勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

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第42話 ゾゾゾぞぞぞゾンビ? ゾンビ?

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「これって……」
「生贄……ですかね」

 ベイカーの言葉に一転、エイブルの顔が曇る。

 新型召喚システムがソルティアにより世界に広がるまでエイブルやメイド隊の娘たち、魔法の使えない娘たちはその魔力総量の大きさから召喚魔法への魔力供給のため【巫女】と称してその多くが犠牲となった。ファドリシアに逃れてきた娘の多くはエイブルによって保護されてメイド隊へと迎えられた経緯がある。

「この子もそうなのかな?」
「わかりません。何かを封印するために人柱を立てるという話は昔語りにもあります」

「このままにしておくのはかわいそうだな……」
「義雄様……」

 エイブルの瞳が訴えている事は痛いほどわかる。

「よし! 掘り出して葬ってやろう。ベイカー手伝ってくれ。エイブルは無理しないでいいぞ。ただし封印されたものが出てくるかもしれない。俺のKar98kを持ってろ。多少タチのの悪いヤツでもやれるだろう」
「はい……ごめんなさい」

 死者を、この子をこれ以上傷つけるのは忍びないので、俺たちは手掘りで丁寧に掘り進めた。ここに来てなんともやるせない仕事にぶつかったもんだ。

 掘り進めていくと色々と気付くこともあって、それがますます俺たちの気を沈ませる。

「この子、ごく最近埋められたみたいですね……もう少し早く俺たちが来てたら……」
「言うなベイカー、少なくともこんな事はもう終わりだ」

 やがて両手が出てくる。グッと伸ばされた手は虚しく天を掴むかのように固く強張っている。

 うっ、グスッ! グフゥ……

 鼻をすする音に顔を上げるとベイカーが涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら掘っている。

「ベイカー……しんどいならお前も休め。後は俺がやる」
「スイマセン……俺、実家にこの位の姪っ子がいるんです……」

 ああ、公爵家継いだ兄貴の子か、三男坊のわりに実家との仲は良くて度々家に帰ってるもんな。

 ふっと前の世界の姪っ子の事や家族の事が思い出される。ホントは生き返れたらそれはそれで良かったかもしれない。死んでしまってはもう会うこともできないのだ。

 俺は黙々と手を休める事もなく掘り続け、やがて上半身が掘り出される。

「!!」

 その表情は苦悶に歪み、生きたまま埋められた事を物語っている。おそらくソルティアはこの事に少なからず関与している。

「何が魔王だ……ソルティアの奴らの方が悪魔じゃないか……」

 ここら辺まで掘り出せば引き出せそうだ。丁寧に顔の土を拭ってやり幼女の両脇に手を差し入れ引き上げる。

「ベイカー、落ち着いたら手伝ってくれ。もう少しで……!?」

 ぐっ……

 肩に感じる違和感に目を向けると俺の両肩を幼女の手がしっかりと掴んでる。え? 掴んでる?

 えっと……?

「すんません、お待たせし……義雄様? ……そ、それ」

「んぎゃあああああああああああああああああああ!」と俺が叫ぶ!
「うごいたああああああああああああああああああ!」とベイカーが叫ぶ!

 両肩をがっつりと掴まれたため引き剥がすこともできない! 振り払おうと体を揺すったはずみで幼女と目が合う。って、目、開いてる開いてる!!

 固く閉じられていた口がむばあとばかりに開かれ泥が吐き出される!!

 ゾゾゾぞぞぞゾンビ? ゾンビ?

 極限状態に火事場の馬鹿力が発動され一気に幼女が地面から引き抜かれる!

「よ、義雄様どうされました?」

 異変に気付いたエイブルが駆け寄って来て、直前Uターン。

「エイブルさん! エイブルさん! コレとって! コレとって!」
「にゃああああああああ! 来ないで来ないで来ないで~!!」

 逃げるエイブルに追いつき肩に手を置いた瞬間、ヘタリと崩れ落ちるエイブル。

 ああっ! ずるいぞ! 気を失ってやがる!

「べべべべべべベイカー!!」
「無理です! 俺はただの騎士です! 死んでる奴はころせません!」
「待てやコラあああっ!!」

 何という凶悪なワナ! こんな恐ろしい事するなんてソルティアコエーヨ!

 ベイカーとのチェイスの最中、幼女が貼り付きトップヘビーになっていた俺はバランスを崩して盛大に転んでしまった。

「痛てててっ、って?」
 目を開けると、幼女が馬乗りになっていた。

 幼女の口が開かれ出て来た言葉は……

「し……」
「死?」

 おおおおお俺呪われるのかな? 俺ピンチなのか?

