鏡合わせのミロワール

知己

文字の大きさ
34 / 69
第6章 変人博士登場

第32話 変人本領発揮

しおりを挟む
 ————部屋に飾られていたのはいくつものケージであった。
 
 
 ケージの中にはリス・ハムスター・小鳥・トカゲ・カエルなどといった小動物が入れられ、その全ての額からは鉱物のようなツノが伸びていた。
 
「————『晄石獣ジェムート』を飼育しているのか……⁉︎」
「ええっ⁉︎」
 
 タスクの言葉を聞いたジャンが背中越しに驚きの声を上げたが、ジゼルは平然とした様子で答える。
 
「その通り」
「なんのために……⁉︎」
「……ふむ。なんのためにと問われれば、私はこう答えよう————“探究心“からだと」
「探究心……」
 
 おうむ返しするタスクをよそにジゼルはリスのケージの前に歩み寄る。
 
 人間に接近された『リス型晄石獣ジェムート』はその愛らしい姿に似つかわしくない牙を剥き出し、ジゼルに飛び掛かった。ケージを覆う強化ガラスによってその攻撃は阻まれたが『リス型晄石獣ジェムート』はなおもガラスに鋭い爪を立てて威嚇行動を続ける。
 
「フェリックス、今日も元気そうだね。ルネとシェリはどうだい?」
 
 しかし、ジゼルは笑みを絶やさず『小鳥型晄石獣ジェムート』のルネと『トカゲ型晄石獣ジェムート』のシェリに挨拶を続けた。
 
「ちょっ、ちょっと待てよ! 探究心だかなんだか知らねえが、アンタ『晄石獣ジェムート』を飼ってどうすんだよ⁉︎ コイツらはぜってえ人に懐かねえぞ⁉︎」
 
 堪えきれずにジャンが声を上げたが、ジゼルは全ての『晄石獣ジェムート』に挨拶を終えてからようやく振り返った。
 
「そうだね。キミも『晄石狩りハンター』なら知っているだろうが、彼らは人に決して懐かない————どころか、今のように人間の姿を確認すると問答無用で襲い掛かってくる」
「知ってるよ、んなこたぁ。いま俺が言ったじゃねえか」
「では訊くが、何故彼らは人のみ・・・を襲うんだい?」
「……し、知らねえよ。コイツらに訊いてみたらいいんじゃねえの?」
 
 吐き捨てるようにジャンが言うと、ジゼルは再びフェリックスに視線を移した。
 
「……ふむ。『晄石獣ジェムート』に言語が備わっているのか……か。興味深い研究テーマではあるね。リストに加えておこう」
 
 ジゼルはフェリックスを観察しながら続ける。
 
「……キミたち、『晄石獣ジェムート』は人間のみを捕食対象とするが、もし人間を食べることが出来ない時はどうすると思う?」
「そん時は好き嫌い言ってらんねえだろ。他の動物を食うんじゃねえのか?」
「————それが違うんだよ!」
 
 ジャンの答えを聞いたジゼルは高らかに声を上げて振り返った。その眼は恐ろしいほどにバキバキである。
 
「トマトが苦手な人間でも極限まで空腹になればむしゃぶりつくはずだ! だが『晄石獣ジェムート』は違う‼︎ 彼らは人間を捕食できなければ、たとえ眼の前に別の肉があっても見向きもせずに餓死を選ぶのさ! 凄いだろう⁉︎」
「…………!」
 
 その衝撃的な事実と狂気じみたジゼルの剣幕にジャンが言葉を失うと、代わりにタスクが口を開いた。
 
「それをここで実証したというのか……?」
「そう。ドナには貴重なデータをもらったよ」
「これだけの数の『晄石獣ジェムート』を飼育するための餌はどうしている……⁉︎」
「…………」
 
 タスクの芯を食った質問にジゼルは一瞬真顔になった後、凶悪な笑みを浮かべた。
 
「……それは勿論、夜な夜な墓を荒らして新鮮な死体を————」
「は、墓荒らししてんのか、アンタ⁉︎」
 
 ジャンが血相を変えると、ジゼルはなおも口角を持ち上げ、
 
「————なんていうのは冗談で、私や別の人間から提供された血液を主に与えているよ。さすがに墓荒らしまですると、研究が続けられなくなるからね」
「……心臓に悪いジョークを飛ばすんじゃねえよ……!」
「ああ、でもたまにはご褒美として私の肉をあげたりもしてるよ」
「ハア⁉︎」
 
