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第1章 フェンリル
03 掃除のおっちゃん
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「なあ竜。あれが竜帝国か」
「ピギャッ!」
地平線の彼方には左右に広がる高い城壁とその真ん中に見える白亜の城の姿。それは紺碧の空に堂々と聳え立っていた。
竜化したバスティーアを先頭に、その後ろには功助を乗せた黄の竜。そしてその斜め後方には蒼い竜のハンスと赤い竜のライラがゆっくりと翼をはばたかせ竜帝国を目指している。
近づくにつれそれの巨大さがわかってきた。さすがに高さはスカイツリーやあべのハルカスには遠く及ばないがその荘厳さは負けてはいない。
広さは見当もつかないがかなり広大のようだ。
その広大な竜帝国の城壁を超え功助たちは一番高い塔の下の広い芝生に降り立った。
バスティーアたちは竜化を解き人化して功助の方に身体を向けた。
黄の竜は首を下げ功助は長い首を滑って地上に降りた。
「竜帝国にようこそおいでくださいました。ここが竜帝国の居城『白竜城』でございます。ごゆるりとしていってください」
バスティーアはうやうやしく一礼した。
功助が案内された部屋はどうやら普通の客室のようだ。侍女がお茶を淹れてくれ茶菓子なんかも小さな籠に入っている。侍女はライラとは違い黒い侍女服で頭には緑色のカチューシャをつけている。
しばらくすると部屋のドアをノックする音がしてバスティーアが入ってきた。国王陛下との謁見の準備が整ったとのことだ。
バスティーアの先導で許城内の豪華な廊下を連れられて歩いているがなんともぎこちない歩き方になっている功助。
壁や廊下におそらく非常に価値のある調度品や絵画が飾られているのだろうがまったく目に入らない。功助には認識はしているが緊張しすぎてただ見えているだけの景色となっている。
国王と言えばその国の最高権力者だ。その国王陛下に会うのに緊張しない者はいないだろう。元の世界でもそんな偉い人に会ったことはないし会う機会もなかったし、とにかく緊張しまくりの功助。
そしてぎこちなく歩くこと5分ほど。何度も何度も角を曲がりようやく一枚の扉の前にたどり着いた。
「なぜこのような部屋にしたのか。真困ったお方だ」
「えっ?」
バスティーアが何か言ったみたいだがあまりに小さく功助には聞こえなかった。
「いえ、なんでもありません」
といってそのドアの前で歩を止めた。
「申し訳ございませんがこの部屋でもうしばらくお待ちいただけますでしょうか?」
「あ、はい」
そしてバスティーアはそのドアを開けた。
中はなんの変哲もない殺風景な部屋でまるで会社の事務所のようだった。
バスティーアは中を見渡して聞こえないほどの溜息をついたが功助に向き直ると椅子を勧める。
「コースケ様、お座りください」
さすがにパイプ椅子やキャスター付きの椅子ではなかったが、バスティーアは椅子をひいた。恐縮しながらも座るが聞こえないようにはあと息つく功助。
「コースケ様。申し訳ございませんがこのブレスレットをはめていただけますでしょうか」
といって銀色に光る輪っかを取り出した。
「あ、はい。それをはめればいいんですか。わかりました」
なぜか躊躇せずそれを受け取る功助。
「すみません。お願いします」
受け取ったブレスレットを右の手首にはめた。少し大きめで手を握っていなければはずれてしまいそうなそれは淡く光ると功助の手首の太さにまで縮んでピッタリのブレスレットになった。
「わっすごい。ピッタリになった。それでこれはなんなんですか?」
