【完結】生きて還りし物語

ミスミ シン

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第一章

いっしょにかいもの

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 それからまた数日が経過したこの日、勇者は勇大の保育園をお休みさせました。
 すでに保育園へ行く準備をしていたエードラムも勇大もびっくりして、特に勇大は不満げな顔をしておりましたが、勇者が「今日は車でお出掛けをしよう」と言えば大喜びでお出掛け準備を始めました。
 車でお出掛け、というのは、勇大を疲れさせるための勇者の方便というやつです。
 普段からしてあまり勇大とべったり、というわけにはいかない勇者ですから、たまにこうして一緒にお出掛けするとなると勇大は大層嬉しそうにはしゃぎます。
 そうやって一緒にお出掛けをすれば疲れて夜にたっぷりと寝てくれるので、勇者も魔物退治へ外出しやすくなる、というわけです。
 
 車でお出掛けをするのは、外気に触れさせないため。
 行くのは家からはちょっと遠めの大型スーパーなんかが多いのですが、車だってきちんと結界を張っている特製です。
 なんとも過保護な事ですが、まぁ幼子のためですから仕方がありません。
 エードラムが来てからは初めてのことですので彼も不思議そうな顔をしていたものの、基本的に日常生活で勇者の言う事に逆らう事がない男ですので、無言で保育園バッグを定位置に戻します。
 この定位置というのは、勇者の決めた躾の一貫でした。
 
 あぁ、いえ、魔王の躾ではありません。
 勇大の、です。
 勇大は育て方がよろしかったのでしょうか、とっても聡明な子供なのです。
 普段だってエードラムがしなくっても自分の保育園準備はお手の物ですし、自分のハンカチやパンツくらいならば畳むことが出来るくらいにはいい子なのです。
 ここ数日にそれが出来ていなかったのは、ただ単にちょっとした我侭もちゃんと聞いてくれるエードラムに甘えてるから、という事でしょう。
 それにしても、また急なお休みである事です。
 闇の気配の襲来は予兆があるわけでもないので急なのはいつもの事ですが、エードラムへの説明をする前にお休みが入るとは思いませんでした。

「車で……って、どこに行くんだ」
「おっきいスーパー。君の生活用品、あんまり買ってなかったし」
「おじちゃんのものかうの?」
「そうだよ。勇大が選んであげて」
「お、おい……」
「やったー! ぼくえらぶ!」

 おぉ、おぉ、戸惑ってる戸惑ってる。
 さも当然のように自分の生活用品を購入してこようという勇者の行動が、まだエードラムには分からないのでしょう。
 日常生活を営むためには当然服や靴、下着なんかは必要ですし、食事をするための食器だって今は使いまわしていたりサイズが合っていなかったりするので専用のものも必要でしょう。
 そうなれば、買うしかないわけです。
 けれどエードラムにしてみれば、何故勇者がそれを揃えるのかと思っていることでしょう。こちらに向けられている助けを求めるような視線で分かります。
 魔王にしてみれば、施しを受けているような気分なのかもしれません。
 それとも、勇者にそんな厚意を受けることに戸惑っているのでしょうか。
 順応しているように見えてまだ人間世界における日常生活に慣れていないのか、人間としての感情に慣れていないのか。
 しかしそんな事に戸惑っていたらいつまでも人間の生活には慣れることが出来ないと思うのですが。
 
「ほら、早く準備して」
「わざわざ買いに行かなくても……」
「もう冬だよ。いつまでもTシャツとサンダルってわけにもいかないでしょ」
「しかしだな……」

 勇大に上着を着せつつ言う勇者に、魔王は自分の服装を見返して唸ります。
 確かに、エードラムがここに来てから彼はほとんど着替えというものをしておりません。
 流石に同じものを洗濯もなしに着せ続けているわけにもいきませんので今着ている服こそ勇者が近所のコンビニで追加で購入してきたり大学でスポーツをしている友人に貰い受けた物だったりしましたが、それ以外に着替えというものがあるわけではなかったのです。
 なんとも不衛生。
 汚いですな。
 もしかしたら勇者は、そんな風にいつも同じ服装なエードラムに何も言わない間にもちょっとばかり気になっていたのかもしれません。唐突に見えて実は、自分の大学の都合をあわせるために予定をつけていたのかも。
 まったく、無口ながらに色々と考えているお方であることです。
 かくして我々は、初の家族ドライブに出かける事になったのです。
 
 家族、なんて言ってしまうのも、あぁ何とも不愉快なことで御座いますが、車に乗り込んだ勇大は実に上機嫌でございました。
 チャイルドシートの上でご機嫌で足をパタパタとさせて、お隣に座る最近お気に入りのおじちゃんとのお出掛けが大層嬉しいようです。
 わたしはと言えば、普段勇者が大学に行くのに使っている黒く長いバッグに入れられて助手席に置かれています。
 元々はケンドーというスポーツで使うものを入れる袋らしいのですが、これを少し長く加工すれば私もすっぽり入ることが出来るのです。
 勇者と共にお出掛けする際にはわたしはいつもこのセンサーが出て外が見えるように加工された袋の中に入れられて勇者の背中に背負われます。 流石の勇者も、大学以外での外出にはわたしは手放しません。
 闇の魔物が日中出てくることはそうそうないとはいえ、完全に有り得ないわけでもないからです。
 
 ですがまぁ、今回行くのはただのスーパーです。
 何事もないとは思う……というよりも、無いでしょうけれども。
 このスーパーというのは、勇大を連れてよく行く大型のスーパーです。
 店員が子供を見てくれているプレイルームもあれば家電から服飾品から様々なものが揃う店舗ですので、勇者は買い物などの必要があればここに足を向けますし、勇大もお気に入りのスポットなのでしょう。
 魔王も最初は半信半疑のまま付いて来ておりましたが、一歩店に入ればその規模に驚愕して目をキラキラとさせているのですから、まったく、子供と同じようなものです。
 闇の魔物の一端として闇の世界に住んでいた彼ですから、こういった場所は新鮮で刺激的なのかもしれませんけれども。
 
「まずは服だね。大きいサイズは何処だろう、勇大?」
「さんかい!」
「よく出来ました」

 しかし勝手知ったる二人は案内図も見ずにサクサクと歩いていってしまいます。
 いきなりの巨大な外国人の出現にびっくりしている周囲の人々のことなんかはお構いなしなのですから、図太いというか何というか。
 魔王のクセしてエードラムの方がかえって恐縮してしまいつつエスカレーターで三階に上がると、果たして勇大が言った通りの紳士服売り場。
   しかも身体の大きな人用サイズのある売り場もしっかりありました。そんなものが存在していたなんて、標準体型の勇者しか知らぬわたしもびっくりです。
    
「……金なんか持ってねぇぞ」
「貰うつもりなんかないよ。いいから適当に選んで。着回せるくらい」
「どのくらいの量なんだ、そりゃあ」
「洗濯しても困らないくらい」
「だからどのくらいなんだっつーの」

 ぐだぐだと喋りつつも、エードラムは悩み悩み服をチョイスしていきます。シャツにボトムス、下着やその他の衣類でしょうか。勇者の背中からでは確認出来ませんが、勇大も実に楽しそうに選んでいるようです。
 と言っても人間の生活をよく知らない彼のことですから本当に適当すぎるくらいの選び方。雑オブ雑です。私の勇者の家に居るのですからもう少し考えて頂きたい。
 まったく、もう少し丁寧な生活を躾けなければならないようですね。
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