13 / 34
5層への階段——最初の壁と最初の覚悟
しおりを挟む
高く、鋭い音。何かが空を切っている。高速で飛翔する何かの、翼の音。間隔をおいて繰り返されるリズム。旋回飛行の音だ。
一颯は4層と5層の間のセーフルームの壁にもたれて、鑑定ウィンドウを見つめていた。5層の情報を先読みしている。光苔の翡翠色の光が、鑑定データの青い文字に重なって目に映る。
「5層は、今までとは違う」
三島が隣に座っている。膝を抱えて、同じ風切り音を聞いている。顔は平静だが、膝を抱える手に力が入っている。
「関門層っすか」
「ああ。ボスを倒さなければ先に進めない。そしてボスは再出現しない。一回きりの勝負だ」
営業マン時代、一回きりの大型プレゼンは何度もあった。だがあの頃の失敗は失注で済んだ。今回の失敗は——命に関わる。
5層ボスの鑑定結果を、もう何度も読み返した。
『5層ボス:刃翼のヴァルチャー
分類:飛行型魔獣
等級:A-
翼長:6.2m
飛行速度:最大時速120km(巡航時60km)
攻撃パターン:急降下斬撃→翼刃展開→周回飛行→繰り返し
翼刃:翼端に装備された刃状の骨格——切断力はBランク武器相当
周回飛行パターン:反時計回り・3周で1セット
1周目:天井から3mの高度
2周目:天井から5mの高度(加速フェーズ)
3周目:天井スレスレ(天井から0.5m以内——鍾乳石との接触リスクあり)
弱点:腹部の非装甲部位(飛行中は露出しない、地上落下時のみ攻撃可能)
推奨攻略:飛行を阻害し、地上に落とす手段が必要
備考:近接攻撃が当たる確率は極めて低い(飛行速度と機動性のため)』
「近接攻撃がほぼ当たらない。時速百二十キロの飛行型で、空を飛んでる限り弱点が露出しない」
三島が率直に言った。
「俺の腕じゃ厳しいっす。地上で殴り合うならAランクにも負けない自信ありますけど、空飛ばれたら——手が出ません」
正直だ。三島は自分の実力を客観的に見ている。虚勢を張らない。営業マン時代に出会ったどの同僚より、この男は自分を知っている。等級A-。今までの敵とは格が違う。3層のガーディアンがB+、4層のサーペントがB。5層のボスはそこからさらに一段上だ。
しかも飛行型。地上戦なら三島の強化打撃は頼りになるが、空を飛ばれたら届かない。時速百二十キロで旋回する六メートルの翼を、地上から攻撃するのは——弓矢でジェット機を撃ち落とすようなものだ。
「一旦、配信は休止する。対策を練るのが先だ」
「了解っす。先輩が作戦立てるまで、俺は体力作りに専念しますんで」
三島はそう言って、セーフルームの壁に背中を預けた。信頼されている。作戦を立てるのは俺の仕事だと、三島は完全に委ねてくれている。
その信頼に応えなければならない。
◇
翌日、久我山の店を訪ねた。
「飛行型にはトラップ系の装備だ」
久我山は即答した。テーブルに広げた5層の鑑定データを一瞥しただけで、結論を出した。
「殴れないなら、落とせ。落とすには、環境を使え。お前さんの武器は鑑定だ。環境そのものを武器にしろ」
久我山の言葉はいつも短い。だがその短い言葉の中に、八層まで到達したBランク探索者の経験が凝縮されている。
一颯は5層の地形データを鑑定で詳細に調べた。ボス部屋の天井。高さ約十五メートル。広さは体育館ほどの円形闘技場。そして天井には、多数の鍾乳石がぶら下がっている。
鍾乳石に鑑定をかけた。
『天井鍾乳石群
本数:推定47本(大型12本、中型20本、小型15本)
大型鍾乳石:平均重量850kg、長さ2.3m、直径0.6m
付け根の強度:打撃耐性低(衝撃120kg相当で破断——強化打撃を込めた投石で到達可能)
落下時の衝撃力:推定2,800kg相当(高度15mから自由落下の場合)
備考:鍾乳石は天然ではなく、ダンジョン構造物として設計・配置されたもの
落下可能な位置にあるのは設計上の意図——攻略ギミックとして機能する
ヴァルチャーの3周目飛行ルートと、大型鍾乳石12本中4本の位置が一致する』
「攻略ギミック——つまり、落とすのが正解なんだ」
このダンジョンの設計者は、ボスの攻略法を環境に組み込んでいる。鍾乳石は飾りじゃない。武器だ。ゲームの攻略ギミックと同じ発想。プレイヤーが気づくかどうかを試している。
