オタクおばさん転生する

ゆるりこ

文字の大きさ
34 / 91

34

しおりを挟む
「おい、その人を何処に連れて行く気だ?」

 ドスの効いた低音が響き、その場が凍りついた。
 男が慌てたように振り返る。

「カローさん……」

「あのぅ、ギルド長が動きません。首がひん曲がってます」

 介抱していた男が、どこか呑気な声で言ってきた。この状況はあの時と似ている。デジャブか? アンニュイな気分で遠い目をしたミユキは、普通に拘束から逃れて、転がっている男の方に向かって行った。腕を掴んでいた男2人が、自分の手を見ながら呆然としている。

「何かすみませんでした~」

 ミユキはギルド長の前で無造作に片手をかざし、ムニャムニャとテキトーに何やら呟くと、掌から緑色の光を放出させた。光に包まれたギルド長は意識が戻ったのか、目を開けて、自分を包む光がそのまま体に吸い込まれるまで固まっている。

「じゃ、血抜き、始めるぞ」

 ギルド長が起き上がったのを確認したのか、カローが声をかけた。

「おいおい! こ、こんなすごい数のオーク、ホントにコイツが倒したのかよ?!  み、みんなでやったんだから、みんなのもんじゃねえのか? なぁ! みんな?!」

 冒険者らしき男が声を張り上げたが、追随する者はいなかった。

「お前、さっき、死にかけてたぞ?」

 仲間らしき男が、肩に手を置いて宥めるように言うと、男はグッと唇を噛んだ。

「腕とアバラ、折れてたよな?しかもアバラ骨突き出てたぞ」

「うぅ……」

 男は半泣きであった。

(泣くほど欲しいのか……やはり、おいしいのね)

 ミユキは、うんうんと頷いて、カローに言った。お肉屋さんらしいし、何とかしてくれるだろう。

「あのぅ、このオーク、捌いてもらったら、この村の皆さん達で分けてくださいませんか?」

「なんだって?」

 カローを含めて、その場にいた全員が驚いている。

「だって、食べきれないし、持ちきれないし。皆さん戦ってらっしゃいましたし。あ、捌いたものを30キロくらい分けていただけたらありがたいです。で、どちらに運べばいいですか?  血と内臓を早く抜かないと、ですよね?  内臓はどうして食べられないんですか? やはり、雑食っぽいから美味しくないのかなぁ?  牛や豚のモツはおいしいですよね?」

 手近にあったオークから、ひょいひょいとアイテムボックスに放り込みながら、カローに訊くが答えはない。これに入れてしまえば時間が止まるので早くやればよかったよ、とか、思いつつ。取りあえず、ダッシュで拾っていき、23頭しまい込んで駆け足で元の場所にもどったが、誰も一言も口を開かなかった。ただ1人を除いて。さっきの子供だ。

「オバさん、魔法使い?」

「え?  なんで?  違うよ?  オバさんはまじない屋です」

「まじない屋さんって何する人?」

「あ、そうそう、家内安全商売繁昌交通安全安産祈願、みんなが幸せになるようにお祈りして回るのよ~  何か困ったことがあったら言ってごらん?」

 グッと親指を立てると、子供も親指を立ててきた。

「おまじないでオークをカエルにしたの?  もう戻らないの?」

「うーん、どうだろう?  やったことないから試して見たいんだけどね」

「じゃあ、やって見せてよ」

「うーん、そうだねー」

 ミユキがゴソゴソと鞄を弄りだしたところで、ギルド長が慌てて駆け寄ってきた。髪と目の色が茶色なので、この地の人間ではないのかもしれない。ロン毛だが。

「あの、ミユキさん?」

「はい?」

「私は冒険者ギルドのプルガティオといいます。取りあえず、交渉をさせていただきたいので、これからギルドの方へ」
「肉なら俺の店で捌くぞ!  ミユキさん、こっちにきてくれ。おい! すごい数なんだから、誰でもいいから手伝ってくれや」

 プルガティオを遮り、カローが声を張り上げると数人が動き出した。

「じいちゃん!」
「師匠!」

 若い男達が息を切らして走って来る。先頭に立つ若者が頭を下げて言った。

「俺にも、俺にも手伝わせてくれ!」

「……」

 黙って背を向けるカローに、若い男は唇を噛む。

「師匠!  俺達にも手伝わせて下さい!  お願いします!」

 深く深く頭を下げる若者5人である。

「フッ……早くしろ。お前ら包丁は手入れしてるんだろうな」

「あ、当たり前だろう?」
「もちろんです!」

 何かを解決したらしく、グスンと鼻を擦る祖父孫?と弟子達?を生温い目で見ながら、再びアンニュイな気分になるミユキであった。


 オークを全てカローの作業場に置いたミユキは、一頭をあっという間に解体する所を見学した後、抜いた血や内臓を【分解】しようとしたら、肥料にするので取っておくと言われてしまった。そしてすでに村人達が回収に来て、待ち構えている。その後は、てきぱきと働く職人達に追い出されてしまった。

 仕方なくぶらぶら歩いていると、ギルド長がどこからともなくやってきて、ペコペコ頭を下げながらお願いするので、冒険者ギルドについて来た。が、ウエスタン扉を抜けて中に入って即、後悔した。酒場部分に座る冒険者達の視線が一斉に集まっている。

(あ、そうだ。更新してもらおう)
 ギルドの用事を思い出したミユキだった。











 ****おまけ****

 アミアからの手紙

 お父さん、お母さん、トラルボー姉さん、ラウェル、みんな元気ですか?
 僕は元気です。学校は大変だけど、楽しいです。

 ユーリウスの7日に勇者様召喚の儀式に参加させていただいて、無事に成功しました。勇者様は11人、それからこの手紙を持って行ってくれたミユキさんが異界から来てくれました。
 ミユキさんは、間違って巻き込まれたので、魔力も体力もなく役に立たないと言っていますが、多分違います。王都で奇跡を起こし、ものすごいものを僕達に下さいました。
 この手紙も、魔物が増えて村を心配する僕のために、必ず届けてくれると思います。

 僕はまだ、魔道士の勉強中で何もできないけれど、たくさん勉強してミユキさんに恩返しをしたいです。
 お父さんとお母さんも、出来る限りのことをミユキさんにしてあげて下さい。お願いします。

 それから、もし、お父さんや村のみんなの髪の毛がふさふさになったり、あかり石が明るくなったり、病気やケガが治ったりしたら、それは全部ミユキさんのおかげです。王都中の男の人はみんな髪がふさふさになって、女の人も元気できれいになっています。
 王都ではそれは勇者様召喚の奇跡ということになっていますが、本当はミユキさんの仕業なのです。

 ミユキさんはおまじないだと言ってましたが、おまじないとは何なのか僕にはさっぱりわかりません。そのうち学校で教えてくれると思います。

 それでは、また手紙を書きます。
 体に気をつけて下さい。
 今度帰るときはお土産がたくさんありますので、楽しみにしていて下さい。


                   ユーリウスの8日   アミア







********************

アミア君には今ひとつ、みんなの隠蔽工作が伝わっていなかったのでした。残念。


しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!

明衣令央
ファンタジー
 糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。  一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。  だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。  そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。  この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。 2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

心が折れた日に神の声を聞く

木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。 どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。 何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。 絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。 没ネタ供養、第二弾の短編です。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...