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狩人と獣
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ロイは剣を抜くと一度目を閉じ先程のウィルが見せた、自らの気配を断ち一切の音を出さず動く光景を思い浮かべた。
(ロックボアを狩った時の先生はまるでその場から一瞬消えたと錯覚するほど自分の気配を周りに溶け込ましていた)
(でも…たったいま魔族を狩ろうとした時の先生はあの時ほど気配が薄れる感じはしなかった…何故完全に気配を消さなかった?)
ロイはウィルが行った気配を消す技術。その違いを探していた。
ロックボアを貪る魔族だが依然としてこちらには気がつく気配はない。
(ロックボアとの違いはなんだ…? 姿、体格…後は...)
魔族と魔物の相違点。そこにヒントが有ると踏んだロイは違いを探す。
(…嗅覚はどちらも優れている。力は…ロックボアを素手で倒せるくらいだ恐らくは魔物並みと考えて良い)
(恐らくは…感の鋭さも魔物並み…)
そこまで考えるとある点に疑問が湧く。
何故人間の死体を...それも一部だけをここまで運んだ?
(もしかして…あの魔族の俺と先生が見ていることに気がついてる? もしそうだとしたら先生が完全に気配を消さなかったのか?)
そこで道中で教わったことを思い出す。
『魔物は匂いでこちらの位置を探る。気配の察知はあくまで危機を察知する程度でしかない。警戒はするだろう…しかし逃げたり、ましてや急に襲ってきたりなどはしない。まず相手の動きを待つ』
(…あの魔族は俺たちが動くのを待っている)
(もしここで完全に気配を消していたら、相手が警戒心マックスで待ち構えたところに奇襲をする羽目になる。あえて気配を悟らせることで警戒を緩めようとしたのか…)
そこまで考えているとウィルから声がかかる。
「何をしている。考えてばかりでは事態は動かないぞ」
「…はい。今考えがまとまりました」
ロイは一度剣を鞘に戻す。と心を落ち着かせる。
(親父から教えてもらったことを思い出せ…決して焦るな。心を鎮めろ…)
ロイの気配が次第に薄れ始める。そして数瞬の間にウィルから見ても十分なだけの効果が現れ始める。
(…まるで幻影だな。初めてではないということか)
その姿にウィルは素直に感心する。そして感心している間にとうとうロイは行動に移る。草木や岩陰を利用しながら徐々に距離を詰める。
(まずは死角を利用しながら有利な位置へ…)
ロイはこちらの位置を悟らせないよう細心の注意を怠らない。それと同時に自分の存在を完全に消さぬよう努める。
気配を消しながら己の存在を相手に悟らせる。一見矛盾しているその難行をロイは見事成し遂げていた。
しかし未だに魔族は動かず。ただ黙々とロックボアを貪る。まるでこちらに気がついていないと言うように。
(気づけるかロイ…あいつが何をしようとしているのかを…)
その光景をただ静観するウィルは魔族が何をしようとしているのかを看破していた。
(クソ…なんで何も反応しない?)
(もしかして本当に気がついていない…?)
思惑が当たらずロイは困惑する。それと同時に違和感もいっそう増す。
(なんだこの違和感。気が付かず一心不乱に食べている様に見える…でも何かを気にしてるのは確かだ)
(何を気にしている?気配…匂い…何かちがうような…)
風が吹き、周囲の草木がこすれる音がする。
(まだこちらが風下か…)
そう思った矢先に魔族が突然動き始める。
(なっ!?)
魔族は完全にこちらを捕捉している。
(なんで位置がバレた!?)
「ガァルルアア!!」
大きく口を開けコチラに迫りくる魔族。ここで距離を詰めたことが裏目となってしまった。より確実に仕留めるため近くへと寄ったことで魔族もコチラにすぐ攻撃をできる距離へとロイは侵入してしまった。
(後ろからでは気が付かなかったが獣人種か!!)