テーブルに広げた5層の地形スケッチに、マーカーで書き込んだ。鍾乳石の位置を赤。ヴァルチャーの周回飛行パターンを青。3周目のルートを太線で。
3周目——天井から0.5メートル以内。鍾乳石の先端との距離は、場所によってはゼロに近い。飛行ルートと鍾乳石の位置が重なるポイントは四箇所。その中で最も確率が高いのは——
「12番の鍾乳石。北北西方向。3周目のルートのど真ん中だ。ここに八百五十キロの鍾乳石を落とせば、翼に直撃する」
「いけるっすね! でも鍾乳石をどうやって落とすんですか。高さ十五メートルっすよ」
「投石だ。付け根は衝撃百二十キロで破断する。三島くんの強化打撃を乗せた拳大の石なら——」
「余裕っす!」
三島が拳を叩く。テーブルが揺れて、スケッチがずれた。マーカーの線が蛍光灯の下で光っている。
「問題はタイミングだ。3周目で天井スレスレを飛ぶ瞬間——ウィンドウは数秒しかない。俺が鑑定でリアルタイムに飛行位置を追いかけて、投石のタイミングを指示する。予測分析が使えるなら、飛行ルートの先読みもできるはずだ」
三島がテーブルの上のスケッチを真剣に見つめている。普段は軽い男だが、こういう時の集中力はすごい。スケッチの赤い点と青い線を指でなぞりながら、自分の体の動きをイメージしているようだった。
「先輩、鍾乳石の付け根に当てるなら、真下からじゃなくて斜め横から投げた方がいいっすね。真下だと、落ちてくる鍾乳石と自分がぶつかる」
鋭い。三島は見た目の印象と違って、空間認識能力が高い。体育大学で鍛えた感覚だろう。
「その通りだ。投石ポイントは鍾乳石の真下から十メートル離れた位置。そこから強化打撃を乗せた投石で付け根を狙う」
久我山がコーヒーを出してくれた。苦い。だがこの苦さが、今は覚悟の味に感じられた。
「二人で行くのか」
久我山が低い声で訊いた。火傷の跡がある手で、カップを包み込んでいる。
「はい」
「気をつけろよ。飛行型は読みが外れた時が怖い。鑑定を過信するな」
久我山の言葉は重い。八層で仲間を失った男の言葉だ。鑑定がなかったから、罠に気づけなかった——あの後悔を背負った男の。
「あと——これを持っていけ」
久我山がカウンターの下から、小さな包みを出した。開けると、防御結界符が二枚入っていた。
「前に買ったのと同じやつだ。一枚は三島の分。お前さんたち二人とも生きて帰ってこい」
代金を訊こうとしたら、久我山に手で制された。
「いらん。宣伝費だ」
嘘だ。宣伝費なんかじゃない。この人は——俺たちを心配しているのだ。不器用な男の、不器用な優しさ。かつて八層で仲間を守れなかった男が、今度は——俺たちを守ろうとしている。
「ありがとうございます」
声が少しだけ、震えた。
◇
その夜、自宅に戻って配信で告知した。
「明日、5層ボスに挑みます」
視聴者のコメントが爆発した。期待と不安と激励が入り混じって、コメント欄が滝のように流れていく。
『待ってました!!!!』
『世界最速いけるか!? サードダンジョン5層の最速記録は14日だぞ!!』
『マコト:お前ならやれる。作戦は練ってあるんだろ。信じてるぞ』
『ドクター:怪我だけはするなよ。薬草は多めに持っていけ。包帯も余分に。飛行型のボスは落下時に破片が飛ぶ。防護も考えろ』
画面をスクロールしていると、DMの通知が入った。
差出人不明。メッセージにはIDの代わりにハンドルネームだけが記されていた。
『5層ボスの真の攻略法を教える。
見返りは、あなたの鑑定データの全ログ。
——シロ』
深夜のアパートの静けさの中で、DMの通知音だけが鋭く響いた。冷蔵庫の唸り声。窓の外の車の音。それ以外は——静寂。あのリストラされた夜と同じ音の構成。だが今の俺は、あの時とは違う場所にいる。
シロ。初回配信から全てを見ていた視聴者。鑑定のUIが「普通と全然違う」と最初に指摘した人物。久我山の店に「鑑定データに詳しい若い女」として現れた人物。
鑑定データの全ログ。それと引き換えに——5層ボスの攻略情報を提供する。
(何者なんだ、こいつは)
