勇者だった俺は死に戻りして知った――魔王を殺せば世界が滅ぶので、今度は勇者を止めることにした

ポポリーナ

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揺らぎ

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 柱が——消えた。

 純白の光が霧散し、泉の水面が暗くなった。同時に——地鳴りが響いた。足元が揺れる。

「始まった——」ヴェルディアが呟いた。「均衡が崩れている」

 天井から砂が落ちた。洞窟全体が——震えている。遠くで——何かが崩れる音。

「急げ。——全員、泉に入れ」レイドが叫んだ。

 十人が泉に飛び込んだ。水は——冷たくない。温かくもない。温度がない。魔力の結晶体。体が——浮く。水中なのに——呼吸ができる。

「これが——泉の水」セレナが驚いた。「息が——」

「魔力が酸素の代わりをしている」リーシャが説明した。「気にせず——水底へ」

 全員が潜った。三メートル。水底に——紋様が刻まれていた。巨大な魔法陣。世界の核。

 紋様の一部が——欠けている。断線した回路。これが——神々が残した未完成の部分。

「見えるか——」レイドが水中で声を出した。魔力が音を運ぶ。全員に聞こえる。

「見えます。——各自、担当回路の位置へ」

 十人が水底の紋様の上に散らばった。それぞれが——自分の担当回路の欠けた部分の前に立つ。

 レイドの目の前にある欠けた回路。東西軸の主回路。訓練で何百回も——魔力で描いた紋様。

「全員——準備はいいか」リーシャの声が響いた。

 九つの声が——同時に応えた。

「いい」

「準備完了」

「いつでも」

「やろう」

「イルヴァーン——聞こえていますか」

 水底の紋様が——赤く光った。封印を通じて——イルヴァーンの力が繋がっている。

「聞こえている」低い声が水中に響いた。「いつでもいい」

「では——」

 リーシャが息を吸った。

「三——」

 全員が手に魔力を集中した。それぞれの回路の形に——魔力を整形する。

「二——」

 十の光が——水底を照らした。青。赤。金。緑。銀。紫。白。橙。碧。琥珀。十人の魔力の色。

「一——」

 全員が——手を水底の紋様に押し当てた。

 十の魔力が——同時に流れ込んだ。


  ◇


 世界が——震えた。

 泉の水が渦を巻いた。水底の紋様が——次々と光り始めた。欠けていた回路が——魔力で埋まっていく。

 レイドは手から魔力を注ぎ続けた。東西軸の主回路。紋様が——腕を通じて体に伝わってくる。世界の脈動が——直接感じられる。

 大きい。あまりに大きい。世界の核は——想像を超えていた。一人の魔力では到底足りない。だが——十人の魔力が合わされば。

「順調だ——」ヴェルディアの声が聞こえた。「主回路、三本とも正常に注入されている」

「副回路も——問題ありません」リーシャが応えた。

 水底の紋様が——七割ほど埋まった。残り三割。あと一分——いや、二分か。

 その時——

 異変が起きた。

 水底の紋様の中心——十の回路が集束する点。そこから——赤い光が噴き出した。

「何だ——」レイドが叫んだ。

 赤い光が——イルヴァーンの力だ。封印を通じて送られてくる補助の力。だが——量が違う。補助ではない。奔流だ。

「イルヴァーン——何をしている」ヴェルディアが叫んだ。

「……すまない」

 イルヴァーンの声が——静かに響いた。

「嘘をついた」

 赤い光が——紋様を浸食し始めた。十人の魔力で描かれた回路の上を——赤い力が上書きしていく。

「やめろ——」レイドが手を紋様から離そうとした。だが——離れない。魔力が——吸い込まれている。手が紋様に貼りついて動かない。

「何が——起きている」アルヴィンが叫んだ。聖剣が金色に輝いているが——聖剣の光すら赤い光に飲まれていく。

「イルヴァーンが——回路を書き換えている」リーシャの声が震えた。「私たちの設計ではなく——イルヴァーンの設計で。深淵の力を使って——」

「最初から——これが目的だったのか」ヴェルディアの声に——怒りと悲しみが混じった。

「違う」イルヴァーンの声が答えた。「最初は——本当にお前たちの方法を信じようとした。だが——見てしまった。お前たちの回路が完成する過程を。——足りない。人間の魔力では——足りないんだ。回路は完成しても——維持できない。百年で劣化する。また——同じことの繰り返しだ」

「それは——」リーシャが反論しようとした。

「数学的に正しい。お前の設計は——美しい。だが材料が足りない。人間の魔力では——永遠は作れない。だから——深淵の力で補う。お前の設計を土台にして——私の力で永続性を与える」

「勝手に——」

「三千年——待った。もう待てない。——許してくれ」

 赤い光が——さらに強まった。泉全体が赤く染まっていく。

 水面の上——地下空洞の天井が崩れ始めた。地鳴りが止まらない。世界が——悲鳴を上げている。
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