獣人種…それは獣と人間が合わさった姿をしている魔族である。種類は多種多様でほぼ獣の姿をする者もいれば、逆にほぼ人間と変わらない見た目の者も存在する。これは獣人種のとある特性が原因で歳が高いほど人からかけ離れた姿になる為だ。
つまり若い獣人種は人間に近い見た目をしており、高齢の獣人種は獣に近い見た目をしている。
そして今回2人が遭遇したのは前者の若い個体。しかしいくら若い個体とはいえ魔族は魔族。頭部から生える大きな耳、口に備えた肉食獣のような牙、隆起する筋肉、そのどれもが人間とはかけ離れている。
魔族の特徴を観察する中であることが頭の中で同時に思い浮かぶ。
それはウィルがはじめに動こうとした時、一切の音を立てずに移動しようとしたこと。
そして自らの周辺にある草木が自分の衣服とこすれる音。
ウィルは気配を完全に消さなかった理由はすでに気づかれている気配を隠すことよりも、自らの位置情報を隠すため音を断つことに注力していたからであった。
(そうか!!こいつ…あの大きな耳で音を聞いていたのか!?)
獣は種類によっては人間よりもより幅広い音を聞き分けることが出来る。それこそ人では気づかないような微細な音を拾うことさえある。
この魔族は音をなるべく立てないよう警戒しながら肉を喰らっていた。いつ獲物の音が聞こえても聞き逃さないように。
「クソ!! バレたなら仕方ない…!!」
ロイは剣を抜き魔族に向ける。しかし魔族は一切の躊躇なくコチラに向かってくる。
そいてついにロイの剣の間合いへと入った。その瞬間ロイは渾身の一撃を魔族へとお見舞いする。
しかし…
「グッ...重ッ!?」
剣が魔族の腕に弾かれそれと同時にの腕も上に大きく弾かれる。それの隙を逃すわけもなく、魔族はその巨腕をロイの胴体めがけ拳を振るう。
「おわっ!?」
その攻撃を間一髪で回避するも今度は体のバランスを崩したのか尻餅をつく。
「グルルアア!!」
魔族はロックボアを喰らったその大きな口でロイを噛み殺そうとする。
「かかったな!!」
そう言いながらロイは手に握った何かを魔族の顔面めがけて投げる。それは魔族の顔面に命中すると、大量の粉が飛散した。
「ガアアァァ!?」
「はは!!臭いだろそれ!!」
ロイは魔族が怯んでいる隙に立ち上がり、未だに怯んでいる魔族へと剣を振るった。
剣があたった箇所から血が吹き出だした。そして斬られた魔族もその痛みに悶えるような仕草をする。
体制を立て直すために一度離れる。
「腕は弾かれたけど体は大丈夫みたいだ…」
ロイは相手の負傷箇所を確認し次同行動すべきかを考えていると、魔族が意識を戻したのかこちらを見て吠える。
「ガァルルア!!」
しかし魔族は先程の様に突っ込んでは来なかった。ただの獣とは違い魔族は人間に近い肉体構造をしているため、ある程度の思考能力と学習能力を持っている。
「こっちから攻めてくるまで待つ気か?」
一瞬ロイはウィルの方を見る。しかしウィルはただ静観しているだけでなにかする気配はない。
(先生の加勢は期待できないな…あぁクソ!!そもそも俺が先生に一人でやるって言ったんじゃんか!!)
(ここで助けを求めたらそれこそ弟子を辞めさせられる。ならどうするべきか…)
ロイは次の行動に考えを巡らせる。
だがそうして意識が魔族から離れた瞬間、体に鈍い衝撃を襲った。
「かはっ…!?」
まだ未成熟で小柄な身体とはいえ、50キロ以上あるロイの身体が宙を舞う。
とっさに受け身を取ろうとしたが体が動かず、岩場に激突する。
いってぇ… そういう言おうにもハイの空気が完全に吐き出され横隔膜もせり上がった状態のロイは喋ることすらできない。
混濁する意識の中ロイはなんとか立ち上がり魔族を見る。
(なんだよあれ…)
魔族を見た目ロイが驚くのも無理はない。恐らくロイの血が付いたであろう額は赤く濡れ…そして…
(まるでロックボアの外殻のようなモノが額に…)
獣人種は高齢な個体ほど人間とかけ離れた姿をしている。それは…
喰らった存在の身体機能を一部引き継ぐことが出来るためである。何が引き継がれるかは本人たちにもわからない。
だが何の問題もなかった。彼らは多くの生物を喰らい多種多様な能力を得る。たとえしょうもない能力が引き継がれようと長く生き生物を喰らえばそれだけ能力を得られる。
そしてロイの目の前にいる魔族はロックボアの特徴である岩のような硬い外殻。それが額を覆っていた。
(あれで俺を吹っ飛ばしたのか…いや当てた部分があの外殻というだけで、吹っ飛ばした膂力自体はあの魔族が持ってる力かな…)
ロイも次第に体力が回復しはじめ息も正常に戻り始める。
「どうするか…」
ファーストコンタクトでお互いに一撃ずつ加えた結果。戦局は魔族優勢で終わった。
(ロックボアを狩った時の先生はまるでその場から一瞬消えたと錯覚するほど自分の気配を周りに溶け込ましていた)
(でも…たったいま魔族を狩ろうとした時の先生はあの時ほど気配が薄れる感じはしなかった…何故完全に気配を消さなかった?)