 ジゼルは下腹の辺りをつまみながら平然と言ってのける。
 
「彼らもご馳走にありつけるし、私も贅肉を減らせるしWIN-WINというやつだね」
「……イ、イカれてやがる……‼︎」
 
 引きつった表情で後ずさるジャンだが、ジゼルは構わずに続ける。
 
「本当は大型の『晄石獣ジェムート』も庭に放し飼いにして研究したいのだけど、そのサイズだと私自身が捕食されてしまうからねえ……悩ましいところだ」
 
 腕を組んで悩む仕草を見せるジゼルにタスクが尋ねる。
 
「『晄石獣ジェムート』の研究を始めたことで人から見向きをされなくなったのか?」
「フフフ、キミは訊きにくいことをズバリ言ってくれるね。ご期待に添えずに申し訳ないけれど、私が大学を追われたのは別の理由さ。まあ『晄石獣ジェムート』にも関係していることなんだがね」
「……このような実験を行うからには医学にも精通していると考えていいのか?」
「医学? ああ、医師免許は無いが、そこらの開業医が裸足で逃げ出すくらいの知識と腕前は持っているつもりだよ」
「そうか……」
「————ねー、いつまでミロワをのけ者にするのー……?」
 
 ジゼルの返答にタスクがうなずいた時、痺れを切らせたミロワが戸口へと姿を現した。
 
「ミロワちゃん、こっちに来ちゃあ————」
「わーっ! リスだーっ!」
 
 『リス型晄石獣ジェムート』のフェリックスの姿を見つけたミロワは眼を輝かせてケージの前に走り寄った。しかし、フェリックスは眼の前に人間が立っているというのになんの反応も見せない。
 
「…………‼︎」
 
 先ほど自分に見せた反応とはまるで違うフェリックスの様子にジゼルは驚きを隠せない。
 
「ミ、ミロワ嬢……、キミはいったい……⁉︎」
「え?」
 
 ジゼルの声にミロワが反応すると、遮るようにタスクが間に入った。
 
「ミロワ、俺はこのひとにお前の身体の検査を頼んでもいいと思っているんだが、お前はどう思う?」
「…………」
「アニキ⁉︎」
 
 否定じみた声を上げたジャンをタスクは眼で制した。
 
「ジャン。お前の言いたいことも分かるが、俺はこのジゼル殿の探究心に感じ入った。彼女の研究への情熱は本物だと思う」
「アニキ……!」
「だが、一番重要なことはミロワの気持ちだ。ミロワ、お前が嫌だと言うなら別の者に当たろう」
「…………」
 
 ミロワはジッとジゼルの顔を見つめて何やら思案した後、パンと手を叩いた。
 
「……うん、いいよ! ミロワ、この人なら大丈夫だと思う! 女の人だし」
「そうか」
 
 ミロワの返事を聞いたタスクは黙って成り行きを見守っていたジゼルに向き直った。
 
「————ジゼル殿。聞かれていた通りだ。貴女あなたにミロワの検査を頼みたい」
「…………」
「もちろん話を聞かせてもらった礼とは別に充分な報酬を用意させてもらうつもりだ。如何いかがだろう?」
「……如何も何もないさ」
「なに?」
 
 ジゼルはバッと腕を広げて、先ほどのミロワ以上に眼を輝かせた。
 
「私もミロワ嬢に大いに興味が湧いた。こちらこそ是非お願いしたい!」
「ああ、よろしく頼む。ジゼル殿」
 
 タスクは差し出されたジゼルの手を力強く握り、契約の証として握手を交わした。
 
「あーあー、んな簡単に決めちまって、どうなっても俺は知らねえぞ。まあ、女だし変態オヤジどもに比べたらまだマシか……」
「変態オヤジとは?」
 
 耳ざとく聞きつけたジゼルにジャンは皮肉めいた表情で返す。
 
「アンタの前に話を聞いた連中はスケベ心が滲み出てたんだよ」
「ああ、なるほどね。だが、そういうことなら私はバイ・・だがね」
「……はい?」
「ただ、安心してくれたまえ。検査は検査でしっかりとさせてもらうよ」
 
