黒猫の俺は魔女に大嫌いな人間に姿を変えられちまったので元に戻るためにロックバンドコンテストで優勝目指すことにした

柊るい

文字の大きさ
3 / 14
第1章

You Really Got Me

しおりを挟む
起きると、すでに陽は傾いていた。

いつもなら、ホワイトの屋根で昼過ぎから夕方頃まで寝て過ごすが、今日はそうはいかなかった。

こうした日は、適当な寝床を探す。

今日は民家のベランダに、ちょうど良い寝床があったのでそこで眠っていた。

身体を伸ばして顔を洗っていると、腹が鳴る。

今日の夕飯はどうしようか。

ホワイトに戻って飯をもらっても良かったが、確かこの近くに魚屋があったはずだ。

あそこの親父は、機嫌が良いと魚の切れ端をくれる。

久しぶりに魚でも食うか。


そう決めて塀の上を歩いていると、前に一匹の白猫が座っているのが見えた。

後ろを向いているので、顔は見えない。

見たことがない奴だ。慎重に歩みを進めた。

どんな奴かわからないときは、警戒するに越したことがない。

身体が大きく見えたが、少しずつ近寄るとそれは毛が長いからだとわかった。

猫がこちらを振り返る。女の子だった。

しかもとんでもなく美しい。


白い綿毛のなかに二つの澄んだ青い目が浮かんでいた。

まるで雲のなかに二つの小さな青空が浮かんでいるようだった。

この空の上にはさらに大きな世界が広がっているらしい。

人間はそれを宇宙と呼ぶそうだ。

きっと、宇宙はあの瞳みたいなものなんだろう。

そうでないと説明がつかない、そんな美しさだった。

宇宙が一瞬、雲のなかに消えまた開いた。彼女が瞬きをしたのだ。


突然、彼女が立ち上がった。

俺のことをちらりと見て、塀を降りた。俺も慌てて塀を降りる。

彼女は俺の少し前を、とことこと歩いていた。

尻尾が誘うようにゆらゆら揺れている。俺が歩みを早めると、彼女も早く歩いた。

けれど、俺をまこうと思っているわけではないようだ。

その証拠に、角を曲がると彼女は歩みを止めてこちらを見ている。

まるで俺がついてきているかを確認しているかのように。


しばらく彼女について歩いていくと、彼女は西洋風の一軒家の前で立ち止まった。

これまで見てきた住宅の中でも、とくに大きい。

二階建ての茶色いレンガ造りの家で、窓がいくつかあるがカーテンが閉まっていて部屋の中は見えない。

家の正面には人間の背丈ほどの柵があり、薔薇の蔦が絡みついている。

薔薇の花が咲いていたが、冬に咲く薔薇は初めて見た。特殊な種類なのだろうか。

彼女は門の隙間をするりと通り抜け、家の裏手にまわった。

ついて行くと、二階のベランダへと登っている彼女が見えた。

ベランダに登ると、細く開いた窓から、室内にいる彼女が見えた。

彼女はどうやらここで飼われているようだが、さすがに人間の住居に入るのは危険だ。

中の様子を見てみる。

六畳ほどの広さの部屋には、まったく色がない。

ベッドや化粧台が置かれているが、どれも白色だった。

ベッドの上で彼女が顔を洗っていた。

こちらをちらりと見る。

「来ないの?」とでも言いたげな視線だ。

覚悟を決めて部屋に足を踏み入れる。

部屋に入ると、彼女が隣の部屋へと向かった。俺もついて行く。


その部屋は奇妙だった。

部屋中に、大量のロウソクが置かれている。

俺の背丈くらいある大きなものから、手の先くらいの小さなものまで、部屋のいたるところにあった。

中に人間がいる様子はない。

部屋の奥に彼女がいるのが見えた。

ロウソクの炎が、彼女にしたがえているかのように揺れている。

明かりに照らされた彼女はとても妖艶だった。

俺はロウソクを避けながら、彼女の元へと向かった。炎が喜ぶようにゆらゆらと揺れる。

彼女の目の前まで来た突然、身体の奥底に氷のような冷たい何かが降りてくるのを感じた。

奇妙で、強烈な違和感だった。そしてすぐにその違和感の正体に気づいた。

匂いがしない。

この部屋に入ってから少しも匂いがない。

女の子、いや生き物というのはすべて、何かしらの匂いがするはずだ。

彼女の顔がぐにゃりと揺れた。

彼女の顔がひどく平らに見えた。

厚みというものがない。

彼女が紙きれのように薄いと気づいたのは、一瞬遅れてからだった。

それ以上、何も考えられなかった。

頭がひどく重い。耐えられず下を向くと、足もとに奇妙な模様が描かれていることに気づいた。

これはなんだろう。

床に倒れ込むと、人間の足が見えた。

視線を上に向けようとしたが、目を開けていられない。

ゆっくりと、眠りの世界へ落ちていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

Sランクパーティを追放されたヒーラーの俺、禁忌スキル【完全蘇生】に覚醒する。俺を捨てたパーティがボスに全滅させられ泣きついてきたが、もう遅い

夏見ナイ
ファンタジー
Sランクパーティ【熾天の剣】で《ヒール》しか使えないアレンは、「無能」と蔑まれ追放された。絶望の淵で彼が覚醒したのは、死者さえ完全に蘇らせる禁忌のユニークスキル【完全蘇生】だった。 故郷の辺境で、心に傷を負ったエルフの少女や元女騎士といった“真の仲間”と出会ったアレンは、新パーティ【黎明の翼】を結成。回復魔法の常識を覆す戦術で「死なないパーティ」として名を馳せていく。 一方、アレンを失った元パーティは急速に凋落し、高難易度ダンジョンで全滅。泣きながら戻ってきてくれと懇願する彼らに、アレンは冷たく言い放つ。 「もう遅い」と。 これは、無能と蔑まれたヒーラーが最強の英雄となる、痛快な逆転ファンタジー!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...