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第一部 ライアス編
序章
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幾年の歳月が経ったのだろうか。この世界に安息は来るのだろうか。
人間と魔族の戦いは続いているのだった。
今日も明日も世界のどこかで戦いは繰り広げられている。
時代は移り変わり、人も国も、新しい国王が治め時は過ぎてゆくのに…終わりの無い戦い…
この辺境にあるのどかな山間。緑は美しく川の流れも穏やかである。
魔族と言っても軍が動く程ではない。戦場とは遠くかけ離れた場所にある小さな村に一人の青年がいた。
彼は今年で19歳になる優しい性格の好青年だ。
「ライアス~」彼を呼ぶ声が山にこだまして聞こえる。呼んでいるのは、彼の幼なじみで同い年のマリアだ。
「ライアス、今日はどうだった?」黒い髪のまだ少女のような、いや幼さはあるが大人の美しい女性に変貌するであろうマリアがライアスにいつものように話し掛ける。
「今日はこれだけだったよ…」ライアスは少し恥ずかし気に苦笑いしながら答えた。彼は朝から山菜取りに出掛けていた。
「これだけかぁ…やっぱりババ様が言ってた事と関係しているのかな?」不安そうな声でライアスを見つめている。
「…さっき山菜を取りに山に行った時に煙を見たんだ。もう近くまで戦火が来てるんだなって。」ライアスは遠くを見るように悲しい声でマリアに伝えた。
「いよいよ戦いになるのか…父さんも母さんも村のみんなも、私も頑張らないとだね。」
「!?何を言ってるんだマリア!君まで戦うなんて!」慌ててライアスは言った。「確かにマリアはババ様に習って魔法が使える。だけど…君には殺し合いは向いて無い!」ライアスは必死に説得した。
だけどマリアは首をゆっくり横に振って「だって、そうしたら村のみんながライアスが…優しいみんながいなくなるなんて…」
「マリア…」
二人で村に帰る足取りが重かった。張り詰めた空気が重たい。無言のまま村を目指す。僕だっていつかは戦わなければいけない時が来る。それは分かっている。
しかしマリアもなんて…彼女は優しい、いや優し過ぎる。いつも笑顔で人は勿論、動物だって傷つくのが悲しむ子なんだ。そんな彼女を戦いに向かわせてはいけないんだ!ライアスは胸の内に強い想いを決意し村に戻ろうとした。
「!?」ライアスが異変に気付く。
「ライアス?どうしたの?」急に歩くのを止めたライアスを後ろからついてきたマリアが顔を覗き込んだ。
「村の様子が変なんだ。みんなの動きが…慌てているようだ。何かあったのかな、急ごうマリア。」「うん。」二人は村に急いだ。
バタバタと村では慌てて準備をしている。若い男達は村の広場に集まっていた。年老いた人達も村の周囲に作ってある柵の点検をしている。縄の緩んでいる所は締め直し補強している。
女達は炊き出しを行っている。子供達も荷車を使って物質を運ぶのを手伝っている。
広場の中央で男達に指示をしている屈強な男を見つけた。髭をたくわえ、全身がまるで筋肉の鎧で覆われているようだ。一目で「歴戦の戦士」と分かるだろう。
「お父さん!一体何があったの?」マリアは屈強な男に駆け寄って尋ねた。
この屈強な男はマリアの父ダムザであり、村のリーダー的存在である。かつてはこのエルド王国の騎士団長を勤めていたこともあり、マリアが生まれてからは第一線を退いた。
「マリア!ライアスも!無事だったか。」ダムザは二人が戻って来たことを安心しホッとしたが、すぐに表情が険しくなった。
「二人とも落ち着いて聞くんだ。ここから南東にあるラングル砦が魔族の手によって落ちた。」
「なっ!?」
「そんな…本当なの?お父さん!」マリアは震えている。
「昨晩、砦は襲撃されたそうだ。守備隊は全滅、生き延びた兵士が命と引き換えに伝えてくれた。」怒りと悔しさを込み上げながらダムザは言った。
がく然とする二人の所へ、いや指揮を採るダムザの所へ、一人の村人が走って来た。
「ダムザさん!大変だ!魔族が来るだぞ!もうミーニャのリンゴ畑まで迫ってるだ!」慌ててイル爺さんが息を切らして来た。
「みんな!武器を取れ!戦えない者はババ様の所へ行くんだ!」ダムザは村中に聞こえるくらいの威勢のある声で叫んだ!
