オタクおばさん転生する

ゆるりこ

文字の大きさ
11 / 91

11 スコンベルくん視点

しおりを挟む
 その日が遂にやってきた。
 勇者様を召喚する儀式が行われる日だ。

 最近、200年前に召喚された勇者様達によってされた封印が弱まってきて、魔物が増えてきているらしい。

 三つの月が一列に並ぶ今年は、100年に一度しかない召喚ができる年なのだそうだ。
 100年前は戦争中で召喚は行われなかった。

 三箇所ある封印の地にはこの世界の人間は入れず、封印も異世界の人にしかできないという。

 ということを、僕たちは魔法学院に入学した昨年から授業で学んできた。

 この国の人間は10歳になると身分を問わず、魔力の有無を教会の水晶によって判別される。
 そして、僅かでも魔力があれば12歳から、この国立イクテュース魔法学院に入学できるのだ。無料で!
 王都に住んでいない子達も寮に入って通っている。無料らしい。

 貴族の方々とは質も形も違うけれど、制服も無料で貸して頂けるし、読み書きや計算も授業で学べるので、毎日が楽しくてたまらない。
 だから、魔力を捧げるために召喚の儀式に参加できるのは、とてもありがたいことだった。

 勇者様ってどんな方なんだろう。

 三つの封印の地に少しでも早く行ってもらうためにできるだけたくさんの勇者様にきていただかなくてはならないとクレーディト神官長様は教えてくださった。前回は10人もの召喚に成功したそうだ。

 200年前の勇者様達は、とても強かったと絵本にも書いてあった。10人の黒髪の獅子の伝説だ。

 儀式の予行練習に半年ほど費やし、やっと今日が来た。午後三時に月が全て重なるのだ。その時が今日の午後三時になると割り出すのに随分と時間を費やしたらしい。間に合って、本当によかった。

 穢れを落とすため、儀式で祈りを捧げる者は昨日の朝から断食しているけれど、そんなことより緊張して、喉には何も通らなかっただろう。

 けれど、今隣を歩いている幼馴染のサルモーは、先程からぶちぶち文句を言っている。

「ご飯食べないと魔力も抜けてく気がしねぇ?」

 猫っ毛のピンクブロンドに明るい緑色の大きな目で、喋らなければ、本当に女の子にしか見えない。入学したばかりの頃には上級生の貴族の方まで何人も見に来られて男だと知って肩を落として帰って行かれたっけ………。

「あーお腹すいた。やっぱ、食べたらバレるのかな」

 今日は学校も休みで、十二時に神殿に集合だ。今日だけは表門から入ることを許されている。

「勇者様ってしばらく学院で一緒に過ごすんだって?」

「え?   そうなの?」

 サルモーは、ふん、と鼻を鳴らしながら続けた。

「うん、うちに泊まってるお客さんが言ってた。商人なんだけど、結構いろいろ知ってて……」

「でもまぁ、貴族のクラスに入るんじゃないの?」

「だね。騎士クラスとそっちだろうね」

「……成功するよね。絶対」

 それまでは何もわからなかったけれど、入学してできた友達と話すようになって、その子の村の近くで人が魔物に襲われたことや討伐戦が行われて何人か亡くなったことを知った。だから、今日の儀式はとても大切なことなのだと思う。この日のために僕たちは魔力を蓄える量を増やしていく訓練を積み重ねてきたのだから。

「成功するよ、きっと」

 サルモーはいつもおちゃらけているけれど、こんな時はまじめに答えてくれる。

「成功したらみんなにご馳走してくれるって、父さんが言ってた。何でも好きなもの、食わせてくれるって!」

 満面の笑みだ。僕は少し安心する。

「やっぱり、勇者様は黒髪なのかなぁ?」

 控え室でローブを羽織ながらサルモーが呟いた。
 ローブは深い紫色でこれまで触ったこともない、艶やかで、さらさらとした布でできている。そして重みがあった。

「絵本では黒髪だったよね」

 この国にも黒髪はいるけれど、本当に少ない。だから黒髪の人は勇者様の血をひいているのではと言われているくらいだ。

 控え室にいる学生は、みな緊張して、僕もだけど、だんだん無口になっていった。
 扉がノックされて、小さく開き、神官様が呼びにいらっしゃった。窓のない廊下を横切り、広間に向かう。みんな、ローブのフードを深く被っているので表情は見えないけれど、死にそうな顔をしていると思う。

 広間には召喚のための魔法陣が描かれていた。
 召喚士様達が既に位置に跪いて祈りを捧げている。窓のない広間は魔導力で天井全体が明るく輝いていた。
 僕達も予行練習通りに位置について跪いて祈り始める。大きな扉からぞろぞろと綺麗なドレスを着た人や、キラキラした服を着た人達が入ってきた。きっと貴族の方々なのだろう。
 神官長様が魔法陣の前に立ち、祈りを捧げた。

「始めよ」

 その声の後のことは、よく覚えていない。
 目を閉じて、教えられた呪文をひたすらに念じていたら、首の後ろからすーっと何かが抜けていく感覚があり、だんだん跪いていることさえきつくなってきた。
 眠い。気持ち悪い。助けて。

「素晴らしい!」

 誰かの興奮した声で、遠のきかけた意識が戻ってきた。







 そして、目の前に、勇者様達が、いた。





しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

冷遇された聖女の結末

菜花
恋愛
異世界を救う聖女だと冷遇された毛利ラナ。けれど魔力慣らしの旅に出た途端に豹変する同行者達。彼らは同行者の一人のセレスティアを称えラナを貶める。知り合いもいない世界で心がすり減っていくラナ。彼女の迎える結末は――。 本編にプラスしていくつかのifルートがある長編。 カクヨムにも同じ作品を投稿しています。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

処理中です...