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「おい、その人を何処に連れて行く気だ?」
ドスの効いた低音が響き、その場が凍りついた。
男が慌てたように振り返る。
「カローさん……」
「あのぅ、ギルド長が動きません。首がひん曲がってます」
介抱していた男が、どこか呑気な声で言ってきた。この状況はあの時と似ている。デジャブか? アンニュイな気分で遠い目をしたミユキは、普通に拘束から逃れて、転がっている男の方に向かって行った。腕を掴んでいた男2人が、自分の手を見ながら呆然としている。
「何かすみませんでした~」
ミユキはギルド長の前で無造作に片手をかざし、ムニャムニャとテキトーに何やら呟くと、掌から緑色の光を放出させた。光に包まれたギルド長は意識が戻ったのか、目を開けて、自分を包む光がそのまま体に吸い込まれるまで固まっている。
「じゃ、血抜き、始めるぞ」
ギルド長が起き上がったのを確認したのか、カローが声をかけた。
「おいおい! こ、こんなすごい数のオーク、ホントにコイツが倒したのかよ?! み、みんなでやったんだから、みんなのもんじゃねえのか? なぁ! みんな?!」
冒険者らしき男が声を張り上げたが、追随する者はいなかった。
「お前、さっき、死にかけてたぞ?」
仲間らしき男が、肩に手を置いて宥めるように言うと、男はグッと唇を噛んだ。
「腕とアバラ、折れてたよな?しかもアバラ骨突き出てたぞ」
「うぅ……」
男は半泣きであった。
(泣くほど欲しいのか……やはり、おいしいのね)
ミユキは、うんうんと頷いて、カローに言った。お肉屋さんらしいし、何とかしてくれるだろう。
「あのぅ、このオーク、捌いてもらったら、この村の皆さん達で分けてくださいませんか?」
「なんだって?」
カローを含めて、その場にいた全員が驚いている。
「だって、食べきれないし、持ちきれないし。皆さん戦ってらっしゃいましたし。あ、捌いたものを30キロくらい分けていただけたらありがたいです。で、どちらに運べばいいですか? 血と内臓を早く抜かないと、ですよね? 内臓はどうして食べられないんですか? やはり、雑食っぽいから美味しくないのかなぁ? 牛や豚のモツはおいしいですよね?」
手近にあったオークから、ひょいひょいとアイテムボックスに放り込みながら、カローに訊くが答えはない。これに入れてしまえば時間が止まるので早くやればよかったよ、とか、思いつつ。取りあえず、ダッシュで拾っていき、23頭しまい込んで駆け足で元の場所にもどったが、誰も一言も口を開かなかった。ただ1人を除いて。さっきの子供だ。
「オバさん、魔法使い?」
「え? なんで? 違うよ? オバさんはまじない屋です」
「まじない屋さんって何する人?」
「あ、そうそう、家内安全商売繁昌交通安全安産祈願、みんなが幸せになるようにお祈りして回るのよ~ 何か困ったことがあったら言ってごらん?」
グッと親指を立てると、子供も親指を立ててきた。
「おまじないでオークをカエルにしたの? もう戻らないの?」
「うーん、どうだろう? やったことないから試して見たいんだけどね」
「じゃあ、やって見せてよ」
「うーん、そうだねー」
ミユキがゴソゴソと鞄を弄りだしたところで、ギルド長が慌てて駆け寄ってきた。髪と目の色が茶色なので、この地の人間ではないのかもしれない。ロン毛だが。
「あの、ミユキさん?」
「はい?」
「私は冒険者ギルドのプルガティオといいます。取りあえず、交渉をさせていただきたいので、これからギルドの方へ」
「肉なら俺の店で捌くぞ! ミユキさん、こっちにきてくれ。おい! すごい数なんだから、誰でもいいから手伝ってくれや」
プルガティオを遮り、カローが声を張り上げると数人が動き出した。
「じいちゃん!」
「師匠!」
若い男達が息を切らして走って来る。先頭に立つ若者が頭を下げて言った。
「俺にも、俺にも手伝わせてくれ!」
「……」
黙って背を向けるカローに、若い男は唇を噛む。
「師匠! 俺達にも手伝わせて下さい! お願いします!」
深く深く頭を下げる若者5人である。
「フッ……早くしろ。お前ら包丁は手入れしてるんだろうな」
「あ、当たり前だろう?」
「もちろんです!」
何かを解決したらしく、グスンと鼻を擦る祖父孫?と弟子達?を生温い目で見ながら、再びアンニュイな気分になるミユキであった。
オークを全てカローの作業場に置いたミユキは、一頭をあっという間に解体する所を見学した後、抜いた血や内臓を【分解】しようとしたら、肥料にするので取っておくと言われてしまった。そしてすでに村人達が回収に来て、待ち構えている。その後は、てきぱきと働く職人達に追い出されてしまった。
仕方なくぶらぶら歩いていると、ギルド長がどこからともなくやってきて、ペコペコ頭を下げながらお願いするので、冒険者ギルドについて来た。が、ウエスタン扉を抜けて中に入って即、後悔した。酒場部分に座る冒険者達の視線が一斉に集まっている。
(あ、そうだ。更新してもらおう)
ギルドの用事を思い出したミユキだった。
****おまけ****
アミアからの手紙
お父さん、お母さん、トラルボー姉さん、ラウェル、みんな元気ですか?