鑑定データの全ログには、ダンジョンの構造情報が含まれている。設計メモ。行動アルゴリズム。管理者権限の痕跡。それを第三者に渡すということは——
だがシロは、最初から俺の鑑定を見守ってくれていた人でもある。視聴者三人のテスト配信から、ずっと。コメント欄で分析データを共有し、他の視聴者には見えないものを指摘してきた。「予測分析が追加された」と気づいたのも、シロが一番早かった。この人は、俺の鑑定を——俺以上に理解しようとしている。
「真の攻略法」。俺が鑑定で読み取った鍾乳石ギミック以外に、まだ何かあるのか。
迷う。だがまず、明日のボス戦だ。
スマホを枕元に置いた。通知の青い光が、暗い部屋で微かに脈動していた。
明日、5層ボスに挑む。等級A-の飛行型魔獣。時速百二十キロの翼。一回きりの勝負。
久我山がくれた結界符を握りしめた。三島の真っ直ぐな目を思い出す。マコトの「信じてる」を思い出す。ドクターの「怪我するな」を思い出す。
シロの謎めいたDMだけが、まだ答えのない宿題として残っている。
目を閉じた。明日のために、眠らなければ。だが心臓は、もう明日の戦いを始めているかのように——速く、強く、打ち続けていた。
一颯は4層と5層の間のセーフルームの壁にもたれて、鑑定ウィンドウを見つめていた。5層の情報を先読みしている。光苔の翡翠色の光が、鑑定データの青い文字に重なって目に映る。
「5層は、今までとは違う」
三島が隣に座っている。膝を抱えて、同じ風切り音を聞いている。顔は平静だが、膝を抱える手に力が入っている。
「関門層っすか」
「ああ。ボスを倒さなければ先に進めない。そしてボスは再出現しない。一回きりの勝負だ」
営業マン時代、一回きりの大型プレゼンは何度もあった。だがあの頃の失敗は失注で済んだ。今回の失敗は——命に関わる。
5層ボスの鑑定結果を、もう何度も読み返した。
『5層ボス:刃翼のヴァルチャー
分類:飛行型魔獣
等級:A-
翼長:6.2m
飛行速度:最大時速120km(巡航時60km)
攻撃パターン:急降下斬撃→翼刃展開→周回飛行→繰り返し
翼刃:翼端に装備された刃状の骨格——切断力はBランク武器相当
周回飛行パターン:反時計回り・3周で1セット
1周目:天井から3mの高度
2周目:天井から5mの高度(加速フェーズ)
3周目:天井スレスレ(天井から0.5m以内——鍾乳石との接触リスクあり)
弱点:腹部の非装甲部位(飛行中は露出しない、地上落下時のみ攻撃可能)
推奨攻略:飛行を阻害し、地上に落とす手段が必要
備考:近接攻撃が当たる確率は極めて低い(飛行速度と機動性のため)』
「近接攻撃がほぼ当たらない。時速百二十キロの飛行型で、空を飛んでる限り弱点が露出しない」
三島が率直に言った。
「俺の腕じゃ厳しいっす。地上で殴り合うならAランクにも負けない自信ありますけど、空飛ばれたら——手が出ません」
正直だ。三島は自分の実力を客観的に見ている。虚勢を張らない。営業マン時代に出会ったどの同僚より、この男は自分を知っている。等級A-。今までの敵とは格が違う。3層のガーディアンがB+、4層のサーペントがB。5層のボスはそこからさらに一段上だ。
しかも飛行型。地上戦なら三島の強化打撃は頼りになるが、空を飛ばれたら届かない。時速百二十キロで旋回する六メートルの翼を、地上から攻撃するのは——弓矢でジェット機を撃ち落とすようなものだ。
「一旦、配信は休止する。対策を練るのが先だ」
「了解っす。先輩が作戦立てるまで、俺は体力作りに専念しますんで」
三島はそう言って、セーフルームの壁に背中を預けた。信頼されている。作戦を立てるのは俺の仕事だと、三島は完全に委ねてくれている。
その信頼に応えなければならない。
◇
翌日、久我山の店を訪ねた。
「飛行型にはトラップ系の装備だ」
久我山は即答した。テーブルに広げた5層の鑑定データを一瞥しただけで、結論を出した。
「殴れないなら、落とせ。落とすには、環境を使え。お前さんの武器は鑑定だ。環境そのものを武器にしろ」
久我山の言葉はいつも短い。だがその短い言葉の中に、八層まで到達したBランク探索者の経験が凝縮されている。
