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「戦争?」
「あ、ごめんなさい。戦争はすぐ終わったのです。というか、封印のせいで中止というか……」
知らないの? 的な目で見られてしまったが、知らないものは聞かなくてはいけない。
「すみません、私はかなりの田舎から来ましたので何もわかっていないのです。良ければ教えていただけませんか?」
トマトソースはまだ水っぽいので大丈夫だろう。
デルは小さく笑んで続けてくれた。
「どこにあるのかは知らないのですが、昔話では、この世界のどこかに三ヶ所、封印の地があり、そのおかげでこの世界は平穏なのだと言われていました。けれど、数年前から魔物が頻繁に出だして、国から調査に行ったらしいのですが、封印が弱まっているというのです」
「はぁ……」
「貴族の方のお屋敷に油をお納めした際、そちらの奥方様に伺ったのです。お肌によろしいと、大変気に入ってくださっていて、時々直接お会いしていただけるのです」
何でこんなに詳しいんだろうとミユキの顔に書いてあったのか、デルは説明を付け加えた。
そもそもこの話は秘密でも何でもなく、この国の人間なら誰でも知っていることだった。封印をして貰うために勇者を召喚したのだ。
「どうしてわざわざ召喚を? 自分達で封印すればいいのでは?」
「この世界の者は誰も封印の地に立ち入れないらしいのです。それで、大昔にも召喚した勇者様に封印して頂いたって……」
トマトソースの水分が飛んで、まったりとしてきたので、話の途中でこっそり取り出しておいた瓶からひとつまみ、塩を入れて混ぜる。木べらで混ぜ、手の甲の親指の付け根あたりに少しのせ、味見した。塩を多めに摘んで足し、味見をする。よろしい。
「どうぞ」
木べらにのせて、デルに勧めるといそいそと小さな木の皿を持ってきたのでそこにのせた。はふはふっと口に入れて目を見開く。かわいい……。
「これね、トマトソースと言って……茹でた豆やジャガイモにのせたり、焼いたお肉に添えたり、スープに入れたりして食べます」
「焼く? お肉を? ジャガイモって?」
驚いたデルに詳しく聞いたところ、おそらくこの国では、肉は焼かずに茹でてしか食べないことと、ジャガイモは流通が始まったばかりのようで馴染みがないとのことだった。
とりあえず、現物を見せて、必ず皮を厚めにむき、毒があるので芽は絶対に取ること、生では食べないこと、芽だけとってまる茹ですれば皮も食べられることと、粉ふきいもの作り方を教えた。フライドポテトは油の扱い方に慣れていないと危険なので教えなかったが……。バターがあるかどうかもわからないので、茹でた芋に塩をかけると美味しい旨も伝え、いくつか置いてきたのだった。
「ありがとうございました。またいらして下さいね」
「こちらこそ、ありがとうございました。よろしければ使って下さい」
そう言って手渡した、手のひら大の蓋付壺には塩が詰まっている。油を分けてもらったお礼のつもりだった。もしもサルモー父が油を買いに来た際には融通して貰えるようお願いしてある。オストレア家で頂いた金貨一枚を渡して(かなり抵抗されたが)。
プルモーの店を出ると、周りの店も開店しており賑やかになってきていた。すれ違う男はみな長髪を自慢げになびかせている。散髪屋はないのだろうか。ふと気になった。忙しくさせてしまったのかも知れない。
もう一軒行きたい店があったが、一旦宿に戻ることにした。トマトソースを渡したいのと、もしかしたら、部屋にいないことで心配させてしまってはいけないからだ。
ふたばを連れて宿の近くまで戻ると、案の定、サルモーが駆け寄ってきた。朝日の元で見ても、ピンクブロンドの美少女にしか見えない。
「ミユキさん! よかったー!」
抱きついてきそうな勢いである。カモンだ。抱きつかないけど。
「心配かけてしまった? 黙って出掛けてごめんね」
