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泉への道
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ヴェルデ聖堂。
十人が、聖堂の地下入口に立っていた。レヴァルスからの船旅は一日。穏やかな海だった。
「ここから——泉まで降りるのは二度目だ」レイドが地下への階段を見下ろした。「前回は——封印を修復するために。今回は——」
「世界を完成させるために」アルヴィンが続けた。聖剣を握る手に力が入っている。
地下通路は長い。石壁に刻まれた古代の文字が、松明の光で揺れていた。
「この文字——読めますか、ヴェルディアさん」セレナが壁を指差した。
「神代文字だ。『世界の根に至る者——その覚悟を問う』と書いてある」
「覚悟か」ガレスが壁を叩いた。「充分だ。一週間——あの地獄の訓練をやったんだからな」
「地獄って——リーシャの訓練のことか」ミラが笑った。
「あの嬢ちゃんの鬼教官ぶりは——歴代の傭兵団長より怖い」
リーシャが振り返った。
「聞こえています、ガレスさん」
「褒めてるんだよ」
通路が下り坂になった。空気が変わる。地上の乾いた空気から——湿った、重い空気へ。魔力の密度が上がっている。
「地脈の集束点に近づいている」リーシャが足を止めた。「魔力が——濃い。呼吸が重くなる」
「耐えろ。泉の傍はもっと濃い」ヴェルディアが言った。
さらに下った。一時間。二時間。通路は螺旋を描き、どこまでも深くなる。
途中、通路の壁に——古い傷跡があった。爪で引っ掻いたような、深い溝。
「これは——」レイドが立ち止まった。
「竜の爪痕だ」ヴェルディアが足を止めた。「三千年前——ここを通った時の。まだ残っていたか」
「ヴェルディアさんが——竜の姿で?」セレナが傷跡に手を触れた。
「ああ。まだ——人間の体を持つ前だ。竜の姿のまま、泉まで降りた。通路が狭くて——壁を削りながら進んだ」
ヴェルディアの声に——微かな郷愁があった。三千年前の自分。竜であり、一人で世界を背負おうとしていた頃の。
「今は——十人で降りている。狭い通路も楽だ」ミラが笑った。
「ああ。——楽だな」
通路はさらに続いた。壁の傷跡が——時折現れる。三千年前の竜の道標。ヴェルディアが一人で歩いた道を——今は十人で歩いている。
やがて——空間が開けた。
◇
巨大な地下空洞。
天井は見えない。壁面に青白い苔が光り、空洞全体を淡い光で満たしている。
中央に——泉があった。
直径三十メートルほどの円形の水面。澄んだ水が——静かに光っている。水底から——光の柱が立っている。
「これが——新しい柱」レイドが呟いた。
泉の中央から天に向かって伸びる光の柱。俺たちが作った柱だ。封印修復の時に——十人の魔力で立てた柱。
「美しい——」セレナが息を呑んだ。「こんなに——美しいものだったんですね」
柱の光は純白。だが——よく見ると、十色の光が混ざっている。十人それぞれの魔力の色が。
「あれを——止めるのか」アルヴィンが聞いた。
「一時的に」リーシャが答えた。「柱を停止し、水底の——世界の核を露出させます。そこに十人が潜り、回路を完成させる。——数分以内に」
「水の中で——魔力を使えるのか」ミラが聞いた。
「泉の水は——普通の水ではない。魔力の結晶体です。水中でも魔力操作は可能。むしろ——泉の水が媒介となって、魔力の伝達効率が上がる」
「つまり——泳ぎながら魔法を使えと」ガレスが顔をしかめた。
「潜るだけです。水底は——浅い。三メートルほど」
「それなら——まあ」
ヴェルディアが泉の縁に立ち、水面を見下ろした。琥珀色の瞳に——複雑な感情が浮かんでいる。
「三千年前——ここで世界を支え始めた。そして今——ここで世界を完成させる。因果が——巡っている」
「感傷に浸るな」ジークが言った。「——まだ終わっていない」
「分かっている」
ヴェルディアが振り返った。琥珀色の瞳に——決意が宿っていた。
ヴァレリウスが泉の水を手ですくった。水が——掌の上で淡く光った。
「この水——教会の聖水とは比べ物にならない。これが本物の——世界の血液か」
「聖水は泉の水を薄めたものだと言われている」リーシャが近寄った。「精霊たちが運ぶ——世界の恵み。その源がここにある」
「教会の教えでは——泉は神々の涙だと。だが実際には——世界の循環系の中核だった。教義と現実は——いつも少しずれている」
ヴァレリウスが水を泉に戻した。光の波紋が広がる。
「だが——今日、現実を知った。それでいい。教義は人間が作ったもの。世界は——神々が作ったもの。どちらが正しいかではなく——どちらも人間が生きるためにある」
◇
泉の周囲に陣を張った。
休息と最終確認のために——一晩を過ごす。明日の夜明けに——儀式を始める。
レイドは泉の縁に座り、光の柱を見つめていた。
「レイド」
リーシャが隣に座った。
「明日——うまくいくと思うか」
「理論上は——完璧です。でも——怖い。正直に言えば」
「俺もだ」
水面が静かに揺れている。光の柱が——微かに脈動している。世界の心臓の鼓動のように。
「でも——やるしかない。この世界を——次の世代に渡すために」
「ああ。——リーシャ。お前がいなければ、ここまで来れなかった」
「私一人では——何もできませんでした。みんながいたから」
