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それからまた、浅黄さんと他愛ない話をして時間を潰した。
 
そして、気がつくと辺りが橙色に染まっていた。
「時間が経つのは、早いんだな~」と浅黄さんは笑いながら言った。
「そうだな、浅黄さんと話してると時間を忘れちまうよ…」と背伸びをしながら俺は言った。
「なぁ、宗助…」と真剣な声色で俺の方を向き名を呼んだ浅黄さん。
俺は、その真剣な眼差しに少し戸惑った。
「な…なんだよ?」と目を泳がせながら、浅黄さんに返答した。
「ご両親は…どうだ?…元気にしてるのか?」と浅黄さんに言われた。
「………まぁ、手紙は来るから元気にしてるよ。」と俺は、少し顔を曇らせながら言った。
「辛くないか…??」と浅黄さんに言われ、俺は笑顔を無理やり作った。
「大丈夫だよ!母さんや父さんも治るって言ってたから!」
「………、宗助は強いなぁ」と浅黄さんに頭を撫でられながら言われた。
「まあな…、ここで弱音を吐いてちゃ次に進めねーよ」と軽く浅黄さんをあしらい、俺は立ち上がった。
「そうだな」と浅黄さんは庭を見ながら微笑んだ。


「……浅黄さん。」
「ん?」
「俺…そろそろ行くな。」
「あー、喜介と飲みに行くんだったな!」
「礼だけどな?」
「あんまり、飲み過ぎないようにな?」と浅黄さんに釘を打たれ俺は頷きながら玄関へ向かった。


そして、外へ出ると夕風が吹き身震いをした。
「家に帰って、四季に行くか…。」
俺は、稽古場から家までの道のりを歩き出した。

「………。」
俺は、歩いている間ずっと父さんや母さんの事を考えていた。
 流行病はやりやまいにかかってしまい、静かな所で療養している父さん・母さん。
 常に届く手紙からは、自身の事が書かれておらず、いつも俺の心配ばかりしていた。
 流行病は死ぬ、と噂で聞かされた時は泣くほど怖かった。母さんや父さんが流行病にかかった、と聞いた時は信じたくなかった。
  まだ、幼かった俺は母さんや父さんがキツそうにしているのを見ていられず、目や耳を覆って堪えていた。そして、母さんや父さんは医者の勧めで大阪へ療養しに行ってしまった。江戸に残された俺は、浅黄さんに引き取られた。
俺は、空を見上げ「久しぶりに会いたいな…」とボソリと呟いた。
 俺の声は、江戸内の賑やかな音に寄って掻き消された。
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