僕は元気です。学校は大変だけど、楽しいです。
ユーリウスの7日に勇者様召喚の儀式に参加させていただいて、無事に成功しました。勇者様は11人、それからこの手紙を持って行ってくれたミユキさんが異界から来てくれました。
ミユキさんは、間違って巻き込まれたので、魔力も体力もなく役に立たないと言っていますが、多分違います。王都で奇跡を起こし、ものすごいものを僕達に下さいました。
この手紙も、魔物が増えて村を心配する僕のために、必ず届けてくれると思います。
僕はまだ、魔道士の勉強中で何もできないけれど、たくさん勉強してミユキさんに恩返しをしたいです。
お父さんとお母さんも、出来る限りのことをミユキさんにしてあげて下さい。お願いします。
それから、もし、お父さんや村のみんなの髪の毛がふさふさになったり、あかり石が明るくなったり、病気やケガが治ったりしたら、それは全部ミユキさんのおかげです。王都中の男の人はみんな髪がふさふさになって、女の人も元気できれいになっています。
王都ではそれは勇者様召喚の奇跡ということになっていますが、本当はミユキさんの仕業なのです。
ミユキさんはおまじないだと言ってましたが、おまじないとは何なのか僕にはさっぱりわかりません。そのうち学校で教えてくれると思います。
それでは、また手紙を書きます。
体に気をつけて下さい。
今度帰るときはお土産がたくさんありますので、楽しみにしていて下さい。
ユーリウスの8日 アミア
********************
アミア君には今ひとつ、みんなの隠蔽工作が伝わっていなかったのでした。残念。
ドスの効いた低音が響き、その場が凍りついた。
男が慌てたように振り返る。
「カローさん……」
「あのぅ、ギルド長が動きません。首がひん曲がってます」
介抱していた男が、どこか呑気な声で言ってきた。この状況はあの時と似ている。デジャブか? アンニュイな気分で遠い目をしたミユキは、普通に拘束から逃れて、転がっている男の方に向かって行った。腕を掴んでいた男2人が、自分の手を見ながら呆然としている。
「何かすみませんでした~」
ミユキはギルド長の前で無造作に片手をかざし、ムニャムニャとテキトーに何やら呟くと、掌から緑色の光を放出させた。光に包まれたギルド長は意識が戻ったのか、目を開けて、自分を包む光がそのまま体に吸い込まれるまで固まっている。
「じゃ、血抜き、始めるぞ」
ギルド長が起き上がったのを確認したのか、カローが声をかけた。
「おいおい! こ、こんなすごい数のオーク、ホントにコイツが倒したのかよ?! み、みんなでやったんだから、みんなのもんじゃねえのか? なぁ! みんな?!」
冒険者らしき男が声を張り上げたが、追随する者はいなかった。
「お前、さっき、死にかけてたぞ?」
仲間らしき男が、肩に手を置いて宥めるように言うと、男はグッと唇を噛んだ。
「腕とアバラ、折れてたよな?しかもアバラ骨突き出てたぞ」
「うぅ……」
男は半泣きであった。
(泣くほど欲しいのか……やはり、おいしいのね)
ミユキは、うんうんと頷いて、カローに言った。お肉屋さんらしいし、何とかしてくれるだろう。
「あのぅ、このオーク、捌いてもらったら、この村の皆さん達で分けてくださいませんか?」
「なんだって?」
カローを含めて、その場にいた全員が驚いている。
「だって、食べきれないし、持ちきれないし。皆さん戦ってらっしゃいましたし。あ、捌いたものを30キロくらい分けていただけたらありがたいです。で、どちらに運べばいいですか? 血と内臓を早く抜かないと、ですよね? 内臓はどうして食べられないんですか? やはり、雑食っぽいから美味しくないのかなぁ? 牛や豚のモツはおいしいですよね?」
手近にあったオークから、ひょいひょいとアイテムボックスに放り込みながら、カローに訊くが答えはない。これに入れてしまえば時間が止まるので早くやればよかったよ、とか、思いつつ。取りあえず、ダッシュで拾っていき、23頭しまい込んで駆け足で元の場所にもどったが、誰も一言も口を開かなかった。ただ1人を除いて。さっきの子供だ。
「オバさん、魔法使い?」
「え? なんで? 違うよ? オバさんはまじない屋です」
「まじない屋さんって何する人?」
「あ、そうそう、家内安全商売繁昌交通安全安産祈願、みんなが幸せになるようにお祈りして回るのよ~ 何か困ったことがあったら言ってごらん?」
グッと親指を立てると、子供も親指を立ててきた。
「おまじないでオークをカエルにしたの? もう戻らないの?」
「うーん、どうだろう? やったことないから試して見たいんだけどね」
「じゃあ、やって見せてよ」
「うーん、そうだねー」
ミユキがゴソゴソと鞄を弄りだしたところで、ギルド長が慌てて駆け寄ってきた。髪と目の色が茶色なので、この地の人間ではないのかもしれない。ロン毛だが。
「あの、ミユキさん?」
「はい?」
「私は冒険者ギルドのプルガティオといいます。取りあえず、交渉をさせていただきたいので、これからギルドの方へ」
「肉なら俺の店で捌くぞ! ミユキさん、こっちにきてくれ。おい! すごい数なんだから、誰でもいいから手伝ってくれや」
プルガティオを遮り、カローが声を張り上げると数人が動き出した。
「じいちゃん!」
「師匠!」
若い男達が息を切らして走って来る。先頭に立つ若者が頭を下げて言った。
「俺にも、俺にも手伝わせてくれ!」
「……」
黙って背を向けるカローに、若い男は唇を噛む。
「師匠! 俺達にも手伝わせて下さい! お願いします!」
深く深く頭を下げる若者5人である。
「フッ……早くしろ。お前ら包丁は手入れしてるんだろうな」
「あ、当たり前だろう?」
「もちろんです!」
何かを解決したらしく、グスンと鼻を擦る祖父孫?と弟子達?を生温い目で見ながら、再びアンニュイな気分になるミユキであった。
オークを全てカローの作業場に置いたミユキは、一頭をあっという間に解体する所を見学した後、抜いた血や内臓を【分解】しようとしたら、肥料にするので取っておくと言われてしまった。そしてすでに村人達が回収に来て、待ち構えている。その後は、てきぱきと働く職人達に追い出されてしまった。
仕方なくぶらぶら歩いていると、ギルド長がどこからともなくやってきて、ペコペコ頭を下げながらお願いするので、冒険者ギルドについて来た。が、ウエスタン扉を抜けて中に入って即、後悔した。酒場部分に座る冒険者達の視線が一斉に集まっている。
(あ、そうだ。更新してもらおう)
ギルドの用事を思い出したミユキだった。
****おまけ****
アミアからの手紙
お父さん、お母さん、トラルボー姉さん、ラウェル、みんな元気ですか?
僕は元気です。学校は大変だけど、楽しいです。
ユーリウスの7日に勇者様召喚の儀式に参加させていただいて、無事に成功しました。勇者様は11人、それからこの手紙を持って行ってくれたミユキさんが異界から来てくれました。
ミユキさんは、間違って巻き込まれたので、魔力も体力もなく役に立たないと言っていますが、多分違います。王都で奇跡を起こし、ものすごいものを僕達に下さいました。
この手紙も、魔物が増えて村を心配する僕のために、必ず届けてくれると思います。
僕はまだ、魔道士の勉強中で何もできないけれど、たくさん勉強してミユキさんに恩返しをしたいです。
お父さんとお母さんも、出来る限りのことをミユキさんにしてあげて下さい。お願いします。
それから、もし、お父さんや村のみんなの髪の毛がふさふさになったり、あかり石が明るくなったり、病気やケガが治ったりしたら、それは全部ミユキさんのおかげです。王都中の男の人はみんな髪がふさふさになって、女の人も元気できれいになっています。
王都ではそれは勇者様召喚の奇跡ということになっていますが、本当はミユキさんの仕業なのです。
ミユキさんはおまじないだと言ってましたが、おまじないとは何なのか僕にはさっぱりわかりません。そのうち学校で教えてくれると思います。
それでは、また手紙を書きます。
体に気をつけて下さい。
今度帰るときはお土産がたくさんありますので、楽しみにしていて下さい。
ユーリウスの8日 アミア
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アミア君には今ひとつ、みんなの隠蔽工作が伝わっていなかったのでした。残念。
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