そんなの女の子の言うことじゃないですよ ― ギャル系女子と出くわした無気力系男子 ―

たゆたん

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第8話(後篇):眠たいときに

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■第8話(後篇):眠たいときに





――下校








幸尋ゆきひろはしばらくあの「たまご焼き」に
当てられて、呆然ぼうぜんとしながら帰った。



彼は古びた団地の階段をゆっくり上っていると、
「たまご焼き」にふつふつと怒りがいてきた。




(ったく・・・アイツ、ホントに良家のお嬢様なのか?)



彼には委員長が完全無欠の女の子だと思っていた。
それがあの「たまご焼き」の出来である。

これまでの彼女のイメージとは、あまりにミスマッチだった。





(あぁもう・・・女の子って何なんだよ・・・)





ガチャ・・・



答えの出ない疑問を思いながら、ドアを開けた。




「ユッキ~、今晩のメニュー何、何~?」


アカネが無邪気に走り寄って来た。

あのたまご焼きを知らないとは幸せな女である。
この無邪気さもあれを知ったら吹き飛ぶだろう。




「・・・チキンライスだよ・・・」




最近は学校でダメージを喰っても、
下校中に夕ごはんのことぐらい考えておく余裕はある。





「いぇーぃ!」




(・・・やれやれ・・・)






――夕ごはん時







冷ごはんが多く残っていたのが決め手になった。



鶏モモ肉をひと口サイズに切る。
今回は食べ応えあるようにした。


玉ねぎをしっかりきざんでおく。

無論、あの“C”の字になって刻む。
やっぱり目にみる。

んで、やっぱりアカネが笑う。



フライパンに油を垂らして加熱する。


玉ねぎをよく炒め、くたくたになってきたら、
それにミックスベジタブルを加えてさらに炒める。


粉末のブイヨンとケチャップを入れ、
基本的な味付けをする。



(・・・ふふっ、オレ天才だろ?)


ここで、カレーパウダーを振り掛ける。
最近、思いついた隠し味で、ちょっと得意である。



しばらく炒めて、水分を少し飛ばしてから、
冷ごはんをどっさり加える。



・・・ぐっぐっぐっ・・・



木べらで冷ごはんを押しつぶすように混ぜる。
ごはん粒がダマになると見栄みばえが悪い。





・・・じゅじゅ~っ



フライパンを器用に大きく振って、
豪快ごうかいに混ぜるようなことはしない。


何度かチャレンジしてみたところ、
ポロポロ周囲にこぼれるので止めた。




(よし、もうこのへんでいいだろう・・・)