ロイはウィルが行った気配を消す技術。その違いを探していた。
ロックボアを貪る魔族だが依然としてこちらには気がつく気配はない。
(ロックボアとの違いはなんだ…? 姿、体格…後は...)
魔族と魔物の相違点。そこにヒントが有ると踏んだロイは違いを探す。
(…嗅覚はどちらも優れている。力は…ロックボアを素手で倒せるくらいだ恐らくは魔物並みと考えて良い)
(恐らくは…感の鋭さも魔物並み…)
そこまで考えるとある点に疑問が湧く。
何故人間の死体を...それも一部だけをここまで運んだ?
(もしかして…あの魔族の俺と先生が見ていることに気がついてる? もしそうだとしたら先生が完全に気配を消さなかったのか?)
そこで道中で教わったことを思い出す。
『魔物は匂いでこちらの位置を探る。気配の察知はあくまで危機を察知する程度でしかない。警戒はするだろう…しかし逃げたり、ましてや急に襲ってきたりなどはしない。まず相手の動きを待つ』
(…あの魔族は俺たちが動くのを待っている)
(もしここで完全に気配を消していたら、相手が警戒心マックスで待ち構えたところに奇襲をする羽目になる。あえて気配を悟らせることで警戒を緩めようとしたのか…)
そこまで考えているとウィルから声がかかる。
「何をしている。考えてばかりでは事態は動かないぞ」
「…はい。今考えがまとまりました」
ロイは一度剣を鞘に戻す。と心を落ち着かせる。
(親父から教えてもらったことを思い出せ…決して焦るな。心を鎮めろ…)
ロイの気配が次第に薄れ始める。そして数瞬の間にウィルから見ても十分なだけの効果が現れ始める。
(…まるで幻影だな。初めてではないということか)
その姿にウィルは素直に感心する。そして感心している間にとうとうロイは行動に移る。草木や岩陰を利用しながら徐々に距離を詰める。
(まずは死角を利用しながら有利な位置へ…)
ロイはこちらの位置を悟らせないよう細心の注意を怠らない。それと同時に自分の存在を完全に消さぬよう努める。
気配を消しながら己の存在を相手に悟らせる。一見矛盾しているその難行をロイは見事成し遂げていた。
しかし未だに魔族は動かず。ただ黙々とロックボアを貪る。まるでこちらに気がついていないと言うように。
(気づけるかロイ…あいつが何をしようとしているのかを…)
その光景をただ静観するウィルは魔族が何をしようとしているのかを看破していた。
(クソ…なんで何も反応しない?)
(もしかして本当に気がついていない…?)
思惑が当たらずロイは困惑する。それと同時に違和感もいっそう増す。
(なんだこの違和感。気が付かず一心不乱に食べている様に見える…でも何かを気にしてるのは確かだ)
(何を気にしている?気配…匂い…何かちがうような…)
風が吹き、周囲の草木がこすれる音がする。
(まだこちらが風下か…)
そう思った矢先に魔族が突然動き始める。
(なっ!?)
魔族は完全にこちらを捕捉している。
(なんで位置がバレた!?)
「ガァルルアア!!」
大きく口を開けコチラに迫りくる魔族。ここで距離を詰めたことが裏目となってしまった。より確実に仕留めるため近くへと寄ったことで魔族もコチラにすぐ攻撃をできる距離へとロイは侵入してしまった。
(後ろからでは気が付かなかったが獣人種か!!)
獣人種…それは獣と人間が合わさった姿をしている魔族である。種類は多種多様でほぼ獣の姿をする者もいれば、逆にほぼ人間と変わらない見た目の者も存在する。これは獣人種のとある特性が原因で歳が高いほど人からかけ離れた姿になる為だ。
つまり若い獣人種は人間に近い見た目をしており、高齢の獣人種は獣に近い見た目をしている。
そして今回2人が遭遇したのは前者の若い個体。しかしいくら若い個体とはいえ魔族は魔族。頭部から生える大きな耳、口に備えた肉食獣のような牙、隆起する筋肉、そのどれもが人間とはかけ離れている。
魔族の特徴を観察する中であることが頭の中で同時に思い浮かぶ。
それはウィルがはじめに動こうとした時、一切の音を立てずに移動しようとしたこと。
そして自らの周辺にある草木が自分の衣服とこすれる音。
ウィルは気配を完全に消さなかった理由はすでに気づかれている気配を隠すことよりも、自らの位置情報を隠すため音を断つことに注力していたからであった。
(そうか!!こいつ…あの大きな耳で音を聞いていたのか!?)