ラングル砦に程近いこのエルローズの村はエルド王国の外れにある。ダムザは王国の元騎士団長だ、すでに王都に援軍の要請はしたのであろう。みんなで逃げても魔族に追いつかれてしまう。
ここエルローズの村はエルド王国の外れにあり、国境に近く魔族が来ても村のみんなが戦って食い止める。昔からその役割を果たしてきた。
ライアスとマリアも武器を持った。ライアスは一般の兵士が身に付けているのと同じロングソードだ。一方のマリアは先端に赤い色の魔力結晶が装飾されている魔導の杖。そしてダムザは両手剣を装備した。
村のみんなも剣に槍、弓等さすがに国境を守っていた村だけあり、装備は充実している。防具もプレートアーマーに鎖かたびらに盾を身に付けた。こちらの数は350人だ。
持ち場に着いた所で林の奥から気味の悪い叫び声や笑い声が聞こえてくる。
魔族だ……。
ゴブリンにオーガ、魔獣もいる。魔獣とはクマやイノシン、虎等の動物が魔障を浴び魔族化したものだ。続々と林から出てくる…
「数は1,000いや…2,000近くか」ダムザが呟く。予想以上の数だ…
村人達からは動揺の声が漏れてくる。
魔族の中に一体異なる個体がいる巨大な羽に真っ赤な目、そして鋭い爪。おそらくこの魔族の軍を束ねるリーダーだ。
そして…
その魔族の合図とともに一斉に村に襲いかかってくるのであった。
人間と魔族の戦いは続いているのだった。
今日も明日も世界のどこかで戦いは繰り広げられている。
時代は移り変わり、人も国も、新しい国王が治め時は過ぎてゆくのに…終わりの無い戦い…
この辺境にあるのどかな山間。緑は美しく川の流れも穏やかである。
魔族と言っても軍が動く程ではない。戦場とは遠くかけ離れた場所にある小さな村に一人の青年がいた。
彼は今年で19歳になる優しい性格の好青年だ。
「ライアス~」彼を呼ぶ声が山にこだまして聞こえる。呼んでいるのは、彼の幼なじみで同い年のマリアだ。
「ライアス、今日はどうだった?」黒い髪のまだ少女のような、いや幼さはあるが大人の美しい女性に変貌するであろうマリアがライアスにいつものように話し掛ける。
「今日はこれだけだったよ…」ライアスは少し恥ずかし気に苦笑いしながら答えた。彼は朝から山菜取りに出掛けていた。
「これだけかぁ…やっぱりババ様が言ってた事と関係しているのかな?」不安そうな声でライアスを見つめている。
「…さっき山菜を取りに山に行った時に煙を見たんだ。もう近くまで戦火が来てるんだなって。」ライアスは遠くを見るように悲しい声でマリアに伝えた。
「いよいよ戦いになるのか…父さんも母さんも村のみんなも、私も頑張らないとだね。」
「!?何を言ってるんだマリア!君まで戦うなんて!」慌ててライアスは言った。「確かにマリアはババ様に習って魔法が使える。だけど…君には殺し合いは向いて無い!」ライアスは必死に説得した。
だけどマリアは首をゆっくり横に振って「だって、そうしたら村のみんながライアスが…優しいみんながいなくなるなんて…」
「マリア…」
二人で村に帰る足取りが重かった。張り詰めた空気が重たい。無言のまま村を目指す。僕だっていつかは戦わなければいけない時が来る。それは分かっている。
しかしマリアもなんて…彼女は優しい、いや優し過ぎる。いつも笑顔で人は勿論、動物だって傷つくのが悲しむ子なんだ。そんな彼女を戦いに向かわせてはいけないんだ!ライアスは胸の内に強い想いを決意し村に戻ろうとした。