皿に盛り付ける。


ここで最後にドライパセリを
ぱらぱら振り掛ける。




・・・出来上がり








「おおっ、チキンライスぅ!」


テーブルに皿を置くと、もわもわ湯気が上がる。
アカネが身を乗り出して匂いを吸い込む。




「んーやっぱオムライスって難しいわけ?」




「たまごは嫌だぁ!!」




幸尋は絶叫してしまった。
もうトラウマである。




「どうしたんだよ?そんなにたまご嫌いだっけ?」



ただならぬ様子にアカネは驚いた。

幸尋があのたまご焼きを克服こくふくするには、
まだまだ時間が必要だった・・・。




「・・・と、とにかく・・・しばらくたまごは食べたくない・・・」



「変なの・・・」



そう言いながら、アカネはチキンライスしか見ていない。




「・・・それよりも、アカネ?
どうしてそんなにタバスコかけるかなぁ・・・」




「ケチャップ系のやつには合うんだよ」



「ホント、アカネの味覚って謎だよね・・・」



「うるせぇ」



ここまで極端だと、かえって見守りたくなってくる。
彼女のチキンライスのてっぺんはもうベタベタである。



・・・もぐもぐ・・・



ケチャップはよく炒めることで、トマトの香りが豊かになる。
玉ねぎがやさしいほのかな甘味となって、トマトの酸味と一体化している。


多めに入れたミックスベジタブルは彩りが良くなるだけではなく、
ひと口ごとに、人参、コーン、グリーンピースの個性が光る。



そして、大きめの鶏肉。


あまり火を通し過ぎないよう心掛けていたため、
むとじゅわっと肉汁があふれてくる。



「ふむふむ・・・」



「んもんも・・・」



ふたりともスプーンが止まらない。
ひと口含むたびにチキンライスを堪能たんのうした。




「ふぅ、ごちそうさまぁ・・・」



「うーん、ごちそうさま」


ふたりとも、おなかがいっぱいになって満足である。




「・・・んねぇ、いっかい料理作ってよ」



「はぁ?ヤダ。」



アカネは何だかんだ言いながらも、食器の洗い物をするという
成長を見せている。うまくおだてれば、料理もするかもしれない。




「ていうか、洗濯!夜のうちに干すんだろ!?」



「くっ!」



幸尋はほこを収めるしかなかった。

とぼとぼバスルームに行って、洗濯機から衣類を取り出す。
最近は手慣れたものになっている。



お風呂の順番は、幸尋→アカネになっているが、これには理由があった。
アカネは自分が脱いだ衣服を彼に見られたくなかった。



にもかかわらず、ベランダに干すのは幸尋の仕事になっている。
彼女のそういう意識が彼にはよく分からない。



彼女の下着を干すのはさすがに恥ずかしかった。
それを手に取ること自体、とても罪悪感があった。


どこに洗濯ばさみを付ければいいのか。
あんまり生地を伸ばさないほうがいいのか。


試行錯誤しこうさくごを迫られたが、長く時間をかけると変に思われる。
顔を真っ赤にして、うやうやしく干していた。




それも最近は平然としている。


(・・・こんなのただの布だ・・・)


アカネは見た目ギャル系だが、ブラとパンツは派手なものに限らず、
かわいいものや、落ち着いたものまで何枚も揃っていた。


それに対して、幸尋はボクサータイプを2種類しかもっていなかった。



(あーよく分からん!)



幸尋の衣服とは対照的に、アカネのものは華やかな感じである。
衣服ひとつをとっても女の子のものはまるで違っていた。





「あっはっはっは!」



いそいそ洗濯物を干す後ろのほうで、
テレビを見ているアカネが笑っている。



無邪気な笑い声にイラッとしながら、
幸尋は黙々と洗濯物を干した。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






洗濯物を干し終わって、幸尋はそろそろ寝ることにした。

まだリビングでテレビを見ているアカネを横目に、
何も言わず自室に入っていった。



(あぁ~疲れた疲れた・・・)



ふとんに潜り込んで、やれやれと思った。
心地よい疲労感があった。


目を閉じてしばらくすると、
今日一日の光景が頭に浮かんできた。




(・・・委員長・・・今日は君が悪いんだからな・・・)




ふとんの中で非難していたが、
それと同時進行で、下半身は半脱ぎ状態であった。


寝る前にふとんの中で、もぞもぞとひとりエッチするのが定番だった。


彼女の印象的な一幕が甦る。


たまご焼きを自分で食べてみて、顔を赤くした。
実は、その顔が今日一日頭から放れなかった。



彼女を押し倒したら、あんな顔をするのかと思うと、
ぞわぞわ興奮してきた。




恥ずかしそうに、服を捲って胸を見せる委員長。


スカートをはらりと脱ぎ落として、上目遣うわめづかいする委員長。


ベッドの上でM字開脚して恥ずかしそうに目を閉じる委員長。




今日、思いがけない場面で見た彼女の表情に、
彼の妄想は豊かに展開した。





・・・ところが、いつしか脳裏に浮かぶ委員長の姿がアカネに変わる。



彼女がマジメな顔をして服を脱いでいく。


目を閉じて妄想しているのに、
彼女の姿だけはとても鮮明だった。



リビングで、キッチンで、抱きつく。


映るテレビ画面に身体を押し付けて、
後ろから激しく腰を打ち付ける。


激しい責めにいつもとは違う彼女がもだえる。



そうした光景が脳裏のうりで展開していった。


責めに悶える彼女に興奮がエスカレートしていった。






・・・びゅっ!・・・どぴゅぅびゅびゅっ・・・




彼女の顔にブチまけるのを想像して、
彼は絶頂を迎えた。






(・・・あぁっ、クソッ・・・)



