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第37話 マジカル フォームアップ!!
しおりを挟む大量のゴーレム……うーん。少しでも多く減らしたいです。ではライフルより機関銃でしょうか、拳銃弾使用の機関銃とか……
ノボリトは義雄からの依頼を考えながら歩いているうちに、いつのまにかエイブルの部屋の前に着いていた。そのまま辺りに人のいないのを確かめると、手早くノックをし、エイブルの部屋へと滑り込んだ。
「エイブル様」
「いらっしゃいノボリト。あなたが来たということはアレが完成したのですね」
「はいっ!」
ノボリトは手にした包みをエイブルに差し出す。エイブルは包みを受け取るとスッと目を細めた。
「明日、これのお披露目をしましょう。ファドリシアの、いえ、この世界の歴史に新たなページが刻まれるのです!」
☆
「なんだなんだ? 急にやって来て」
「うふふっ、義雄様に是非見ていただきたいのです!」
朝一に俺の部屋を訪れたエイブル。いつものエイブルと違い、かなり積極的に、なかば強引に俺の手を引くとそのまま王都の外れへと連れ出された。
「げっ!」
この方向は、練兵場だ……まさか、昨夜の件がバレたのか?
そう、俺は夜中にノボリトと練兵場に忍び込み、kar98kーー魔法弾仕様の試射で練兵場の塀に大穴を開けてしまったのだが、感の鋭いエイブルなら気付いているとしてもおかしくは無い。と言うことは、ぜひ見せたい=現場検証、つまり持って回ったような言い回しは俺を逃がさないための方便か!
「あの、エイブルさん? 怒ってます?」
「言っている意味がわかりませんよ義雄様。わたしはすこぶるご機嫌です!」
怖っ! 怖すぎる! 逆に機嫌がいいとか、闇が深過ぎないか?
さりげなく手を振りほどこうにも俺の手はガッチリと掴まれていて離される気配は微塵もない。そうして連れて行かれたのはやはり練兵場だ。見ればエイブルメイド隊が全員整列し、正面にはナカノとノボリトが立っている。
「え、エイブルさん一体何があるんでしょうか?」
「ふふ、秘密です!」
なんだろう、やな予感しかしないんですけど。
「今日、ファドリシアの歴史が変わるのです!」
ま、まさかの下克上!? いや、俺はそれほど偉くないよな。俺の罪を弾劾して皆の前で指揮権剥奪? 勇者称号剥奪? あ、【カレーの勇者】なら返上してもいいか、じゃなくて!
「さあ、皆の前に♪」
「ひぃぃ」
ノボリト! 何ヘラヘラしてるんだ! お前も共犯だろ? ま、まさか裏切ったのか! おのれノボリト!!
俺の凶相をどこ吹く風と無視するノボリト。ぐぬぬぅ。
「注目!」
ナカノの声に全員が一斉にこちらに向く。
エイブルが一歩前に進み出る。ここで初めてエイブルが何やら抱えていた事に気づいた。まさか、手にした包みは拷問道具か? ここで? まじ?
ようやく解放されたものの、この状況では逃げることも出来ない。立ち尽くす俺の前で、エイブルが包んでいた布を取り払うと、まるで何かの演出のように一陣の風に乗って布が空に舞う。
「な!? それは!!」
エイブル の手にあるのは過日、俺が棚の奥に隠したアレだった!【トイレの妖精ーマジカル花子さん変身ワンドDX】何故それがここにある?
「それでは、いきます!」
確かめるように振り返るエイブル。応えるように頷くナカノとノボリト。いったいなにが始まるんだ!?
「マジカル フォームアップ!!」
大きく叫ぶとともにワンドを天高くかざし、手元のスイッチを押すエイブル。
「へっ?」
同時にワンドの先端の王冠がクルクル回り、七色の光がエイブルを照らすや、ベタな人工音声がアナウンスを開始する。
『対象ノSTR上昇。対象ノVIT上昇。対象ノDEX上昇。対象のAGI上昇。以上ノステータスノ100%上昇完了シマシタ』
「ステータス上昇?身体強化呪文だと? 100%? 倍なの? なんじゃそりゃ!?」
「フッフッフッフッ、今のエイブル様はただのエイブル様ではございません!」とナカノ。
「伝説のアーティファクト、マジカルワンドにより変身完了したのです!」とノボリト。
え? いやいや、見た目全然変わってないんですけど。何言ってんだこの子らは?
すると、二人に応えるようにエイブルがコレまたイタイことを言い出した。
「そう……今の私は、魔法少女 マジカルエイブル!!」
「……」
くっ、止められなかったというのか……異世界初、厨二病患者の発症を!
無駄に上がったステータスを無駄に駆使し、自称マジカルエイブルはハッ!とジャンプするや、空中ムーンサルトを決めると見事な着地でキメポーズ!!
どんなポーズって、説明は断固拒否する! あえて言うなら、飲み会でやらかして、酔いが覚めたら出社するのが鬱になるとか、自分のかーちゃんがやったら、その場に正座させて説教。後は心の金庫に厳重封印のレベルだよ。まあ、エイブルさんの美少女補正でギリ……うん。アウトだよ。それをやっていいのは夏と冬の江東区有明三丁目だけだから!
「きゃあああああああああああああああああああああっ!!!」×メイド隊
沸き起こる黄色い歓声! おい! 何人かのメイド隊員が失神してるぞ!
ナカノを見ればその頰を滂沱の涙が流れているし、ノボリトはどこぞの博士みたいに腕を組んでウンウンと頷いている。
「さあ、マジカルエイブル様! その力を皆に見せるのです!」
コラ! なに焚きつけてんだノボリト!! え、まだ何かあるのか?
マジカルになりきったエイブルさんがワンドのスライドをずらすと王冠の上に赤い宝玉が飛び出した。それ回収したゴーレムコアだよな? なに無駄遣いしてるの?
「いきます!! マジカルゥーファイヤアァァァ!!」
「ま、待てっ!」
向けられた先には昨晩、俺が大穴を開けた壁。エイブルが手元の別のボタンを押すと、巨大な火球が生成され、そのまま壁に向かって一直線に突き進む!! だからデカイって!!
直後、着弾と同時に辺りが閃光に包まれ、熱気を帯びた爆風が俺たちに襲いかかる!!
「んキャアアァァァああああァァァ!?」
吹き飛ぶメイド隊員! 爆風に耐えきれずに自分まで吹っ飛ぶマジカルエイブル、ナカノ、ノボリト、そして俺。
土煙が収まった後、ようやっとフラフラと立ち上がるメイド隊員。俺もやっとの事で立ち上がり見れば、火球が着弾した場所にはあるはずの壁は跡形も無かった。なんちゅう火力だ!
「ふニャア~ マジカル……エイブルの……勝利……です」
「アホか!! こんなヤバイもの封印だ封印!!」
「そんニャア~」
そういやあステータスでINTだけ上がって無かったな。いや、むしろさがってないか? インテリジェンスをサクリファイスして他のアビリティを上げてハッピーシューター、いやハッピーボマーの出来上がり……これじゃあカースアイテムじゃねーか!
桁外れの爆発。王都近郊での異常事態に緊急出動がかかったのだろう、完全武装の兵士が大挙して駆けつけてくる姿が見えた。
「あ~、こりゃ王様直々の説教コースだわ……」
まあ、結果として俺の昨晩の犯行現場は綺麗さっぱりマジカルエイブルが消し飛ばしてくれたので、王様に謝りに行くときは付き添ってあげよう。
ありがとうマジカルエイブル。さようならマジカルエイブル。
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