勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

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第35話 こ れ は い っ た い な に か な ?

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「義雄様~ 自分に運転させていただきたいのですが……」
「ダメだ、お前が運転するとまたエイブルが酔ってエライことになる!」
「そんな~」

 王都への帰路、街道をエイブルの様子を伺いながらキューベルを走らす。舗装された道ではないのでどうしても振動が抑えきれないが時速30km程度なら問題ないようだ。それでも乗馬などで駆け足の速度が時速20km位だからこの世界の乗り物としては世界一速いわけだ。なんせ休ませる必要がないしな。

「エイブル、203高地のゴーレムだけど弱点はないのか? ほら、Eの文字を消したら止まるとかさ」
「有名ですね。emeth(真理)の頭のeの字を削ると meth(死)になって活動停止するでしたか」
「そうそう! それ」
「いまどき弱点晒して戦うバカはいません」

 ガーン! マジですか?

「義雄様の元いた世界ほどではありませんが、こちらの世界も進歩しているのです」
「……ごもっともです。 じゃあどうやって倒すんだよう?」
「ゴーレムは魔導兵器です。ゴーレムコアと言われる核を破壊すれば停止するはずです」

 それってゴーレムコア以外をいくら破壊しても意味がないってことか……コアを一撃で破壊出来れば……やっぱり俺が拾った例の玉がそうなのだろうか。

「義雄様~ 考え事しながら運転するのは危ないですよ~ 自分が運転代わりましょうか?」
「考えなしにアクセル踏み込む貴方に運転させるより考え事しながら運転されている義雄様の方が百倍マシです」
「そんな~」

 ☆

「ただいまあ」
「おかえりなさい!」×メイド隊

 一週間ぶりの大霊廟。ああ、メイドさんに迎えられて、我が家が一番だよなあって思うくらいここにも馴染んだなあ。

「どうでした? 【名もなき山】は」

 ナカノが皆を代表して聞いてくる。他の娘も興味があるのだろう。俺たちの周りには自然と人だかりができる。

「そうだな、みんなにも聞いてもらおうか」
「ではさっそく手の空いている者も集めましょう。ヴィラールとペロサはお茶の準備を」
「了解~」×双子
「では、こちらに」
「うん。……んん?」

 こちらって、どちら?

 ☆

 大霊廟内会議室。というかこれ、食堂だよなぁ。確か出かける前までは、ここでみんな作業するもんだからそこら辺に座って弁当持ち込みで適当に食事していたはずなんだが……食堂?
 いつのまにか厨房がある。いつのまにか明るめの照明が付いている。いつのまにかメニューがテーブルの上に……!

「おい! 主人あるじを呼べい!!」
「義雄様ですね」

 ふつうに返すナカノ。ちがーう!! そうじゃなくて!

「責任者! ここの責任者、出て来いやあああああっ!」
「は~い」×双子

 厨房からヴィラールとペロサがとてとてと小走りに駆けてくる。俺は二人を半目で見ながらメニューをトントンと指先でつつく。

「こ れ は い っ た い な に か な ?」
「こ れ は き ょ う の 」とヴィラール。
「お す す め で す」とペロサ。

 ……へ?

「ちがーう!! この施設はなんだ? 先週、俺たちが出発するまで無かったよね? いつの間に、誰がどうしてこうなった? なにこれ? ウラシマ効果か? 俺たち光速移動でもしたか!?」

 ああ! とばかりに手をポンと叩く双子。

「義雄様がお留守のうちに」とヴィラール。
「ノボリトちゃんが」とペロサ。
「作りました」とナカノ。
「ふぇ? はひぃ!」

 ノボリトが急に自分の名前が出てきて慌てて立ち上がる。うん。そのリアクションは被害者サイドだな。じゃあ実行犯はこいつら3人か。

「あの、……ダメでしょうか?」

 不安そうに俺を様子をうかがうナカノ。見渡せばメイド全員が心配そうに事の成り行きを見守っている。

「いや、ダメじゃないよ。ただすごい変わりようにツッコミを入れずにはいられなかったんだよ」
「そうですか……すいません勝手に」
「いや、いいよいいよ。好きにしていいと言ったしね。ちょっと想像の斜め上だっただけな。うん」
「でも、説明はして下さいね。義雄様だけでなく私たちも驚いているのですから」
「はい」

 ここに至ってエイブルのフォローが入る。ホント間の取り方というか空気の読み方が絶妙だよなぁ。皆も素直に答えるし。
  
「あ、俺、カツカレーで」

 メニューを厨房に向かってひらひらと振るベイカー。

 ……お前もう帰っていいぞ。

 ☆

 大霊廟大食堂

 当初、【名もなき山】偵察報告だけのつもりだったのだが、留守番側でも色々あったため相互報告連絡相談会となってしまった。
 うん。報連相は組織運営ではとても大事だね。『これのできないやつは社会人としては二流だ』と、新入社員の頃、教育係の先輩に教わったっけ。その先輩は何の報告も連絡も相談も無く、突然会社を辞められましたが。

