さよなら異世界転生

武井とむ

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第一章

マザーク共和国戦線 1

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砂漠の国、マザーク。
広大な砂の海がどこまでも続き、太陽が容赦なく照りつけるこの地には、かつては砂丘の中に宝石のように輝くオアシスが点在し、豊かな自然と文化が栄えていた。
しかし、長引く戦争の影響でその輝きは失われ、国土は荒れ果てた。
かつての繁栄を誇った都市は今や廃墟と化し、国民たちは日々戦火の中で生き延びるために必死に抵抗している。
燃えさかる砂嵐の中、彼らは自由と平和を取り戻すため、希望の灯を消さずに戦い続け、二ヶ月が経過しようとしていた。

——————
シュアは静かな部屋に入り、手早く兜を外した。
戦場から戻ったばかりの彼の顔には疲労が浮かんでいたが、その目は鋭く光っていた。
彼は胸当てのストラップを外しながら、目の前に座る兵士に口を開いた。

「コリン、ランス国の奴等かなり焦ってるな。このままモリスの首も取れそうだ」

重い防具を脱ぎ捨てながら、シュアは肩を大きく回した。
長時間の戦闘で筋肉が凝り固まっているのを感じる。彼は続けた。

「問題は水の確保だが...どうする?まさか上流から毒を流されるとはな」

その言葉と共に、彼は腕のガードを外し、ベルトを解いた。
装備を外す度に、その重さが徐々に解放されていく感覚があった。
シュアはそのまま、コリンの指示に耳を傾けながら、最後のブーツを脱いだ。

「そうですね...食料は二週間、水は持って三日といったところでしょうか...物資消費は前線の部隊を考え、避難民にもかなり制限をかけています」
テーブルに広がる戦況報告書や戦略図に向かいコリンは頭を悩ませた
そんなコリンとは対照的に、身軽になったシュアは安堵の息を漏らし大きく伸びしている。

「雨季が近いとはいえ、恐らく数日以内には期待できないな」
「そうですよね...」
疲労感が全身を包み、天井を仰ぎ見るシュア。
そこに扉を遠慮気味に叩く音が聞こえた。
「どうぞ」
コリンはテーブルに目線を向けたまま応える。
「失礼しまーす」
恐る恐る扉を開け入室してきたのは肩につかないくらいの白髪がよく似合う幼い顔立ちをした華奢な女の子だった。
身に纏ったローブのフードを取り、その幼い顔には似つかわしくない禍々しい瞳は、青色を主としているが、言い表わせられないほど複雑な色味で、見る者には美しさをも感じさせる眼光を放っていた。
「あ、コリンさん今大丈夫ですか...?」
「ああ。構わないよ。」
コリンは居住まいを正し、少女へと視線を向けた
「ハニ、体調はもう平気なのかい?」
「はい。お陰様で。すみません。かなり寝ちゃってましたよね...?」
「半日は寝てたんじゃねぇか?よっぽど体力を消耗するみたいだな」
シュアは天井を仰いだまま答えた

「ごめんなさい...まだ慣れないみたいで...」
申し訳無さそうに下をうつ向きモジモジしながらハニは続ける
「あの...さっきまたんです。多分その...お力になれるかと思って。」
弱々しい態度とは裏腹にその眼光は鋭くコリンへ訴えかけている。

その言葉に反応し、シュアは立ち上がり、コリンは前のめりになり尋ねた。
「本当かい!?...未来がんだね?」
「はい...」

——————
玉座の間は重苦しい沈黙に包まれていた。
窓から差し込む光が、部屋全体に陰鬱な雰囲気を醸し出している。
その中で、鎧をまとった兵士が、モリス国王の前に一歩進み出た。

「陛下…」
兵士の声は、重く沈んでいた。
「前線の状況は悪化の一途を辿っております。我が軍は撤退を余儀なくされ、兵士達は物資供給地点の第四線まで引かざるをえず...」
モリスの顔に一瞬の驚愕と失意の色が浮かんだ。
「それほどまでに…」と低く呟く。
項垂れるモリスにあてられるように、良く言えば側近、悪く言えば金魚の糞と揶揄される男の恥じらう事もなく、怯えた声が響く。
「このままいけば戦況は一変...首都への進軍までありうるんじゃあないか!?」
重苦しい空気が更に一段と重くのしかかる

「陛下。報告によりますと、幾度となく進軍を試みましたが、こちらの計画が全て敵に見透かされていたようでして。彼らは一手先を読んでおり、我々の動きを完璧に封じ込めているとの事」

空気が凍りつく。
誰もがその言葉の意味を理解していた。
彼らの作戦は、全て無駄に終わる。数か月にわたる準備と努力、そして兵士たちの犠牲も。
「どの戦術も、どの作戦も、全て裏目に出ております...敵の防衛線は突破不可能。どの方向に進んでも、迎撃されるのは確実です...」
参謀の一人が、しわがれた声で言った。

静寂が再び部屋を支配した。
誰も次の言葉を発することができない。
彼らの頭の中には、ただ一つの疑問が浮かんでいた――
「どうして、ここまで見透かされてしまったのか?」

「もはや、打つ手がないのか…」モリスが呟くように言った。
その声には、今までになく深い無力感がにじんでいた。
「あーもう!どうするんだよぉ!!」
金魚の糞は駄々っ子のように振る舞う事しかできない。
「ボド様!落ち着いてください!」
その場の誰もが金魚の糞を黙らせたかったが、兵士達も宥める事が精一杯だった。

「作戦を練り直すしかない。しかし、時間が...」
参謀が答えるが、その声にも希望は感じられなかった。

この時、全員が理解していた。
これまでの戦術が全て無効にされるという状況は、ただの戦術的敗北ではない。
それは、彼らの存在そのものが敵に読まれているという恐ろしい現実を示していた。どのような手を打っても、それは既に敵の掌中にある。
部屋の隅で、若い兵士が口を開いた。
「それでも、我々にはまだ戦う理由があります。国民のために、一歩も引くわけにはいきません。」

彼の言葉は、沈黙を破る小さな光となったが、それがどれほどの効果を持つのか、誰にもわからなかった。
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