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第3章 黒髪の侠女
第14話 『紫電一閃』
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それぞれの得物であるカタナと戟を構えて睨み合う扶桑国の剣士・タスクと神州国の烈女・リンファ。
二人の醸し出すビリビリとした緊張感に、先ほどまで口々に声を上げていた貧民窟のゴロツキたちはゴクリと息を飲んだ。
一方、同じく黙りこんだジャンだったが、彼はタスクが無事だったことに安堵しつつも胸中では複雑な感情が渦巻いていた。
(馬っ鹿だな、アニキ……! あのまま死んだフリを続けてりゃ、相手は黙って帰って行くとこだったのによ。アンタの姉貴と人違いだって分かった時点で、あのネエちゃんと揉める理由なんかねえだろ……⁉︎)
『晄石狩り』ではあっても、武人ではないジャンにはタスクの行動が理解できないのも無理はない。
眼の前の強者を相手に己の積み上げてきた研鑽をぶつけて勝利したいという欲求がタスクを突き動かしているのである。
それは向かい合うリンファも同じ気持ちだったが、タスクのある一点が彼女の誇りに障った。
【……本気になってくれたのは嬉しいけど、やっぱり峰打ちが気に入らないねえ……! まあ、いつまで刃を返していられるか試してみようか————ッ‼︎】
言い様、リンファは青龍戟を振りかぶった。しかし、それは先の一撃のように『縦』ではなく『横』の一撃を予測させるものであり、この構えにタスクはまたしても眉をひそめた。
(……今度は『払い』だと……⁉︎ このような狭い路地で長物を横に振るうつもりか……⁉︎)
タスクの懸念などどこ吹く風といった様子のリンファは、力を溜めるようにして肩に担いでいた戟を解き放った。
予測していたように戟が弧を描いて迫り来るが、その軌道上には貧民たちの住まう家屋があり、刃は途中で失速するかと思われた。
だが————、
「あーっ! 俺の家がっ‼︎」
突然、ゴロツキの一人が絶叫を上げた。
なんとリンファの放った横薙ぎの一閃は、その軌道上に存在するレンガや石壁をまるでバターでも切るように切断しながら向かってきたのである。
この攻撃には多少面食らったタスクだが、リンファの技の速度は先ほど学習済みである。冷静に身体を屈めて躱すと同時に踏み込んで戟の間合いを潰した。
「終わりだ……!」
お返しとばかりにリンファの隙だらけとなった胴に峰打ちを決めたタスクだったが、その手に返ってきた感触は肉を打つものではなく、何か硬い金属片を叩いた時のそれであった。
「————!」
驚きで動きを止めたタスクにリンファの二撃目が降り掛かる。動揺はありながらもこれを外したタスクは間合いを取ってリンファの刃圏内から逃れた。
表情には出ていないがタスクの動揺を感じ取ったのだろう、リンファは強気な笑みを見せて口を開いた。
【「なんだ、今の感触は⁉︎」って感じだね。優しいあたしが教えてあげるよ】
リンファはタスクに打たれた箇所に手を当てて続ける。
【————今のは『硬氣功』。真氣で肉体を硬質化させる防御技さ。使う箇所を限定させれば真剣を受けることも可能……! ついでに教えてあげると、この『青龍戟』にも真氣を込めてるから、軌道上に岩があろうと鉄があろうと関係なく振り切れるのさ……‼︎】
得意げに言い放つと、リンファはブンブンと戟を振り回して辺りの家屋を斬りまくった。この暴挙にゴロツキたちは罵声を浴びせたかったが、下手なことを言えば斬られるのは自らになるかも知れないと思い直し、皆一様に口を噤んだ。
「なんだよ、あのネエちゃん……! 鉄やレンガをスパスパ斬っちまう上に、真剣を跳ね返しちまうなんて、どうやっても勝ち目なんかねえじゃねえかよ……‼︎」
「…………」
リンファの喋っている内容は分からずとも、眼の前で見せられれば一目瞭然である。ジャンの的確な説明を聞いて諦めてしまったのか、タスクは無言で刃を鞘に収めてしまった。その様子を見たリンファはあからさまにガッカリした顔つきになった。
【……降参ってこと……? どいつもこいつもだらしないねえ……】
だがタスクは納刀したカタナを帯に差すと、緩やかに前傾姿勢の構えを取り柄に手を掛けた。その様子からは諦めの感情など微塵も感じ取れない。
【……その構え、聞いたことがあるよ。確か『居合』ってヤツだろ? どうやら降参する気はないようだね……!】
自らの『硬氣功』に絶対の自信を持っているのだろう。リンファは笑みを浮かべて無造作に間合いを詰めてくる。
「アニキ! 何ボーッとしてんだ! 向かって来て……ッ⁉︎」
注意の声を上げた時、ジャンは周囲の空気がピリピリし始めたのを感じ取り口を閉ざした。
「……オン インドラヤ ソワカ、雷の加護を我が太刀に————『帝釈天』……‼︎」
タスクが真言を唱えると、その髪色が赤から紫へと変色し、全身に眼に見えるほどにバチバチと帯電を始めた。この尋常ならぬ様子には流石のリンファも顔色を変え、足を止めた。
【な、なんだい、その雷は……⁉︎】
