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第7章 血の日曜日
第43話 紅い絵画 ※残酷描写あり
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————教会の鐘の音が街中に響き渡る。
いつもの等間隔で鳴らされる時刻を知らせるものではない。ゴン、ゴン、ゴンと短い間隔で打ち鳴らされるそれは非常事態を喚起するためだ。
鐘の音を耳にした住民の反応は様々である。
パニックに陥り逃げ惑う者、部屋に閉じこもり打ち震える者、武器を手に取り覚悟を決める者————。
しかし中には奇特な者もいて、何かに集中するあまりにそもそも鐘の音が耳に届かないというケースもあった。
————天才女性学者と称されるジゼル・オットー女史である。
自己との対話に入った彼女の集中力は並大抵のものではない。けたたましく鐘がなろうとも彼女が心のドアを開けることはなかった。
だが————、
『ガシャァァンッ‼︎』というガラスが割れる音が間近で鳴らされたことで流石のジゼルも異常に気付いたようである。
音のした方に顔を向けると、一匹の『サル型晄石獣』が窓を破壊し屋内に侵入している姿が見えた。
ジゼルと眼が合った『サル型晄石獣』は牙を剥き出しにして彼女に飛び掛かった。
「————ッ」
刃物よりも鋭い牙と爪が肉に食い込む寸前で『サル型晄石獣』は動きを止めてそのまま床に崩れ落ちた。
ビクンビクンと痙攣しながらもなおジゼルに向けて腕を伸ばす『晄石獣』だったが、やがて事切れたように腕が床へと落ちた。
「……ふむ、4発でようやく止まったか」
データを採取するように話すジゼルの手には銃器が握られ、『晄石獣』の胸には針状のものが4本刺さっていた。
自作の麻酔銃をテーブルに置いてジゼルは頭を抱えた。
「……しかし、なんて日だ……!」
ジゼルは頭を抱えたまま昏睡状態の『晄石獣』へ視線を向ける。
「————新たな研究対象が自分から私の元へやって来るとは……ッ‼︎」
◇
街への『晄石獣』の侵入を知らせる鐘の音は当然ジャンの耳にも響いた。
「……この鐘の音……! 街に入って来たのはさっきのワンコとコウモリだけじゃなかったってことかよ……⁉︎」
拳銃を手に警戒を強めたジャンが路地の曲がり角に差し掛かった時、突然の雨が彼の頭を濡らした。
「————ぶわっ⁉︎」
だが天気は快晴である。不思議に思ったジャンは濡れた頭に手をやる。
「……天気雨か————⁉︎」
ぬるりとした感触を不審に思い見てみると、指の先は真っ赤に染まっていた。
「————ギャアアアッ‼︎」
ジャンが驚きの声を上げるその前に断末魔の叫びが響き渡った。
脳が『その先の角を曲がってはいけない』と命令を下すも、ジャンの足は引き寄せられるように角を曲がってしまう。
————曲がり角の向こうはまるで一幅の絵画のようであった。
使われた色彩は一色のみ。この世のどんな赤よりも紅い真紅である。
壁一面、地面一面のキャンバスを使って大胆に描かれたその絵画は、作者自身にも二度と同じものを描き出せないだろう。
芸術の大家が生み出した傑作に圧倒されたようにジャンはその場に尻餅を突いた。
絵画の中には、雪のような毛並みを返り血でまだらに染めた大虎が屈強な男を口に咥えた場面が描かれていた。
「……た、助け————」
ジャンの存在に気付いた男が助けを求めて声を上げるも、大虎の顎が無慈悲に閉じられ、続く言葉は二度と聞けなくなった。
「…………‼︎」
この地獄のような光景に腰を抜かしたジャンは恐怖で声も出せない。シュウも同様のようで、弱々しく上空を旋回するばかりである。
「————お前も『晄石狩り』とやらか……?」
突然声を掛けられたジャンが顔を向けると、自分のすぐ横で長身の女性が腕を組んで立っているのが見えた。
「……あ……、え……?」
「…………」
状況が理解出来ない様子のジャンに一瞥をくれたルゥインは興味をなくしたように顔を逸らせた。
「……パイフゥ」
ジャンに背を向けて歩き出したルゥインと入れ替わるようにパイフゥがのしのしと歩み寄る。
「ピィッ‼︎」
上空からシュウが威嚇の声をぶつけるが、パイフゥは全く臆す様子もなく脚を止めない。
「…………シュウ、ありがとな。でも、ここはいいからお前はアニキを呼びに行ってくれ……」
「ピッ⁉︎」
「……俺のことは心配いらねえよ。自慢じゃねえが、ジャン様の逃げ足に敵うヤツはいねえんだぜ……!」
「…………ピィ……!」
ガタガタと震えながら作り笑いを見せるジャンにシュウは悲しげに鳴いた。
「————ピピィッ‼︎」
後ろ髪を引かれる思いを振り払うように高らかに鳴いてシュウは飛び去って行った。
視界の端でその背を見送りながらジャンがつぶやく。
「…………へへ……、逃げ足を披露したくても、ビビっちまって身体が言うことを聞きやがらねえんだわ、これが……」
気付けば眼の前にパイフゥの巨大な顔面が迫っていた。
(あーあ……、これも今まで『晄石獣』を狩ってきたインガオーホーってヤツかね————)
観念したジャンが眼を閉じた次の瞬間、『ガキィッ』という衝撃音が耳に飛び込んできた。
「…………?」
恐る恐る眼を開けたジャンの視界の先では、黒毛馬にまたがった女が槍に似た武器でパイフゥの牙をガッシリと受け止めていた。