バスティーアの方を見て首を傾げる。
「申し訳ございません。コースケ様ほどのお方であるとこのブレスレットをしていただかねばならないのです。悪影響はございませんので。お守りだと思っていただければ幸いでございます」
「そうですか。なんかよくわかりませんがわかりました」
と言って右手を振った。
そうこうしてると入口とは反対の方の扉がコンコンとノックされティーセットを持った侍女が入ってきた。
「失礼いたします」
そう一礼すると功助の前にお茶の準備をする侍女。
そしてその侍女はバスティーアに向くと、
「バスティーア様。侍女長がお呼びです。あちらまでお越しください」
とバスティーアを連れて行った。一人になった功助。周りを見る余裕もなく琥珀色のお茶の入ったカップを見つめていた。
そして何分たったのだろう、さっき侍女とバスティーアが出て行った扉がコンコンとノックされた。
「は、はい」
来たっ!と思って返事をして椅子から立ち上がり扉の方に身体を向けた。
すると、
「毎度っ!お邪魔しまん~にゃわ~」
と言って箒とちり取り、そしてバケツと雑巾を持った男がアイスブルーの目を細めて立っていた。頭は金髪だがボサボサでくたびれたグレーの帽子をかぶりこれもまたくたびれて薄汚れた作業服に黒長靴をはいている。なんとなくこの部屋にピッタリのおっちゃんが毎度毎度と言いながら入ってきた。
功助はあっけにとられその姿を見ても口をパクパクするだけでなんのリアクションもとれずにいた。
「いやあほんま疲れまんなあ。外はええ天気やのに部屋の掃除せなあかんのんはなんかもったいないでんなあ。なあ兄ちゃん、そう思わへんか?」
「は…、はあ…。で、でもなんで関西弁?」
「カンサイベン?なんやそれ、美味いんか」
「い、いえ食べ物じゃないんですけど…。それよりどなたですか?」
「見てわからんか?ワシは掃除のおっちゃんや」
そう言って胸を張る掃除のおっちゃん。
「ところで兄ちゃん、この部屋で何してはんの?」
「えっ?いや、あの…。ここで国王陛下様が来るのを待ってるんですが…」
「はあ?王さんをでっか?なんでこんなとこに。なあ兄ちゃん王さんがこんなとこには来うへんと思わへんか?」
「いや、でもここで待つようにとバスティーアさんが…」
「バスティーアはんが言わはったんか。まあそんなら来はるんかもな。でもな来はるまでには時間あると思うでおっちゃんは。ほんでやな兄ちゃん、来はるまで暇やろ?なあ掃除手伝うてくれはらへんやろか。な、ええやろ」
「えっ?俺が掃除の手伝いですか…。はあ、まあいいですけど」
功助はなぜか掃除のおっちゃんを手伝って部屋を掃除することになってしまった。なんでやねんと功助の心の声は首を傾げた。
「ほなおっちゃんが箒でゴミ集めるさかいに机とか椅子とかどけてくれはりまっか」
「は、はい」
掃除しやすいようにサイドテーブルや椅子を除けていく功助。
「なあ兄ちゃん。この城ん中にいるっちゅうのはお客さんかなんかか?」
「えっ、はあ、まあそうだと思いますけど」
「ふ~ーん。誰のお客さんなん?」
「うーんと、たぶん姫様…王女様かな」
「そうなんか、姫さんのお客か…って兄ちゃんもしかしてあのお転婆姫さんのケガ治したっちゅう人族の兄ちゃんか?」
「あ、はあ、まあそうなるかと。ってよく知ってますねこの城に着いてからあまり時間たってないのに」
「ふふん。掃除のおっちゃんを舐めたらあかんで。おっちゃんの情報網は竜帝国諜報部より凄いんやで」
「は、はあ」
ゴミ箱を持ったままおっちゃんの話を聞く功助。
「おっ、そのゴミ箱の中身はこっちの袋ん中に入れてや」
