ふかし

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 私は「ふかし」という芸名で、顔を出さずに、カバーソングを発表する歌手活動をしている。本名はあつしという。
 XにグラビアアイドルからDMが届いた。私の大ファンでライブにも何度も来てくれているという。
 食事に行く約束をした。
 こちらは太っており、身長も160センチしかないことを伝えても、彼女の熱量は変わらなかった。

 S駅で待ち合わせた。
 あなたは白い服を着て現れた。
 バッグは私のグッズのものだった。私も自分のグッズを積極的に生活に取り入れているので、お揃いだった。
 私の見た目は知られていないので、こちらから声をかけた。
 「わぁ、イケメンだったんですね!」と言ってくれたので、一安心だった。
 私は普段、出歩かないので、お店はあなたに任せた。
 「ライブのMCでの宣言通り、普段からグッズ使ってるんですね」と、あなたは坂をぐんぐん登ってゆき、イタリアンレストランへ連れていってくれた。
 おしゃれなお店だった。
 ナイフとフォークが苦手なもので、少し緊張した。
 あなたは店員さんにふたりと告げた。
 窓際の席へ案内された。
 「がっかりされなくて良かった」
 席につくなり、私は安堵の声を出した。
 「歌が好きなんで、顔はどうでもっていったら可笑しいけど、どっちでも良かったんです。でもカッコよくて嬉しい」と有難い言葉を頂いた。
 メニューを開き、ふたりで、これも美味しそう、それも美味しそうと楽しく会話をしながら注文を決めた。
 私はお酒が飲めないが、飲んでくれていいと言った。
 けれども、あなたは私に合わせてアイスティーにすると言った。
 あなたが店員さんを目で呼んだ。
 その目が色っぽかった。
 注文をして、店員さんが去った後、「この前のK県のライブ、すごい良かったです。アンコールで泣いちゃった」とあなたは褒めてくれた。
 「あの日は特に調子よかったかも。最近は高い声のアーティストが多いけど、俺みたいに低い声も平気ですか?」と尋ねると、「それがいいの!」とあなたは即答だった。
 「なんの曲が好き?」と私が訊くと、「Yさんが原曲のSが好き。昭和歌謡すきなんです」と返ってきた。
 「ライブのとき、いつも一曲目にやってる」と私。
 「これからもそこは変えないで欲しい」とあなた。
 「変えるつもりないよ」と私は微笑んだ。
 食事が届けられた。
 「ナイフとフォーク下手でごめんね」と私は言ったそばから後悔した。
 「違う店のほうが良かったかな。こちらこそごめんなさい」と思った通りの言葉が返ってきた。
 「いや、俺、店ぜんぜん知らないから助かりましたよ。パスタ美味しい!」と私はおどけて見せた。
 「このお魚も美味しい!」とあなたが笑顔を見せてくれたので、私は安心した。
 「いつもXで小説のことつぶやいてますよね?」とあなたが言った。
 「まぁ、読んだ本が面白かったとしか書いてないけどね」と私は返した。
 「私、ふかしさんのつぶやき見て本を読み始めたんです」とあなたはバッグから文庫本を取り出した。
 私が呟いたことのある小説だったので、「オチ教えてあげようか?」と冗談を言った。
 「やめてくださいよ~」と言ったあなたは可愛らしかった。
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