めて魔力を測ったのは十歳の年。この国貴族の子供のほとんどは、十歳で初めて魔力を測り、それに応じて魔法の勉強を始める。ある一定の基準値を持つ魔力持ちは王侯貴族に多い。たまに平民にも基準値以上の魔力持ちが現れるが、基準値以上の魔力持ちのほとんどは王侯貴族だ。
その時の魔力はたしか、基準値ギリギリだったと記憶している。それを見て、両親がホッとしたことまで覚えている。膨大な魔力持ちの女性は年の近い王太子の婚約者候補にされる。元王子の父親と現王が王太子時代の元婚約者の母親もかなりの魔力持ちで、エセルの兄も両親に劣らないほどの魔力を持っていた。高位貴族からすれば、エセルの魔力は普通以下である。本来ならば残念な子として見られるはずだ。それなのに、エセルは王太子の婚約者候補の末端に追加された。彼女が王太子の婚約者候補に末席に名を連ねたことに両親は落胆した。「兄の嫌がらせだ」と父親が怒っていたのも知っている。両親と現王の間に深い溝があるのは周知の事実である。強い魔力持ちの両親と兄がいるのに、平均値ギリギリでしかない凡庸な娘は公爵家の欠点だと噂された。そんな娘を王太子の婚約者候補の末席に入れるということは、公爵家に恥をかかせたい現王の嫌がらせ以外の何物でもない。
あの魔力の枯渇のあと、寝込んでからエセルはどういうわけか自分の魔力が膨大であると気が付いた。なので、それを知られないように魔力を隠すようになったのだ。なぜ魔力隠しができたのかもわからないが、社交界では公爵家の外れ姫などと言われているのを知っている。だから、彼女は自分の身代わりロボットを病弱に設定した。魔力が基準値すれすれで更に病弱であれば、末席のエセルはそのうち王太子の婚約者候補から外されるだろうと期待したのだ。
エセルが追憶しながらぼんやりとしているのに気づいたのか、アルがまたエセルの頭をベシッと叩いた。
「痛いじゃない」
「お前がぼんやりしているからだ。手が止まっているぞ」
気がつくと洗濯魔法が止まっていた。そこで再び魔法を発動させる。
「魔力を測ったことがないのか?」
「ええっと、一応は基準値ギリギリでした」
とそこは笑顔で答えておく。下手に誤魔化すとアルは聡いので気が付かれる。だから真実を告げた。そう、測ったことがあるのは事実だし、それが基準値ギリギリだったのも事実だ。
また、ベシッと頭を叩かれた。
「嘘つけ」
「嘘じゃありませんよ。本当に基準値ギリギリでしたから」
「平民が魔力を測るなんて珍しい」
あ、とエセルは口を押さえた。またやらかしたと気付いた時は遅かった。
この世界の平民と言われる一般庶民の暮らしをエセルは知らない。貴族に生まれ、ずっと貴族のご令嬢として育ってきた。なのでこの世界の常識は貴族の常識しか知らないのだ。
「お前、一体何者なんだ」
「ごく普通の一般庶民です」
しれっと答えるエセル。もう何も言うまい。アルの誘導尋問に引っかかったのだ。流石は王太子付きの従僕、侮れない奴。エセルの中でアルは要注意人物として認定された。
「お前が普通などありえない」
またベシッとアルに頭を叩かれた。叩くなよ、痛いだろうがと頭を押さえて恨めしげに見る。
「お前の正体を絶対に暴いてやるからな」
まるで、悪役か何かの捨て台詞のごとく言い放ち、アルは去って行った。ああ、またこれでしばらく彼から付きまとわれるかと思うとがっくしと肩を落とした。
「エレンが来てから、仕事が楽でいいわあ」
先輩下女たちはエレンが洗濯した物干すだけですむのでずいぶんと楽になったらしい。あとは取り込み、火熨斗で洗濯物のしわを伸ばしたたんで配るだけだ。洗濯する時間が短縮されたために、人数が減り、掃除や厨房に回された者もいた。エレンもそっちに回されたかったと遠い目になる。
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