鏡合わせのミロワール

知己

文字の大きさ
22 / 69
第4章 『ミロワ』

第21話 姉弟

しおりを挟む
 捜していた姉・キョウカらしき女性を保護することになったタスクとジャンは彼女の身の回りの物を揃えるため、そして状況を整理するために付近の街へとやって来ていた。
 
「クソ……、ゼフィール号のリアシートには絶対、かわい子ちゃんしか乗せねえつもりだったのに……!」
 
 街の外壁から少し離れた林に停車したジャンがブチブチと文句を漏らすと、リアシートから降りたタスクが反応する。
 
「うるさい。姉上……をお前に密着させる訳にいくか」
「へーへー、そうかよ。そんじゃ、その姉上サマは————」
 
 タスクの特等席だった側車に二人が視線を向けると、謎の女性がクウクウと気持ち良さそうに寝息を立てていた。
 
「……乗り心地が良かったようで何よりだね————で、これからどうするよ?」
「…………」
 
 タスクはジャンと共に街の方へ顔を向けた。
 
 すでに陽は落ちて真っ暗だが、まだ眠るような時刻ではない。街の入り口ではやはり門番による検問が敷かれていた。
 
「街の規模的には、あのリンファちゃんがいたエティエンヌと同じくれえか。あん時みてえにまた門番にカネ握らせる?」
「……した方がいいな」
「だよな。あんまりやり過ぎると俺も眼をつけられるし、何より今回はこの不思議な眠り姫もいらっしゃる。色々ツッコまれたら、さすがの俺サマもシドロモドロになっちまいそうだ」
「そうだな……」
「悪いけど、アンタらにはここで野宿してもらって、俺が明日必要なモンを買ってきてやろうか? 身分証を持ってんのは俺だけだし」
 
 もっともらしいジャンの言い分だが、自分だけフカフカのベッドで眠りたいという願望が透けて見えた。タスクは首を振ってその提案を否定する。
 
「いや、姉上を早く清潔な寝床で眠らせてあげたい。俺たちも行こう」
「行くって、どうすんだよ? まさか検問破りする気かよ⁉︎」
「違う。『毘沙門天ビシャモンテン』の力で強化した俺が姉上を担いで外壁を乗り越える。闇夜に紛れれば問題はないだろう」
「……もうなんでもアリになってきたな……」
 
 
         ◇
 
 
 ————正規の手順で街に入ったジャンと適当な空き地で合流したタスクたちはチェックのゆるそうなホテルに部屋を取った。
 
 タスクが二人部屋のベッドに謎の女性を寝かせると、ソファーに腰掛けたジャンが再び文句を口にする。
 
「チェッ、なんで俺が一人部屋なんだよ……」
「お前と姉上を同じ部屋にさせるはずがないだろう」
 
 冷静にツッコんだタスクはテーブルに着いて水差しからコップに水を注いだ。
 
「…………」
 
 一息で水を飲み干したタスクは空になったコップをテーブルに置いて嘆息を漏らした。ソファーからその様子を眺めていたジャンが声を掛ける。
 
「10年越しに姉ちゃんと再会したってのに、あんまり嬉しそうじゃねえな」
「……率直に言って混乱している」
 
 タスクのいつわらざる感想にジャンは真顔に戻ってうなずいた。
 
「無理もねえよ。俺がアンタの立場なら、とっくに頭がおかしくなってるぜ」
「…………」
 
 ジャンの励ましの言葉にタスクは眼を伏せて感謝の意を示した。
 
 ジャンはベッドで寝息を立てている謎の女性に顔を向け口を開いた。
 
「————頭が回ってねえとこ悪いけど、状況を整理しとこうか」
「……ああ」
「まず、このネエちゃんがアンタの姉貴だってことは間違いねえと」
「ああ、間違いない」
 
 即刻断言するタスクにジャンはうなずいて続ける。
 
「ここに来る道中俺も色々考えてたんだけどよ、モグリの医者から聞いた話によると、顔にヒデエ傷を受けた奴を治療する整形手術ってモンがあるらしい」
「整形手術……?」
「その技術を応用して顔を丸々別人のように変えちまうって研究も進んでるらしいぜ?」
 
 ここまで話を聞いたタスクはジャンの言わんとすることを理解した。
 
「……つまり、お前が言いたいのはこの姉上が顔を変えた全くの別人ということか……?」
「ああ。ホクロの位置が右眼にあるってのは、単純に手術した奴が間違えたってオチだったりして……」
「それはない」
 
 再び断言したタスクはイスから立ち上がって、謎の女性の枕元へと歩み寄った。
 
「まず、その手術とやらを行った形跡が全く見られない。そのような大掛かりな処置をすればなんらかの痕が残りそうなものだ」
「……だよなあ。悪い、俺も混乱しちまってるみてえだ」
 
 タスクはジャンの言葉には応えず、謎の女性の寝顔を優しく見守りながら続ける。
 
「————それになにより彼女の持つ雰囲気は、生まれてからずっと一緒に育った姉上のものだ……!」
「……分かったよ。姉弟きょうだいのいねえ俺には理解できねえ感覚だが、アンタがそこまで言うんなら、きっとそうなんだろうよ」
 