後ろ姿ではあるが、ジャンはその女に見覚えがあった。
「アンタは————リンファちゃん⁉︎」
いつもの等間隔で鳴らされる時刻を知らせるものではない。ゴン、ゴン、ゴンと短い間隔で打ち鳴らされるそれは非常事態を喚起するためだ。
鐘の音を耳にした住民の反応は様々である。
パニックに陥り逃げ惑う者、部屋に閉じこもり打ち震える者、武器を手に取り覚悟を決める者————。
しかし中には奇特な者もいて、何かに集中するあまりにそもそも鐘の音が耳に届かないというケースもあった。
————天才女性学者と称されるジゼル・オットー女史である。
自己との対話に入った彼女の集中力は並大抵のものではない。けたたましく鐘がなろうとも彼女が心のドアを開けることはなかった。
だが————、
『ガシャァァンッ‼︎』というガラスが割れる音が間近で鳴らされたことで流石のジゼルも異常に気付いたようである。
音のした方に顔を向けると、一匹の『サル型晄石獣』が窓を破壊し屋内に侵入している姿が見えた。
ジゼルと眼が合った『サル型晄石獣』は牙を剥き出しにして彼女に飛び掛かった。
「————ッ」
刃物よりも鋭い牙と爪が肉に食い込む寸前で『サル型晄石獣』は動きを止めてそのまま床に崩れ落ちた。
ビクンビクンと痙攣しながらもなおジゼルに向けて腕を伸ばす『晄石獣』だったが、やがて事切れたように腕が床へと落ちた。
「……ふむ、4発でようやく止まったか」
データを採取するように話すジゼルの手には銃器が握られ、『晄石獣』の胸には針状のものが4本刺さっていた。
自作の麻酔銃をテーブルに置いてジゼルは頭を抱えた。
「……しかし、なんて日だ……!」
ジゼルは頭を抱えたまま昏睡状態の『晄石獣』へ視線を向ける。
「————新たな研究対象が自分から私の元へやって来るとは……ッ‼︎」
◇
街への『晄石獣』の侵入を知らせる鐘の音は当然ジャンの耳にも響いた。
「……この鐘の音……! 街に入って来たのはさっきのワンコとコウモリだけじゃなかったってことかよ……⁉︎」
拳銃を手に警戒を強めたジャンが路地の曲がり角に差し掛かった時、突然の雨が彼の頭を濡らした。
「————ぶわっ⁉︎」
だが天気は快晴である。不思議に思ったジャンは濡れた頭に手をやる。
「……天気雨か————⁉︎」
ぬるりとした感触を不審に思い見てみると、指の先は真っ赤に染まっていた。
「————ギャアアアッ‼︎」
ジャンが驚きの声を上げるその前に断末魔の叫びが響き渡った。
脳が『その先の角を曲がってはいけない』と命令を下すも、ジャンの足は引き寄せられるように角を曲がってしまう。
————曲がり角の向こうはまるで一幅の絵画のようであった。
使われた色彩は一色のみ。この世のどんな赤よりも紅い真紅である。
壁一面、地面一面のキャンバスを使って大胆に描かれたその絵画は、作者自身にも二度と同じものを描き出せないだろう。
芸術の大家が生み出した傑作に圧倒されたようにジャンはその場に尻餅を突いた。
絵画の中には、雪のような毛並みを返り血でまだらに染めた大虎が屈強な男を口に咥えた場面が描かれていた。
「……た、助け————」
ジャンの存在に気付いた男が助けを求めて声を上げるも、大虎の顎が無慈悲に閉じられ、続く言葉は二度と聞けなくなった。
「…………‼︎」
この地獄のような光景に腰を抜かしたジャンは恐怖で声も出せない。シュウも同様のようで、弱々しく上空を旋回するばかりである。
「————お前も『晄石狩り』とやらか……?」
突然声を掛けられたジャンが顔を向けると、自分のすぐ横で長身の女性が腕を組んで立っているのが見えた。
「……あ……、え……?」
「…………」
状況が理解出来ない様子のジャンに一瞥をくれたルゥインは興味をなくしたように顔を逸らせた。
「……パイフゥ」
ジャンに背を向けて歩き出したルゥインと入れ替わるようにパイフゥがのしのしと歩み寄る。
「ピィッ‼︎」
上空からシュウが威嚇の声をぶつけるが、パイフゥは全く臆す様子もなく脚を止めない。
「…………シュウ、ありがとな。でも、ここはいいからお前はアニキを呼びに行ってくれ……」
「ピッ⁉︎」
「……俺のことは心配いらねえよ。自慢じゃねえが、ジャン様の逃げ足に敵うヤツはいねえんだぜ……!」
「…………ピィ……!」
ガタガタと震えながら作り笑いを見せるジャンにシュウは悲しげに鳴いた。
「————ピピィッ‼︎」
後ろ髪を引かれる思いを振り払うように高らかに鳴いてシュウは飛び去って行った。
視界の端でその背を見送りながらジャンがつぶやく。
「…………へへ……、逃げ足を披露したくても、ビビっちまって身体が言うことを聞きやがらねえんだわ、これが……」
気付けば眼の前にパイフゥの巨大な顔面が迫っていた。
(あーあ……、これも今まで『晄石獣』を狩ってきたインガオーホーってヤツかね————)
観念したジャンが眼を閉じた次の瞬間、『ガキィッ』という衝撃音が耳に飛び込んできた。
「…………?」
恐る恐る眼を開けたジャンの視界の先では、黒毛馬にまたがった女が槍に似た武器でパイフゥの牙をガッシリと受け止めていた。
後ろ姿ではあるが、ジャンはその女に見覚えがあった。
「アンタは————リンファちゃん⁉︎」
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