勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

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第39話 ゴーレムが瞬殺……ですか!

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 日もとっぷりと暮れ、辺りはいくつかのランタンの周りを除いて闇が支配している。
 見上げればこの世界の月と星々が天上で、思わず見惚れる程に輝きを放っている。

「スゲエ……さすが異世界、いや、辺境というか」

 見た事も無い夜空に感動していると、ナカノの声が聞こえた。

「総員、集合!」

 全てのメイド達はキューベル前に立つメイド隊首脳陣の前に素早く集まるや、申し合わせたかのように整然と並ぶ。エイブルを筆頭にナカノ、サイガ、グリセンティの比較的好戦的な、いや戦闘に長けたメンバーが居並ぶ中、作戦担当のグリセンティが前に進みでる。

「それでは、作戦内容を説明します。本作戦はマテリアル内に潜むゴーレムを活性化させ、完全体となったゴーレムのコアを狙撃にて撃破し、その数を確実に減らす事にあります」
「え、なんで?」

 実はこの夜間作戦、俺は「夜までのおたのしみです」と、詳細を知らされていないのだ。よほど自信があるのか、驚かせたいのか、とにかく目的がわからん。昼間の攻略法で十分に効果は実証されたはずだ。今さら寝た子を起こす必要があるのか?

「グリセンティ、この作戦の目的はなんだ?」
「そうですねぇ、目的はゴーレム倒して、楽にみんなのレベル上げをしましょうってところでしょうか」

 事もなげに答えるグリセンティ。いやいや! そんなお気楽なものじゃないって! あまりにケロッとした顔で答えるもんだから、こっちがあせるぞ。
なんせ俺の見立てでもこの山に潜むゴーレムは1万はいる。対する俺たちは50人、50対10000だ。そんな戦力差をひっくり返すなんてラノベじゃあるまいし、出来るわけがない。間違っても包囲殲滅とか言うなよ。

「グリセンティ、お前は見てないから知らないだろうけどベイカーの剣が通じなかったんだぞ。それにほっときゃゴーレムが次々湧いて出て、あっという間に囲まれるって!」
「ふふ、大丈夫です」

 グリセンティが俺の懸念を待っていましたとばかりに微笑む。この子もかなり可愛い顔立ちなだけになかなかに魅力的な笑顔なのだが、なんだろう背筋が『ざわ』っとする。

「湧き出るゴーレム。それこそが本作戦のキモとなります。昼間、ベイカー様によって、203高地から切り離され、ゴーレムコアを掘りつくされた部分を便宜上、『島』とします。203高地側は『本土』です」

 グリセンティが地面に島と大陸を書くと島の上に石ころを乗せた。

「この石ころは私たちです。現在は本土と分断されているため、島に私たちが乗ったとして本土のゴーレムは反応しません。ですがこうするとどうでしょう?」

 そう言うと、島と本土の間を線で繋ぐ。

「この線はマテリアルの『橋』です。こうなると本土側に私たちが侵入して来た情報が伝わり、ゴーレムが活性化します」

 グリセンティが本土側に一回り大きな石を何個か置く。

「この橋は細く、マテリアルを詰めたパイプで作られています。マテリアル上しか移動手段を持たないゴーレムには渡れません。侵入者を自動追尾するゴーレムは……」

 そう言うと本土側の石を橋の手前に集めるグリセンティ。

「橋の前で立ち往生する訳か!」
「はい。私たちは活性化し、集まって来たゴーレムを安全な場所から一方的に破壊すればいいのです。狙撃と言いましたが、目の前に溢れかえったゴーレムを掃射する方が手っ取り早いはずです」

 下手な鉄砲数打ちゃ当たるってことか。まあ、ノボリトによればMP40の魔力消費は下手な魔法よりケタ違いに少ないらしい。連射で多少トリガーハッピーになってもそうそう魔力切れは起こさないだろう。

「別に全部倒さなくても良いんですよ。私たちが島から降りれば、やがてゴーレムは元のコアに戻ります。明日の昼、そこをコア干狩りすれば、より効率的にコアの回収が出来ます♪」

「勝手に集まって来たゴーレムを一網打尽てわけか!!」

 作戦の骨子を十分に説明でき満足したグリセンティが微笑む。昼間の作戦も容赦ないと思ったけど、その上をいく悪魔的発想……!! なるほど『ざわ』っとなる訳だわ。

 ふと見るとそばでノボリトが頰を膨らませている。

「どうしたノボリト? 不満そうだな」
「不満じゃないです。ただグリちゃんがこんな凄いこと思いついちゃったから私の用意したものが無駄になっちゃって……」
「へえ、何をもってきたんだ?」
「これです」

 ノボリトが差し出したのはやけにメカニカルなゴーグルだった。

「これは?」
「赤外線暗視装置です。ゴーレムコアの起動中コアが発熱するって義雄様が言われてたので、夜、ゴーレムを起こしてコアを狙撃しちゃえって」
「悪い考えじゃないな。でも、どうやってゴーレムを活性化させるつもりだったんだ?」
「義雄様とベイカー様に囮になってもらおうかなって……」

