オタクおばさん転生する

ゆるりこ

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~~王城 控えの間にて~~

 隣の部屋、いや、城全体から聞こえてくるような悲鳴と怒号に少年たちは顔を見合わせる。そして息があるとはいえ、突然気を失った学友たちも心配だ。とりあえず、誰か大人に報告をしてみんなを介抱してもらわなくてはいけない。──と言うことでセービアが部屋を出て、目の前にいた廊下を走り回る騎士に声をかけてから、どのくらい時間が経ったのだろうか。待っていれば説明に来るはずの魔導師様も、いつまでたってもやってこない。

「……とりあえず、もう一度誰かを呼びにいこうか」

 セービアが口を開き、全員が頷く。黙ってカンマルスをみていたスコンベルが思い切ったように言った。

「これって、魔力切れじゃないかな」
「魔力切れ?」
「うん。カンマルスが倒れる直前、僕、一瞬だけ首のところに召喚の儀式の時の感じがした気がしたんだ」

 そういえば、とサルモーが思い出すように首に手を当てる。

「でも、あの時と違って、引っ張られるよりもこっちが引っ張ったっていうか、断ち切ったっていう感じがして………儀式の時は、ただ吸い取られるみたいな感じだったけど……」
「うんうん、なんか、感じたな。俺も、首のところに、スッとする感じがした」

 サルモーが頷きながら同意してくれて、スコンベルは少し安心したように笑みを浮かべて続けた。

「だから、もしかしたらみんな、魔力を吸い取られたんじゃないかな」
「「「え……」」」
「誰に?」
「そ、それはわかんないけど……」
「誰がやったのかはともかく、外の騒ぎもそれなら──」

 儀式の時は誰も気を失うことはなかった。つまり、魔力の全てを抜かれたわけではないのだ。けれどここの六人は皆一瞬で気を失ってしまった。気を失うほどに魔力を使い果たしてしまったら───。

「───大変だ」

 この国の力は魔法にある。戦術は魔法が占めると言っても過言ではない。騎士による軍隊による戦力はあるが、補助も、回復も、戦術も魔力なしではたち行かないだろう。魔力を全て使い果たしたなら、それが戻るまでどのくらいの時間がかかるかわからない。儀式の時、倒れはしなかったもののほぼ限界まで搾り取られていた魔力は───

「ミユキさん!?」

 突然声を上げたセーピアに全員が顔を上げた。

「サルモー! ミユキさんは? どこに行くって言ってた?」
「え?」
「魔力切れならミユキさんに──」
「………」
「サルモー?」

「こんなとこにいたの?」

 扉が突然開き、入ってきたのはロンブスだった。白いシャツに濃いグレーのズボンと濃い茶色の上着で完全な私服のようだが、かなり息が荒い。

「───無事みたいだね、君たちは」

 扉を閉め、室内を見渡し、五人を確認してからロンブスは大きく息を吐いた。

「ロンブスさんも……ご無事で……」
「うん。ついでにいうと、シルーシスもアングイラもね……」
「はぁ……」
「ざっと見た限り、他は全滅だよ。そこの子たちと同じだ。魔力がない人や微量な人は大丈夫だけどね」
「やっぱり魔力切れ………」
「そのようだね。でも、どうして僕たちは何ともないんだろう」

 呟いたスコンベルにロンブスは苦々しげに頷いた。

「あの、ロンブスさんはどうしてお城に?」

 セーピアの質問に、ロンブスがため息を吐く。

「家の者が数人ふらついて、多少魔力がある者ばかりでね、念のために学院の寮に行ったら、みんな倒れてるし、でもアミア達は城に呼ばれたって聞いて、家の転移陣で来てみたんだ」
「転移陣……」
「勇者様の奇跡で転移の石が復活してたんだよ。お家柄、城と繋がっていたからね」
「ミユキさん……」
「あ!」
「どうしたの? サルモー」
「ミユキさんが言ってた。手紙、入れたら届くかもしれないって。みんなのアイテムボックスはミユキさんのと繋がってるみたいだって……」
「えぇ?」
「でも書くものなんてないよ……」

 泣きそうなサルモーの前に石版とチョークが差し出される。アミアだった。

「せっかく手ぶらで持ち運べるんだから」
「アミア……」
「早く書いて」
「う……うん。ありがとう」

 急かされ、カツカツと音を立てて書き込んだ文字をみて、驚いたロンブスが何かを言う前に、石版はサルモーの前から消えた。

「サ、サルモー、今のは……」
「え?」
「あんなので、通じるの? いやあの、状況とか、理由とか……」

 ロンブスが見た文字は『助けてください ミユキさん』のみだった……。

 頭を抱えるロンブスだったが、少年達は普通に会話を続けている。

「ミユキさんが戻ってくるまでにどのくらい時間がかかるのかな」
「入り口まで迎えに行かないと……」
「そうだな、とりあえず、ここから出よ………」
「朝、日の出前に俺んちから出てったから、もし今気づいてくれたとしても、夕方くら………」




「「「「「「ヒッ!?」」」」」」




 全員が立ち上がり、扉を向いた瞬間、声にならない悲鳴が喉の奥につまる。

 視線の先、つまり扉の前には、所在なげなミユキが、ふたばを抱えた背の高い白銀の髪の男を従えるようにして立っていたのだ。


 子供達のおびえたような反応に、とりあえずミユキは笑みを浮かべて言ってみた。




「えーっと、呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃ~~~~ん?」




 誰も、くしゃみをしていない。






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