【完結】暴虎馮河伝 〜続編あり〜

知己

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第三章

『鏢局荒らし(三)』

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 黄州こうしゅうへ向かう街道を、銀色の狼が刺繍された大旗を持った男を先頭に馬車が数台続いていく。

「路銀を稼ぐって、このことだったのね?」
「おうよ、こうやって寝っ転がってるだけで次の街まで運んでくれるし、三食飯も付いて小遣いもくれる。いい仕事だろ?」

 一番大きな荷台の上で、拓飛タクヒは金品を枕に横になっていた。凰華オウカは側に座り、呆れた表情を浮かべている。

 銀狼鏢局で大暴れした拓飛は、強引に鏢師の座に収まっていた。あいにく西方面の仕事は無かったが、ちょうど黄州方面へ出立するということなので、とりあえず路銀稼ぎと移動を兼ねて南下することにした。

「こんなことしてバチが当たっても知らないわよ?」
「人聞きの悪いこと言うな。盗賊が現われりゃ仕事はするぜ。ま、今まで十回くれえ鏢師の仕事はしたが、マジで襲われたのは二回だけだったけどな」

 なんとこの男、この押しかけ用心棒稼業は初犯では無いらしい。凰華は呆れて話題を変えた。

「ねえ、ところで拓飛って誰に武術を教わったの?」
「あ?」
「父さんが言ってたの。拓飛は言動はアレだけど、武術は正統派だって。立派な師父がいるんでしょ?」

 さっきまで機嫌の良かった拓飛だったが、急に仏頂面になった。

「……俺よりちょっとだけ強え、おっさんだ」

 凰華は驚いた。この青年が傍若無人なことは知っていたが、自分の師父を言うに事欠いて、『ちょっとだけ強え、おっさん』とは。

「ちょっとだけ強い、おじさんって、師父でしょ?」
「へっ! あのおっさんが師父なモンかよ!」
「でも武術を教わったんじゃないの?」

 拓飛がなにか答えようとした時、列の先頭の方から、「ピィーッ」という笛の音が聞こえてきた。同時に拓飛がガバっと起き上がる。

「なに? 今の何の合図?」
「お仕事だぜ! おめえはあっちな」

 回りを見ると護送の列は竹林に差し掛かっており、武器を持った数十人の男たちに両側から挟まれている。言うなり拓飛は列の左側の野盗たちに向かって行ってしまった。凰華は深呼吸し、反対側に向かう。


 凰華が竹林に着いた時にはすでに用心棒と野盗たちの交戦は始まっていた。野盗たちは皆何かしらで顔を隠しており、味方と間違うことはない。凰華の姿を認めると、相手が女でも構わず刀を振り下ろしてくる。

 桐仁トウジンから武器を持った相手の対処法を伝授されていた凰華は、冷静に刀を捌き反撃する。手刀を首筋に叩き込まれた野盗は声もなく崩れ落ちた。どうやら武器を持っているだけで、大した使い手はいなさそうだ。

 凰華は続けて二人を倒した。すると野盗たちは四人で凰華を囲い出す。一人一人は大した使い手ではないが、四人で連携されると凰華は反撃が出来ず徐々に追い込まれる。なんとか攻撃を躱していた凰華だったが、

「? キャッ!」

 何かにつまずいて倒れてしまった。この機を見逃さず盗賊たちは一斉に刀を振り下ろす。
 だが、「ギィンッ」という金属音と共に刀身が折れて地面に落ちた。何が起こったか分からず、呆然とする凰華と野盗たち。

「ボサッとしてんじゃねえ! 凰華!」

 拓飛の大声が聞こえた凰華は素早く立ち上がり、野盗たちに当身を食らわせる。なんとか窮地を脱した凰華の心臓は早鐘のように鳴り止まない。
 ゆっくりと声のした方を見ると、さっきまで寝っ転がっていた荷台の上に拓飛が戻っていた。右手で小さな石ころを数個お手玉のようにして遊ばせている。

(まさか、あの石ころを投げて刀を折ったっていうの?)

「おーい、こっちはもう片付けたぜー。 そっちも早くしろよなー」

 拓飛の後ろを見ると、十数人の野盗たちが倒れていた。たった一人で、しかもこちら側より早く相手を片付けてしまった腕前に敬服しつつ、後ろで拓飛が控えていてくれると思うと、凰華は落ち着きを取り戻し、用心棒たちと協力して残りの野盗を捕縛した。
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