と扉不均にいつの間にかおいてある大きな袋を指差した。
「あっ、はい」
「それでやな」
おっちゃんは功助に近づくと少し小さい声で耳元でささやいた。
「はい?」
「聞いてもええか」
「は、はい、いいですけど。なんですか?」
「で、竜帝国の王さんに何お願いすんねん?金か?姫さん助けたんやから相当の金もらえるで。まあ一生遊んで暮らせるような金くれはるで。それ目当てに姫さんのケガ治したんか?それとも竜帝国ん中の上の方の地位が欲しいんか?それとも…」
「ち、違いますよっ!そんな金とか地位とかそんなのいりません!」
一歩後退ると掃除のおっちゃんを睨む。
「わっ、びっくりした。ちょっとそんなに怒らんでもええやんか。ほんまもう。そうなんか、ほんまに下心無いんか?ええチャンスやと思うんやけど」
「す、すいませんつい。でも本心ですよ。姫様の足を治したのも成り行きというか、まあ、実際治せるなんて思いもしませんでしたけど」
おっちゃんが箒で掃いたあとにテーブルや椅子を綺麗に並べて行く功助。すると、
「あっ、しもた!ついうっかり掃除の順番間違うてしもた。箒で掃く前に高いとこの埃を払わなあかんかったんや。掃除のおっちゃんとしたことが。二度手間になるけど兄ちゃんこれで埃払ろてくれるか」
そう言っておっちゃんは頭をかきながらどこから出したのか細い布を束ねたはたきみたいな物を功助に手渡してきた。
「あ、そうですよね。まずは高いところの埃を落としてからですよね。わかりましたまあ二度手間は仕方ないですよ」
そう言って功助は棚の上や高価そうな調度品や絵画や壁の埃を落としていった。そうやって部屋の半分ほどの埃を落として次は反対側に向かおうとしたとき。
「なあ兄ちゃん。掃除のおっちゃんでもわかるんやからバスティーアはんももうとっくにわかってはると思うんやけど。兄ちゃん、あんたどこから来はったん?少なくともこのヌーナ大陸とはちゃうんやろ?」
「ヌーナ大陸?」
「なんやヌーナ大陸も知らへんのんか。これはまたやっかいやなあ」
ヌーナなどという大陸は地球にはない。それは確かだと功助は思う。古代にはいくつもの超大陸が存在したが現在の地形にはそのような大陸は存在しない。
「は、はあ」
「兄ちゃん、今度は拭き掃除や。この雑巾しぼって机の上とか拭いてくれはるか・」
「あ、はい」
雑巾を受け取るとバケツの中の水ですすぎしっかりしぼって机や棚の上を拭く。
「それに兄ちゃんな」
「は、はい」
「兄ちゃんってめっちゃ魔力あるんやな。そのブレスレットしてても兄ちゃんの体からとめどなく魔力がこぼれ出てるで。わかってるか?」
「へ?魔力?俺の体から?」
と言って自分自身を指差す功助。
「 そうやで。やっぱりわかってへんのんかいな。凄い魔力量なんやけどな。そんな気はしたけど。ほんま」
「は、はあ」
「兄ちゃん」
「はい」
「はっきり言うで。兄ちゃんこの世界のもんとちゃうやろ」
「……」
口を半開きにして掃除のおっちゃんを凝視した。だがおっちゃんはニコニコしながらサイドテーブルを拭いている。
「やっぱりそうやったんか。兄ちゃんは知らんと思うけどこの世界にはたま~に異世界から来た人族がいるんやで。でもおっちゃんの知ってる限りこの前に異世界人族が来たんは五百年ほど前やったんちゃうかな」
「…で、その異世界人は元の世界に還れたんですか?」
おっちゃんに近づきググッと顔を寄せた。今はその情報が欲しい。なんでもいいから教えて欲しい。このおっちゃんが知っているかどうかはわからないが少しでも早く元の世界に戻りたい、という気持ちを込めた。
「わわわ、近づき過ぎや近づき過ぎ」