一颯は5層の地形データを鑑定で詳細に調べた。ボス部屋の天井。高さ約十五メートル。広さは体育館ほどの円形闘技場。そして天井には、多数の鍾乳石がぶら下がっている。
鍾乳石に鑑定をかけた。
『天井鍾乳石群
本数:推定47本(大型12本、中型20本、小型15本)
大型鍾乳石:平均重量850kg、長さ2.3m、直径0.6m
付け根の強度:打撃耐性低(衝撃120kg相当で破断——強化打撃を込めた投石で到達可能)
落下時の衝撃力:推定2,800kg相当(高度15mから自由落下の場合)
備考:鍾乳石は天然ではなく、ダンジョン構造物として設計・配置されたもの
落下可能な位置にあるのは設計上の意図——攻略ギミックとして機能する
ヴァルチャーの3周目飛行ルートと、大型鍾乳石12本中4本の位置が一致する』
「攻略ギミック——つまり、落とすのが正解なんだ」
このダンジョンの設計者は、ボスの攻略法を環境に組み込んでいる。鍾乳石は飾りじゃない。武器だ。ゲームの攻略ギミックと同じ発想。プレイヤーが気づくかどうかを試している。
テーブルに広げた5層の地形スケッチに、マーカーで書き込んだ。鍾乳石の位置を赤。ヴァルチャーの周回飛行パターンを青。3周目のルートを太線で。
3周目——天井から0.5メートル以内。鍾乳石の先端との距離は、場所によってはゼロに近い。飛行ルートと鍾乳石の位置が重なるポイントは四箇所。その中で最も確率が高いのは——
「12番の鍾乳石。北北西方向。3周目のルートのど真ん中だ。ここに八百五十キロの鍾乳石を落とせば、翼に直撃する」
「いけるっすね! でも鍾乳石をどうやって落とすんですか。高さ十五メートルっすよ」
「投石だ。付け根は衝撃百二十キロで破断する。三島くんの強化打撃を乗せた拳大の石なら——」
「余裕っす!」
三島が拳を叩く。テーブルが揺れて、スケッチがずれた。マーカーの線が蛍光灯の下で光っている。
「問題はタイミングだ。3周目で天井スレスレを飛ぶ瞬間——ウィンドウは数秒しかない。俺が鑑定でリアルタイムに飛行位置を追いかけて、投石のタイミングを指示する。予測分析が使えるなら、飛行ルートの先読みもできるはずだ」
三島がテーブルの上のスケッチを真剣に見つめている。普段は軽い男だが、こういう時の集中力はすごい。スケッチの赤い点と青い線を指でなぞりながら、自分の体の動きをイメージしているようだった。
「先輩、鍾乳石の付け根に当てるなら、真下からじゃなくて斜め横から投げた方がいいっすね。真下だと、落ちてくる鍾乳石と自分がぶつかる」
鋭い。三島は見た目の印象と違って、空間認識能力が高い。体育大学で鍛えた感覚だろう。
「その通りだ。投石ポイントは鍾乳石の真下から十メートル離れた位置。そこから強化打撃を乗せた投石で付け根を狙う」
久我山がコーヒーを出してくれた。苦い。だがこの苦さが、今は覚悟の味に感じられた。
「二人で行くのか」
久我山が低い声で訊いた。火傷の跡がある手で、カップを包み込んでいる。
「はい」
「気をつけろよ。飛行型は読みが外れた時が怖い。鑑定を過信するな」
久我山の言葉は重い。八層で仲間を失った男の言葉だ。鑑定がなかったから、罠に気づけなかった——あの後悔を背負った男の。
「あと——これを持っていけ」
久我山がカウンターの下から、小さな包みを出した。開けると、防御結界符が二枚入っていた。
「前に買ったのと同じやつだ。一枚は三島の分。お前さんたち二人とも生きて帰ってこい」
代金を訊こうとしたら、久我山に手で制された。
「いらん。宣伝費だ」
嘘だ。宣伝費なんかじゃない。この人は——俺たちを心配しているのだ。不器用な男の、不器用な優しさ。かつて八層で仲間を守れなかった男が、今度は——俺たちを守ろうとしている。
「ありがとうございます」
声が少しだけ、震えた。
◇
その夜、自宅に戻って配信で告知した。
「明日、5層ボスに挑みます」
視聴者のコメントが爆発した。期待と不安と激励が入り混じって、コメント欄が滝のように流れていく。
『待ってました!!!!』
『世界最速いけるか!? サードダンジョン5層の最速記録は14日だぞ!!』
