捨てられ令嬢の恩返し 投資のお礼に溺愛嫁っぷり、見せつけましょう

灯息めてら

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1,ぼろぼろ陰陽令嬢、拾われる

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夕闇の濃さが地に染み、冷えた風が吹き抜ける廃寺の片隅に、それは転がっていた。赤黒い泥にまみれた四肢、血に染まった顔。それでも桜花おうかの目は、ただ空を見上げていた。

月は細く、遠い。
命の灯火のようにほんのりと揺れている。

「おやおや、こりゃまた、ひどいもんだねぇ」

不意に鈴のような声が耳に届いたとき、桜歌の視界にすっと影が差した。
黒い着流しに、艶のある長髪。香のような甘い匂いが、血と泥の匂いに混ざる。男はしゃがみこみ、桜歌の顔を覗き込んだ。

「こんなになってまで、よく生きてたものだよ? いや……まだ死んでないって表現が正しいか」

声に同情の色はない。
ただ、どこか面白がっているような胡散臭い調子があった。

桜歌の唇がわずかに動く。しかし何も声にも言葉にもなりはしない。それを見て、彼はくすくすと笑う。

「ああ、喋らなくていい。君、陰陽の春海家令嬢だね? それなのに、霊力回路も壊されて、体内組織もめちゃくちゃ。いやあ、まともな医者でも、匙を投げるレベルだ」

男は楽しそうに微笑む。

「やったのは氷室家かな。あそこのやり口は卑怯なんだよねえ。気に入らない道具はすぐ壊して捨てる。ふん、わざわざこんな辺鄙なところに捨てたということは……誰にも拾われてほしくなかったってとこか」

柔らかな物言いの裏に、何層もの皮肉が潜んでいる。桜歌はただ、視線をそらすことしかできなかった。

「はは。ならさ、拾うよね? 僕はこういう『捨てられた価値』ってのが、案外好きでね」

そう言って、男は懐から銀色の小瓶を取り出した。ちゃぽ、と何か液体が揺れている。

御堂紫苑みどうしおん――商人だ。戦闘なんて野蛮なことはごめんだけど、物と人を見る目には自信がある。君には投資の価値があると見た」

紫苑は瓶の中身を桜歌の唇に無理やり押し当てた。苦い液体が喉を焼いた。体の奥底がきしむように疼き、痛みに呻き声が漏れた。それは救いではなかった。慈悲でもなかった。彼の目にあるのは商人の光。利用価値の有無を測る、冷たい天秤の輝きだ。

「――っ」
「警戒しているのかなぁ。はは、安心していいよ。僕は買ったものはちゃんと手入れする主義。君がどこまで壊れていようと、直す価値があるならば、いくらでも手間をかけよう」

紫苑は艶やかに笑った。桜歌の血にまみれた体を、豪華な着物が汚れるのもためらわずに抱き上げる。その言葉に、返す声はなかった。ただ、どこか遠くで、夜鳥の声が虚空に響いていた。
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