勇者だった俺は死に戻りして知った――魔王を殺せば世界が滅ぶので、今度は勇者を止めることにした

ポポリーナ

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地下の攻防

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 大聖堂の地下二階。禁術の儀式の間の前で、ミラとジークは壁に身を潜めていた。

 廊下には浄罪の目の兵士が四人。儀式の間の扉の前に二人、廊下の両端に一人ずつ。全員が剣を帯び、聖印の護符を胸に下げている。

「四人か」ジークが囁いた。「多いな」

「前に来た時は二人だったのに。やっぱり警戒されてる」

「お前が聖遺物をずらしたのがバレたか」

「バレてない。バレてたら、もっと増えてるでしょ」

 ジークが口の端を上げた。

「やり方は任せていいか」

「もちろん。あたしの得意分野だし」

 ミラが小石を拾い、廊下の奥に向かって投げた。乾いた音が反響する。端の兵士が振り返り、剣の柄に手をかけた。

「何だ」

「鼠か。最近多いな」

 その一瞬の隙に、ジークが動いた。影のように廊下を滑り、最も近い兵士の背後に回る。腕を首に巻き、締め上げる。声も出させず、意識を奪った。

 同時にミラが天井の梁を蹴って飛び、二人目の兵士の頭上に着地した。両脚で首を挟み、体重をかけて倒す。床に叩きつけられた兵士の口を手で塞ぐ。

 残り二人が異変に気づいた。だがジークが既に距離を詰めている。剣の柄頭で一人の側頭部を打ち、ミラが四人目の膝裏を蹴って崩した。

 十秒。四人の兵士が廊下に倒れた。全員生きている。だが暫くは目を覚まさない。

「手際いいね」ミラが息を整えた。

「お前もな」

 ミラが懐から針金を取り出し、儀式の間の扉の鍵を開けた。

 扉の向こう——前回と同じ光景が広がっていた。石の台座。銀色の器。六つの聖遺物。そして巻物。

 だが——一つ違う点があった。

「器の液体が増えてる」ミラの目が鋭くなった。「前に来た時より——倍くらいある。禁術の触媒が強化されてる」

 ジークが巻物を手に取った。

「読めるか」

「古代文字は無理。でも注釈は読める」

 ジークが巻物を広げた。マルティウスが書き加えた現代語の注釈が、前回より増えている。

「『聖剣の共鳴を利用し、禁術の範囲を拡大する。対象を遠距離からでも捕捉可能にする改良』——おい、これは」

「聖剣と連動させる気だ。アルヴィンが聖剣を解放すると同時に、禁術が発動する」

 ミラの血の気が引いた。

「つまり——アルヴィンは知らずに禁術の触媒にされてる」

「マルティウスは勇者すら道具にするってわけだ。——気に入らねえ」

 ジークの目に、珍しく怒りの色が浮かんだ。傭兵は利害で動く。だが——知らぬ間に道具にされることだけは、許せない。自分がそうされてきたから。

「壊すぞ」ジークが言った。

「壊す? 巻物を?」

「巻物だけじゃねえ。台座ごと全部だ」

 ジークが剣を抜いた。ミラも短剣を引き抜いた。

 二人は同時に動いた。ジークの剣が台座を叩き割り、銀色の器が床に落ちて液体が広がった。ミラが聖遺物を一つずつ蹴り飛ばし、配置を完全に崩す。巻物はジークが引き裂いた。

 破壊は一分で終わった。儀式の間は瓦礫と液体にまみれ、禁術の痕跡は跡形もなくなった。

「これで禁術は使えない。巻物も術式の配置も消えた」

「マルティウスが記憶から再現する可能性は」

「あるだろうな。だが今夜は無理だ。時間は稼いだ」

 ミラは頷いた。レイドに伝えなければ。禁術は潰した。あとは——アルヴィンを止めることと、残滓の回収だ。

「行こう。レイドが待ってる」


  ◇


 大聖堂の地下三階。

 ガレスの大盾が、石の階段を塞いでいた。

「ここから先には通さねえ。誰であろうとな」

 リーシャとカイルは階段を駆け下りていた。三階への道は前回と同じ——だが今回は聖教会の兵士がいない。主力は大広間に集められ、聖剣の解放儀式の警備に回されているのだろう。

 地下三階の広間に出た。以前、リーシャが覚醒を中断された場所。柱の残滓が——まだそこにあった。

 五つの柱のうち、最初に砕かれた柱。千年前の大聖堂建設の礎となった力。その残滓が、床の石畳の下で微かに脈動していた。

「前と同じです」リーシャが両手を石畳に当てた。「ここにある。呼んでいる——私を」

「五分だったな」カイルが弓を構え、広間の入口を警戒した。

「五分で十分です。三つの残滓が導いてくれる」

 リーシャが目を閉じた。銀色の光が両手から石畳に流れ込み、地下深くの残滓と共鳴した。

 石畳が割れた。床の下から、青い光が噴き上がった。前回よりも強い。三つの残滓を持つリーシャの力が、四つ目の残滓を引き寄せている。

 力が体に流れ込んだ。

 一分。二分。

 リーシャの体が光に包まれた。髪が舞い上がり、碧眼が完全に銀色に変わった。四つ目の残滓は——三つ目より素直だった。体が手順を覚えている。力の受け入れ方を知っている。

 三分。

 階段の上から、叫び声が聞こえた。ガレスの声だ。

「来やがった! 浄罪の目だ! 五人——いや、八人!」

 金属がぶつかる音。ガレスの大盾が剣を受け止める衝撃音が、地下に反響した。

「カイル!」ガレスが叫んだ。「階段に来い! 一人じゃ抑えきれん!」

 カイルがリーシャを振り返った。

「行って。私は——あと二分で終わります」

「一人にできるか」

「大丈夫です。守り手の防壁がある」

 リーシャの体から銀色の防壁が展開された。前回より遥かに強い。四つの残滓の力が、防壁を厚くしている。

 カイルは頷き、弓を構えて階段を駆け上がった。

 リーシャは一人になった。

 四つ目の力が体に流れ込んでいく。世界の地脈が——さらに鮮明に見える。王都全体の魔力の流れ。大聖堂の石壁に刻まれた千年前の術式。そして——大広間から放たれている異質な光。聖剣の力。

「アルヴィン様が——聖剣を——」

 リーシャの目に映った。大広間で、聖剣が金色の光を放ち始めている。マルティウスの声が、儀式の祝詞を唱えている。

 急がなければ。

 四分。五分。

 結晶が砕けた。最後の光がリーシャの体に吸い込まれ——静寂が戻った。

 四つ目の残滓。完了。

 リーシャは立ち上がった。体が軽い。いや——重い。四つの柱の力が体内で渦を巻いている。だがそれは混沌ではなく、秩序だ。四つの力が互いを補い、安定している。

 世界の地脈が——手に取るように分かる。大陸全体の魔力の流れが、一本の糸のように見える。そして——ヴェルディアの負荷が、さらに軽くなったことを感じた。

「ヴェルディア様——もう少しです。あと一つで——」

 階段から戦闘の音が響いている。ガレスとカイルが、浄罪の目を食い止めている。

 リーシャは防壁を展開したまま、階段に向かった。仲間を助けに。そして——大広間に向かうために。

 聖剣の光を、止めなければならない。
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