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94話ーー番外編 「風が……教えてくれます」
しおりを挟む「義雄様! これ、スゴイです! 」
興奮気味に駆け寄るナカノ。
珍しいな、普段はメイド隊一落ち着いてるってイメージ……まあ、多少メンヘラなところもなきにしもあらずだが……ん? 抱えてるのは楽器なのか?
楽器……だろうか、箱の右側から垂直方向に伸びたアンテナ。左側面からも水平方向に伸びたアンテナがある。見たところ弦もないしどうやって弾くんだ?
俺の前に据えられた謎楽器。おもむろにナカノがアンテナの周りに手をかざす。
~♪
「えっ!?」
ナカノの手の動きに合わせて鳴り出す謎楽器。なんだろう、この琴線に触れるかのような音色……ん? これ知ってるぞ。お正月にしか見ない芸人並みにレアな楽器だ! 俺も音楽バラエティで1、2回見た事が有るだけの謎楽器、そう……
「確か、テルミンか……」
「テルミンですか?」
正直、どこをどうすれば音が鳴るのかもよくわからんものを、ナカノが弾いている。いや、それ、ZのOPだよな? エルフの音楽センス凄すぎだろ!
「初見で弾けるもんなのか?」
「風が……教えてくれます」
ここぞとばかりに厨二な発言をするナカノ。いや、あながちネタ発言ともいえないようだ。
「!?」
ナカノとテルミンを中心に高まる圧。感の鋭いメイド隊の子達が辺りをキョロキョロと見回す。何かがいる。例えるなら渦巻くように何かがナカノの元に流れ込んでいるような、そんな感じだろうか。
「……すごいわね」
いつの間にやら俺の背後に浮かび、関心しきりのメリーさん。何! やっぱり何かいるの?つかシチュエーション的に後ろに立つなよ!怖いから!
「風の精霊が集まってるわ」
「見えるの?」
「まあ、今のあたしはどっちかって言うとあちら側に近いから」
ああ、そういやあそうだな。メリーさんは悪霊……ゲフンゲフン英霊だった。そりゃ俺たちに見えないものが見えてもおかしくない。
「見た感じ、共鳴しているのかしら? ナカノの奏でる音色に応えているような感じ?」
「聞いたことがあります。古代エルフは精霊と対話し、その強大な力を手にしたそうです」
エイブルさん、補足サンキュー。じゃあ、コレはまさにフリだな。
「なにげにスゲー事が起こってないか? じゃあ、今まさにナカノは精霊と対話を……」
だとしたら……俺は周囲を取り巻く風? に意識を研ぎ澄ます。耳を澄まして、音としてではなく声として聴く。言葉であれば俺の勇者補正で分かるはずだ。
あっ、分かっちゃった。
「え、精霊の言葉が分かるんですか?」
「あ、ああ……多分『本格こんにゃくー』でも分かると思うぞ」
「一体何を言ってるのでしょう」
本格こんにゃくーによって精霊の声を皆が聞いた。
『僕と契約して精霊使いになってよ♪』
関心仕切りのメイド達。精霊との契約に興奮冷めやらぬナカノ本人。で、一歩引いたところにいる俺。だって、ねえ……それ、言っちゃうかなあ。
まあ、言っておこうか。
「 ……マジか? ナカノ!」
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