 聞き慣れない言葉にタスクは首をひねった。
 
「ジャン、『ばい』とはどういう意味だ?」
「あー……、なんて言ったらいいかな…………『両刀使い』?」
「…………」
「アニキ、どうするよ? 今ならまだ間に合うぜ?」
「…………大丈夫だ、ジゼル殿の探究心を俺は信じる……!」
 
 タスクは自らに言い聞かせるようにつぶやいた。


   ———— 第7章に続く ————
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

氷結の夜明けの果て (R16)

ウルフィー-UG6
ファンタジー
Edge of the Frozen Dawn(エッジ・オブ・ザ・フローズン・ドーン) よくある異世界転生? 使い古されたテンプレート? ――そうかもしれない。 だが、これはダークファンタジーだ。 恐怖とは、姿を見せた瞬間よりも―― まだ見えぬまま、静かに忍び寄るもの。 穏やかな始まり。ほのかな優しさ。 だが、石の下には、眠る獣がいるかもしれない。 その時が来れば、闇は牙を剥く。 あらすじ 失われた魂――影に見つめられながら。 だが、英雄とは……本当に常に“光”のために戦う者なのか? 異国の大地で、記憶のないまま、見知らぬ身体で目を覚ます。 生き延びようとする本能だけが、彼を前へと突き動かす。 ――英雄か、災厄か。それを分けるのは、ただ一つの選択。 冷たく、謎めいた女戦士アリニアと共に、 彼は武器を鍛え、輝く都市を訪れ、古の森を抜け、忘れられた遺跡へと踏み込んでいく。 だが、栄光へと近づく一歩ごとに、 痛みが、迷いが、そして見えない傷が刻まれていく。 光の道を歩んでいるかのように見えて―― その背後で、影は静かに育ち続けていた。 ――これは、力と希望、そして自ら築き上げる運命の物語。 🔹 広大で容赦のない世界が、挑む者を待ち受ける。 🔹 試練と沈黙の中で絆を深めていく、二人の仲間。 🔹 「居場所」を探す旅路の果てに待つものとは――。 ヴェイルは進む。 その選択はやがて、一つの伝説を生み出すだろう。 それが光か、闇か。――決めるのは、あなた自身だ。

異世界国盗り物語 ~戦国日本のサムライ達が剣と魔法の世界で無双する~

和田真尚
ファンタジー
 戦国大名の若君・斎藤新九郎は大地震にあって崖から転落――――気付いた時には、剣と魔法が物を言い、魔物がはびこる異世界に飛ばされていた。 「これは神隠しか?」  戸惑いつつも日本へ帰る方法を探そうとする新九郎  ところが、今度は自分を追うように領地までが異世界転移してしまう。  家臣や領民を守るため、新九郎は異世界での生き残りを目指すが周囲は問題だらけ。  領地は魔物溢れる荒れ地のど真ん中に転移。  唯一頼れた貴族はお家騒動で没落寸前。  敵対勢力は圧倒的な戦力。  果たして苦境を脱する術はあるのか?  かつて、日本から様々なものが異世界転移した。  侍 = 刀一本で無双した。  自衛隊 = 現代兵器で無双した。  日本国 = 国力をあげて無双した。  では、戦国大名が家臣を引き連れ、領地丸ごと、剣と魔法の異世界へ転移したら――――? 【新九郎の解答】  国を盗って生き残るしかない!(必死) 【ちなみに異世界の人々の感想】  何なのこの狂戦士!? もう帰れよ!  戦国日本の侍達が生き残りを掛けて本気で戦った時、剣と魔法の異世界は勝てるのか?  これは、その疑問に答える物語。  異世界よ、戦国武士の本気を思い知れ――――。 ※「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも投稿しています。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

チート魔力を持ったせいで世界を束ねる管理者に目を付けられたが、巻き込まれたくないので金稼ぎします

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

処理中です...