 降参したように腕を上げたジャンだが、それでも負けじと口を開いた。
 
「でも、そうなってくるとやっぱ歳が合わねえのがネックなんだよなあ……」
「…………ッ」
 
 この動かし様のない事実はタスクの痛いところを突いた。
 
「…………そんなことは、どうでもいい……」
「なんだって?」
「あの頃の姉上と無事に再会できた。それだけで充分だ。故郷に戻って療養すれば失われた記憶もいずれ戻るはずだ……!」
「仇の野郎はもういいのかい?」
「…………‼︎」
 
 ジャンの指摘はタスクの急所を再び的確に捉えた。ジャンはソファーから立ち上がり黙り込むタスクを指差した。
 
「……なあ、タスクのアニキ。アンタも自分で気付いてるはずだ。そのネエちゃんは姉貴じゃねえかも知れねえってことに……」
「————まれ……」
「アンタは、降って湧いたようなそのネエちゃんを行方不明の姉貴と思い込みたい・・・・・・んだ。そうだろ……⁉︎」
「黙れッ‼︎」
 
 心のもやを振り払うようにしてタスクが声を荒げる。
 
「お前などに俺の気持ちが分かるか! 十年捜し求めていた姉上らしき人が眼の前に現れたんだぞ‼︎ それにすがって何が悪い⁉︎」
「アニキ……」
 
 タスクの剣幕にジャンが言葉を失った時、眠っていた謎の女性が眼を覚ました。
 
「…………⁉︎」
 
 二人の険悪なムードを感じ取ったのか、謎の女性はベッドから起き上がると、タスクを庇うようにして両腕を広げた。
 
 その漆黒の瞳は正面に立つジャンを睨みつけて離さない。
 
「な、なんだよ……そんな睨むなよ、怖えって……!」
「…………!」
 
 謎の女性に背中で庇われたタスクの脳裏に在りし日の記憶が蘇った————。
 
 幼い頃に森で狼に襲われた時も姉・鏡花きょうかは恐怖に震える身体を奮い立たせ、こうして庇ってくれたのである。
 
「……姉……、上……ッ!」
 
 膝を突いたタスクの双眸から二筋の雫が流れ落ち、床を濡らした。
 
 
 ————それはまさしく、弟を背中で守る姉の姿であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷結の夜明けの果て (R16)

ウルフィー-UG6
ファンタジー
Edge of the Frozen Dawn(エッジ・オブ・ザ・フローズン・ドーン) よくある異世界転生? 使い古されたテンプレート? ――そうかもしれない。 だが、これはダークファンタジーだ。 恐怖とは、姿を見せた瞬間よりも―― まだ見えぬまま、静かに忍び寄るもの。 穏やかな始まり。ほのかな優しさ。 だが、石の下には、眠る獣がいるかもしれない。 その時が来れば、闇は牙を剥く。 あらすじ 失われた魂――影に見つめられながら。 だが、英雄とは……本当に常に“光”のために戦う者なのか? 異国の大地で、記憶のないまま、見知らぬ身体で目を覚ます。 生き延びようとする本能だけが、彼を前へと突き動かす。 ――英雄か、災厄か。それを分けるのは、ただ一つの選択。 冷たく、謎めいた女戦士アリニアと共に、 彼は武器を鍛え、輝く都市を訪れ、古の森を抜け、忘れられた遺跡へと踏み込んでいく。 だが、栄光へと近づく一歩ごとに、 痛みが、迷いが、そして見えない傷が刻まれていく。 光の道を歩んでいるかのように見えて―― その背後で、影は静かに育ち続けていた。 ――これは、力と希望、そして自ら築き上げる運命の物語。 🔹 広大で容赦のない世界が、挑む者を待ち受ける。 🔹 試練と沈黙の中で絆を深めていく、二人の仲間。 🔹 「居場所」を探す旅路の果てに待つものとは――。 ヴェイルは進む。 その選択はやがて、一つの伝説を生み出すだろう。 それが光か、闇か。――決めるのは、あなた自身だ。

異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚
ファンタジー
 戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。 「これは神隠しか?」  戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎  ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。  家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。  領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。  唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。  敵対勢力は圧倒的な戦力。  果たして苦境を脱する術はあるのか?  かつて、日本から様々なものが異世界転移した。  侍 = 刀一本で無双した。  自衛隊 = 現代兵器で無双した。  日本国 = 国力をあげて無双した。  では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――? 【新九郎の解答】  国を盗って生き残るしかない!(必死) 【ちなみに異世界の人々の感想】  何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!  戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?  これは、その疑問に答える物語。  異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。 ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

レオナルド先生創世記

山本一義
ファンタジー
ビッグバーンを皮切りに宇宙が誕生し、やがて展開された宇宙の背景をユーモアたっぷりにとてもこっけいなジャック・レオナルド氏のサプライズの幕開け、幕開け!

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

処理中です...