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第53話 致死量以下なら味のアクセント。

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 大霊廟執務室。 この出だしここんとこいつもだなあ。いや、平和で何より。

「全国展開?」

「そう」とヴィラール。
「今こそ」とペロサ。

 午前中、ひよこはエイブルとお勉強。ベイカーは近衛騎士団の訓練とかで、俺は絶賛読書タイム。そこに双子がやって来た訳だが。あー他にする事無いね。大霊廟にあるTVやゲーム機が使えれば世界が広がるんだがなあ。そうなったら大霊廟に住むよ。アレ? そうなると引きこもり確定? 世界が狭まってるか? 

「義雄様!」様!」と話を聞けとばかりに頬を膨らませて詰め寄る双子。

「あーごめん。で、なんの全国展開なんだ?」
「カレー屋さん」とヴィラール。
「で、世界を取る」とペロサ。

「はあ?」

 ちなみにこの双子、この前の健康診断で揃って神与称号の『メイド』に新たな《恩恵》を手に入れたそうだ。メイドの恩恵は《オールサポート》だが、個人で突出した能力は別に付加されるのかな? しかし《毒味》とは、毒味ってなんだよ? 毒見じゃあないのか? と聞いたら、全ての毒を味わい、そのレシピを再現できるとか。レシピってなんだよ! 食う気かお前ら?

「致死量以下なら」とヴィラール。
「味のアクセント」とペロサ。

 ……つか毒を食うなよ。

「味の幅が」
「広がりました」

 あ~そうですか。人に食わすなよ。……入れてないよな?

 この双子、調子に乗ってファドリシア王都にカレーショップ【カレーの勇者さまっ】をオープンして大盛況となっている。とはいえ。

「急に国内展開とか飛びすぎだろう? まずは近くの町に二号店を出してだな……」
「ファドリシアじゃないの」とヴィラール。
「大陸全土」とペロサ。
「出来るわけないだろ!」

 国内どころか全世界展開など出来るわけがない! 俺の至極真っ当な反対意見にもかかわらず双子が不敵に笑った。

「ふっふっふっ」とヴィラール。
「技術的課題はクリア」とペロサ。

 なんだと?

「ついてきて!」×双子。

 双子に手を引かれ連れていかれたのはノボリトのところだった。

「大霊廟ノボリト研究所?」

 ノボリト達の研究開発エリアに立てかけられた看板。規模が大きくなってる?

「あっ、義雄様いらっしゃいませ!」

 出迎えたのはノボリト。最近は研究開発に余念がないらしく執務室にも来ないと思ったが何をしているのやら。

「おおっ義雄様!」

 パーテーションに囲まれた部屋に入るとアケノの爺さんを筆頭に爺さんsが何やら忙しそうに立ち回っていたが俺たちを見るや駆け寄ってきた。なぜかナカノもいる。

「アレ、出来た?」と双子。

 何やら製作依頼していたらしい。好きにやれと言ったがホント好き勝手やっているなあ。

「うむ。ノボリト研究所の研究成果第一号じゃろ?」

 アケノが指差す先には2枚のマンホール……ではないわなあ。

「なんだ、転送ポータルじゃんか」
「そう」×双子
「これでお店と」
「大霊廟を」
「繋ぎます!!」×双子

 そう言うと、向かい合って互いの右腕を絡ませる双子。おお! 双子クロスだ!

「で、これでどうするんだよ?」
「それについては私からご説明しましょう」

 なんだ、ナカノも一枚噛んでたのか。

「これを大霊廟と『カレーの勇者さまっ』各支店に置けばスタッフの移動も、食材の移動もあっという間にできます。輸送コストがかからないからボロ儲けな訳です」

 おおっ、何気に腹黒くて魅力的な提案だなあ。

「むう……どうしようかな」
「義雄様ぁ~」×双子。

 さっと俺の両腕に抱きついてグイグイお願いアピールの双子。最近俺の扱い方が巧妙なんだが……

「し、しょうがね~な……ちゃんとするんだぞ」
「やったー!!」とハイタッチで喜ぶ双子。

 まあ、よその国に簡単に行けるなら悪くないな。んん? これ全国展開したら大陸の物流を支配できるんじゃあないのか? 物流の支配、ソルティアに対抗する大きな助けになりそうだな。中継点を置けば、万が一、片方が乗っ取られたとしても対応は可能だしな。

