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私は「ふかし」という芸名で、顔を出さずに、カバーソングを発表する歌手活動をしている。本名はもりもとあつしという。身長160センチ、体重75キロだ。
XにグラビアアイドルのKさんからDMが届いた。私の大ファンでライブにも何度も来てくれているという。
食事に行く約束をした。
こちらは太っており、身長も160センチしかないことを伝えても、彼女の熱量は変わらなかった。
S駅で待ち合わせた。
あなたは白い服を着て現れた。バッグは私のグッズのものだった。私も自分のグッズを積極的に生活に取り入れているので、お揃いだった。私の見た目は知られていないので、こちらから声をかけた。
「わぁ、イケメンだったんですね!」と言ってくれたので、一安心だった。
私は普段、出歩かないので、お店はあなたに任せた。「ライブのMCでの宣言通り、普段からグッズ使ってるんですね」と、あなたは坂をぐんぐん登ってゆき、イタリアンレストランへ連れていってくれた。
おしゃれなお店だった。ナイフとフォークが苦手なもので、少し緊張した。あなたは店員さんにふたりと告げた。窓際の席へ案内された。
「がっかりされなくて良かった」と席につくなり、私は安堵の声を出した。
「歌が好きなんで、顔はどうでもっていったら可笑しいけど、どっちでも良かったんです。でもカッコよくて嬉しい」と有難い言葉を頂いた。
メニューを開き、ふたりで、これも美味しそう、それも良さそうと楽しく会話をしながら注文を決めた。
私はお酒が飲めないが、飲んでくれて構わないと言った。けれども、あなたは私に合わせてアイスティーにすると言った。
あなたが店員さんを目で呼んだ。その目が色っぽかった。
注文をして、店員さんが去った後、「この前のK県のライブ、すごい良かったです。アンコールで泣いちゃった」とあなたは褒めてくれた。
「あの日は特に調子よかったかも。最近は高い声のアーティストが多いけど、俺みたいに低い声も平気ですか?」と尋ねると、「それがいいの!」とあなたは即答だった。
「なんの曲が好き?」と私が訊くと、「Yさんが原曲のSが好き。昭和歌謡すきなんです」と返ってきた。
「ライブのとき、いつも一曲目にやってる」と私。
「これからもそこは変えないで欲しい」とあなた。
「変えるつもりないよ」と私は微笑んだ。
食事が届けられた。
「ナイフとフォーク下手でごめんね」と私は言ったそばから後悔した。
「違う店のほうが良かったかな。こちらこそごめんなさい」と思った通りの言葉が返ってきた。
「いや、俺、店ぜんぜん知らないから助かりましたよ。パスタ美味しい!」と私はおどけて見せた。
「このお魚も美味しい!」とあなたが笑顔を見せてくれたので、私は安心した。
「いつもXで小説のこと呟いてますよね?」とあなた。
「まぁ、読んだ本が面白かったとしか書いてないけどね」と私は返した。
「私、ふかしさんのつぶやきを見て本を読み始めたんです」とあなたはバッグから文庫本を取り出した。
私が呟いたことのある小説だったので、「オチ教えてあげようか?」と冗談を言った。
「やめてくださいよ~」と言ったあなたは可愛らしかった。
XにグラビアアイドルのKさんからDMが届いた。私の大ファンでライブにも何度も来てくれているという。
食事に行く約束をした。
こちらは太っており、身長も160センチしかないことを伝えても、彼女の熱量は変わらなかった。
S駅で待ち合わせた。
あなたは白い服を着て現れた。バッグは私のグッズのものだった。私も自分のグッズを積極的に生活に取り入れているので、お揃いだった。私の見た目は知られていないので、こちらから声をかけた。
「わぁ、イケメンだったんですね!」と言ってくれたので、一安心だった。
私は普段、出歩かないので、お店はあなたに任せた。「ライブのMCでの宣言通り、普段からグッズ使ってるんですね」と、あなたは坂をぐんぐん登ってゆき、イタリアンレストランへ連れていってくれた。
おしゃれなお店だった。ナイフとフォークが苦手なもので、少し緊張した。あなたは店員さんにふたりと告げた。窓際の席へ案内された。
「がっかりされなくて良かった」と席につくなり、私は安堵の声を出した。
「歌が好きなんで、顔はどうでもっていったら可笑しいけど、どっちでも良かったんです。でもカッコよくて嬉しい」と有難い言葉を頂いた。
メニューを開き、ふたりで、これも美味しそう、それも良さそうと楽しく会話をしながら注文を決めた。
私はお酒が飲めないが、飲んでくれて構わないと言った。けれども、あなたは私に合わせてアイスティーにすると言った。
あなたが店員さんを目で呼んだ。その目が色っぽかった。
注文をして、店員さんが去った後、「この前のK県のライブ、すごい良かったです。アンコールで泣いちゃった」とあなたは褒めてくれた。
「あの日は特に調子よかったかも。最近は高い声のアーティストが多いけど、俺みたいに低い声も平気ですか?」と尋ねると、「それがいいの!」とあなたは即答だった。
「なんの曲が好き?」と私が訊くと、「Yさんが原曲のSが好き。昭和歌謡すきなんです」と返ってきた。
「ライブのとき、いつも一曲目にやってる」と私。
「これからもそこは変えないで欲しい」とあなた。
「変えるつもりないよ」と私は微笑んだ。
食事が届けられた。
「ナイフとフォーク下手でごめんね」と私は言ったそばから後悔した。
「違う店のほうが良かったかな。こちらこそごめんなさい」と思った通りの言葉が返ってきた。
「いや、俺、店ぜんぜん知らないから助かりましたよ。パスタ美味しい!」と私はおどけて見せた。
「このお魚も美味しい!」とあなたが笑顔を見せてくれたので、私は安心した。
「いつもXで小説のこと呟いてますよね?」とあなた。
「まぁ、読んだ本が面白かったとしか書いてないけどね」と私は返した。
「私、ふかしさんのつぶやきを見て本を読み始めたんです」とあなたはバッグから文庫本を取り出した。
私が呟いたことのある小説だったので、「オチ教えてあげようか?」と冗談を言った。
「やめてくださいよ~」と言ったあなたは可愛らしかった。
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