「ううん、あ、服、とても似合ってる。かっこいいなぁ」
どこで手に入れたとか聞いてこないのは何故だろう。
後ろからスコンベルも駆けてきた。この2人はいつも一緒にいるようだ。
「ミユキさん、朝ごはん出来てますよ~」
「おぉ! ありがとうございます」
「うちの方にみんな集まってますよ」
「ごめんなさい、うちの店、いろいろ準備でバタバタしてて……」
「食堂だから、当たり前ですよ。気を使わせちゃったね」
「いえいえ、父と母もお会いしたがってて……」
スコンベルの家というか、酒場に案内されると、昨日の魔法使い達が揃っていた。
「「「おはようございます~!」」」
「おはようございます」
はるか昔に見ていたロン○ールームのようである。
(みんなで飲んでた牛乳がおいしそうだったなぁ。
この国にはないのかな)
「おはようございます。息子がどうもお世話になりました。トルボーです」
スコンベルと同じ青銅色のロン毛を後ろで束ねたワイルド系イケメンがにっこり笑って会釈した。
「アルガです。本当にありがとうございました」
オレンジ色の髪のゴージャス系美女が艶然と微笑む。エプロン付きの服は酒場のおかみさんだが、ナイスバデーは隠しきれず、色気に充ち満ちていた。
「うちの母もモラおばさんほどじゃなかったけど、調子がよくなかったんです。フラフラするってよく言ってて……」
(貧血かなぁ?)
席を勧められ、全員が座る大きなテーブルについた。
「ささ、たいしたものはないですが、どうぞ」
なんだかわからない粥状のものがテーブルに並べられていく。ドロドロの……しかし、やはり、匂いがしないのだった。
そして、気がつくと、やはり全員がミユキを見ていた。何か言わねばなるまい。
「皆さん、昨夜は走り回って下さり、ありがとうございました。おかげさまで騒ぎにならずに済んだようです。助かりました!」
(大騒ぎだったんですけど……)
頭を下げたミユキを、全員が生温い目で見るのであった。
「あ、ごめんなさい。戦争はすぐ終わったのです。というか、封印のせいで中止というか……」
知らないの? 的な目で見られてしまったが、知らないものは聞かなくてはいけない。
「すみません、私はかなりの田舎から来ましたので何もわかっていないのです。良ければ教えていただけませんか?」
トマトソースはまだ水っぽいので大丈夫だろう。
デルは小さく笑んで続けてくれた。
「どこにあるのかは知らないのですが、昔話では、この世界のどこかに三ヶ所、封印の地があり、そのおかげでこの世界は平穏なのだと言われていました。けれど、数年前から魔物が頻繁に出だして、国から調査に行ったらしいのですが、封印が弱まっているというのです」
「はぁ……」
「貴族の方のお屋敷に油をお納めした際、そちらの奥方様に伺ったのです。お肌によろしいと、大変気に入ってくださっていて、時々直接お会いしていただけるのです」
何でこんなに詳しいんだろうとミユキの顔に書いてあったのか、デルは説明を付け加えた。
そもそもこの話は秘密でも何でもなく、この国の人間なら誰でも知っていることだった。封印をして貰うために勇者を召喚したのだ。
「どうしてわざわざ召喚を? 自分達で封印すればいいのでは?」
「この世界の者は誰も封印の地に立ち入れないらしいのです。それで、大昔にも召喚した勇者様に封印して頂いたって……」
トマトソースの水分が飛んで、まったりとしてきたので、話の途中でこっそり取り出しておいた瓶からひとつまみ、塩を入れて混ぜる。木べらで混ぜ、手の甲の親指の付け根あたりに少しのせ、味見した。塩を多めに摘んで足し、味見をする。よろしい。
「どうぞ」
木べらにのせて、デルに勧めるといそいそと小さな木の皿を持ってきたのでそこにのせた。はふはふっと口に入れて目を見開く。かわいい……。
「これね、トマトソースと言って……茹でた豆やジャガイモにのせたり、焼いたお肉に添えたり、スープに入れたりして食べます」
「焼く? お肉を? ジャガイモって?」
驚いたデルに詳しく聞いたところ、おそらくこの国では、肉は焼かずに茹でてしか食べないことと、ジャガイモは流通が始まったばかりのようで馴染みがないとのことだった。
とりあえず、現物を見せて、必ず皮を厚めにむき、毒があるので芽は絶対に取ること、生では食べないこと、芽だけとってまる茹ですれば皮も食べられることと、粉ふきいもの作り方を教えた。フライドポテトは油の扱い方に慣れていないと危険なので教えなかったが……。バターがあるかどうかもわからないので、茹でた芋に塩をかけると美味しい旨も伝え、いくつか置いてきたのだった。
「ありがとうございました。またいらして下さいね」
「こちらこそ、ありがとうございました。よろしければ使って下さい」
そう言って手渡した、手のひら大の蓋付壺には塩が詰まっている。油を分けてもらったお礼のつもりだった。もしもサルモー父が油を買いに来た際には融通して貰えるようお願いしてある。オストレア家で頂いた金貨一枚を渡して(かなり抵抗されたが)。
プルモーの店を出ると、周りの店も開店しており賑やかになってきていた。すれ違う男はみな長髪を自慢げになびかせている。散髪屋はないのだろうか。ふと気になった。忙しくさせてしまったのかも知れない。
もう一軒行きたい店があったが、一旦宿に戻ることにした。トマトソースを渡したいのと、もしかしたら、部屋にいないことで心配させてしまってはいけないからだ。
ふたばを連れて宿の近くまで戻ると、案の定、サルモーが駆け寄ってきた。朝日の元で見ても、ピンクブロンドの美少女にしか見えない。
「ミユキさん! よかったー!」
抱きついてきそうな勢いである。カモンだ。抱きつかないけど。
「心配かけてしまった? 黙って出掛けてごめんね」
「ううん、あ、服、とても似合ってる。かっこいいなぁ」
どこで手に入れたとか聞いてこないのは何故だろう。
後ろからスコンベルも駆けてきた。この2人はいつも一緒にいるようだ。
「ミユキさん、朝ごはん出来てますよ~」
「おぉ! ありがとうございます」
「うちの方にみんな集まってますよ」
「ごめんなさい、うちの店、いろいろ準備でバタバタしてて……」
「食堂だから、当たり前ですよ。気を使わせちゃったね」
「いえいえ、父と母もお会いしたがってて……」
スコンベルの家というか、酒場に案内されると、昨日の魔法使い達が揃っていた。
「「「おはようございます~!」」」
「おはようございます」
はるか昔に見ていたロン○ールームのようである。
(みんなで飲んでた牛乳がおいしそうだったなぁ。
この国にはないのかな)
「おはようございます。息子がどうもお世話になりました。トルボーです」
スコンベルと同じ青銅色のロン毛を後ろで束ねたワイルド系イケメンがにっこり笑って会釈した。
「アルガです。本当にありがとうございました」
オレンジ色の髪のゴージャス系美女が艶然と微笑む。エプロン付きの服は酒場のおかみさんだが、ナイスバデーは隠しきれず、色気に充ち満ちていた。
「うちの母もモラおばさんほどじゃなかったけど、調子がよくなかったんです。フラフラするってよく言ってて……」
(貧血かなぁ?)
席を勧められ、全員が座る大きなテーブルについた。
「ささ、たいしたものはないですが、どうぞ」
なんだかわからない粥状のものがテーブルに並べられていく。ドロドロの……しかし、やはり、匂いがしないのだった。
そして、気がつくと、やはり全員がミユキを見ていた。何か言わねばなるまい。
「皆さん、昨夜は走り回って下さり、ありがとうございました。おかげさまで騒ぎにならずに済んだようです。助かりました!」
(大騒ぎだったんですけど……)
頭を下げたミユキを、全員が生温い目で見るのであった。
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