おっちゃんは数歩後退りそんな趣味無いでと額の汗を袖で拭った。
「まあええわ。えーとやな。どうやったんかな。あんまし文献も残ってへんかったかもしれへんけど、ここの城の図書塔にあるかもしれへんで。王さんに聞いてみたらええんとちゃうか」
「国王陛下に…。そうですか。ありがとうございます。聞いてみますね」
「ということはやっぱり兄ちゃんは異世界から来たんやな。でもなんでや?」
「あっ…。ま、まあたぶんそうだと思います。俺にもまだよくわからないんですよ。なんでこんなことになったのか」
「兄ちゃん手ェ止まってんで」
「あ、はい」
とあわてて椅子を拭きだす。
「ところで掃除のおっちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「なんや。なんでも聞いてや。おっちゃんはなんでも知ってるで」
「なんで姫様は竜になったまま人に戻れないんですか?」
「ああ、それか、それはな、めっちゃ腹立つ……、いや、惨い事件があったんや」
おっちゃんは何もない宙を見つめ言った。
「事件?」
「ああそうや、最悪のな。 あれは十日ほど前やったかな」
掃除のおっちゃんは人に戻れない姫様のことを話し出した。
「朝やった。姫さんはいつもの日課の散歩に行かはったんや。いつもは青の騎士団の誰かが護衛に着くんやけど、その日は空いてる騎士がおらんかってたまたま一人で散歩に行かはったんや。林に行かはったんやけどそこで魔獣に襲われてしもたんや」
「魔獣?」
「そう、魔獣や。悪魔のような魔獣や。まさに天災級のな。ヤツの名は……’フェンリル’)」
「フェンリル……」
「ああそうや。神殺しとも言われる最悪の魔獣や……。そいつに姫さんは左足を噛まれはったんや」
「なんで、なんでそんなとこにフェンリルが?」
「わからん……。林の中にいようと思たら城の高い壁を超えんかったら入れへん。そやけどそんな形跡はどっこにもあらへんかった。それに、ほんまはフェンリルって言うたらバカでかいんやけど、姫さんを襲ったヤツはたかだか3,4メムくらいやったみたいや」
「空を飛んで来たとか……」
「うーん。ちゃうと思うで。空なんか飛べるって聞いたことあらへんし」
「そうなんですか」
「ああそうや。まあ、そんなことはどうでもええねん!それより……、そのケガだけでも大事なんやけど、もっとえらいことになってしもたんや」
「もっとって…?」
「ああ、足を噛まれた姫さんが苦しんでるのにそいつは襲い掛かり人竜球を壊しよったんや」
「じんりゅうきゅう?」
「ああ、知らんわな兄ちゃんは。人竜球ちゅうのは竜族だけに与えられた魔法球や。この球があるさかいに竜族は人化と竜化ができるんや。それを壊されてしもた姫さんは人化でけへんようになってしもたんや」
「そうなんですか。えーと、おっちゃんは竜族ですか?」
「ああ、おっちゃんも竜族やで。あるで見せたろか」
「えっ、いいんですか?」
「かまへんかまへん」
そう言うとおっちゃんは上着の襟元を開いて見せた。ちょうど胸の真ん中にそれはあった。まるで銀色の巨大宇宙人ヒーローの胸にあるような輝く球が。
「どや。これが人竜球や。綺麗なもんやろ。おっちゃんの髪の色とおんなじ色やろ」
「へえ。とても綺麗です。この人竜球を壊されたんですか姫様は」
「そうや。これを壊された時にはたぶんめっちゃ痛かったんとちゃうかな。恐らく死ぬほどの痛みが姫さんを襲ったやろな。ほんで痛みに苦しみながら竜に戻っていったんやろな……」
そういったおっちゃんの目には薄っすらと涙がたまっていた。
「そうなんですか。で、それはもう治ったんですか?俺が出会った時には痛む素振りもなかったみたいですけど」
