鏡合わせのミロワール

知己

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第3章 黒髪の侠女

第15話 東洋対決・決着

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 紫紺の光を帯びたタスクの斬撃が間合いに入ったリンファに向けて放たれた。
 
【————くっ!】
 
 油断していたリンファは咄嗟にげきを振り上げ、これを阻もうと試みる。
 
 
 ————ガキィッ‼︎
 
 
 驚異的な反応によりタスクの居合いあいを受け止め、リンファは白い歯を見せた。
 
「あーっ! ダメだ! 受け止められちまった!」
【……ちょっと驚いて戟で受けちゃったけど、ただの横薙ぎの斬撃じゃ————】
 
 頭を抱えたジャンと、わずかに冷や汗を流したリンファが同時に口を開いた瞬間————、
 
【————ッ‼︎】
 
 全身を数度痙攣させた後、プッツリと糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
 
「えっ⁉︎ 急にどうしちまったんだ⁉︎ まさか持病の発作か⁉︎」
「————違う」
 
 頭を抱えたまま慌てふためくジャンに背後から否定の声が掛かった。
 
 振り返ると、流れるような所作でカタナを納刀したタスクの姿があった。
 
「ち、違うって……、今のもアンタの『カミオロシ』のチカラかよ……⁉︎」
「そうだ。『帝釈天タイシャクテン』はいかづちを司る神。奥義『紫電一閃シデンイッセン』はたとえ刃を防いだとしても、雷神の裁きから逃れることは出来ない」
「……要するに、受け止めても躱してもカミナリにやられるってことかよ……。ほとんど反則技じゃねえか……!」
 
 表情を歪ませたジャンは倒れているリンファに顔を向けた。
 
「まあ反則っていやあ、このネエちゃんもそうか。生身で剣を跳ね返す人間なんて初めて見たぜ」
「……確かに。神州シンシュウには鍛え上げられた肉体で打撃を弾き返す技があると聞いたことがあったが、正直あれほどのものとは思わなかった。大した武人だ」
 
 尊敬の念を込めてタスクがつぶやいた時、成り行きを見守っていたゴロツキたちが一斉に騒ぎ出した。
 
「やったぜ! あの忌々しい女がくたばった!」
「俺の家をメチャクチャにしやがったバチが当たったんだ! いい気味だぜ!」
「この勢いで東洋人どものエリアに攻め込むぞ!」
 
 神州シンシュウ人たちのリーダーであるリンファが倒れたことをいいことにゴロツキたちが意気軒高となる中、黙って聞いていたタスクが一歩踏み出した。
 
「————黙れ、下衆ゲスども……‼︎」
「ひぃっ‼︎」
 
 タスクの鋭い眼光に射竦いすくめられたゴロツキたちは蜘蛛の子を散らせたように消えていった。
 
 ジャンはそんなことには眼もくれず、自らも感電しないように木の枝でリンファの頬をペシペシと軽く叩いた。
 
「しっかし、全く動かねえぜ。まさか死んじまってるんじゃ……」
「手心は加えてある上に、鍛え上げられた肉体だ。命に別状はないはずだが、それでも数時間は眼を覚まさないだろう————」
 
 しかし、タスクの言葉が終わらないうちにリンファがガバッと跳ね起きた。
 
「うおっ! ビックリしたあっ!」
 
 驚きでジャンが尻餅を突く中、リンファは何が起こったのか分からないといった様子でキョロキョロとしている。
 
「……大した回復力だ。流石だな」
 
 見事に予想を外され、わずかに苦笑いを浮かべたタスクが声を掛けるも、リンファは虚空を見つめたまま口を開いた。
 
「————ワタシ……、ナニがあっタ……⁉︎」
「へ? ネエちゃん、こっちの言葉しゃべれんのかよ⁉︎」
「……少し、だケ」
「それじゃあ、何で襲い掛かってきたんだよ! 話し合いで解決できたんじゃねえのか⁉︎」
「……早口、難しい言葉、よく分からなイ……」
「だからってよ……。なんか、キャラ変わってねえか……?」
 
 呆れ顔で頭をかくジャンにタスクが声を掛ける。
 
「異国の言葉を完全に理解するのは難しいものだ。だから俺もお前を雇っている」
「……まあ、アンタがいいんなら俺も別にいいけどよ……」
 
 ジャンが引き下がると、リンファはタスクに顔を向けて問い掛ける。
 
「……もしかしテ、ワタシ、アナタに負けタ……?」
「結果としてそうなったが、貴女あなたの腕前は大したものだ。落ち込む必要はない」
「負ケ……?、ワタシ……、————ッ!」
 
 敗北したという事実を突きつけられたリンファはしばし呆然とした後、突然青龍戟に手を伸ばした。
 
「わあっ! まだやる気かよ⁉︎」
「…………!」
 
 この行動にジャンが身構え、タスクは無言でカタナのつかに手を掛けた。
 
「……負ケ……、ワタシ、負ケ————ウワアァァァァンッ‼︎」
 
 怒り狂って襲い掛かって来るものかと思われたリンファだったが、その場にへたり込むと、戟にすがり付いて盛大に泣き出してしまった。
 
 先ほどまでの強気な姿と打って変わったしおらしいその姿にタスクとジャンは顔を見合わせる。
 
「……結局、どういう性格なんだ? このネエちゃん……」
「……俺に訊くな」
 
 
            ◇
 
 
 ————ひとしきり泣いて多少落ち着きを取り戻したリンファはポツポツと身の上話を語り始めた。
 
「……ワタシの門派、神州の山で小さく住んでタ……」
「『門派』ってなんだ?」
「分かりやすく言うならグループだ。この場合は武術集団ということだろうな」
 
 ジャンの疑問にタスクが簡潔に答える。
 
「なるほど……つまり、神州国の山奥でこのネエちゃんは仲間たちと武術の腕を鍛えながら慎ましく暮らしてたってことか……?」
「おおよそ、そういうことだろう。あとは黙って聞いていよう」
「へいへい」
 
 タスクの言葉にジャンは肩をすくめて腕を広げる。
 
「ワタシ、師匠の命令受けて姉たち妹たちと技比べて毎日楽しかっタ……でモ、あの夜————‼︎」
 
 故郷である神州での暮らしを語っていた時のリンファは穏やかな表情を浮かべていたが、突如その顔つきが憤怒の色に染まった。
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