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しおりを挟む「怜美……」
なつみに上半身を抱きかかえられた怜美は、涙に濡れたまぶたを震わせた。
「怜美! 怜美! わかる?」
怜美は、なつみの呼びかけに小さく頷き、自分を覗き込む三人を見回す。(コウスケは肉を食べていたので参加していなかった。)
「わたし……」
ミユキを見つけ、唇が震える。なつみの肩越しから覗き込んでいたミユキは、にっこりと笑いながら口の前で人差し指を立てた。ヒュッと声を飲み込んだ怜美は慌てて起き上がる。
「だ、大丈夫よ。ありがとう。それからごめんなさい。なんか、騒いじゃって。……それより、何がどうなってるの? あのドラゴンは? みんなは?」
「そうだ! 瘴気は? ここはどこなの?」
「えーと、そういえば、ここってどこなんですかね?」
「え?」
「なんか、行きがかり上ここに落ちてきたんで、ここがどこなのかさっぱりです。ははは」
力なく笑うミユキに、勇者一行は顔を見合わせる。そこにコウスケが困惑したように声をかけてきた。
「ミユキ殿、これはどうしたらいいのだ? 肉が固くなってきたぞ?」
「あっ! まずいですよ、コウスケさん……焼きすぎると焦げちゃって美味しくなくなりますから。皆さん、とりあえず、食べちゃいましょう」
コウスケは、食べずにみんなの分を焼いていてくれたらしい。四人は改めて椅子に座り、少し焼きすぎた肉を食べ始めた。
しばらくして、ぽつぽつと仁が話し始めた。
なつみと玲美は黙って肉を頬張っている。醤油味に飢えていたようで、どぽどぽとつけまくっていた。
修学旅行のバスで移動中、同じクラスの10人が召喚されたこと。
しばらく訓練をした後、三つの国に振り分けられ、そこで更にいろいろと教えてもらい、レベルを上げてここに来たこと。
途中で魔物の襲撃に遭い、教官だった兵士が亡くなったこと。
「俺たち、まだまだ強くなれたはずなんです。でも、早く行かないと間に合わなくなるからって。教官はまだ早いって、反対してくれたんですけど……」
「うーん、その、皆さん何をするためにここにいらしたんです?」
「えっ?」
「その、何かと戦うため?」
「え、あの、」
塩谷は気まずそうにコウスケを見た。コウスケも肉を皿に置き、塩谷を見る。
「その、邪悪なドラゴンを封印するために、です、」
「………じゃあくなどらごん」
コウスケが首を傾げたので、ミユキは小皿にポン酢を注いだ。気の毒すぎる。
「………ほら、コウスケさん、今度はポン酢でいかがですか? さっぱりしますよ~」
「うむ、かたじけない」
「……この世界には三箇所に邪悪なドラゴンがいて、瘴気を生み出し、大地を枯らし、全てを滅ぼそうとしているから、ドラゴンを封印して、瘴気を止めるために俺たちは召喚されたんです」
「はぁ」
でも、と玲美が続けた。
「でも、ちょっとおかしかったんです」
うん、と、なつみも頷いた。
「最初はみんな嫌がってたのに、ある日を境に嫌がったしてた子が逆にノリノリになって、ダンジョンとか行きたがって……」
いい感じに焼けたじゃがいもにバターをのせて、ふうふうと冷ましながら玲美が続ける。それを見ていたコウスケが羨ましげだったので、ミユキは同じようにして皿にのせて渡した。つぶらな瞳を輝かせるおじさまにミユキはうんうんと頷いた。
「この世界を守るんだ~とか、気持ち悪いこと言い出すし……」
「はぁ」
「最初は私も変だなと思ってたんだけど、グループに分けられて、訓練が厳しくなって、世界を守って戻ってきたら三人で一生好きに過ごしていいって言われて……。三人で結婚していいって言うし」
「えええぇ?!」
驚く仁に、玲美はテヘペロで返した。若いっていいなぁと生温い目で見るミユキである。
「私もそれ言われた。それで頑張ったんだもん」
「ええええええぇっ?!」
「贅沢三昧だって。お城に住んでいいって言われたよ。どうせ戻れないんだし、一筆書いてもらったよ? 王様に」
なつみは胸元からゴソゴソと何やら取り出した。ごわごわした紙だか皮だかわからないものに、確かに書いてある。
塩谷 仁
小山内 夏光
瀧本 怜美
上記三名の勇者が戻られし時には未来永劫、ソール帝国王城に住んでいただくことをお約束します
ソール帝国 ウラヌス・カメーロ・タピルス7世
「すっごーい!」
「………」
興奮する玲美にドヤ顔の夏光、絶句する仁であったが、ミユキは申し訳なさそうに言った。
「あの、これ、ほぼ監禁、いえ、軟禁、その、拘束、ええと、飼い殺し……いえあの出入りの自由に関しては謳ってないですよね?」
「「「え?」」」
「あの、一生お城で爛れた生活を送られるのならいいのでしょうが、その、帝国さん側としては、勇者さんに国から出て行って欲しくないでしょうし……」
「あ……」
「それから皆さん、邪悪なドラゴンと仰ってますが、
そのドラゴンさんが皆さんと一緒にずっと瘴気を抑えてた守護竜さんだったのですが……」
「「「え?」」」
「いいですか? コウスケさん、ちょっとお皿置いてください」
うむ、と言われるがままに皿を置くコウスケである。
「それっ! ラミ○スラミ○スルルルルル~」
螺旋状の光に包まれるコウスケを、三人は目を皿のようにして見ている。
光の中の人影が、大きな影と変わり、光が消えると共にその姿を現した。
「あれ?」
草原に佇む守護竜は、神々しくも、白銀に輝いていたのであった。
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