気付けば相手の刃圏内に侵入してしまっていた。慌てて戟を振り上げたその刹那————、
「……奥義、『紫電一閃』————ッ‼︎」
一瞬早く一筋の紫電が空気中を駆け巡り、リンファは眼が眩んだ————。
二人の醸し出すビリビリとした緊張感に、先ほどまで口々に声を上げていた貧民窟のゴロツキたちはゴクリと息を飲んだ。
一方、同じく黙りこんだジャンだったが、彼はタスクが無事だったことに安堵しつつも胸中では複雑な感情が渦巻いていた。
(馬っ鹿だな、アニキ……! あのまま死んだフリを続けてりゃ、相手は黙って帰って行くとこだったのによ。アンタの姉貴と人違いだって分かった時点で、あのネエちゃんと揉める理由なんかねえだろ……⁉︎)
『晄石狩り』ではあっても、武人ではないジャンにはタスクの行動が理解できないのも無理はない。
眼の前の強者を相手に己の積み上げてきた研鑽をぶつけて勝利したいという欲求がタスクを突き動かしているのである。
それは向かい合うリンファも同じ気持ちだったが、タスクのある一点が彼女の誇りに障った。
【……本気になってくれたのは嬉しいけど、やっぱり峰打ちが気に入らないねえ……! まあ、いつまで刃を返していられるか試してみようか————ッ‼︎】
言い様、リンファは青龍戟を振りかぶった。しかし、それは先の一撃のように『縦』ではなく『横』の一撃を予測させるものであり、この構えにタスクはまたしても眉をひそめた。
(……今度は『払い』だと……⁉︎ このような狭い路地で長物を横に振るうつもりか……⁉︎)
タスクの懸念などどこ吹く風といった様子のリンファは、力を溜めるようにして肩に担いでいた戟を解き放った。
予測していたように戟が弧を描いて迫り来るが、その軌道上には貧民たちの住まう家屋があり、刃は途中で失速するかと思われた。
だが————、
「あーっ! 俺の家がっ‼︎」
突然、ゴロツキの一人が絶叫を上げた。
なんとリンファの放った横薙ぎの一閃は、その軌道上に存在するレンガや石壁をまるでバターでも切るように切断しながら向かってきたのである。
この攻撃には多少面食らったタスクだが、リンファの技の速度は先ほど学習済みである。冷静に身体を屈めて躱すと同時に踏み込んで戟の間合いを潰した。
「終わりだ……!」
お返しとばかりにリンファの隙だらけとなった胴に峰打ちを決めたタスクだったが、その手に返ってきた感触は肉を打つものではなく、何か硬い金属片を叩いた時のそれであった。
「————!」
驚きで動きを止めたタスクにリンファの二撃目が降り掛かる。動揺はありながらもこれを外したタスクは間合いを取ってリンファの刃圏内から逃れた。
表情には出ていないがタスクの動揺を感じ取ったのだろう、リンファは強気な笑みを見せて口を開いた。
【「なんだ、今の感触は⁉︎」って感じだね。優しいあたしが教えてあげるよ】
リンファはタスクに打たれた箇所に手を当てて続ける。
【————今のは『硬氣功』。真氣で肉体を硬質化させる防御技さ。使う箇所を限定させれば真剣を受けることも可能……! ついでに教えてあげると、この『青龍戟』にも真氣を込めてるから、軌道上に岩があろうと鉄があろうと関係なく振り切れるのさ……‼︎】
得意げに言い放つと、リンファはブンブンと戟を振り回して辺りの家屋を斬りまくった。この暴挙にゴロツキたちは罵声を浴びせたかったが、下手なことを言えば斬られるのは自らになるかも知れないと思い直し、皆一様に口を噤んだ。
「なんだよ、あのネエちゃん……! 鉄やレンガをスパスパ斬っちまう上に、真剣を跳ね返しちまうなんて、どうやっても勝ち目なんかねえじゃねえかよ……‼︎」
「…………」
リンファの喋っている内容は分からずとも、眼の前で見せられれば一目瞭然である。ジャンの的確な説明を聞いて諦めてしまったのか、タスクは無言で刃を鞘に収めてしまった。その様子を見たリンファはあからさまにガッカリした顔つきになった。
【……降参ってこと……? どいつもこいつもだらしないねえ……】
だがタスクは納刀したカタナを帯に差すと、緩やかに前傾姿勢の構えを取り柄に手を掛けた。その様子からは諦めの感情など微塵も感じ取れない。
【……その構え、聞いたことがあるよ。確か『居合』ってヤツだろ? どうやら降参する気はないようだね……!】
自らの『硬氣功』に絶対の自信を持っているのだろう。リンファは笑みを浮かべて無造作に間合いを詰めてくる。
「アニキ! 何ボーッとしてんだ! 向かって来て……ッ⁉︎」
注意の声を上げた時、ジャンは周囲の空気がピリピリし始めたのを感じ取り口を閉ざした。
「……オン インドラヤ ソワカ、雷の加護を我が太刀に————『帝釈天』……‼︎」
タスクが真言を唱えると、その髪色が赤から紫へと変色し、全身に眼に見えるほどにバチバチと帯電を始めた。この尋常ならぬ様子には流石のリンファも顔色を変え、足を止めた。
【な、なんだい、その雷は……⁉︎】
気付けば相手の刃圏内に侵入してしまっていた。慌てて戟を振り上げたその刹那————、
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