勇者だった俺は死に戻りして知った――魔王を殺せば世界が滅ぶので、今度は勇者を止めることにした

ポポリーナ

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大広間の対峙

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 大聖堂の大広間は、金色の光に満ちていた。

 ステンドグラスが聖剣の輝きに照らされ、天井に虹の波紋を描いている。広間の中央にアルヴィンが立ち、聖剣を頭上に掲げていた。白銀の鎧が光を反射し、碧眼が燃えるように輝いている。

 その周囲を、聖騎士が三十人ほど取り囲んでいた。祭壇の奥にマルティウスが立ち、銀の杖を握っている。白い祭服。長い白髭。千年の組織を率いる老人の目が、儀式の進行を見守っている。

 セレナがアルヴィンの傍に跪き、祈りを捧げていた。だがその手は——震えていた。

 エドモンが祭壇の階段の下に立ち、周囲を警戒している。

 レイドは広間の裏口から忍び込んだ。柱の影に身を隠し、状況を見渡した。

 マルティウスの声が広間に響いていた。

「勇者アルヴィンよ。聖剣に宿る神の力を解放し、遠き魔王の地を浄化せよ。これぞ千年の悲願——」

「やめろ、マルティウス」

 レイドが柱の影から歩み出た。

 広間が静まり返った。三十人の聖騎士が一斉に剣を抜き、レイドに向けた。エドモンが即座に前に出て、剣の柄に手をかけた。

「異端者レイド」エドモンの声は冷たい。「アルヴィン様に近づくな」

「エドモン。少しだけ時間をくれ」

「時間? お前に与える時間などない」

 アルヴィンが聖剣を下ろした。金色の光が僅かに弱まる。

「レイド」

 アルヴィンの声には——怒りではなく、困惑があった。

「なぜここにいる。お前は異端として追われている身だ。ここに来れば——」

「捕まるか、殺されるか。分かっている」

 レイドは両手を広げて見せた。武器は持っていない。剣は腰に帯びているが、鞘から抜いていない。

「話がある。アルヴィン——お前に、全てを話す」

「全て?」

「ああ。俺がなぜ魔王の側についたか。なぜ聖教会に逆らっているか。そして——聖剣を解放すると何が起こるか」

 マルティウスの目が細まった。銀の杖が僅かに揺れた。

「アルヴィン。この男の戯言に耳を貸すな。異端者の口は毒を吐く」

「黙れ、マルティウス」レイドの声が広間に響いた。「お前こそ——千年間、世界を騙し続けてきた張本人だ」

 聖騎士たちがざわめいた。マルティウスの表情は変わらないが、杖を持つ手の関節が白くなった。

「アルヴィン」レイドは真っ直ぐにアルヴィンの目を見た。「俺は——死に戻りをした」

 沈黙。

「一度、この世界の未来を経験した。勇者として魔王を倒した。そして——世界が崩壊するのを見た」

 アルヴィンの碧眼が揺れた。

「何を——」

「魔王は世界を支える柱だ。均衡の柱。かつて五つあった柱のうち四つを——千年前に聖教会が砕いた。残る最後の一つがヴェルディアだ。彼女を殺せば——世界が崩壊する。一周目で、俺はそれを見た。大地が裂け、空が割れ、仲間が——」

 レイドの声が詰まった。

「お前に殺された。一周目の俺は、崩壊を止めようとしたが——誰にも信じてもらえなかった。お前に『裏切り者』と呼ばれ、聖剣で——」

 レイドは左手を上げた。ヴェルディアの紋様が光っている。

「この紋様は魔王ヴェルディアの力の一部だ。柱の力がこの体にも宿っている。俺を殺せば——柱の力がさらに失われる」

 アルヴィンの手が震えた。聖剣の光が不安定に明滅している。

「嘘だ」

「嘘じゃない。お前の聖剣が——その証拠だ。聖剣は柱を砕くために鍛えられた武器だ。だからこの紋様に反応する。だから俺に向かって光る。聖剣の真の用途は——魔王討伐ではなく、柱の破壊だ」

 アルヴィンが聖剣を見下ろした。金色の光が——確かにレイドの方角に引かれるように輝いている。

「マルティウス」アルヴィンが振り返った。「これは——」

「惑わされるな、アルヴィン」マルティウスの声は穏やかだった。だが穏やかさの下に、氷がある。「異端者の口から出る言葉は全て毒だ。聖剣は神の武器。柱を砕く道具などではない」

「なら——なぜ聖剣は、レイドに反応するのですか」

 セレナが口を開いた。

 広間が再び静まった。セレナは跪いた姿勢から立ち上がり、アルヴィンとマルティウスの間に立った。

「セレナ——」

「私も感じています。魔王領で調査した時——神の力と魔王の力は、同じ根源でした。聖印が魔王の力と共鳴した。枢機卿——あなたはそれを知っていた」

 マルティウスの仮面が——僅かに罅割れた。

「セレナ。お前も異端に染まったか」

「異端ではありません。真実を求めているだけです」

 広間に緊張が走った。聖騎士たちの中に動揺が広がる。聖女の言葉は——重い。マルティウスの教えと、セレナの証言の間で、彼らの信仰が揺れている。

 その時——広間の大扉が開いた。

 銀色の光が、廊下から流れ込んできた。

 リーシャが立っていた。

 四つの残滓を宿した守り手。銀色の光が全身から溢れ、碧眼が銀に輝いている。その光は——聖剣の金色と対を成すように、広間を二色に染め上げた。

「これが——守り手の力です」

 リーシャの声が、広間の隅々に響いた。

「千年前に聖教会が滅ぼした、世界を支える力。柱の補助者。私は——その血を引く者」

 聖騎士たちが後ずさった。守り手の光が——彼らの聖印と共鳴している。聖印が自ら光を放ち、リーシャの力に応えている。

 アルヴィンの聖剣が——震えた。金色の光が揺らぎ、一瞬だけ——銀色に染まった。

「——何だ、これは」

 アルヴィンの声が掠れた。聖剣が——レイドやリーシャに向かって光るのではなく、共鳴している。敵を示す光ではなく——同じ源から来た力を認識する光。

「お前たちの言っていることが——本当なのか」

 アルヴィンの碧眼が、マルティウスを見た。

 マルティウスの表情は——初めて、完全に仮面が剥がれた。そこにあったのは穏やかな老人ではなく、千年の秘密を守るために何でもする男の冷たい目だった。

「——愚かな」

 マルティウスが銀の杖を振り上げた。
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