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第8章 明かされた真実
第51話 無貌の怪物
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◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『————姉上、戻りましょう! 例え敵わずとも父上と母上、里の皆の仇を討たねば日下部家の男児としてご先祖様に顔向けが出来ません!』
佑は自らの手を引っ張り夜の森を先導する鏡花に声を掛けたが、鏡花は脚を緩めるどころか益々その速度を早めた。
『姉上! 離してください!』
『……駄目よ……!』
再び佑に呼び掛けられた鏡花は速度を維持したままようやく声を発した。
『どうしてです!』
『ここであなたが死んでしまえば日下部家直系の血が途絶えてしまう……! それだけは絶対に避けなければならないわ……!』
『俺が死んでも姉上さえ助かれば————ッ』
その時、二人の行く手を遮るように大きな影が前方に立ち塞がっていた。
『くっ!』
『いけません、姉上! そっちは————』
追っ手を回避するため進路を変えた鏡花だったが、木々を抜けた先には万丈の谷がポッカリと大口を開けて待ち構えていた。崖下には川が流れているものの、簡単に飛び込める高さではない。鏡花と佑は崖を背にして振り返った。
木々の間から何か蠢くモノが姿を現す。
『……これ以上、逃げることは出来なくなりましたね……!』
佑は冷や汗を流しながらも強いて笑みを浮かべて刀の柄に手を掛けた。しかし山鳥の羽毛を彷彿わせる刃紋が露わになったところで、刀身は白魚のような手によって再び鞘へと押し戻された。
『姉上……! この期に及んでまだ、俺に皆の仇を討たせてはもらえないのですか……‼︎』
『慌てないで、まずは私が……!』
鏡花は逸る弟の前に進み出て携えていた薙刀を構えると、わずかに振り返り厳しくも愛情に包まれた表情を向けた。
『……あなたは必ず生き延びなければいけない。【あの技】を途絶えさせないためにも……!』
『姉上……⁉︎』
鏡花の言葉に眉を寄せた佑は次の瞬間、信じられないといった表情を浮かべた。
『姉上……、どうして————』
薙刀の柄で胸を押された佑は必死で腕を伸ばしたが、身体を包み込む重力には逆らえず崖下へと飲み込まれていった。
『姉上————ッ‼︎』
崖下から響いてくる弟の叫びを背中で受け止めた鏡花の前にソレが立ち塞がる。
男とも女ともつかない人型の姿————。
その顔には眼や鼻、口といった器官が見当たらず、全身が鏡面のようにキラキラと輝きを放っている。妖しくも美しいその姿はまるで神仏が造り上げた造形物のようであった。
『…………‼︎』
無貌の怪物の表面に映った女の顔から冷や汗が流れ落ちた。
『……来なさい……! この日下部鏡花が命に代えてもお前を討つ……‼︎』
『…………』
自らを奮い立たせるように構えていた薙刀を突き出した鏡花だったが、口が利けないのか無貌の怪物は何も発さない。
先手を打つべく鏡花がにじり寄った時、無貌の怪物の胸の部分にある小さな黒い点が赤く閃いた。
『————‼︎』
無貌の怪物から赤い光線が照射され、鏡花は反射的に左手を掲げて遮る。
『…………⁉︎』
その光線は殺傷を目的としたものではないようで鏡花は痛みや不快感などは感じていなかったが、その代わりに強烈な寒気を覚えた。
(……これは私の何かを調べている……⁉︎)
その間にも赤い光線は鏡花の身体を頭の天辺から爪先までくまなく照らし出している。それはまさしく自らの表面に映した者の情報を読み取ろうとするようなそんな挙動であった。
(させない————ッ‼︎)
嫌な予感を覚えた鏡花は間合いを詰め、手にした薙刀を振り払った。
神速の一閃が無貌の怪物の胸をかすめ、黒い点にわずかな傷を付けた。同時に赤い光線の照射が止み、鏡花は再び間合いを取った。胸を両断するつもりで放った薙ぎ技が紙一重で外されたのである。相手の腕前に対し警戒心を持つことは正しい反応と言えるだろう。
しかし、鏡花のこの判断は今回は裏目に出た。
『————なっ……⁉︎』
無貌の怪物の身体が蠢き出し、瞬く間に女性にたおやかな肢体を形作っていく。鏡花は驚愕でそれを止めることが出来ない。
やがて変形を終えたソレは艶やかな黒髪をなびかせ、握り締めた薙刀を眼前の女と同じ構えで突き出した。
『…………‼︎』
鏡花は鏡に映った自分を見ているような錯覚に囚われた。
眼の前には右の眼尻に二連のホクロを持った己が立っているのである。
『……人間の姿を写し取る化物……‼︎』
『…………【母】ノ命令ハ絶対……人間、滅ボス……』
ここで初めて無貌の怪物が言葉を発した。たどたどしい発音だが、その声音もまさしく己のものと同じであった。
『人間を滅ぼす……⁉︎』
