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86話 ひよこちゃんですから……
しおりを挟む「よし、メイド隊は全員集まれ!」
担ぎ込まれた負傷者は三人。俺、ひよこ、ルイスが彼らの側につき、その周りをエイブルメイド隊が囲む。
「いずれも治癒魔法での処置が必要な者で、腕に裂傷を負った者が一名、これは低位の治癒魔法対象です。右大腿部にレボアの刺突を受けた者と、左膝の骨折した者が中位以上の治癒魔法対象者ですが、通常の治療で後遺症が残る点では後者の方が重傷と言えます。中位の治癒魔法では完全回復は厳しいです。いずれも応急処置は済んでいますが戦線への復帰は無理ですので、後送して治療院での本格的な治療が必要です」
淡々と進むルイスの所見報告。後遺症という言葉に膝を骨折した親衛隊員の顔から血の気が失せ、見ていて気の毒になるくらいにうなだれる。彼にとってはこれまでの近衛騎士としてのキャリアが失われたと宣告されたに等しいのだから、衝撃も大きいのだろう。
「いずれも『ガンバー』の効果が消えたため、とっさの回避行動が出来なかったようです。幸いなことに、重篤な者はいません」
この三人はいずれも最初に『ガンバー』を受けた隊員だ。だとしたらこの後、『ガンバー』の効果が次々と切れることで負傷者が一気に増える可能性は大きい。急ぐ必要があるな。
「よし、始めよう。ひよこ、この手を怪我したお兄さんを治すおまじないは、何がいいかな?」
「うーんと、『てあて』?」
「当たり! じゃあやってごらん」
「うん! 『てあて~』」
少し語尾を伸ばして『テアテ』を唱えるひよこ。伸ばした両手が患者の腕に向けられ、なにかを放射するように指をワキワキとさせる。子供なりのアクションだけど、ひよこがやると効果もありそうだな、うんうん。まあ、やらなきゃならないかは要検証で。
!!
直後、お約束ではあるが、その場にいた全員が息を飲む光景が目に前で繰り広げられた。裂傷部位が淡く光ると、映像の巻き戻しのように傷が閉じていき、その痕跡すら残さず消えた。
「すごい……」
感動の余韻に浸るのも早々に切り上げてもらおう。ちょいと時間が無いからな。さっさと次の患者に移ろうかね。
「ひよこ、次の患者さんだ。どうだ?」
「『てあて』だよ!」
「え?」
ひよこの返事にルイスが驚いたように声を上げる。
「てあて~!」
ルイスが言葉を続ける間も無くひよこの『テアテ』が発動し、先ほどと同じ光景が繰り広げられる。治癒魔法を受けた親衛隊員が、驚いた顔で、患部の動きを確かめるように足を動かし、傷口のあったあたりをさする。
「あ? え? い、痛くない! 痛くないです! 傷が……無い?」
ここでようやく、ルイスが言葉を発した。
「これは……ひよこちゃんの『テアテ』は治癒効果が高いです。ソルティアの下位の治癒呪文ではここまでは治せません」
「まあ、ひよこだからなあ」
「そ、そうですね。ひよこちゃんですから……」
まあ、なんだ、納得するしかないじゃん、ひよこ本人のイメージ次第だからさ。神様の気まぐれってのはこんなもんだと思うよ。そうして、いよいよ最期の患者にとりかかるのだが、これは難易度が高いな。
「状態は膝の皿、膝蓋骨の粉砕骨折です。ここまで酷いと部位欠損に近い損傷で、ソルティアでもかなり高位の治癒魔法が……」
「おてあて~!」
「ええっ!?ちょ、ひよこちゃん?」
あ~あ、治っちゃったよ。アレだな、チート持ちが無自覚に『僕なんかやらかしました?』ってヤツだ。まあ神様だからフツーにやりかねんよ。あ、ルイスがフリーズした。
「なんか……すまん」
「ひ、ひよこちゃんですものね……」
かろうじて引きつった笑顔で流すルイス。それで済まないのはさっきまで人生詰んだとばかりに落ち込んでいた親衛隊員を筆頭に負傷していた三人でして……
「グフッ……ヴッ! お、俺はまだ戦えるんだ……ありがとうございます! 義雄様! ひよこ様!」
「やるぞ! 全力で、義雄様の、ひよこ様のご期待にお応えせねば!」
「ああ、もう恐れるものは何も無い! 我らは死なない限りは死なん!」
あ、なんかスイッチが入ってもうた。いや、死ぬときは死ぬぞ! 言ってることが分かんなくなってるから!