二人は——しばらく、泉の光を見つめていた。明日——全てが変わる。
十人が、聖堂の地下入口に立っていた。レヴァルスからの船旅は一日。穏やかな海だった。
「ここから——泉まで降りるのは二度目だ」レイドが地下への階段を見下ろした。「前回は——封印を修復するために。今回は——」
「世界を完成させるために」アルヴィンが続けた。聖剣を握る手に力が入っている。
地下通路は長い。石壁に刻まれた古代の文字が、松明の光で揺れていた。
「この文字——読めますか、ヴェルディアさん」セレナが壁を指差した。
「神代文字だ。『世界の根に至る者——その覚悟を問う』と書いてある」
「覚悟か」ガレスが壁を叩いた。「充分だ。一週間——あの地獄の訓練をやったんだからな」
「地獄って——リーシャの訓練のことか」ミラが笑った。
「あの嬢ちゃんの鬼教官ぶりは——歴代の傭兵団長より怖い」
リーシャが振り返った。
「聞こえています、ガレスさん」
「褒めてるんだよ」
通路が下り坂になった。空気が変わる。地上の乾いた空気から——湿った、重い空気へ。魔力の密度が上がっている。
「地脈の集束点に近づいている」リーシャが足を止めた。「魔力が——濃い。呼吸が重くなる」
「耐えろ。泉の傍はもっと濃い」ヴェルディアが言った。
さらに下った。一時間。二時間。通路は螺旋を描き、どこまでも深くなる。
途中、通路の壁に——古い傷跡があった。爪で引っ掻いたような、深い溝。
「これは——」レイドが立ち止まった。
「竜の爪痕だ」ヴェルディアが足を止めた。「三千年前——ここを通った時の。まだ残っていたか」
「ヴェルディアさんが——竜の姿で?」セレナが傷跡に手を触れた。
「ああ。まだ——人間の体を持つ前だ。竜の姿のまま、泉まで降りた。通路が狭くて——壁を削りながら進んだ」
ヴェルディアの声に——微かな郷愁があった。三千年前の自分。竜であり、一人で世界を背負おうとしていた頃の。
「今は——十人で降りている。狭い通路も楽だ」ミラが笑った。
「ああ。——楽だな」
通路はさらに続いた。壁の傷跡が——時折現れる。三千年前の竜の道標。ヴェルディアが一人で歩いた道を——今は十人で歩いている。
やがて——空間が開けた。
◇
巨大な地下空洞。
天井は見えない。壁面に青白い苔が光り、空洞全体を淡い光で満たしている。
中央に——泉があった。
直径三十メートルほどの円形の水面。澄んだ水が——静かに光っている。水底から——光の柱が立っている。
「これが——新しい柱」レイドが呟いた。
泉の中央から天に向かって伸びる光の柱。俺たちが作った柱だ。封印修復の時に——十人の魔力で立てた柱。
「美しい——」セレナが息を呑んだ。「こんなに——美しいものだったんですね」
柱の光は純白。だが——よく見ると、十色の光が混ざっている。十人それぞれの魔力の色が。
「あれを——止めるのか」アルヴィンが聞いた。
「一時的に」リーシャが答えた。「柱を停止し、水底の——世界の核を露出させます。そこに十人が潜り、回路を完成させる。——数分以内に」
「水の中で——魔力を使えるのか」ミラが聞いた。
「泉の水は——普通の水ではない。魔力の結晶体です。水中でも魔力操作は可能。むしろ——泉の水が媒介となって、魔力の伝達効率が上がる」
「つまり——泳ぎながら魔法を使えと」ガレスが顔をしかめた。
「潜るだけです。水底は——浅い。三メートルほど」
「それなら——まあ」
ヴェルディアが泉の縁に立ち、水面を見下ろした。琥珀色の瞳に——複雑な感情が浮かんでいる。
「三千年前——ここで世界を支え始めた。そして今——ここで世界を完成させる。因果が——巡っている」
「感傷に浸るな」ジークが言った。「——まだ終わっていない」
「分かっている」
ヴェルディアが振り返った。琥珀色の瞳に——決意が宿っていた。
ヴァレリウスが泉の水を手ですくった。水が——掌の上で淡く光った。
「この水——教会の聖水とは比べ物にならない。これが本物の——世界の血液か」
「聖水は泉の水を薄めたものだと言われている」リーシャが近寄った。「精霊たちが運ぶ——世界の恵み。その源がここにある」
「教会の教えでは——泉は神々の涙だと。だが実際には——世界の循環系の中核だった。教義と現実は——いつも少しずれている」
ヴァレリウスが水を泉に戻した。光の波紋が広がる。
「だが——今日、現実を知った。それでいい。教義は人間が作ったもの。世界は——神々が作ったもの。どちらが正しいかではなく——どちらも人間が生きるためにある」
◇
泉の周囲に陣を張った。
休息と最終確認のために——一晩を過ごす。明日の夜明けに——儀式を始める。
レイドは泉の縁に座り、光の柱を見つめていた。
「レイド」
リーシャが隣に座った。
「明日——うまくいくと思うか」
「理論上は——完璧です。でも——怖い。正直に言えば」
「俺もだ」
水面が静かに揺れている。光の柱が——微かに脈動している。世界の心臓の鼓動のように。
「でも——やるしかない。この世界を——次の世代に渡すために」
「ああ。——リーシャ。お前がいなければ、ここまで来れなかった」
「私一人では——何もできませんでした。みんながいたから」
二人は——しばらく、泉の光を見つめていた。明日——全てが変わる。
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