「……しぬかとおもったあぁ!!」
「へっ?」

 生きてるの?

「お……」
「お?」
「おなかすいたぁ~」

 ☆
 
 203高地のふもと。高地攻略前進基地。

 頂上の謎の魔法施設を破壊し、基地まで戻ってきた俺たち3人プラス幼女。
 いま、俺たちの周り、正確には謎の幼女の周りはメイド隊全員に取り囲まれていた。

「すごくおいしいのこれ! 」モグモグ

 連れ帰った幼女はただいま、エイブルの膝の上で絶賛お食事中。双子に頼んで消化に良いものをと、軽めのスープと柔らかいパンが与えられたのだが……なにこれ可愛い! コアコみたい~!(なんかリスっぽい小動物だそうだ)と、エイブルメイド隊のお姉さんたちのハートを一瞬にしてわしづかみ、マスコットキャラとしてその地位を得て、一気に頂点へと登りつめていた。
「妹枠が……補完……」ナカノが身悶えてる。じゃあお前、なに枠だよ?

「つまり、捕まってあの場所に生き埋めにされたと?」

 とりあえずあそこでなにがあったのか聞こうということになり、みなの先陣を切って、俺は幼女に問いかけた。

「うん」モグモグ

「あなたのお名前は?」

 幼女を膝の上に抱えたエイブルが優しく問いかける。

「ん~ わかんないの」モグモグ

「その、誰に……捕まったのですか?」

 ノボリトが幼女を覗き込み、慎重に言葉を選んで問いかける。あれだけ酷い目にあったのだからあまりストレートな質問はしない方がいいだろう。

「ん~ わかんないの」モグモグ

「……」×全員

「どう思います? 義雄様」
「うーん。強いショックで記憶を無くしまった。 と、考えるのが妥当だろうな……あっ」
「なあ、家族はいるのか? うちがどこかわからないか?」

 幼女の手が止まる。手にしたパンをじっと見つめて動かない。

 !!

 ヤベエ、地雷踏んだか? 周りを見れば皆の口元が「×」になって(あ~、義雄様やっちゃいましたねえ)ってザンネンなものを見るように俺を見ている。その顔ヤメレ!

 ひとしきり動きを止めていた幼女。やがて顔をあげるとぽつりと呟いた。

「……おねいちゃん。おねいちゃんがいたの……いなくなったの」

 皆が黙り込む。慰めも、気の利いた答も思いつかない。この子の境遇を見れば楽観的な言葉は意味を持たない。

「でも、いまはおねいちゃんがいっぱいいるの。だからね、さびしくないの!」

 ズキューン!!×エイブルメイド隊

「義雄様! この子うちの子にしましょう!!」×全員
「ええっ?」

 なんかこの子の発言がみんなの琴線に触れたらしい。

「身寄りのないこの子を放っては置けません! 幸い、メイド隊にはまだ空き枠がありますし!」
「いや、エイブルさんの言う、枠ってなに?」

 まともなことを言っているようにも聞こえるが、なんだろうポンコツな香りがする。

「えっ、メガネとケモ耳とヤンデレ……」

 そっちかい! どっちにしろこのままほっとくわけにはいかないしな。

「まあ、そうだなあ。だけど、この歳でお兄さんとは呼ばせられんなあ。どこの世界だろうと普通に犯罪臭がするしな。しいてあげれば、お父さん枠だなぁ」

 さすがにこの年の差で妹はないわ。合法ロリはノボリトで足りている。違法ロリの容疑で検挙されるのはゴメンだよね。それに、俺は妹に幻想は持っていないぞ。前世でリアル妹にディスられたし。

『な ん で す と !?』

 メイド隊に衝撃が走る。

「くっ、姉枠も捨てがたいですが、おかあさん枠の魅力が……」

 真顔で考え込むエイブル。

「義雄様がパパ、私が……マ……きゃっ♡」

 身をくねくねさせるノボリト。最近、積極性が出てきたのはいいけど、変なモノに染まってないか?

「まずは胃袋を掴むのです」掴むのです!」

 がっちり手を組む双子……クスリは禁止だぞ。

「まずはおねいちゃん枠を確保し、戦略を組み直します……将を煮んと欲せんばまずは馬を煮よですね」

 グリセンティ、煮てどうする? てか、それだと将も煮られるぞ。

「ま、まさかの娘枠……義雄様はどこまで行くのでしょう……」

 ナカノ、鼻血を拭け。つか、お前の中で俺はどういう立ち位置なんだ?

 他のメイドも似たり寄ったりな感じで盛り上がってるし、お前ら全員戻って来~い!
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