『マコト:お前ならやれる。作戦は練ってあるんだろ。信じてるぞ』
『ドクター:怪我だけはするなよ。薬草は多めに持っていけ。包帯も余分に。飛行型のボスは落下時に破片が飛ぶ。防護も考えろ』
画面をスクロールしていると、DMの通知が入った。
差出人不明。メッセージにはIDの代わりにハンドルネームだけが記されていた。
『5層ボスの真の攻略法を教える。
見返りは、あなたの鑑定データの全ログ。
——シロ』
深夜のアパートの静けさの中で、DMの通知音だけが鋭く響いた。冷蔵庫の唸り声。窓の外の車の音。それ以外は——静寂。あのリストラされた夜と同じ音の構成。だが今の俺は、あの時とは違う場所にいる。
シロ。初回配信から全てを見ていた視聴者。鑑定のUIが「普通と全然違う」と最初に指摘した人物。久我山の店に「鑑定データに詳しい若い女」として現れた人物。
鑑定データの全ログ。それと引き換えに——5層ボスの攻略情報を提供する。
(何者なんだ、こいつは)
鑑定データの全ログには、ダンジョンの構造情報が含まれている。設計メモ。行動アルゴリズム。管理者権限の痕跡。それを第三者に渡すということは——
だがシロは、最初から俺の鑑定を見守ってくれていた人でもある。視聴者三人のテスト配信から、ずっと。コメント欄で分析データを共有し、他の視聴者には見えないものを指摘してきた。「予測分析が追加された」と気づいたのも、シロが一番早かった。この人は、俺の鑑定を——俺以上に理解しようとしている。
「真の攻略法」。俺が鑑定で読み取った鍾乳石ギミック以外に、まだ何かあるのか。
迷う。だがまず、明日のボス戦だ。
スマホを枕元に置いた。通知の青い光が、暗い部屋で微かに脈動していた。
明日、5層ボスに挑む。等級A-の飛行型魔獣。時速百二十キロの翼。一回きりの勝負。
久我山がくれた結界符を握りしめた。三島の真っ直ぐな目を思い出す。マコトの「信じてる」を思い出す。ドクターの「怪我するな」を思い出す。
シロの謎めいたDMだけが、まだ答えのない宿題として残っている。
目を閉じた。明日のために、眠らなければ。だが心臓は、もう明日の戦いを始めているかのように——速く、強く、打ち続けていた。
11
あなたにおすすめの小説
異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。
葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。
だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。
突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。
これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。
素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。
名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。
最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~
華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』
たったこの一言から、すべてが始まった。
ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。
そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。
それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。
ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。
スキルとは祝福か、呪いか……
ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!!
