捨てられ令嬢の恩返し 投資のお礼に溺愛嫁っぷり、見せつけましょう

灯息めてら

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12,予感

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春から初夏へ。季節が移り変わるように、桜歌と紫苑の関係も、少しずつ、確実に変化していた。
最初は「嫁」という仕事の一環だったはずのものも、いつの間にか――本物の何かに変わりつつあった。

朝、起きると紫苑が庭で茶を淹れている。
「おはよう」と声をかけると、「おはよう、よく眠れた?」と返ってくる。

その日常が、あまりにも自然で、あたたかい。

桜歌は、自分がこの生活を"当たり前"だと思い始めていることに気づいていた。

(……これって、もう……)

言葉にするのが、怖かった。けれど、心の奥では、もうわかっていた。

自分は、紫苑のことが――


ある朝のこと。桜歌が縁側で朝食を食べていると、紫苑がふと隣に座った。

「ねえ、桜歌」
「はい?」
「君、最近、また綺麗になったね」

唐突な言葉に、桜歌は箸を落としそうになった。

「な、なに急に……!」
「いや、本当に。最初に会ったときとは、まるで別人みたいだ……それだけ、幸せだってことなのかな?」

紫苑の声は、いつになく優しかった。

「君が笑ってる顔を見ると、僕も幸せになる……安心するよ。変だよね、商人なのに、利益とか関係なく、ただ君の笑顔が見たいって思ってる」
「……っ」

桜歌は、顔が真っ赤になるのを感じた。

「し、紫苑……朝からなに言ってるんですか……!」
「事実だよ。僕はね、君のことを――」

その先を、紫苑は言わなかった。ただ、桜歌の頭をそっと撫でた。
虫の声。風の音。静かな朝の気配の中――ふと、紫苑が口を開いた。

「桜歌」
「……なんですか?」
「僕ね、最初は本当に、投資のつもりだったんだ」

その言葉に、桜歌はぎくりとした。

「君を拾ったのも、育てたのも、隣に置いたのも――全部、利益のためだった……最初は、ね」
「……」
「でも、いつの間にか、変わってた。君の笑顔が見たくて、君の声が聞きたくて、君が幸せでいてほしくて……それが、いつからか、僕の全てになっていた」

紫苑は、ゆっくりと桜歌の方を向いた。
その目は真剣で、優しくて、少しだけ――怯えているようにも見えた。

「だから、もう投資とか商売とか、そういう言い訳はやめようと思う」
「……紫苑……」
「僕は君が好きだ。愛してる。君を手放したくない」

その言葉に、桜歌の目に涙が滲んだ。

「桜歌、僕の名前をもらって」
「……っ」
「君が"御堂桜歌"になってくれたら、僕は――世界で一番幸せな人間になれる」

紫苑の手が、そっと桜歌の頬に触れた。

「……答えは、急がなくていい。でも、僕の気持ちだけは、伝えておきたかった」

桜歌は、涙をぬぐって、ふるふると首を振った。

「……急がなくていいって、なんですか……」
「え?」
「私、もう……ずっと前から……」

桜歌は、紫苑の目をまっすぐに見つめた。

「……好きです、紫苑のこと。愛してます」

その瞬間、紫苑の目が大きく見開かれた。

「……本当に?」
「本当です。……だから、ください。私、御堂桜歌になります」
「……っ!」

紫苑は、思わず桜歌を抱きしめた。

「……ありがとう。ありがとう、桜歌……」

その声は、震えていた。
桜歌も、そっと紫苑の背中に手を回した。

「……こちらこそ。拾ってくれて、ありがとうございます」

ふたりはただ抱き合っていた。長い、長い時間。
そして――

紫苑がそっと顔を上げ、桜歌の顔を見つめた。

「……いい?」

その意味を理解して、桜歌は小さく頷いた。紫苑の唇が、そっと桜歌の唇に触れた。

柔らかく、優しく、けれど確かに――ふたりの想いを確かめ合うように。

長いキスが終わり、紫苑が桜歌の額に自分の額を合わせた。

「愛してる、桜歌」
「……私も。愛してます、紫苑」

春の朝は、ふたりの愛を静かに祝福していた。
しばらく見つめ合って、ふたりは同時に笑った。

「なんか、恥ずかしいですね……」
「うん。でも、幸せだろう?」

紫苑は桜歌の手を取った。

「今日から、君は僕の本物の嫁だね」
「……まだ正式には……」
「でも、もう決めたでしょ? だったら、僕らの中ではもう決定事項」

そう言って、紫苑は桜歌の手の甲にキスをした。

「……っ!」
「これくらい愛情表現でしょ。これから毎日するから、慣れてね?」
「無理ですよそんなの……!」

ふたりの笑い声が、柔らかく朝の屋敷に響いていた。
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