 ノボリト……それは、別の意味で悪魔的発想だぞ。少なくとも俺を巻き込むんじゃダメだぞ。



 こうして作戦が開始された。

 俺たちの陣地『島』からマテリアルを詰めた筒が203高地側、通称『本土』と接するように敷設される。俺はノボリトの持って来た赤外線暗視ゴーグルをつけ様子を見る事にした。これはこれで相手のウィークポイントが見えるなら十分使える。なんせ的が勝手に光るんだからそこを狙えばいいとか楽すぎる。
 エイブル達も俺の様子を見て気になったのか結果として皆が装備したようだ。赤外線暗視装置が10台だった為それに合わせて10人編成で隊を編成し5隊が交替で攻撃を行うこととなった。

 第一隊は俺、エイブル、ベイカー、ナカノ、サイガ、グリセンティ、ルイス、ヴィラール、ペロサ、ノボリトのメインメンバー。皆のお手本も兼ねて主力で固めた。教導部隊というやつだ。

「そろそろ30分が経過します」
「最初は連射せずにいこう。集まって来たら各自の判断でゴーレムを撃て」
「はい!」

 30分が経過した頃、名もなき山に変化が起こった。

「義雄様『本土側』に反応ありです。その数は増えつつあります!」

 エイブルの声の普段とは違う声色に、皆の中に緊張感がはしる。前回の偵察ではゴーレムが起動するや逃げ出した為、大した数のゴーレムではなかったが、今回は違う。マテリアル越しに送り続けられた俺たちの侵入情報は名もなき山全てのゴーレムを目覚めさせた!

「義雄様……」
「……みてるよ」

 言葉少なにつぶやくエイブルに対して俺もまた、それしか言えない。

「これ全部……ですか?」

 ナカノの声がうわずる。

 赤外線暗視ゴーグル越しに見えた世界。203高地の麓に次々と浮かび上がる熱源、起動したゴーレムコアの熱を赤外線暗視ゴーグルはしっかりと捉えていた。それは俺たちの周りから徐々に周辺へと広がっていく。その光が強くなったものから順に俺たちの方へ移動し始めた。

「綺麗……」

 誰かのつぶやきが聴こえた。赤外線暗視装置は見える風景を緑一色で映す。その中でひときわ輝く無数の光点はただ綺麗なだけじゃない。この山へ近づくものを数百年以上に渡って闇に葬って来た死の光だ。

「光点は山全体に広がりつつありその数は……推定1万以上!」

 観測結果を報告するグリセンティの声が震える。無理もない。眼前に大量のゴーレムが湧き上がり真っ直ぐにこちらに向かって進み始めたのだ。

「……!!」

 数の多さに気圧されたのか、みなの動きが固まる。さすがのエイブルも自らがその矢面に立っているという緊張からか、手にしたMP40を構えるでなく、その光景をただ呆然と眺めている。
 ……まずいな。おそらく皆、頭の中が真っ白になっている。慣れない武器の操作とか、多分全部すっ飛んでいるんだろうな。
 俺は手にしたKar98kをその場に置くと、立ち尽くすエイブルを背後から抱きかかえた。

「ひょ、義雄様!?」

 突然の想定外の方向からの襲撃にうろたえるエイブルを無視して、MP40を持つエイブルを、背後から手を伸ばして支える。

「落ち着け、エイブル。銃の先端に突起があるだろう、それが照星だ。手前の凹んだ部分が照門になる。それに高さを合わせてその延長線上にゴーレムコアを揃えるんだ。出来るな?」

 あえて、当たり前の事をゆっくりと、丁寧に教える。

「は、はい。照準を合わせる、ですね!」
「そうだ。ターゲットは照準に乗ったな? そうしたら、ゆっくりと力まずに引き金を引いてみろ」
「はい!」

 エイブルが引き金を引くと同時にMP40に通された魔力が薬莢内の連装魔法陣を発動し風属性の魔法が展開される。それはライフリングされたバレル内を通過する際、回転運動を付与され目標に向かって突き進む。
 引き金を引き続ける事によって銃口から次々と撃ち出される風の魔法弾は次々とゴーレムコアに着弾し、時を置かずに、ターゲットのゴーレムコアはパン! という小気味良い音を立てて粉々に打ち砕かれた。
 コアを失ったゴーレムは崩れ落ち、そのままマテリアルの土塊へと還った。

「ゴーレムが瞬殺……ですか!」

 ナカノが感嘆の声をあげる。衝撃的な光景が、新たな衝撃で上書きされた事で、皆が我を取り戻した。

「コアさえ潰せばそんなもんだ。無理に狙い撃たなくていいぞ、目に映った光点に向かって引き金を引き続ければいい。みんな出来るな?」

「はい!!」

 俺の檄を皮切りに、皆がMP40を再び構える。一斉に撃ち出される魔法弾。あー、風属性のために音も静かで光もないから『地味』だわな。ただただ、赤外線暗視ゴーグル越しに前方のゴーレムコアが次々と四散する光景が花火のように見える。たまや~。

「あ、あの……」
「ん?」
「もう大丈夫です。いえ、このままでも問題ありません……へ? ひえっ!! わ、わたしはなにをいているのもでしょう!?」

 あ、エイブルさんを抱きかかえたままだった。慌てて飛びのく俺。背中越しではエイブルさんの表情は見えないが、猫耳が激しくぱたついていた。

「す、すまんエイブル!」
「ふ、ふひゅ……」

 ふひゅ? まだ緊張してるのか?
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