鏡合わせのミロワール

知己

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第7章 血の日曜日

第42話 頼れる相方

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 ————首都の大通りを一頭の巨大虎が悠然と闊歩している。
 
 
 その背には、おのれの背丈の倍に迫ろうかというほどの長柄兵器を携えた烈女が騎乗しており、またがった白虎に劣らぬ威容を発していた。
 
「————『パイフゥ』」
 
 烈女に呼び掛けられた白虎————パイフゥは主人の意を汲んだように動きを止めた。
 
 すると、右手の酒場と見られる建物から十数人の男たちがゾロゾロと姿を現した。皆一様に銃器を携えており、その眼はある一点を凝視していた。
 
「……すげえ……! ありゃあ『無色角ムショクヅノ』だぜ、初めて拝んだ……‼︎」
「てか、なんで街ん中に『晄石獣ジェムート』が……⁉︎」
「そ、そうだよ、やべえんじゃねえのか……⁉︎ 最強ランクの『無色角ムショクヅノ』だぜ……‼︎」
「ビビってんじゃねえ! こっちは何人だと思ってんだ! あの『無色晄石アン・ジェム』を売っ払っちまえば当分遊んで暮らせるんだぞ‼︎」
「ど、どうする……⁉︎ 全員で分け合うか……⁉︎」
「いや、それじゃあ取り分が減っちまう。とどめを刺した奴の総取りにしよう……!」
「それがいい……‼︎」
 
 相談がまとまった『晄石狩りハンター』たちはより一層ギラついた眼でパイフゥの前に並び立った。
 
「……貴様ら、多少は腕に覚えがありそうだが今まで何をしていた?」
 
 離れていても漂って来る酒気にわずかに眉をひそめて烈女————ルゥインが問うた。
 
「おっ⁉︎ 見ろよ、『晄石獣ジェムート』の背中に野郎が乗ってるぜ⁉︎」
 
 ここで初めて『晄石狩りハンター』たちはルゥインの存在に気が付いたようである。
 
「……いや、ありゃ女じゃねえか?」
「————いやいや、そんなことどうでもいいだろ! なんで人間が『晄石獣ジェムート』に食われねえんだよ⁉︎」
「それこそどうでもいいぜ!」
 
 威勢のいい男が一歩前に進み出てルゥインを指差した。
 
「おい、女! 巻き込まれて死にたくなけりゃ、さっさとソイツの背中から降りな!」
「いや、ありゃあきっと背中に乗ってるから食われずに助かってんだよ!」
「確かにな! いくら『晄石獣ジェムート』でも背中に乗られちゃ口が届かねえよな!」
『ギャハハハッ‼︎』
 
 酒に酔って気が大きくなっているのか『晄石狩りハンター』たちは腹を抱えて大爆笑した。
 
「……もう一度訊く。貴様ら、今まで何をしていた……⁉︎」
 
 眼を据わらせたルゥインが再び尋ねると、先ほどの威勢のいい男が大口を開けて答える。
 
「うるせえ! 衛兵どもがガチャガチャ騒いで向こうへ走ってったが俺らにゃ関係ねえ! カネにならねえ仕事はやんねえんだよ‼︎」
「そうだそうだ、いいこと言った!」
「タダ働きなんざまっぴら御免だ!」
「…………」
 
 またしても呵々大笑する『晄石狩りハンター』たちからルゥインは視線を逸らした。まるで汚らわしい物を視界に収めることをいとうように。
 
「……欲にまみれた下種げすどもめ。貴様らの汚れた血で我が『偃月刀』を汚す訳にはいかん。パイフゥ……!」
 
 ルゥインの声を聞いたパイフゥは喉を鳴らせて鋭利な牙を剥き出しにした。
 
 
       ◇
 
 
 ————一方、シュウと共にタスクとミロワを探しに出たジャンは————、
 
 
「……おええ……ッ」
 
 そこら中に咲いているあかい花から漂う死臭に苦しみもだえていた。
 
「ピィィィッ‼︎」
 
 まるで何かの反則を犯した者を咎めるような笛のに似た鳴き声をシュウが上げるが、ジャンは立ち上がることが出来ない。
 
「…………ちょっと、待てよ……シュウ……、分かってる、いま————オロロロロ……ッ」
 
 先を進むように急かしてくるシュウに応えるため顔を上げたところ、斬殺された遺体が視界に入り、ジャンは再びリバースの態勢に戻ってしまった。
 
「…………ゲボ……、これ、刃物で斬られてるよな……。アニキはこんなことするはずねえし、いったい誰が……」
「————ピピピッ‼︎」
「……だから、ちょっと待てって————」
 
 先ほどとは違う周波数の鳴き声をシュウが上げた。口元を拭いながらジャンが顔を上げると、通りの曲がり角から何かがひょこっと顔を覗かせた。
 
「……なんだありゃ……、イッヌか……?」
 
 眼を凝らして見ると、通常イヌに生えているはずのない黒いツノが額から伸びているのが見えた。
 
「————『イヌ型晄石獣ジェムート』ッ⁉︎ なんでこんな街中にいんだよ⁉︎」
 
 驚きつつもジャンがホルスターから拳銃を抜いて構えると、三頭の『イヌ型晄石獣ジェムート』がよだれを垂らしながら駆け寄って来る。
 
 ネコよりもイヌ派のジャンにとっては手を広げて歓迎すべきかも知れないが、それはあくまでも駆け寄って来るのが普通のイヌの場合である。
 
「…………ッ」
 
 
 ————三発の銃声が響き、同じ数の『黒角クロツノ』が地に伏した。
 
 
「……次に生まれて来る時は正真正銘の可愛いワンコになれよ……!」
 
 ジャンは銃口から立ち昇る硝煙を吹きながらポーズを決めた。最弱ランクの『黒角クロツノ』を葬り得意げに振る舞う彼の頭上に忍び寄る黒い影。
 
「ッ!」
 
 足元に映った自分の物とは別の影の存在に気付いたジャンが振り返ると、そこには翼を広げた『オオコウモリ型晄石獣ジェムート』の醜悪な姿があった。
 
「ッこの野郎! 超A級スナイパーのジャン様を一瞬でもビビらせやがって!」
 
 照準を絞って三度引き金を引いたジャンだったが、二本の『紫晄石ヴィヨ・ジェム』を備えた『オオコウモリ型晄石獣ジェムート』は華麗な動きでヒョイっと躱してしまった。
 
「————うえっ⁉︎」
 
 慌てて再度引き金を引くがカチカチカチと音がするだけで何も飛び出す物はない。答えは単純。弾切れである。
 
「た、弾切れぇっ————⁉︎」
 
 叫び声を上げるジャンに『紫角ムラサキヅノ』の牙が迫る————その刹那、高速旋回する何かがオオコウモリの身体を突き破った。
 
「…………は……?」
 
 呆気に取られるジャンの視線の先には誇らしげに宙を舞うハヤブサの美しい勇姿フォルム
 
「————す、すげえじゃねえか、シュウ! お前、あんな必殺技を隠し持ってたのかよ!」
「ピピ……」
 
 クールにさえずるシュウにジャンが続ける。
 
「助かったぜ、シュウ! さあ、アニキとミロワちゃんを探しに行こう!」
「ピッ!」
 
 了解とばかりに羽ばたくシュウをジャンは弾倉に弾丸を込めながら追い掛ける。
 
(……何が起こってんのか分かんねえけど、早いとこアニキを見つけて守ってもらおう……!)
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