「ああ。もう人竜球自体は治ったんやけどな。でもその中の魔力がすっからかんになってしもててな。もう二度と人化でけへんようになってしもたんや」
おっちゃんの目からは涙が一粒頬を伝い落ちた。
「おっちゃん……」
こんな掃除のおっちゃんにまで慕われてるあの黄の竜は幸せなんだなと床に落ちた涙の跡をふっと見た。
そして功助はそこから目を離すとおっちゃんの目を見る。
「その人竜球の魔力って補充とかできないんですか?」
「そやな、できたらええねんけどな……。昔々どうにかして助けようと他人の魔力を無理矢理移植したことあったみたいやけど、あかんかったみたいや。そもそも人化するのには自分の魔力と人竜球の魔力を融合させて巨大な魔力にして身体を変化させるんやけど、その人竜球の中の魔力は個体ごとに違うんや。そやから無理矢理他人の魔力を移植されて拒絶反応おこしてしもたみたいでな。移植してる途中で死んでしもたそうや」
「そうなんですか……」
気がつくと掃除のおっちゃんはずっと同じテーブルを拭き続けていた。
「あの、おっちゃん…、、そのフェンリルでしたっけ?その魔獣はどうなったんですか?」
「逃げよった。姫さんの悲鳴を聞いて護衛のもんや何人もの騎士兵士がかけつけたんやけど遅かったわ。今はそのフェンリルの捜索が継続中や。絶対に見つけて落とし前つけたる!まあ、特徴あるさかいにもうすぐ見つかると思うんや。けど相手が相手やしなあ」
「特徴?どんな奴なんですか?」
「それはな、眉間から左頬にかけて剣で切られたような傷跡があんねん」
「剣で切られた傷跡ですか?」
「そうや。いつ誰がその傷をつけたかはわからへんけど確かにそれは剣で切られた傷やっちゅうことや」
「倒せるんですかその神殺しの魔獣」
「そやな。一般の兵士や騎士やったら300人から500人以上で戦うたらええ戦いができるかもしれへんな。竜化した者やったらそれでも20や30体以上でやって勝てるかどうかやろな」
「そんなに強いんですかそいつ」
「ああ。ほんま最悪な魔獣や」
おっちゃんはテーブルをその拳で叩いた。
「人竜球に魔力が戻らなかったらずっと竜のままなんですか?」
「…それやったらええんやけどな……。それがちゃうんや……。人竜球にもしこのまま魔力が戻らんかったらやな、……姫さんはあと十日ほどで……死ぬ…」
「っ!」
おっちゃんは功助の目を見ると悔しそうに目を伏せた。
「…あ、あと10日で…」
「……そうや。だんだん知性がなくなっていって最後には凶暴化して暴れまくってそこらじゅう破壊するんや。ほんで最後の最後には自分で自分の体に噛みついて、噛み続けてほんで死んでいくんや」
「なんとかならないんですかそれは」
「難しいやろな。でも化膿性はたったひとつだけあるみたいやで。おっちゃんは知らんけど」
「誰が知ってるんですか?」
「王さんや」
「えっ?国王陛下が…」
「知ってると思うで。それで兄ちゃんをこの城に呼んだんかもしれへんな」
「はあ、なんでそれで俺を呼んだんですか?」
「さあな。なんでやろな。おっちゃんも知りたいわ」
功助を見つめる掃除のおっちゃん。
「さ、掃除はだいたい終わったわ。おおきに兄ちゃん、二人でしたら早よ終わったわ。たぶんもうすぐバスティーアはんが来はると思うさかいにもうちょっと待っといてや」
おっちゃんは掃除道具を片付けながらそう言った。
「あ、いいえ。こちらもいろいろと教えていただいてありがとうございました」
おっちゃんに一礼する功助。
「なあ兄ちゃん」
「はい」
「姫さんのこと助けてあげてな。兄ちゃんの魔力ならなんとかなるかもしれへんさかい」
