鏡合わせのミロワール

知己

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第8章 明かされた真実

第61話 『地母神』

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 ついに明かされた『母』の正体————そのあまりのスケールの大きさにジャン・リンファの二人は眼を大きく見開き、あたかも言葉を忘却したかのように口を半開きにしたまま固まった。
 
「……『母』の正体が『地球』だと……⁉︎ 本当なのか、ミロワ……⁉︎」
「…………」
 
 いまだ信じられないといったタスクの声にミロワは無言でうなずき、次いでジゼルへと顔を向けた。
 
「……ジゼルさん、どうして分かったのです……?」
 
 『母の子』とも言える存在のミロワに尋ねられたジゼルはどこか嬉しそうな様子で口を開く。
 
「どうしてと問われると、消去法と願望かな」
「消去法と……願望?」
「そう。私は『晄石獣ジェムート』を観察する中で常々疑問に思っていた。『このような奇妙な生物はいったいどこから産まれてきたのだろう』とね」
「…………」
「最初はジャンくんと同じく国や軍が産み出したものかとも考えたが、現状の人類の科学力では人間のみをターゲットとする生物兵器を量産化するなんて到底無理だと思い、アプローチを変えてみたんだ」
「そこから消去法で人類以外の存在が浮かび上がったと……?」
 
 ミロワの声にジゼルはうなずいて続ける。
 
「神が人を造ったとよく言われるだろう? 『母』というキーワードから『地母神』という概念が思い浮かんだんだ」
「どっちが想像力豊かなんだよ。学者のくせにアンタの方がよっぽどブッ飛んでんじゃねえか」
「学者のくせに、か。私に言わせれば想像力の乏しい学者に魅力は感じないね。人間は想像することで進化してきたしゅなのだから」
「…………」
 
 食って掛かったジャンを黙らせたジゼルは続けて意見を述べる。
 
「それに私が言っている『神』とは人々の心の中に存在する偶像的なものじゃないよ。言うなれば『システム』といったところかな」
「システム……⁉︎」
「地球というものは生態系も含めて絶妙なバランスで成り立っているんだ。それを管理する超常の存在がいたとしても不思議ではないと昔から漠然と思っていたんだよ」
「————あ……! アンタが論文で発表しようとしてた『地球を一つの生命体と考える』ってヤツか……‼︎」
 
 以前見た手記の内容を思い出したジャンにジゼルは笑みを浮かべる。
 
「その通り。ヒトを産み出したのが『地球』なら、ヒトを捕食する生物を産み出すのもまた『地球』だと考えたというわけさ」
「……それが願望っていうことか。どっちにしろ、おかしな奴じゃな」
 
 今まで黙って聞いていたリンファが不意にツッコミの声を上げたが、ジゼルは楽しそうに笑みを浮かべた。
 
「リンファ嬢、私がこの結論に至ったのはキミやタスクくんのおかげでもあるんだよ」
「ウチと……」
「俺の……?」
 
 リンファとタスクが同時に声を上げた。
 
「ああ。リンファ嬢の見せてくれた『内功ナイコウ』に、タスクくんの『神降ろしカミオロシ』という不思議な技法のおかげで私の想像力の幅が広がったんだ。感謝するよ、二人とも……‼︎」
「ち、力になれたんなら良かったわ……」
「そ、そうか……、それはなにより……」
 
 眼がバキバキのその様子にリンファとタスクが一歩引くと、ジゼルはミロワに向き直って腕を広げた。
 
「————以上が私の考察だね。では、私からも質問したいんだが良いかね?」
「どうぞ」
「ありがとう。大凡おおよその予想はついているが、『母』————いや、いつまでも『母』だとママと混同して紛らわしいな……」
 
 言葉の途中でなにやら考え込む仕草を見せたジゼルは数秒の後、ポンと手を叩いた。
 
「よし! これからは『地母神テルース』と呼称しよう! 何か異論はあるかね⁉︎」
『…………』
 
 室内に立ち込めるもう好きにしてくれという空気に気付かず、ジゼルは満足げにうなずいた。
 
「異論なしということで今後『母』の呼称は『地母神テルース』に決定! それでミロワ嬢、『地母神テルース』は何故人類を滅ぼそうとしているのかね?」
『…………‼︎』
 
 この質問はこの場にいる誰もが聞きたいと思っていたものである。皆、固唾を呑んでミロワの答えを待った。
 
「『母』————いえ、『地母神テルース』が人類を滅ぼそうと決めた理由————それは人類が地球に害を及ぼす生物へと成り果てたと結論付けたからです……‼︎」
「…………」
 
 その恐るべき答えにジゼルは予期していた様子でうなずいたが、残りの三人はそうではなく、とりわけジャンの動揺は激しかった。
 
「…………な、なんでだよ! なんで人類俺らが地球にわり生物いきモンなんだよ‼︎」
「それは…………」
 
 口に出すことを躊躇するミロワに代わって、ジゼルが口を開いた。
 
「ジャンくん。キミたち『晄石狩りハンター』が血眼になってかき集めている『晄石ジェム』とはそもそも何なのか考えたことがあるかね?」
「な、なんだよ、急に……、そんなの知らねえよ。カネになる燃料みてえなモンじゃねえの……?」
「燃料……そうだね。だが、そのエネルギーはどこから生まれていると思う?」
「どこって……そりゃ、『晄石獣ジェムート』を産み出してんのが『地母神テルース』なんだから…………ッ⁉︎」
 
 何かに気付いた様子で言葉を止めたジャンにジゼルが続ける。
 
「————そう、『晄石ジェム』とは恐らく地球を構成するエネルギーの結晶体。我々人類は繁栄を求めるあまりに、母なる地球を食い潰す『害獣』とでも判定されたのだろうね……!」
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