異談廻-イダンメグリ-

萎びた家猫

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其ノ壱 掲示板

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私は自分の住むこの町の怪奇現象をまとめ小説にしている無名のホラー作家兼ルポライターの秋野敏夫。
普段は短期のバイトなどで生活資金を確保しながらホラー小説用の取材をしている。

今日は前々から募集していた異常な体験談を取材させてくれる方が見つかったので、いつも通り知り合いの喫茶店で角のテーブル席を借り取材をしていた。

「ハルセさんお忙しい中お越し下さりありがとう御座います。早速で申し訳ないのですが今回の募集内容の確認をさせていただきますね。」

「はい」

「今回は10年ほど前にあった不気味な掲示板の話をお聞かせいただけるということでしたが間違いないでしょうか?」

「えっと…募集の欄には掲示板と書いたんですが、実は少し違うというか…」

「違う…ですか?」

「はい…掲示板というよりも掲示板中にある貼り紙に関してなんです。」

「張り紙ですか。了解しました。こちらメモを取りますがよろしいですか?」

「あ、はい大丈夫です」

「有難う御座います。では体験の内容をお願い致します」


------

あれは10年ほど前まだ私が学生だった頃の話です。

当時通っている学校の通学路には私達の地域で有名な不気味な掲示板があったんです。

何故有名かと言うと、その掲示板には自分の親が小さい頃からある変な貼り紙があったからなんです。

その貼り紙の内容は、

これをみたらこちらまで→という文字と不気味な顔のイラストも書かれている張り紙でした。

でもこの貼紙ここに連絡しろって書かれてる割には電話番号も住所も書いてないし、不気味だってことで掲示板を管理している自治体になんども撤去されてたらしいんです。

それなのに次の日にはまた同じ貼紙が貼られてて自治体の人もいつしか放置するようになったらしいんです。

そういった経緯もあって地元では有名でした。

私もこの看板のことは知ってましたが当時の学校のに通うまでは見たことがなかったんです。

そこではよく不審者が出るからと親や先生に注意されてて子供の頃登下校のときに遠回りさせられてましたから。

それも私が大きくなって掲示板が近くにある学校…高校のことです。 その高校に入学し明るい時間帯はその通学路を通るようになりました。 

ある日の朝登校中にふと例の掲示板に目が止まり噂のことを思い出しました。

今まで忘れてたけどこの掲示板有名なやつじゃん! てきな感じで。

それで掲示板を見てみると噂通り張り紙はあったんですが、だいぶ放置されているので日焼けしてもう殆ど見えなくなってたんです。

辛うじてイラストの部分と→はあったんですがほかはうっすら見えるだけ殆どに消えちゃってました。

それを見たときは、確かに不気味だけど皆が噂するほどではないなって思ってそのまま学校に向いました。 掲示板を見た当初は確かに不気味だと思ってましたが、高校の行事とか学業で忙しくなり始めると掲示板のことはすぐに忘れてしまいました。


それからしばらくして学校の行事で居残りをしたせいで帰りが遅くなったことがあったんです。 

 ああ、友達もいないし1人であの道通るのはちょっと怖いなと思いつつ、早く帰りたかったのでその道を通りました。 高校に入学してから不審者が出たなんて話も聞きませんでしたので。

…けど帰り道に合っちゃったんです。

不審者と。

しかもその容姿が何かに似て不気味だと当時の自分は思いました。でもそんな事を考えてる余裕もなくて、嫌だな~と思いながらもここまで来ていきなり私が引き返すのも相手を刺激しそうで怖いし…私は大人しく横を通り過ぎようとしました。