「!?」ライアスが異変に気付く。
「ライアス?どうしたの?」急に歩くのを止めたライアスを後ろからついてきたマリアが顔を覗き込んだ。
「村の様子が変なんだ。みんなの動きが…慌てているようだ。何かあったのかな、急ごうマリア。」「うん。」二人は村に急いだ。
バタバタと村では慌てて準備をしている。若い男達は村の広場に集まっていた。年老いた人達も村の周囲に作ってある柵の点検をしている。縄の緩んでいる所は締め直し補強している。
女達は炊き出しを行っている。子供達も荷車を使って物質を運ぶのを手伝っている。
広場の中央で男達に指示をしている屈強な男を見つけた。髭をたくわえ、全身がまるで筋肉の鎧で覆われているようだ。一目で「歴戦の戦士」と分かるだろう。
「お父さん!一体何があったの?」マリアは屈強な男に駆け寄って尋ねた。
この屈強な男はマリアの父ダムザであり、村のリーダー的存在である。かつてはこのエルド王国の騎士団長を勤めていたこともあり、マリアが生まれてからは第一線を退いた。
「マリア!ライアスも!無事だったか。」ダムザは二人が戻って来たことを安心しホッとしたが、すぐに表情が険しくなった。
「二人とも落ち着いて聞くんだ。ここから南東にあるラングル砦が魔族の手によって落ちた。」
「なっ!?」
「そんな…本当なの?お父さん!」マリアは震えている。
「昨晩、砦は襲撃されたそうだ。守備隊は全滅、生き延びた兵士が命と引き換えに伝えてくれた。」怒りと悔しさを込み上げながらダムザは言った。
がく然とする二人の所へ、いや指揮を採るダムザの所へ、一人の村人が走って来た。
「ダムザさん!大変だ!魔族が来るだぞ!もうミーニャのリンゴ畑まで迫ってるだ!」慌ててイル爺さんが息を切らして来た。
「みんな!武器を取れ!戦えない者はババ様の所へ行くんだ!」ダムザは村中に聞こえるくらいの威勢のある声で叫んだ!
ラングル砦に程近いこのエルローズの村はエルド王国の外れにある。ダムザは王国の元騎士団長だ、すでに王都に援軍の要請はしたのであろう。みんなで逃げても魔族に追いつかれてしまう。
ここエルローズの村はエルド王国の外れにあり、国境に近く魔族が来ても村のみんなが戦って食い止める。昔からその役割を果たしてきた。
ライアスとマリアも武器を持った。ライアスは一般の兵士が身に付けているのと同じロングソードだ。一方のマリアは先端に赤い色の魔力結晶が装飾されている魔導の杖。そしてダムザは両手剣を装備した。
村のみんなも剣に槍、弓等さすがに国境を守っていた村だけあり、装備は充実している。防具もプレートアーマーに鎖かたびらに盾を身に付けた。こちらの数は350人だ。
持ち場に着いた所で林の奥から気味の悪い叫び声や笑い声が聞こえてくる。
魔族だ……。
ゴブリンにオーガ、魔獣もいる。魔獣とはクマやイノシン、虎等の動物が魔障を浴び魔族化したものだ。続々と林から出てくる…
「数は1,000いや…2,000近くか」ダムザが呟く。予想以上の数だ…
村人達からは動揺の声が漏れてくる。
魔族の中に一体異なる個体がいる巨大な羽に真っ赤な目、そして鋭い爪。おそらくこの魔族の軍を束ねるリーダーだ。
そして…
その魔族の合図とともに一斉に村に襲いかかってくるのであった。
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