 まずは俺達の報告から始めよう
「まずは、【名もなき山】……名前付けちゃいました」
「……ええっ?」
「あれ、リアクション薄いなあ。もっと驚くと思ったんだけど……」
「まあ、義雄様ですから」
「なんか、ソルティアですからーーみたいでやだなぁ」
「ふふ」

 いつものノリにエイブルが微笑む。そういやあ、ちょっと前にそんな感じでやり取りしたなぁ。

「え~命名【203高地】です」
「うぇ~」

 意外なことに反応が帰ってきた。しかもドン引きの。声をあげたのはグリセンティだった。

「えっ? グリセンティは知ってるのか?」
「ええ、まあ義雄様の世界の歴史に興味があったので、大霊廟で……もう少しましな名前なかったのですか?」
「ほかに思いついたのが八甲田山とオーウェンスタンレー」
「どっちも全滅ネタですよね」
「いや、どっちも全滅はしてないかなぁ、つか詳しいな」
「楽しいですよ異世界戦記とか」

 なるほど、こっちの世界から見れば向こうの戦記はまさに異世界戦記。向こうでも異世界ものが流行ってたけど、不思議な気分だな。
 しかし、多少の暴走はあるが、大霊廟を彼女らに開放してからいろんなものが花開いている気がするぞ。善哉、善哉。

「まあ、あの山ーー203高地はやっぱりいわくつきの山ではあったよ。エイブル、詳細をみんなに話してくれ」
「はい。203高地はゴーレムの巣窟です。しかも普段は不活性状態で、侵入者のなんらかの信号を受けて活性化し侵入者を飽和攻撃し殲滅するようです。攻撃には法則性があり、活動開始は侵入者の反応が30分以上継続した場合、つまり、深部に踏み込んだ者を逃がさず消し去るのが目的でしょう」
「……」

 うっわ~ みんなドン引きしてるよ。あの山がマジもんのデンジャーゾーンてわかっちゃったもんなあ。

「それで、まだ攻略するんですか?」
「うん、あの山ーー203高地はファドリシアにとって脅威だ。排除、もしくは支配下に置くべきだよ」
「迂闊に手を出すのは危険です。大量のゴーレムを倒すには正攻法なら騎士団、いえ、大規模な軍の出動が必要です! 兵站の問題もありますし、犠牲も看過出来ません!」

 グリセンティが、至極真っ当な反論をしてきた。うん。これが出来る環境って良いなあ。

「グリセンティ……お前凄いなあ。だけど、攻略の手がかりがあるとすれば?」
「!!」

 この子はいい戦闘指揮官に、いずれは名将にもなりそうだなぁ。コレ見せたらどう反応するかなあ。なんかこの子たちの成長が楽しみです。

「まずコレを見てくれ。ノボリトどう思う?」

 俺は203高地で手に入れたゴーレムコアを取り出すとノボリトに手渡す。エイブルが言っていた専門家はおそらくこの子だろう。

「あとこれも、203高地で採集した土です」

 エイブルが小瓶に入れた土をノボリトに渡す。

「!」

 どうやらスイッチがはいったらしい。手渡されたゴーレムコアを俺が前に手渡した懐中電灯で照らす。どうやら刻み込まれた魔方陣を読み解いているようだ。しばらくすると、今度は203高地の土を手の上に乗せ、指ですり潰したりしている。

「コアの方な、急に赤くなって温度が上がったんだよね。そしたら周りでゴーレムが動き出したんだ」
「ん~、今のところ推論ですが、起動条件はエイブル様のおっしゃる通りでしょう。ゴーレムを構成したのはこの土です。おそらく 魔力を通す物質【マテリアル】かと。魔力供給は地面にあるマテリアルを通して送られて、エリア内では魔力供給が断たれない限り永遠に動きますよ」

「それを踏まえて、攻略は、ゴーレムの無力化は出来そうか?」
「はい!! 」

 ノボリトの自信に満ちた返事を受けてエイブルが動いた。

「だそうですよグリセンティ。あなたはノボリトと協力して作戦立案書を作りなさい。ナカノはこの子達のサポートと必要な人員を編成。他に必要な物は私が手配します」

 おお、なんかカッケ~なあ。
 人ごとのようにボケ~っと見ていると、やにわにエイブルの檄が飛んだ!

「では、これより203高地制圧作戦を発動します! 我らが義雄様の偉業を世界に刻みなさい!」
「yes my master!!」×全員
「では解散!!」
「待てい!! そっちの報告がまだでしょうが! この一週間でなにがあったんだよ?」
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