その不審者は不気味でしたがちょっとした好奇心が出てしまい通り過ぎる際に目だけ不審者の方を見ました。

…不審者はジッと私を見つめていました。

心臓が高鳴りワタシは自分の家に向かって走り始めました。もうあの女性のことなど気にも留めずただひたすら家を目指して気がつくと家の前に到着。


翌日知り合いに帰り道の事を相談したら、掲示板のことを言われその女性がイラストに似ていると気がつきました。

学校の帰りに知り合いと確認しに行くと貼り紙が少し変わっていました。 相変わらず日焼けして青くなっているが『→』の隣に電話番号が新しく書かれていたんです。

気になった知り合いは電話を掛けようと提案してきましたがワタシは当然それは拒否しました。

普通に不気味ですしね。

でも知り合いはワタシの携帯を奪って勝手にかけ始めたんです。もちろん止めようとしましたがすでに電話が発信されてしまい知り合いに苦言を訂しました。

しかし知り合いは悪びれる様子もなくワタシに電話を返してきて、「聞いてみな?」といってきました。

ワタシは少し苛つきを覚えながらも仕方なく携帯電話を耳に当てると、携帯電話の電話口からは電話番号は現在使われておりませと聞こえてきました。

結局ただのイタズラだった思いそのまま携帯電話を切ると、いきなりいま掛けた電話番号から着信がきました。

現在使われていない電話番号から折返しの電話なんて来るのだろうかと思いつつも、恐る恐る出ると外で携帯を使うと聞こえる雑音だけしか聞こえない。

この間の不審者か訪ねたましたからが、電話口から返ってくるのは私の声、それも同じ質問が聞こえてくる。

一瞬寒気がしましたが知り合いも「やってみる!」とまたワタシの携帯を奪い試すと今度は知り合いの声で返ってきた。

そこで知り合いがこれは電話の回線確認用のやつを真似てるだけのイタズラだと話し始めました。

たしかにそういう電話があることは知っている。 それに過去にも似た都市伝説が流行って宇宙のパワーだか何だかのふざけたものがあった。

結局あの女性がこの張り紙のイラストに似ていると感じたのは暗かったからだと結論づけて携帯を切りその日はそのまま帰宅した。

深夜今日かけた電話番号から着信がきました。

意を決してその電話に出るとやはり雑音だけ。

結局なにもないかと思って電話を切ろうとしたら私の声で…

「ここに来て…」と住所を伝え始めた。

慌てて電話を耳に当て昨日の不審者か訪ねたが電話越しの私の声はまるで壊れたビデオテープのようにずうっと同じことを喋っている。

しょうがないので住所だけ適当な紙に書いて
「もう切るね。ごめんね」といい電話を切った。結局最後まで同じことを繰り返していた。

後日知り合いと会い来てと言われた住所に尋ねることにした。

自治体で管理してる掲示板に関係するものだから当たり前といえばそうだけど意外と近場の住所だったのでワタシと二人で自転車で向かうことにした

最初は都市伝説っぽくお寺とか廃墟の住所かと知り合いは予想していたが普通の民家だった

最初間違ったのではないかと知り合いに問われたが間違いない。廃墟ってほどでもないし至って普通の一戸建ての民家

インターホンを押さないワタシにしびれを切らしたのか、知り合いはインターホンを鳴らすと女性の声で「はーい」と返事がして玄関から女性が出てきた。

「どちら様ですか?」

出てきた女性からそう聞かれたので昨日掛かってきた電話のことと掲示板の事を話した。

「多分何かの間違いじゃないですかね」

女性は不審がってこちらを見ている
知り合いやっぱりただのイタズラだったとがっかりし相手も何だかそれを察したのか、特に通報されるとかはなく軽い注意だけで終わった

結局あの電話や女性などについては分からずじまいで各自の自宅まで帰るときふと掲示板に誰かがいるのが見えた

服装からして多分自治体の人だと思う

近づいて話しかけてみる

「すみません!」

「はいなんですか?」

「ここに掲示されてる不気味な紙って何なんですか?」

そうワタシが尋ねると自治体の人は

「ああコレ? 多分ただのイタズラじゃないかな。」

そう言って自治体の人は紙を剥がしてそのまま丸めゴミ袋に詰めてしまった。

ワタシはそれを見て安心しました。
何故かって?結局ただのイタズラでしたから。

それからしばらく経ったある日、朝のニュースである一家の惨殺事件が報道されてた。

なんでかわからないけどこのニュースがすごく気になってしばらく見ていると先日知り合いと行ったあの民家だった。

そのニュースを見てすぐ知り合いに電話した。 知り合いもこのニュースを見ておりワタシに電話しようとしてたらしい

この日の帰り知り合いと二人でこの民家に行くことになった

民家にはまだパトカーや規制テープが貼ってあり間違いなくここでなにかがあったということが伝わってくる。


知り合いはワタシの肩を抱いて「私達は悪くない。だってただイタズラでここに来ちゃっただけじゃん」そう言ってはいるものの知り合いの手は酷く冷たく震えていた

それからはワタシ達の所へ警察が来ることもありませんでしたし、恐かったのであの女性と会った帰り道に近寄らなくなりそれ以降全く不思議なことは起こっていません。

ただ少し変わったことがあるとすればあの掲示板自体が自治体により撤去されたと聞いたくらいです。


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「これがワタシが10年前に体験した不思議な出来事です」

ハルセさんの話を一言一句違わないよう普段使っているノートに書き留め感謝の言葉を述べる。

「ハルセさん貴重な体験お聞かせ頂きありがとう御座いました。幾つか気になったことがあるのですがよろしいでしょうか?」

「はい。ワタシが答えられることであれば」

「有難う御座います。ではまず最初に、当時一緒にいたご友人は今どうなされているのですか?」

「あの事件以降しばらくして学校に来なくなってしまったので今はどこで何をしているかわかりません、当日使っていた携帯も機種を変えるときに捨ててしまいましたし」

「そうですか。では最後に帰り道で会った女性は結局なんだったんでしょうか?」

「…わかりませんか?」

「…何がですか?」

「会いに来たんです。興味を持ったワタシに」

「誰がですか?」

「帰り道に合った女性がですよ」

「なるほど。その人とはその後、特に合うことは無かったのでしょうか?」

「もう会うことはないと思います。」

「それはなぜですか?」

「今は別の県に住んでいますし。それにあの掲示板も張り紙も撤去されてしまいましたから」

そう言うとハルセさんは立ち上がった

「忙しい中お時間を取っていただき有難う御座いました。」

そう言ってハルセさんが都会の人混みへと消えて行く姿を私は黙って見ていた。
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