丸めたティッシュに射精した直後、激しい後悔に襲われた。

半分お尻が出た状態で頭を抱えた。





(・・・最低だ・・・)





急に冷静に戻った彼はなかなか眠ることができなかった。








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



――翌朝





幸尋は朝が強い方だったが、
昨夜は寝つきが悪くて、今朝は眠たい。


頭がぼぉーっとしている感じだった。
いつものように朝ごはんの用意にかかった。



そうしているうちに、アカネが起きてきた。


髪の毛ボサボサで、しかめっ面。



彼は「寝起きの顔なんて見ないでぇ~」って
恥ずかしがる女の子が理想だった。


それも今や遠い過去になってしまった。
そんな理想をもっていた自分をせせら笑う。



(見たまえ、このアカネくんを・・・
理想などすぐ壊れるのだよ・・・)



ひとりで含み笑いをしていると、ガン見された。
朝のアカネは機嫌が悪い。



(・・・ヤバっ)



それをり払うように、朝食の準備を進めた。
朝食の用意といっても大したことはしない。


まずお湯を沸かす。


冷ごはんをふたり分レンジで温め、
この前焼いておいた塩鮭も温める。



それにインスタントのたまごスープ。
ようやく「たまご焼き」事件の記憶がうすまってきた。



冷蔵庫に残っていた高野豆腐の煮物もテーブルに出した。



彼女は先にテーブルについて、
目覚めにブラックコーヒーを飲む。




「食べようか?」



今ではすっかり定着してしまったふたりの朝食。
最近では、メニューにも文句が少なくなってきた。



「ブラックコーヒー飲みながら、一緒に食べて合うの?」


毎度のように彼女の味覚を問う。
とんでもない和と洋の取り合わせである。


「ん?・・・別に。合うぜ?」


目の前で高野豆腐をつまみら、
ブラックコーヒーをすすっている。
まるで酒飲みのオヤジのようだった。








「んなぁ、お前って、ひとりエッチのオカズ誰にしてんの?」





・・・ブフッ!!



食べていたごはんをき出してしまった。
会話の流れを無視したような、とんでもない質問だった。




「・・・い、いきなり何てことくんだよっ!
そ・・・そんなの女の子の言うことじゃないよ・・・」


テーブルに飛び散ったごはん粒をあわててひろい集める。




「教えろよぉ」


悪戯いたずらっぽい目をして、身を乗り出してくる。
幸尋はサッと顔をそむける。



「・・・い、嫌だ・・・・・・て、って言うか・・・
ひとりエッチとかしてないし・・・」


平静をよそおうつもりが、しどろもどろになってしまう。
そんなことを知ってどうしたいのだろう。



「へ~じゃぁ、コレは何~?」


汚そうにつまみ上げた、丸めたティッシュ。



・・・ドキッ!!


彼の視野がうわんうわんれる。
まるで決定的な証拠を突きつけられた犯人の心境だった。



「すっごい匂い・・・ぷんぷんしてるぜ?
精液いっぱい出しやがって・・・」



目の前で、そのティッシュをくんかくんかする。
そんなことをされて、顔が真っ赤になって落ち着かない。



自慰じい見咎みとがめられているのと同じだった。




(いつの間にそんなもの見つけたんだよぉっ!)



今まで、何も考えずに自慰した後のティッシュをゴミ箱に捨てていた。
朝だから自室のドアを開けっ放しにしていたのがやまれた。
おそらくアカネはすきを突いて、ゴミ箱をあさったに違いない。

気が動転する寸前だった。



「お前、あの委員長とかでヤってたら許さねぇからな!」


キッと目を険しくした。
語気鋭い言葉に幸尋は圧迫された。



・・・内心あおざめた。



(・・・・・・・・・)



これは何としても、はぐらかすほうがいいと感じた。
何せ、初対面でカマをかけてくるような女である。


動転しかかっている心に言い聞かせて、
うわんうわんと揺れるのを理性でおさめにかかる。




「・・・あ、あのさ・・・早くしないと遅れるよ?
 寝癖とか直すんでしょーが!」



思い切って話題を変えてみた。
最近、何とかちょっとは受け止めに余裕が出てきた。

そう言われて、彼女は壁掛け時計を見る。



「・・・チッ・・・」


ブラックコーヒーを飲み干して席を立った。



(・・・ふーっ・・・何とかかわしたぁ~)



