勇者のフリして異世界へ? 〜この世界は勇者インフレみたいです〜

あおいー整備兵

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第44話 世界には激震が走っていたそうな。

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 その頃、世界には激震が走っていたそうな。

 ソルティア法王国

 法王庁ーーソルティア教の最高機関であり全ての信者の頂点である法王の御座所。ソルティアの権威の象徴といわれる。
 その中の一室。一般信徒はその存在すら知らず、ごく一部の高位神官のみが立ち入る事を許されたエリア。ソルティア教神聖執行部。今そこに、大司教を筆頭に各教区の教区長が集められ、秘密会議が開かれていた。議題は『大封印消滅』。巨大な円卓を囲み、突き合わす面々の顔つきは皆一様に苛立ちを隠さず、その渋面は聖職者の顔からは程遠い。

「勇者召喚の魔方陣が停止しただと!?」

「ああ、我が国の召喚陣は完全に沈黙している」

「原因はなんだ?」

「技術部の報告によると魔力供給が完全に停止してしまったそうだ」

「だから、何故だ?」

「それは……」

「復旧はどれくらいかかる?」

「わからん! わかるか!!」

 卓に激しく叩き付けられる両拳。

「バカな!! うちだけの問題では済まんぞ!」

「すでに隣国から召喚陣の停止についての問い合わせが届いており、これから同様の質問状が各国から届く事だろう」

「どうするのだ!?」

「どうしろというのだ!!」

『いい加減にせよ!!』

 一向に進まぬ会議に、上座に座る大司教の叱責が飛ぶ。居並ぶ面々の顔に緊張が走る。

「どうなっておるのだ!? 答えよ!!」

「か、考えられるのは大封印が破られ、供給源に問題が発生したのではないかと……」

「バカな! あそこには神代以来のアーティファクトが配されていたはずだ」

「一万のミスリルゴーレムですな。千年の長きに渡り彼の地を守り続けた神の兵団……」

「大体、あそこには手を加えてはならなかったのだ。それを……」

「今更な事を言うな!おかげで我らはソルティアとしての威光を各国に指し示し、今日の地位を得たのだぞ! 忘れた訳ではあるまい!」

「我らがせねばならぬ事は原因を調べる為『名もなき山』に調査を差し向ける事だ!」

「誰が行くと言うんです? 敬虔な信者であればこそ彼の地には近づきたがりませんよ。あなたが行かれますか?」

「ぐっ……」

「禁忌を怖るるか……今までの情報統制が仇となったな」

「ならば、いっその事、大神征を前倒しして、魔王を、いや、魔族を根絶やしにすれば良いのでは? 今の勇者の数、質は古今例を見ぬものです」

「いや、この一件、魔族が絡んでいるとすれば事は簡単には進みますまい」

「……」

 猫の首に鈴をつけるネズミはいない。会議は虚しく時を浪費していく。

「……対魔王連合会議を招集しましょう。事はわが国だけの問題ではすみません」





 魔王城

「月だと?」

 当代魔王の元に、千年の長きに渡り待ち焦がれた報告が使者の口から告げられる。

「神託が降りました。月が目覚めたと」

「何を示しているとおもう?」

「おそらくは我らの神が目覚めたのではないかと……名が戻らぬところを見受けますに、未だ御力がお戻りになられていないかと」

「名を奪われ、加護も失われて久しい。我らの信仰も磐石とは言い難い。御力を取り戻されるには時間がかかろう……せめて場所はわかるか?」

「支配地からの報告はありません。だとすれば」

「ソルティアの支配地か……」

「はい」

「探りを入れる必要があるな。ソルティアに揺さぶりをかけろ」

「すでに手はずは整えております」

 我らの神を救い出し、古の大戦で奪われた失地を奪い返す……時が来たのかもしれんな。



 ファドリシア王国ーードワーフの里

 孫からの手紙に目を通す老ドワーフの手は読み進むうちに小刻みに震えていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 王国歴1192年8月

 アケノおじいちゃんへ

 まずは、大切な報告です。

 目が治りました。治ったというか、すごくよく見えるようになりました!

 新しく来られた勇者の義雄様が大霊廟のアーティファクトの『メガネ』を私にくださいました。そうしたら目がよく見えるようになったのです!

 世界が変わって見えました。遠くのものも、メイド隊のみんなの顔も普通に見えます!

 義雄様はもう一つ私にプレゼントをくださいました。

 それはものの見方です!

 今まで、ノボは大きいものが苦手で、小さい魔方陣ばかり書いてました。より小さく魔方陣を書いていきましたが、大きな魔方陣のような強い力や複雑な力が出せないただのオモチャでした。

 そしたら、義雄様が電池を見せてくれて、重ねたら力が強くなる事を教えてくれました!

 おじいちゃんも知らないですよね? 今まで魔法陣を重ねるなんて、誰も考えた事ないですよね?

 ただ、大きく書くしかないと思っていて、それが出来ないわたしは諦めてました。もう目からウロコが取れたようです!

 楽しくて楽しくて、寝る間も惜しくて、大霊廟のアーティファクトをいっぱい改造しましたよ!



 kar98k改

 弾の数が500発しか見つからなかったので、勿体無いから作り直して見ました。
 薬莢の中に直列で魔法陣を20枚重ねて、火、水、風、土、光の属性魔法を撃てる弾を作ってみました。試しに撃ったら練兵場の壁に穴が開いてしまいました。義雄様と慌てて逃げました。

 MP40改

 弾丸が短くて魔法陣が8枚しか重ねられませんから威力はkar98k改の半分です。義雄様曰く『量産型』だそうです。

 ブルドーザー

 機獣の仲間を燃料無しで動かせる様にしました。ただし、ドライブシャフトの回転数が変えられないため、失敗作品です。現地改修でなんとかなりました。


 生活魔道具

 魔力で火と水が使えるキッチンを作りました。ヴィラールちゃんとペロサちゃんに大好評でした。
 今は白物魔道具という掃除機と洗濯機を開発中です。

 トイレの妖精ーマジカル花子さん変身ワンドDX改

 大霊廟で発見しました! 早速改造して今はエイブル様専用になっています。ステータス上昇魔法が発動して、88連装魔法陣と属性魔法セレクターで最強の魔法少女に変身出来ます! ただ、なぜでしょう? エイブル様の変身はちょっぴり痛々しいです。試しに撃ったら練兵場の壁が無くなりました。
 義雄様にやり過ぎだとお叱りを受けました。でも証拠隠滅できてよかったです。


 追伸

 この前、メイド隊のみんなで『名もなき山』改め『203高地』を落としました。ゴーレムコアやマテリアルを大量ゲットしてますます研究がはかどりそうです。
 妹が出来ました。ひよこちゃんです。とても可愛いですよ。義雄様の娘です。なんとしてもおかあさんの地位を手に入れるのです!!

 メイド隊のみんなとも、とても仲良くやってます。いえ、どちらかというと、仲良くやらかしてますでしょうか。

 ノボリトは元気です。また手紙出しますね。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「……孫が、ノボがえらい事になっとる! わしゃ王都に行ってくるぞ!」

 
 世界はゆっくりと確実に胎動を始めた。俺の知らんところで。
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