主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。
ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。
ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。
しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。
一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。
途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。
その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。
そして、世界存亡の危機。
全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した……
※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。
「魔神」を拾ったら、なぜか懐かれてトップ配信者に!? 最強の美少女魔神と、巨大すぎるワンコ(フェンリル)と送る、バズりまくりの同
伊部 なら丁
ファンタジー
現代日本、ダンジョン配信全盛期。
視聴者数「0人」が定位置の底辺配信者・ソラは、ある日、ダンジョンの未踏破区域で「人類の天敵」とされる伝説の魔神と遭遇する。
死を覚悟したソラだったが、絶世の美少女の姿をした魔神・ティアグラが興味を示したのは——ソラの持っていた「焼きそばパン」と「スマホ」だった!?
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
阿里
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
殲滅(ジェノサイド)ですわ~~!! ~異世界帰りの庶民派お嬢様、ダンジョン無双配信を始めます~
SAIKAI
ファンタジー
「わたくしの平穏なニート生活を邪魔するゴミは……殲滅(ジェノサイド)ですわ~~!!」
ブラック企業の理不尽な上司に対し、「代わりがいくらでもいるとおっしゃるなら、さっそくその有能な方を召喚なさってはいかが?」と言い残し、颯爽と退職届を置いてきた華園凛音(はなぞのりおん)。
実家で優雅なニート生活を満喫しようとした彼女だったが、あろうことか自宅の裏庭にダンジョンが出現してしまう。
「お庭にゴミを捨てるなんて、育ちが悪くってよ?」
実は彼女、かつて学生時代に異世界に召喚され、数多の魔王軍を「殲滅(ジェノサイド)」してきた伝説の勇者だった。
現代に戻り力を封印していた凛音だが、暇つぶしと「デパ地下のいいケーキ代」を稼ぐため、ホームセンターで購入したお掃除用具(バール)を手に、動画配信プラットフォーム『ToyTube』でのダンジョン配信を決意する!
異世界の常識と現代の価値観がズレたままの凛音がバールを一振りするたび、世界中の視聴者が絶叫し、各国の専門家が物理法則の崩壊に頭を抱え、政府の調査団が土下座で資源を請い願う。
しかし本人はいたって庶民派。
「皆様、スパチャありがとうございますわ! これで今夜は高い方のメンチカツですわ! 最高ですわ~~!!」
これは、本人は至って普通の庶民派お嬢様だと思っているニートが、無自覚に世界ランクをのぼり詰める殲滅の記録。
ダンジョンをある日見つけた結果→世界最強になってしまった
仮実谷 望
ファンタジー
いつも遊び場にしていた山である日ダンジョンを見つけた。とりあえず入ってみるがそこは未知の場所で……モンスターや宝箱などお宝やワクワクが溢れている場所だった。
そんなところで過ごしているといつの間にかステータスが伸びて伸びていつの間にか世界最強になっていた!?
{完結保証}規格外の最強皇子、自由に生きて無双する〜どこへ行っても、後世まで語られる偉業を残していく、常識外れの皇子〜
Saioonji
ファンタジー
母に殴られ、命を奪われた――そのはずだった。
だが目を覚ました先は、白く豪奢な王城の一室。
赤子の身体、仕えるメイド、そして“皇子”という立場。
前世では愛されず、名前すら価値を持たなかった少年が、
今度は世界の中心に生まれ落ちてしまった。
記憶を失ったふりをしながら、
静かに、冷静に、この世界を観察する皇子。
しかし彼の中には、すでに常識外れの思考と力が芽生えていた。
――これは復讐でも、救済でもない。
自由を求めただけの少年が、
やがて国を、歴史を、価値観そのものを揺るがしていく物語。
最強であることすら、彼にとってはただの前提条件だった。
重複投稿作品です
小説家になろうとカクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる