42 / 91
42
しおりを挟む「怜美……」
なつみに上半身を抱きかかえられた怜美は、涙に濡れたまぶたを震わせた。
「怜美! 怜美! わかる?」
怜美は、なつみの呼びかけに小さく頷き、自分を覗き込む三人を見回す。(コウスケは肉を食べていたので参加していなかった。)
「わたし……」
ミユキを見つけ、唇が震える。なつみの肩越しから覗き込んでいたミユキは、にっこりと笑いながら口の前で人差し指を立てた。ヒュッと声を飲み込んだ怜美は慌てて起き上がる。
「だ、大丈夫よ。ありがとう。それからごめんなさい。なんか、騒いじゃって。……それより、何がどうなってるの? あのドラゴンは? みんなは?」
「そうだ! 瘴気は? ここはどこなの?」
「えーと、そういえば、ここってどこなんですかね?」
「え?」
「なんか、行きがかり上ここに落ちてきたんで、ここがどこなのかさっぱりです。ははは」
力なく笑うミユキに、勇者一行は顔を見合わせる。そこにコウスケが困惑したように声をかけてきた。
「ミユキ殿、これはどうしたらいいのだ? 肉が固くなってきたぞ?」
「あっ! まずいですよ、コウスケさん……焼きすぎると焦げちゃって美味しくなくなりますから。皆さん、とりあえず、食べちゃいましょう」
コウスケは、食べずにみんなの分を焼いていてくれたらしい。四人は改めて椅子に座り、少し焼きすぎた肉を食べ始めた。
しばらくして、ぽつぽつと仁が話し始めた。
なつみと玲美は黙って肉を頬張っている。醤油味に飢えていたようで、どぽどぽとつけまくっていた。
修学旅行のバスで移動中、同じクラスの10人が召喚されたこと。
しばらく訓練をした後、三つの国に振り分けられ、そこで更にいろいろと教えてもらい、レベルを上げてここに来たこと。
途中で魔物の襲撃に遭い、教官だった兵士が亡くなったこと。
「俺たち、まだまだ強くなれたはずなんです。でも、早く行かないと間に合わなくなるからって。教官はまだ早いって、反対してくれたんですけど……」
「うーん、その、皆さん何をするためにここにいらしたんです?」
「えっ?」
「その、何かと戦うため?」
「え、あの、」
塩谷は気まずそうにコウスケを見た。コウスケも肉を皿に置き、塩谷を見る。
「その、邪悪なドラゴンを封印するために、です、」
「………じゃあくなどらごん」
コウスケが首を傾げたので、ミユキは小皿にポン酢を注いだ。気の毒すぎる。
「………ほら、コウスケさん、今度はポン酢でいかがですか? さっぱりしますよ~」
「うむ、かたじけない」
「……この世界には三箇所に邪悪なドラゴンがいて、瘴気を生み出し、大地を枯らし、全てを滅ぼそうとしているから、ドラゴンを封印して、瘴気を止めるために俺たちは召喚されたんです」
「はぁ」
でも、と玲美が続けた。
「でも、ちょっとおかしかったんです」
うん、と、なつみも頷いた。
「最初はみんな嫌がってたのに、ある日を境に嫌がったしてた子が逆にノリノリになって、ダンジョンとか行きたがって……」
いい感じに焼けたじゃがいもにバターをのせて、ふうふうと冷ましながら玲美が続ける。それを見ていたコウスケが羨ましげだったので、ミユキは同じようにして皿にのせて渡した。つぶらな瞳を輝かせるおじさまにミユキはうんうんと頷いた。
「この世界を守るんだ~とか、気持ち悪いこと言い出すし……」
「はぁ」
「最初は私も変だなと思ってたんだけど、グループに分けられて、訓練が厳しくなって、世界を守って戻ってきたら三人で一生好きに過ごしていいって言われて……。三人で結婚していいって言うし」
「えええぇ?!」
驚く仁に、玲美はテヘペロで返した。若いっていいなぁと生温い目で見るミユキである。
「私もそれ言われた。それで頑張ったんだもん」
「ええええええぇっ?!」
「贅沢三昧だって。お城に住んでいいって言われたよ。どうせ戻れないんだし、一筆書いてもらったよ? 王様に」
なつみは胸元からゴソゴソと何やら取り出した。ごわごわした紙だか皮だかわからないものに、確かに書いてある。
塩谷 仁
小山内 夏光
瀧本 怜美
上記三名の勇者が戻られし時には未来永劫、ソール帝国王城に住んでいただくことをお約束します
ソール帝国 ウラヌス・カメーロ・タピルス7世
「すっごーい!」
「………」
興奮する玲美にドヤ顔の夏光、絶句する仁であったが、ミユキは申し訳なさそうに言った。
「あの、これ、ほぼ監禁、いえ、軟禁、その、拘束、ええと、飼い殺し……いえあの出入りの自由に関しては謳ってないですよね?」
「「「え?」」」
「あの、一生お城で爛れた生活を送られるのならいいのでしょうが、その、帝国さん側としては、勇者さんに国から出て行って欲しくないでしょうし……」
「あ……」
「それから皆さん、邪悪なドラゴンと仰ってますが、
そのドラゴンさんが皆さんと一緒にずっと瘴気を抑えてた守護竜さんだったのですが……」
「「「え?」」」
「いいですか? コウスケさん、ちょっとお皿置いてください」
うむ、と言われるがままに皿を置くコウスケである。
「それっ! ラミ○スラミ○スルルルルル~」
螺旋状の光に包まれるコウスケを、三人は目を皿のようにして見ている。
光の中の人影が、大きな影と変わり、光が消えると共にその姿を現した。
「あれ?」
草原に佇む守護竜は、神々しくも、白銀に輝いていたのであった。
210
あなたにおすすめの小説
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
異世界に召喚されたけど、聖女じゃないから用はない? それじゃあ、好き勝手させてもらいます!
明衣令央
ファンタジー
糸井織絵は、ある日、オブルリヒト王国が行った聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界ルリアルークへと飛ばされてしまう。
一緒に召喚された、若く美しい女が聖女――織絵は召喚の儀に巻き込まれた年増の豚女として不遇な扱いを受けたが、元スマホケースのハリネズミのぬいぐるみであるサーチートと共に、オブルリヒト王女ユリアナに保護され、聖女の力を開花させる。
だが、オブルリヒト王国の王子ジュニアスは、追い出した織絵にも聖女の可能性があるとして、織絵を連れ戻しに来た。
そして、異世界転移状態から正式に異世界転生した織絵は、若く美しい姿へと生まれ変わる。
この物語は、聖女召喚の儀に巻き込まれ、異世界転移後、新たに転生した一人の元おばさんの聖女が、相棒の元スマホケースのハリネズミと楽しく無双していく、恋と冒険の物語。
2022.9.7 話が少し進みましたので、内容紹介を変更しました。その都度変更していきます。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~
伽羅
ファンタジー
物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる