奇跡の星

かず

文字の大きさ
6 / 15
第一部 ライアス編

エルド王国(後編)

しおりを挟む
夜が明けた。とても日差しが心地よい。エルド王国の首都は強固な石造りの城だ。豪華絢爛というよりも、いにしえより魔族と戦ってきた為、所々修復された新しい石があるが見栄えよりも数々の歴戦に耐え抜いた堅牢な城だ。

ライアスとマリアは城の中に通される。甲冑を身に付けた騎士団に多くの国の重鎮達がいる。そしてその奥の玉座に座っているのは…国王様だ。その隣にはユミ姫も立っていた。

「よくぞ参った!私がこの国の王、エルド18世だ。」ひげをたくわえ70にもなる国王だが、その威厳がある声は、年齢よりも若く感じた。

「この度の戦いはユミ将軍より聞いておる。よく魔族を撃退してくれた。エルローズの村が落とされていたら、この国全土の民の血が流される所だった。本当にありがとう。」そういうと国王は立ち上がり二人に頭を下げた。

「そんな、国王様…頭をお上げください。」マリアが慌てて国王に伝える。

「私達は村から魔族を追い払う為に戦っただけですから…。」ライアスも続けて答える。

「ユミの言う通りの立派な若者達だのう。」

「はい、二人とも聡明で実力も申し分ありません。特にライアス殿は老師から三大奥義を教わっております。」

「な、なんと!あの聖林寺の最高師範である涎老師からか!?」

「はい、まだまだ未熟ですが老師から教わりました。国王様、私は魔王を倒す旅に出たいと存じます。」ライアスの瞳は強い決心で国王を見上げた。

その決意に周囲から動揺と驚きの声が聞こえた。無理もない。魔族に戦いを挑むのだ、しかも若い二人が…。

「ライアスよ、よくぞ申した。そなた達の様な若者が現れるとはな。じゃがな、魔族は知っての通り強い。覚悟の上なのか?」

「はい!」ライアスとマリアの声が揃った。

「うむ。さすれば今の状況をそなたらに教えた方が良いかもしれぬ。大臣!」

「はい。」

「この二人に今の世界の様子を説明してやってくれ。」

「はい、陛下。魔族は現在、各国に進軍をしています。そして…」

大臣によると、魔族は25の将軍の元に各兵力を分けて同時に戦いを仕掛けているようだ。

抗う術のない国は魔族に滅ぼされ、民は魔族の奴隷として使われるか、食料とされるか…悲惨ともいえる状況だ。

エルド王国は北西に位置しており、大陸にある国々の中でも歴史ある国で屈強な騎士団を抱えている。また建築技術も発展しており王都は防衛戦としても簡単陥落するような城ではない。

大陸の中央に位置しているのはマルクト王国である。騎士のエルドに対して魔法のマルクトと言われる魔法王国だ。こちらも魔族の撃退に成功しているらしい。エルド王国とも親交があり歴史も古い。魔族との大戦の際にも連合軍として幾度となく協力して戦っている。

大陸の東にあるのが商業都市のゴンバール都市だ。ここは商人の街であり国王はいない。独自に傭兵を雇い武装している。彼らも豊富な利益を用いて兵器を開発して魔族に対抗している。ただし、厄介なのは商人であり国との貿易はあっても協力して戦おうとはしない事だ。自治都市であり利益を優先に考えるのである。

大陸の遥か南に人が踏み入れる事の出来ない森と湖の国がある。そこには太古の昔より住んでいるとされる精霊の国がある。精霊達は自然を操る事が出来るとされ古の時代より人間と手を組み魔族と争っていたが、今は人間との交流はなく魔族に滅ぼされたのではないかとの情報だ。

そして大陸の遥か北の山々の頂上にはライアスの師匠である涎老師がいる聖林寺がある。かつて魔族と戦い、これを打ち倒したとされる奇跡の勇者が創設したとも伝えられているが、いつからあるのか不明である。ここでは寺と言っても全員が武僧であり、奇跡の勇者が魔王を倒したとされる技を代々伝えているとされている。

大臣は世界地図を使って主だった国々を説明してくれた。この他にも地図には載っていない小さな国や村等があるだろう。

だが今はその人々が無事に暮らしているのかは分からないままだ。

最後に大臣が世界地図の一番東にある場所を指した。そこには先程とは違い細かくはかかれあてはいないが、ライアスとマリアはすぐに理解した。

「かの地こそ邪悪な魔王が支配する魔族の国じゃ。」国王が大臣の横から入って二人に語りかける。

「歴史ではのう、およそ二百年前に大戦が起こったとされている。人類の方から連合軍を編成し、かの地に各国の多くの若者達が挑んだが誰一人帰って来なかった……。」
   
「国王陛下、大臣様、説明して頂きありがとうございます!僕は、まず老師に会って心威把を会得したいと思います。」

「そうか…では聖林寺に向かうのか。あい分かった、旅に向けての路銀と武器と防具を準備いたそう。」

「ありがとうございます!」ライアスとマリアは同時に国王に感謝の意を伝えた。

「ライアス殿、マリア殿!魔王を倒し無事に戻って来てくれ!待っている。」瞳にうっすら涙を浮かべてユミ将軍が二人に伝えた。

「ユミ将軍!僕達の村を…この国を守ってください!!」

「ユミ姫様!平和になったら是非エルローズ村にお越しください。よろしければ城下町を一緒に歩きましょう!」

三人は誓い合った。先日の戦いが初対面なのに、まるで幼き頃からの旧知の仲のように誰もが感じた。

国王は父として感じていた、本当はユミもこの二人と一緒に戦いたいのであろう。共に旅をして魔王を倒したいのだと…しかし、それは叶わないという事はユミも分かっているのだ。だから何も言わずにいるのだと。

「ライアス、マリアよ。二人とも、ようく聞くのじゃ。これから厳しく辛い旅が待っておる。じゃが、そなた達が長き旅の末、魔王の治める国に向かう際には必ず、ユミ将軍率いる我が精鋭騎士団を派遣させよう!」

「お、お父様…あっ、いや、陛下!必ず援軍として駆け付けて存分に魔王の国で奴らを蹴散らしてみせます!」

「国王陛下…!あ、ありがとうございます!必ず!」

ライアスもマリアもユミも驚きと動揺を隠せなかった。だが同時に三人の若者の目は輝いていた。必ずこの世界を魔王から救ってみせると!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...