オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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(さて、どうしたものやら……)

 ミユキは竜の群れと、高校生にエルフ、守護竜達を前に腕を組み考えた。
 まず、石から戻ったことが各方面にバレて、面倒なことが起こる前に勇者である高校生達にどこかに移動してもらい、その間に今回の勇者達に会って戻りたい人と合流して……。元の世界に戻りたくないひとはいるのだろうか。それから……。

(あぁ、制服だよね)

 ミユキの記憶にある事故が怜美達の召喚だったならば、皆制服だったはずだ。戻れたときにこのコスプレみたいな衣装では怪しさ満載である。

「あの、怜美さん」
「はいっ!」

 突然名を呼ばれた怜美は、反射的に返事をする。

「皆さんが召喚されたのって、修学旅行のバスに乗っている時でした?」

 高校生達は首を傾げた。

「いえ……、修学旅行じゃなくて、夏季合宿で、でもバスには乗ってました」
「………海沿い?」
「はい……。海沿いで、山っていうか、狭い道路でクネクネしてて……」
(やっぱりあの事故かぁ)
「じゃあ、制服だった?」
「はい!」

 いい声で返事をしたのはイークレスだった。そしてうっとりと色気ダダ漏れの瞳でこゆみを見ている。

「こちらにはない濃い青色と純白の組み合わせで、それを身につけられたこゆみ様は清楚で儚く、しかし凛とされていて……ただ、こゆみ様の綺麗な御御足を晒してしまう点だけは……」

 真っ赤になったこゆみは涙目で首を振る。このエルフは残念なエルフなのかもしれない。面倒になってきたミユキは話の途中だったが無視して質問した。

「それで、その制服はどこかにありますかね?」
「わたしたちのは、お城に預かってもらうってことで置いて来ちゃいました」
「俺たちのも城で預かってくれるって、でも、二百年も経ってるなら腐っちゃってるかもなぁ」

 三澤が遠い目をして呟いた。

(欠片でもあれば何とかなりそうな気がするんだけど)

「ございますよ。城の宝物庫にこゆみ様と立花様、徳山様の服でしたら保管してありますし、宝物庫の中のものは劣化しませんのでそのままの状態でしょう。取って参りましょうか?」

 こともなげに言うイークレスである。

「え、でもそんなことをして罪になったりしないのですか? 国の宝物庫なんでしょう?」

 問うミユキにイークレスが微笑んだ。微笑んだが、こゆみに対する甘やかな笑みとは異なり、気温が下がりそうな冷たさである。凄絶と言ってもいいような微笑みだ。笑顔にも種類があるんだなぁとミユキは学習したのだった。

「───二百年前に、あの国でわたしに逆らった者は潰えましたのでね。わたしとわたしの大切な方を騙すような愚か者は……必要なかったものですから」

(えええええええええ───っ!? 潰えたって……殺ったの? 殺ったのか? このひと、いったい誰を殺ったのかい????)

「そ、そうですか。で、イークレスさんの国はここから遠いのですか?」

「───どうでしょうか……。ミユキ様にお連れ頂いたこちらがどこに当たるのか、わからなくなってしまい……」

(あぁ、確かに、ここはどこなんだろうなぁ。ノートを指さして来ただけだし)

「よろしければ、我らでお送りさせて頂きましょうか」

 ビリジアン(仮称)が低音のとても良い声で申し出てくれた。

「おぉ! ということは、ここはどこだかお判りなのですか?」
「え?」
「あの、お恥ずかしい話、転移転移でここまできたのでここがどこなのか……ははっ」
「……おまかせください!」

 ミユキが小さく笑うとビリジアン(仮称)が感極まったような声で頭を垂れた。

「え」
「どこへなりともお連れいたします」
「「「………」」」

 なんとなく引いている守護竜達を視界に入れつつ、ミユキは高校生達に向かって思い切って口を開いた。

「では、まずイークレスさんはこゆみさん達の制服を持ってきてください。それを複製しますので戻る際には皆さんに着ていただきます。わたしはこれから王都カエルムに一旦戻って今回召喚された子たちを連れてきて皆さんと合流します。それで、その間、皆さんに安全な場所で待っていてもらいたいのですが……」

「わたしは王都カエルムに行ってみたいな」
「あ! わたしも!」

 怜美と夏光が手を挙げた。

(……くッ……やっぱりそうくるよね……)

「俺も冒険者ギルドに行ってみたい」
「うんうん、俺も。こっちきて街とかあんまり見てないしなぁ。せっかくこんなとこに来たんだから、帰る前にいろいろ見たいな」

 徳永と立花が言い出すと、少年達がなにやら目を輝かせながら頷きだした。

(う、やっぱそうだよね。見て回りたいよね。ゲームや映画の世界そのまんまだしなぁ。エルフがいるんだからドワーフとか獣人とかきっといるんだろうなぁ。猫○ぼーいちくんみたいなのがいないかなぁ)

「しかし皆様はとても有名人……目立ちますので街中を見学するのは難しいかと存じますが……」

 イークレスが申し訳なさそうに目を伏せると、キャサリンが扇子をぱちりと鳴らして言った。

「ミユキ殿と同じことはできぬのか? そなたらは勇者に聖女、賢者であろう?」
「「「「「「え?」」」」」
「そこのふたば殿もされておるではないか。己が印象に残らぬ魔法じゃ」
「「「「「えええええええぇぇぇ?!」」」」」」

(なるほど、どうりで誰もふたばに気をとられないわけだよ。──ってなんだそりゃ? わたしもやってるのかい?)

 ガン見してくる高校生達に、内心焦りつつ、しかし余裕っぽい笑みを浮かべ、ミユキは訂正した。

「キャサリンさん、コレは魔法ではありません。ワタシに魔力はございませんので。こちらは(なんだかわかんないけど)おまじないでございまーす」

(((((((嘘をつけ──っ!!!))))))

 皆の心の声が草原に虚しく響き渡ったのだった。





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