後かたづけをして、家を出る頃、
彼は早くも疲れを感じていた。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・









学校に着いてからも、
幸尋は何だか調子が狂って変な感じだった。





(・・・はは・・・これで互いにひとりエッチしてるのがバレた・・・)


普段ではあり得ないことだった。
思春期の触れてほしくない秘密と言っていい。




「どうしたの?いつにもまして廃人みたいな顔になってるよ?」



「朝からずいぶんなディスり方だな、委員長さん・・・」



朝食での一件で早くも疲れてしまっていた。
午前中の授業を潰して居眠りしないと回復しそうになかった。


できればそっとしておいてほしい。



「委員長・・・もう今日はダメなんだよ
・・・昼まで寝させてよ・・・」



「何言ってるの?そんなの許さないから!」



(・・・ったく、どうやったらこんな
融通ゆうづうかない奴になるんだよ・・・)


頭だけ机に横たえた状態で、委員長に目を向ける。
半分死んだようなうらやましげな目で。


そんな彼を見下ろして、腕組みして溜息ためいきをつく。




「アカネちゃんにひとりエッチでも見つかったの?」



ぴょこんと、イスに座ったままで少しび上がった。




「・・・当たりなの?」


ニヤリとする委員長の顔が怖い。




(・・・ぬぅ・・・委員長・・・お前もか・・・)



今更ながら、会話の先が読めないことをうらめしく思った。


その読めなさはアカネばかりだと思っていたが、
委員長もそうだったことを思い出した。



とかく女の子の会話は先が読めない。



どうして女の子は知らないはずの
内緒事を洞察どうさつできるのか・・・。



自分で思ったり考えたりしていることが
れ出ているのではないかと心配になる。





それからは、委員長の一方的な話になった。


彼女には兄がいて、たまに自慰を目撃するのだという。
その思いがけない兄妹事情を明かされて、内心驚く。



(委員長のお兄さん、オープン過ぎるだろ・・・)



「良家」というイメージを勝手に抱いているが、
もうそろそろそれは捨てたほうがいいかもしれない。



「委員長はお兄さまに性教育をされたんだね・・・」


ニヤリとする。
わざとあおって、反撃に出てみた。



「最初はびっくりしたけど、そーゆーものよ。
 ユッキーはひとりっ子だから、見つかってへこんでるんでしょう」


・・・全く効果がなかった。
代わりに向けられる視線が冷たくなった。




「・・・あ・・・いや、それはもう乗り越えたんだよ・・・」



思わずビビッてしまった。
委員長の気分は青信号より変わりやすい。




(・・・おぁ・・・何というシチュエーションなんだ・・・
オカズにした相手とオカズの話をするなんて・・・)



委員長がマジメに解決策を話してくれているのに、
実情を知る彼はひとり興奮していた。



睡眠不足のときに限って、股間は意外に元気がある。
ムダな元気である。



(・・・今日もヤろうかなぁ・・・)


思わず顔がニヤニヤしてしまう。
我慢するのはよくない。



「ねぇ!聞いてるの!?」



「・・・えっ!ああ、聞いてる・・・」


平静を装って応えた。
ぼぉっとしていると、委員長の相手などできない。



「ねぇ、アカネちゃんと・・・キス・・・した?」


「えっ?!・・・いや・・・そんなことしてないよ
・・・てか、無理だよ・・・」


油断していたら、とんでもない質問が来た。
今日は朝から何という日だと思った。



(・・・グイグイ来るなぁ・・・)



「まぁ、ユッキーがキスするなんて絶対想像できないけどね」


明らかにバカにした色があった。

何でこうも訊きにくいことをぽんぽん訊いてくるのか。
「慎みというのが無いのか?」と思わずムッとする。



「女の子の言うことじゃないよ・・・」


やっぱり委員長だった。
どこかで彼をけなすことを忘れていない。













(つづく)
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