その言葉を聞いた鏡花は恐るべき真相に気付いた。
『————まさか、月代善磨があのような暴挙に及んだのもお前たちの仕業だったと言うの……⁉︎』
『————姉上、戻りましょう! 例え敵わずとも父上と母上、里の皆の仇を討たねば日下部家の男児としてご先祖様に顔向けが出来ません!』
佑は自らの手を引っ張り夜の森を先導する鏡花に声を掛けたが、鏡花は脚を緩めるどころか益々その速度を早めた。
『姉上! 離してください!』
『……駄目よ……!』
再び佑に呼び掛けられた鏡花は速度を維持したままようやく声を発した。
『どうしてです!』
『ここであなたが死んでしまえば日下部家直系の血が途絶えてしまう……! それだけは絶対に避けなければならないわ……!』
『俺が死んでも姉上さえ助かれば————ッ』
その時、二人の行く手を遮るように大きな影が前方に立ち塞がっていた。
『くっ!』
『いけません、姉上! そっちは————』
追っ手を回避するため進路を変えた鏡花だったが、木々を抜けた先には万丈の谷がポッカリと大口を開けて待ち構えていた。崖下には川が流れているものの、簡単に飛び込める高さではない。鏡花と佑は崖を背にして振り返った。
木々の間から何か蠢くモノが姿を現す。
『……これ以上、逃げることは出来なくなりましたね……!』
佑は冷や汗を流しながらも強いて笑みを浮かべて刀の柄に手を掛けた。しかし山鳥の羽毛を彷彿わせる刃紋が露わになったところで、刀身は白魚のような手によって再び鞘へと押し戻された。
『姉上……! この期に及んでまだ、俺に皆の仇を討たせてはもらえないのですか……‼︎』
『慌てないで、まずは私が……!』
鏡花は逸る弟の前に進み出て携えていた薙刀を構えると、わずかに振り返り厳しくも愛情に包まれた表情を向けた。
『……あなたは必ず生き延びなければいけない。【あの技】を途絶えさせないためにも……!』
『姉上……⁉︎』
鏡花の言葉に眉を寄せた佑は次の瞬間、信じられないといった表情を浮かべた。
『姉上……、どうして————』
薙刀の柄で胸を押された佑は必死で腕を伸ばしたが、身体を包み込む重力には逆らえず崖下へと飲み込まれていった。
『姉上————ッ‼︎』
崖下から響いてくる弟の叫びを背中で受け止めた鏡花の前にソレが立ち塞がる。
男とも女ともつかない人型の姿————。
その顔には眼や鼻、口といった器官が見当たらず、全身が鏡面のようにキラキラと輝きを放っている。妖しくも美しいその姿はまるで神仏が造り上げた造形物のようであった。
『…………‼︎』
無貌の怪物の表面に映った女の顔から冷や汗が流れ落ちた。
『……来なさい……! この日下部鏡花が命に代えてもお前を討つ……‼︎』
『…………』
自らを奮い立たせるように構えていた薙刀を突き出した鏡花だったが、口が利けないのか無貌の怪物は何も発さない。
先手を打つべく鏡花がにじり寄った時、無貌の怪物の胸の部分にある小さな黒い点が赤く閃いた。
『————‼︎』
無貌の怪物から赤い光線が照射され、鏡花は反射的に左手を掲げて遮る。
『…………⁉︎』
その光線は殺傷を目的としたものではないようで鏡花は痛みや不快感などは感じていなかったが、その代わりに強烈な寒気を覚えた。
(……これは私の何かを調べている……⁉︎)
その間にも赤い光線は鏡花の身体を頭の天辺から爪先までくまなく照らし出している。それはまさしく自らの表面に映した者の情報を読み取ろうとするようなそんな挙動であった。
(させない————ッ‼︎)
嫌な予感を覚えた鏡花は間合いを詰め、手にした薙刀を振り払った。
神速の一閃が無貌の怪物の胸をかすめ、黒い点にわずかな傷を付けた。同時に赤い光線の照射が止み、鏡花は再び間合いを取った。胸を両断するつもりで放った薙ぎ技が紙一重で外されたのである。相手の腕前に対し警戒心を持つことは正しい反応と言えるだろう。
しかし、鏡花のこの判断は今回は裏目に出た。
『————なっ……⁉︎』
無貌の怪物の身体が蠢き出し、瞬く間に女性にたおやかな肢体を形作っていく。鏡花は驚愕でそれを止めることが出来ない。
やがて変形を終えたソレは艶やかな黒髪をなびかせ、握り締めた薙刀を眼前の女と同じ構えで突き出した。
『…………‼︎』
鏡花は鏡に映った自分を見ているような錯覚に囚われた。
眼の前には右の眼尻に二連のホクロを持った己が立っているのである。
『……人間の姿を写し取る化物……‼︎』
『…………【母】ノ命令ハ絶対……人間、滅ボス……』
ここで初めて無貌の怪物が言葉を発した。たどたどしい発音だが、その声音もまさしく己のものと同じであった。
『人間を滅ぼす……⁉︎』
その言葉を聞いた鏡花は恐るべき真相に気付いた。
『————まさか、月代善磨があのような暴挙に及んだのもお前たちの仕業だったと言うの……⁉︎』
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