「えっ、姫様の…。って、なんとかなるんですか俺の魔力で」
「ああ、なると思うでおっちゃんは。兄ちゃんの魔力はめっちゃ澄んでるさかいにな。頼むわ」
「へ?なんで?……ま、まあなんとかなるならなんとかしてあげたいですけど」
「そうか、おおきにな兄ちゃん。ほんならよろしゅうたのんます」
おっちゃんは深々とお辞儀をした
「ちょ、ちょっとおっちゃん。頭上げてくださいよ。ね」
「ああ。ほんならおっちゃんは元に戻って待つことにするわ」
「はい?元にって…」
功助がすべて言い終わる前におっちゃんは部屋から出て行った。
「ピギャッ!」
地平線の彼方には左右に広がる高い城壁とその真ん中に見える白亜の城の姿。それは紺碧の空に堂々と聳え立っていた。
竜化したバスティーアを先頭に、その後ろには功助を乗せた黄の竜。そしてその斜め後方には蒼い竜のハンスと赤い竜のライラがゆっくりと翼をはばたかせ竜帝国を目指している。
近づくにつれそれの巨大さがわかってきた。さすがに高さはスカイツリーやあべのハルカスには遠く及ばないがその荘厳さは負けてはいない。
広さは見当もつかないがかなり広大のようだ。
その広大な竜帝国の城壁を超え功助たちは一番高い塔の下の広い芝生に降り立った。
バスティーアたちは竜化を解き人化して功助の方に身体を向けた。
黄の竜は首を下げ功助は長い首を滑って地上に降りた。
「竜帝国にようこそおいでくださいました。ここが竜帝国の居城『白竜城』でございます。ごゆるりとしていってください」
バスティーアはうやうやしく一礼した。
功助が案内された部屋はどうやら普通の客室のようだ。侍女がお茶を淹れてくれ茶菓子なんかも小さな籠に入っている。侍女はライラとは違い黒い侍女服で頭には緑色のカチューシャをつけている。
しばらくすると部屋のドアをノックする音がしてバスティーアが入ってきた。国王陛下との謁見の準備が整ったとのことだ。
バスティーアの先導で許城内の豪華な廊下を連れられて歩いているがなんともぎこちない歩き方になっている功助。
壁や廊下におそらく非常に価値のある調度品や絵画が飾られているのだろうがまったく目に入らない。功助には認識はしているが緊張しすぎてただ見えているだけの景色となっている。
国王と言えばその国の最高権力者だ。その国王陛下に会うのに緊張しない者はいないだろう。元の世界でもそんな偉い人に会ったことはないし会う機会もなかったし、とにかく緊張しまくりの功助。
そしてぎこちなく歩くこと5分ほど。何度も何度も角を曲がりようやく一枚の扉の前にたどり着いた。
「なぜこのような部屋にしたのか。真困ったお方だ」
「えっ?」
バスティーアが何か言ったみたいだがあまりに小さく功助には聞こえなかった。
「いえ、なんでもありません」
といってそのドアの前で歩を止めた。
「申し訳ございませんがこの部屋でもうしばらくお待ちいただけますでしょうか?」
「あ、はい」
そしてバスティーアはそのドアを開けた。
中はなんの変哲もない殺風景な部屋でまるで会社の事務所のようだった。
バスティーアは中を見渡して聞こえないほどの溜息をついたが功助に向き直ると椅子を勧める。
「コースケ様、お座りください」
さすがにパイプ椅子やキャスター付きの椅子ではなかったが、バスティーアは椅子をひいた。恐縮しながらも座るが聞こえないようにはあと息つく功助。
「コースケ様。申し訳ございませんがこのブレスレットをはめていただけますでしょうか」
といって銀色に光る輪っかを取り出した。
「あ、はい。それをはめればいいんですか。わかりました」
なぜか躊躇せずそれを受け取る功助。
「すみません。お願いします」
