Rainy Cat

mito

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Present#4 異変-change-

Present#4 異変-change-

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「それどころか、引き取り手の『富岡修三』。コイツもまたキナ臭ぇ。ま、この街の古株でヤクザに関わりのない人間なんかいねーからな。黒に違いない。

で、富岡修三亡き後は、修三のもう一人の『養子』が富岡を育てたらしいんだが、ここにも問題があってな。いくら探しても、富岡修三には『日野小太郎』以外と養子縁組を組んだ形跡がない」


ふぅ、と白い煙が辺りに広がる。
窓の向こうは底抜けの青が広がり、余計影が落ちる遠藤の人相を、悪人に仕立てる。


「富岡の家はな、道場を開いてる。だから育て親の名前は直ぐに分かった。『富岡静流』、優秀な師範なようで門下生からは絶大な人気を集めてる。結構なこった」

「富岡、『シズル』……?」

「まぁ名前だけじゃなんとも言い難いけどな。日野運送のお得意様から考えると、多分お前の想像は正解だろうよ。ま、もう一点根拠を挙げるとしたら、富岡の両親の事故だな。ありゃお得意様の依頼中だったって話だ」


組のトップ層の名前と言うのは、要注意人物としてリストに挙がっている。

その中に『シズル』の名前が一つあったことを、時田はよく覚えている。


この世の中に『シズル』という人物が何人居るかは知らない。

だが遠藤の性格からして、この場面で小物の『シズル』を持ち出すはずがない。彼は『富岡静流』が、時田さえも知る『シズル』だという確証を持っているのだろう。

多分、遠藤が描くシナリオは、こうだ。

富岡が『富岡修三』に引き取られた要因は、富岡の両親がお得意様のヤクザの抗争に巻き込まれたため。


「お得意様は」

「朝比奈御一行様、だな」


日野夫婦は初めから朝比奈に確約させていたのかもしれない。運び屋になる代わりに、もし自分達がその手の抗争に巻き込まれた場合、朝比奈が息子の後見人になると。

そうなると、日野夫婦は個人的に朝比奈先代組長と親交があったとも考えられる。

真実はまだ闇の中。
ただ、この仮説が成り立つなら、『富岡シズル』の正体は濃厚だ。


時田は棚からファイルを取り出しめくる。
五十音で並ぶ紙の束から、その名前は、すぐに見つかる。

朝比奈組本家嫡男
朝比奈静流

その人物だと。


「……全部調べて、報告したんスか」


時田にもたらされた情報は、全て紙面に書かれていないものばかりだ。もしかすると富岡自身も全ては知らないだろう。


「まさか。俺が求められたのは、ホシを挙げることだ。それ以外は個人的な興味に過ぎん。上もぺーぺー警官がでしゃばるのは気に食わねぇだろ?」


食えない狸だ。飄々と言ってのける遠藤を横目に時田は、独白する。

それさえも聞き取ったように遠藤はまたにやりとタイミング良く笑った。


「まぁなんだ。偉そうなこと言っといてなんだが。俺も富岡を良いとこの坊っちゃんだと思ってた。だから余計、『死神』への異様な反応に興味が沸いた。それがまさかこんな結果になるとは、な」

「俺は、富岡さんは『死神』と個人的に関係があるだけで、ヤクザ自体とは関わってないと思います」

「んなこたぁ俺も思ってるつの、ば新人。『富岡シズル』が何者であれ、富岡に対してはしっかりした親の立場を貫いたに違いねぇ。そいつは今の富岡小太郎みてりゃ分かる。俺の予想じゃ、アイツはこの話の欠片すら知らねぇだろうよ」



時田も同じように思う。
きっと富岡は知らないだろう。


「でも上からすりゃ、んなもん関係ねぇ。身内にホシが居るっつーのは外に漏れると大変だが、イロイロと探りやすいつー利点もある。大体警察もバカじゃねぇ。『死神』が誰、なんて今更どうでもいいんだよ。ヤクザに介入するきっかけが欲しいだけだ。富岡はその意味できっかけの宝庫。てなわけで、今日付けで組対の奴が来るから」

「はいわかり……てはぁ!?」

危うく頷きかけて時田は慌てて首を振った。組体というのは組織犯罪対策本部の略。昔は捜索第四課と呼ばれた。
主に暴力団、銃器や違法薬物などを取り扱う組織だ。
そこまで話が進んでいたことにも驚きだが、遠藤は一体いつから富岡のことを疑い、調べていたと言うのか。

富岡が『死神』に反応し始めたのは、最近だ。しかしこの数ヶ月だけでここまで情報を集めることは可能だろうか。


「表向きは援助。真相は言った通り。お前も無駄なことは言う必要ねーから。俺も私情で集めた情報を提供するなんて公私混同は許せない質でね」

「それこそ公私混同……」

「食えない狸にも部下の平凡たる家庭を守るだけの情はあんだよ、察しろ」



ふぅ、白い煙が流れていく。


なんとなくその先を目で追っていくと、開かれた窓の向こうに見慣れた自転車が飛び込んできた。

富岡だ。
西区の見回りが終わったのだろう。
その時、反対側から乗用車が滑るように視界に入り込んで、止まる。


軽快な扉が開く音。
チリン、と自転車のベルが鳴る。


「あぁ、そうだ。来るやつだけどな。お前の憧れ様だぜ。あれからもう五年か、ここで働いてた……」 

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