「店舗の手配などはこちらで進めます。早速行動を起こしてもよろしいでしょうか?」
「ああ、無理な事や、危険な事はしないようにね」

 すると、それまで俺たちの話に耳を傾けていたアケノがここぞとばかりに口を開いた。

「それじゃったら一緒に203高地のマテリアル採掘場も作らんか? ほれ、中継点にするには都合も良いし、里からまとまった数のドワーフを呼び寄せたいと思っとったんじゃ」
「ドワーフを呼び寄せる?」
「うむ。203高地の作業員の求人、集まらんのだろう? 場所もそうだが、働くものの身元もしっかりせねばならん。それではいつまでたっても集まらんじゃろう」
「そうなんですよねえ。場所が場所ですから、あの場所の重要性を理解してもらわなきゃいけないし、秘密も守ってもらうなると、どうしても募集条件が厳しいものになるんですよ」

 実際、ファドリシア国へ依頼した採掘作業員は当初、軍の工兵を破格の報酬で借りるつもりだったが、大霊廟のアーティファクトやノボリトの新装備、莫大な富を生み出すマテリアルなどあまりにもトップシークレットな案件が絡みすぎて手に余ると断られてしまった。

「そこでドワーフじゃあ! あの山の価値を十分に理解し、まともに働ける者などドワーフをおいておるまい?」

 まあ、ドワーフなら採掘から加工までの工程をすべて任せれる。不特定多数の人間に関わらせるよりも、アケノの知己とい事であれば機密の保持も楽だろうしな。だけどさ。

「言われる事はもっともですけど、こんな事故物件に好き好んで来るやつは余程、肝の座ったやつじゃなきゃ勤まりませんよ。しかも今の生活を捨ててまできてくれますか?」

 それなりに安定した生活を捨ててまでこんなところに来ようと言うやつが早々いるとは思えない。

「ふふん、あてはあるぞい。すごい奴らじゃ。百戦錬磨、鍛冶や錬金の腕も超一流。しかも暇を持て余しくすぶっておる。仕事を与えれば飛びついてくるじゃろう」
「マジですか? 一体どんな連中が来るって言うんです?」
「ドワーフ老人会じゃ!」

 アケノが言うには爺さんsのように歳をとり、引退したドワーフ達の集まりがあるそうだ。老眼で一線を退いた者や、若い者から疎まれ仕事から手を引かざるえなくなり、残る余生をただ、何もする事なく日々を過ごしているそうだ。

「ある意味生きがいを失った者達じゃ。新たな生きがいを与えてくれるとなれば否やと言う者はおらん。しかも使い放題のマテリアルを見させられた日には、死にかけの者でも生き返るわい!」
「そう言う事なら頼らせてもらいましょうか。手配や指揮はお任せします。詳細やらはナカノやノボリトと話を詰めてください」
「うむ! 任しておけ」

 ここでそれなりの実績を積めば、人もやがては集まるだろう。事故物件って誰か一度住んだら通常物件の扱いになるはずだし。ドワーフの移住は203高地の開発の足がかりとしては申し分ない。

 こうして、カレーショップ『カレーの勇者様』レィテア国出店と203高地採掘場建設計画の二大プロジェクトが動き出した。

 ☆

「計画案ができたぞい!」
「早っ! 昨日の今日とか、やる気満々ですね」
「うむ。先代どのも『兵は拙速を尊ぶ』と言っておったからの。里への手紙は送っておいた。あと、こちらでやる事はあらかた纏めておいたぞ」

 アケノ爺さんから渡された計画書の概要はこうだ。

 大霊廟と採掘場予定地を転送ポータルで繋ぎ資材を搬入し、当面は大霊廟から通いで採掘に必要な施設(採掘機材倉庫、保管庫、加工場、工房、鍛冶場、居住区)を建設。里からドワーフ老人会が到着次第、移住するとの事だ。

「全員203高地に住むんですか?」
「ワシらが王宮に住みつくわけにもいくまい? 大勢のドワーフが王都に居を構えれば目立つしの。当面は採掘施設の存在は隠していた方がいいんじゃろ? なあに、大霊廟での仕事に行くには転送ポータルを使えば問題ないしの」

 こうして先行部隊としてナカノを指揮官としてメイド隊から数人と、アケノ達爺さんsが203高地へと向かうこととなった。目的は203高地の拠点の場所ぎめと転送ポータルの設置、続けてレィテアでの出店の根回しだそうだ。
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