獣は種類によっては人間よりもより幅広い音を聞き分けることが出来る。それこそ人では気づかないような微細な音を拾うことさえある。
この魔族は音をなるべく立てないよう警戒しながら肉を喰らっていた。いつ獲物の音が聞こえても聞き逃さないように。
「クソ!! バレたなら仕方ない…!!」
ロイは剣を抜き魔族に向ける。しかし魔族は一切の躊躇なくコチラに向かってくる。
そいてついにロイの剣の間合いへと入った。その瞬間ロイは渾身の一撃を魔族へとお見舞いする。
しかし…
「グッ...重ッ!?」
剣が魔族の腕に弾かれそれと同時にの腕も上に大きく弾かれる。それの隙を逃すわけもなく、魔族はその巨腕をロイの胴体めがけ拳を振るう。
「おわっ!?」
その攻撃を間一髪で回避するも今度は体のバランスを崩したのか尻餅をつく。
「グルルアア!!」
魔族はロックボアを喰らったその大きな口でロイを噛み殺そうとする。
「かかったな!!」
そう言いながらロイは手に握った何かを魔族の顔面めがけて投げる。それは魔族の顔面に命中すると、大量の粉が飛散した。
「ガアアァァ!?」
「はは!!臭いだろそれ!!」
ロイは魔族が怯んでいる隙に立ち上がり、未だに怯んでいる魔族へと剣を振るった。
剣があたった箇所から血が吹き出だした。そして斬られた魔族もその痛みに悶えるような仕草をする。
体制を立て直すために一度離れる。
「腕は弾かれたけど体は大丈夫みたいだ…」
ロイは相手の負傷箇所を確認し次同行動すべきかを考えていると、魔族が意識を戻したのかこちらを見て吠える。
「ガァルルア!!」
しかし魔族は先程の様に突っ込んでは来なかった。ただの獣とは違い魔族は人間に近い肉体構造をしているため、ある程度の思考能力と学習能力を持っている。
「こっちから攻めてくるまで待つ気か?」
一瞬ロイはウィルの方を見る。しかしウィルはただ静観しているだけでなにかする気配はない。
(先生の加勢は期待できないな…あぁクソ!!そもそも俺が先生に一人でやるって言ったんじゃんか!!)
(ここで助けを求めたらそれこそ弟子を辞めさせられる。ならどうするべきか…)
ロイは次の行動に考えを巡らせる。
だがそうして意識が魔族から離れた瞬間、体に鈍い衝撃を襲った。
「かはっ…!?」
まだ未成熟で小柄な身体とはいえ、50キロ以上あるロイの身体が宙を舞う。
とっさに受け身を取ろうとしたが体が動かず、岩場に激突する。
いってぇ… そういう言おうにもハイの空気が完全に吐き出され横隔膜もせり上がった状態のロイは喋ることすらできない。
混濁する意識の中ロイはなんとか立ち上がり魔族を見る。
(なんだよあれ…)
魔族を見た目ロイが驚くのも無理はない。恐らくロイの血が付いたであろう額は赤く濡れ…そして…
(まるでロックボアの外殻のようなモノが額に…)
獣人種は高齢な個体ほど人間とかけ離れた姿をしている。それは…
喰らった存在の身体機能を一部引き継ぐことが出来るためである。何が引き継がれるかは本人たちにもわからない。
だが何の問題もなかった。彼らは多くの生物を喰らい多種多様な能力を得る。たとえしょうもない能力が引き継がれようと長く生き生物を喰らえばそれだけ能力を得られる。
そしてロイの目の前にいる魔族はロックボアの特徴である岩のような硬い外殻。それが額を覆っていた。
(あれで俺を吹っ飛ばしたのか…いや当てた部分があの外殻というだけで、吹っ飛ばした膂力自体はあの魔族が持ってる力かな…)
ロイも次第に体力が回復しはじめ息も正常に戻り始める。
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