受け取ったブレスレットを右の手首にはめた。少し大きめで手を握っていなければはずれてしまいそうなそれは淡く光ると功助の手首の太さにまで縮んでピッタリのブレスレットになった。
「わっすごい。ピッタリになった。それでこれはなんなんですか?」
バスティーアの方を見て首を傾げる。
「申し訳ございません。コースケ様ほどのお方であるとこのブレスレットをしていただかねばならないのです。悪影響はございませんので。お守りだと思っていただければ幸いでございます」
「そうですか。なんかよくわかりませんがわかりました」
と言って右手を振った。
そうこうしてると入口とは反対の方の扉がコンコンとノックされティーセットを持った侍女が入ってきた。
「失礼いたします」
そう一礼すると功助の前にお茶の準備をする侍女。
そしてその侍女はバスティーアに向くと、
「バスティーア様。侍女長がお呼びです。あちらまでお越しください」
とバスティーアを連れて行った。一人になった功助。周りを見る余裕もなく琥珀色のお茶の入ったカップを見つめていた。
そして何分たったのだろう、さっき侍女とバスティーアが出て行った扉がコンコンとノックされた。
「は、はい」
来たっ!と思って返事をして椅子から立ち上がり扉の方に身体を向けた。
すると、
「毎度っ!お邪魔しまん~にゃわ~」
と言って箒とちり取り、そしてバケツと雑巾を持った男がアイスブルーの目を細めて立っていた。頭は金髪だがボサボサでくたびれたグレーの帽子をかぶりこれもまたくたびれて薄汚れた作業服に黒長靴をはいている。なんとなくこの部屋にピッタリのおっちゃんが毎度毎度と言いながら入ってきた。
功助はあっけにとられその姿を見ても口をパクパクするだけでなんのリアクションもとれずにいた。
「いやあほんま疲れまんなあ。外はええ天気やのに部屋の掃除せなあかんのんはなんかもったいないでんなあ。なあ兄ちゃん、そう思わへんか?」
「は…、はあ…。で、でもなんで関西弁?」
「カンサイベン?なんやそれ、美味いんか」
「い、いえ食べ物じゃないんですけど…。それよりどなたですか?」
「見てわからんか?ワシは掃除のおっちゃんや」
そう言って胸を張る掃除のおっちゃん。
「ところで兄ちゃん、この部屋で何してはんの?」
「えっ?いや、あの…。ここで国王陛下様が来るのを待ってるんですが…」
「はあ?王さんをでっか?なんでこんなとこに。なあ兄ちゃん王さんがこんなとこには来うへんと思わへんか?」
「いや、でもここで待つようにとバスティーアさんが…」
「バスティーアはんが言わはったんか。まあそんなら来はるんかもな。でもな来はるまでには時間あると思うでおっちゃんは。ほんでやな兄ちゃん、来はるまで暇やろ?なあ掃除手伝うてくれはらへんやろか。な、ええやろ」
「えっ?俺が掃除の手伝いですか…。はあ、まあいいですけど」
功助はなぜか掃除のおっちゃんを手伝って部屋を掃除することになってしまった。なんでやねんと功助の心の声は首を傾げた。
「ほなおっちゃんが箒でゴミ集めるさかいに机とか椅子とかどけてくれはりまっか」
「は、はい」
掃除しやすいようにサイドテーブルや椅子を除けていく功助。
「なあ兄ちゃん。この城ん中にいるっちゅうのはお客さんかなんかか?」
「えっ、はあ、まあそうだと思いますけど」
「ふ~ーん。誰のお客さんなん?」
「うーんと、たぶん姫様…王女様かな」
「そうなんか、姫さんのお客か…って兄ちゃんもしかしてあのお転婆姫さんのケガ治したっちゅう人族の兄ちゃんか?」
「あ、はあ、まあそうなるかと。ってよく知ってますねこの城に着いてからあまり時間たってないのに」