「さあ、行くぞ! 魔獣どもに恐怖と絶望を与えてくれる!」
「ウラーッ!!」
「ガンホー!」
前衛へと駆け出す三人。待てコラ!!
「誰か、アイツらに『ガンバー』を! サイガ! 前の連中もそろそろ『ガンバー』が切れる! 何人か連れて親衛隊を援護しろ!」
「はーい! みんな~行くよ~」
「あっ! ちょ、待った! ひよこぉ! おねいちゃん達にさっきの『テアテ』と『オテアテ』を教えとこう!」
「はーい!」
ノリ的には『おねいちゃんがお弁当忘れたから、ひよこ、ちょっとひとっ走り渡してきて! 』って感じだったのは否定しない。俺もいい加減に感覚がおかしい?
「ええっ! ナニコレ? さっきの治癒魔法?」
「魔法が?」
「増えた!」
「……オメデトー」
「義雄様……」
はい、自前で治療もこなす最強メイドが誕生したわけですね。もう、いっそのこと全員前に出て治癒魔法の実践訓練といこうか。
「命令変更! メイド隊全員で親衛隊のサポートに入る。全員がひよこ魔法を使いこなせるようになろう!」
「はい!」
で、先ほどのようなシチュエーションがメイド隊によって各所で繰り返された結果、なにがしかの一線を超えたであろうひよこ親衛隊は冒頭のバトルジャンキーに至ると。
「グハッ! やられたあああぁ! だが効かぬぅ!」
「血まみれで言うな! グリ! 『オテアテ』!」
「ウラーッ!! 突撃!!」
「義雄様、治るはしからひよこ親衛隊の皆さんが突撃をかけるのできりがないです」
「……」
「……」
双子さえも呆れはてて口数が減っているとか、これは精神衛生上よろしくないよね。
「お前らいい加減にしろ!!」
「大丈夫です! 俺はまだ戦えます!」
……
「わはははは!周りはみんな敵だぁ!!」
…………プチッ
「……ノボ、MP40を弱装雷弾装填で、よこせ」
「は? ヒャい!」
「メイド隊はスタンした魔獣を殲滅。ついでに流れ弾に当たった親衛隊の連中を拘束し、回収……」
「は、はいっ!」
手渡されたMP40の銃口を敵味方入り乱れる前線へ向けて構える。そうして照準を合わせるでなく、引き金に手をかける。大丈夫、動くヤツは全て的だ。
「往生せいやああああああああぁぁぁぁっ!!」
俺は躊躇なく引き金を引いた。うん、動くヤツも動かないヤツも無差別に。てか、魔獣、親衛隊お構いなしに。
俺の怒りの雷弾掃射に次々と倒れる魔獣や親衛隊。さすがエイブルメイド隊だよ。瞬く間にスタンした魔獣を殲滅だよ。その傍らには俺の撃ち込んだ弱装雷弾でスタンした挙句、ふん縛られて地面に転がされたひよこ親衛隊。ああ、そんなに丁寧に並べなくていいぞ。
「こ、この痺れるような感覚……」
「う、噂に聞いたレベル酔いでは!」
「ではこれは……レベル酔いの治療ですかね?」
ちげーよ、お前らのはただの感電だからな。まったく、ほっといたらいつまでもヒャッハーしてたろ?
半目で見下ろす俺と、苦笑いのメイド達の様子に親衛隊の面々もようやく我に返ったようで。
「あの……治ったんでロープ外してもらえませんか?」
ふっ、治ったのはスタンですかい? それともハイテンションですかあ? どっちにしろ、しばらくは放っておくけどな。反省しろ! 反省!
なんだかんだで、メイド隊のみんなもひよこ魔法を覚えたし、ひよこ親衛隊もレベルが5くらいは上がったようだ。俺も色々といい経験をさせてもらったよ。ファドリシア軍の強化とか今後の課題も見えたしな。帰ろ帰ろ。今日のお仕事はおわり! おわりったらおわり!!
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