貴方に愛を教えたのは私だから。

くず子

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死んだ日 生まれた日

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右眼は誰かに石で殴られ潰されたので闇しか映らない
半開きの左目には雨粒が当たり、涙のように頬をつたっていく
涙なんか前に枯れた。
とうとうこの世から解放される時が来たようだ
『何か言い残すことはあるか?』

こんな時先に楽になった妹を思い出す

シャーロット

死ぬときは狂って笑っていた君が、笑いながらも王家に呪いの言葉を叫んでいた君がうらやましい
私は煩いからと潰された喉のせいで、恨み言の一つも言えない

何が悪かったのだろうか
奴隷階級に落とされてからもずっと考えていたが、何が悪かったのかわからない

シャーロット 妹の姦通が罪だと王家は言ったが、妹は姦通など行っていなかった
私の目の前で純潔を散らしたのだから

『あう・・ああ・・』
楽になりたい。

そう言ったところで声にはならず、歯のなくなった口からは空気だけが漏れる

首に熱い何かが当たったと思ったら、視界が反転する
ああ、首が落ちたのか。
目の前にさんざん私を犯した他の奴隷どもが笑っているのが見えた
どうやら最後の娯楽を奴らに与えたらしい

もうどうでもよかった。この地獄から抜け出せるのなら
二度と目覚めることがないことを神に祈りながら、私は37年の人生を終えたのだった。








よく見える。目を開けるとすべての物がハッキリと。色も形もよく認識できた。
ボーっとする頭で周りの景色を確認する
天井には天蓋があり、石鹸の匂いがする枕、白くやわらかな布団、肌触りの良いシーツ
これが天国か。
私は昔感じていた当たり前にある幸せを、再度体験できたことに目が熱くなるのを感じた

『兄上、起きてますか?』

死んだ弟の声がする。
デビット。騎士団に所属し、蛮族との闘いに巻き込まれ若くして戦死した。
金色のフワフワした髪の触り心地がよさそうで、私は手を伸ばす。

『兄上、生まれましたよ!』

いったい何が生まれたというのだ。その言葉にデビットの頭へ伸びた手が固まった。
よく見ると弟は幼の姿をしている。
デビットが戦死したのは彼が23の年になった時であった。


『デビット?どうしたその姿は・・それに何が生まれたというのだ?』


その姿という言葉に反応したデビットは、自身を上から下まで見て首をかしげる。
『変な格好してますか・・?あ、妹が生まれたのです。一緒に見に行きましょう。』


私の背丈の倍以上ある木製の扉の前に立つ。扉には細かな花や天使の彫刻が彫ってある。
『お坊ちゃまがた、旦那さまと奥様がお待ちしておりますよ。』
そういったのは執事のエバン。彼もわが家がおとりつぶしになったときに奴隷階級に落とされた。
最後に姿を見た時よりかなり若いが、天国に着いたら若返るものなのかと思った。
私の姿も弟の姿も、幼子に戻っていたからである。

木製の扉が開くと、懐かしい母の香水の匂いがした。
『おはよう二人とも。あなた達が守るべき妹が生まれたわ。ご挨拶して。名前は・・』

『シャーロット』

私の声に、両親驚いた顔を見せる。

『あら、私名前の候補伝えてたかしら・・?』
そんな母の声も耳に入らなかった。目の前に生まれたばかりのシャーロットがいる。
我がアドラー家血筋の証拠。金髪に緑の瞳。
生まれたばかりの女の子は眠っていて瞳の色は分からなかったが、シャーロットの小さなころの姿を思い出し
自然と笑みがこぼれる。

『お前も天国に来たのだな。私より先に死んだのに、どうして生まれた時の姿なのだ?』
『ディレク?あなたどうしたの?』
不安そうな声で私の名を呼んだ母を目にすると、亡くなった時の記憶にある母より若々しいことに気が付いた。

『医者を呼ぼう』
父のその言葉で自分がおかしな行動をしていることに気が付いた。
ここは天国ではない。これは妹シャーロットが生まれた時と同じ光景であることに気が付く

私は首を落とされ死んだのだ。奴隷階級に落とされ、慰み者となり家族の全員の死を看取った。
『父上、寝ぼけていたみたいです。シャーロット可愛いですね。』
両目から涙が零れる。
シャーロット、君はまた生を受けたのか。まだ狂う前にあれだけもう生まれたくないと言っていた君が。
『兄上、シャーロットが僕の指を握ったよ!』
デビット。若くして戦争で死んでしまった君が、私のことをまた兄上と呼んでくれるのか。
あれは何だったのだろうか。長い夢を見ていたのかディレクには分からなかったが、今だけは生まれたシャーロットのために幸せな人生を送れることを祈ろうと思った。
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