「ふふん。掃除のおっちゃんを舐めたらあかんで。おっちゃんの情報網は竜帝国諜報部より凄いんやで」
「は、はあ」
ゴミ箱を持ったままおっちゃんの話を聞く功助。
「おっ、そのゴミ箱の中身はこっちの袋ん中に入れてや」
と扉不均にいつの間にかおいてある大きな袋を指差した。
「あっ、はい」
「それでやな」
おっちゃんは功助に近づくと少し小さい声で耳元でささやいた。
「はい?」
「聞いてもええか」
「は、はい、いいですけど。なんですか?」
「で、竜帝国の王さんに何お願いすんねん?金か?姫さん助けたんやから相当の金もらえるで。まあ一生遊んで暮らせるような金くれはるで。それ目当てに姫さんのケガ治したんか?それとも竜帝国ん中の上の方の地位が欲しいんか?それとも…」
「ち、違いますよっ!そんな金とか地位とかそんなのいりません!」
一歩後退ると掃除のおっちゃんを睨む。
「わっ、びっくりした。ちょっとそんなに怒らんでもええやんか。ほんまもう。そうなんか、ほんまに下心無いんか?ええチャンスやと思うんやけど」
「す、すいませんつい。でも本心ですよ。姫様の足を治したのも成り行きというか、まあ、実際治せるなんて思いもしませんでしたけど」
おっちゃんが箒で掃いたあとにテーブルや椅子を綺麗に並べて行く功助。すると、
「あっ、しもた!ついうっかり掃除の順番間違うてしもた。箒で掃く前に高いとこの埃を払わなあかんかったんや。掃除のおっちゃんとしたことが。二度手間になるけど兄ちゃんこれで埃払ろてくれるか」
そう言っておっちゃんは頭をかきながらどこから出したのか細い布を束ねたはたきみたいな物を功助に手渡してきた。
「あ、そうですよね。まずは高いところの埃を落としてからですよね。わかりましたまあ二度手間は仕方ないですよ」
そう言って功助は棚の上や高価そうな調度品や絵画や壁の埃を落としていった。そうやって部屋の半分ほどの埃を落として次は反対側に向かおうとしたとき。
「なあ兄ちゃん。掃除のおっちゃんでもわかるんやからバスティーアはんももうとっくにわかってはると思うんやけど。兄ちゃん、あんたどこから来はったん?少なくともこのヌーナ大陸とはちゃうんやろ?」
「ヌーナ大陸?」
「なんやヌーナ大陸も知らへんのんか。これはまたやっかいやなあ」
ヌーナなどという大陸は地球にはない。それは確かだと功助は思う。古代にはいくつもの超大陸が存在したが現在の地形にはそのような大陸は存在しない。
「は、はあ」
「兄ちゃん、今度は拭き掃除や。この雑巾しぼって机の上とか拭いてくれはるか・」
「あ、はい」
雑巾を受け取るとバケツの中の水ですすぎしっかりしぼって机や棚の上を拭く。
「それに兄ちゃんな」
「は、はい」
「兄ちゃんってめっちゃ魔力あるんやな。そのブレスレットしてても兄ちゃんの体からとめどなく魔力がこぼれ出てるで。わかってるか?」
「へ?魔力?俺の体から?」
と言って自分自身を指差す功助。
「 そうやで。やっぱりわかってへんのんかいな。凄い魔力量なんやけどな。そんな気はしたけど。ほんま」
「は、はあ」
「兄ちゃん」
「はい」
「はっきり言うで。兄ちゃんこの世界のもんとちゃうやろ」
「……」
口を半開きにして掃除のおっちゃんを凝視した。だがおっちゃんはニコニコしながらサイドテーブルを拭いている。
「やっぱりそうやったんか。兄ちゃんは知らんと思うけどこの世界にはたま~に異世界から来た人族がいるんやで。でもおっちゃんの知ってる限りこの前に異世界人族が来たんは五百年ほど前やったんちゃうかな」
「…で、その異世界人は元の世界に還れたんですか?」
おっちゃんに近づきググッと顔を寄せた。今はその情報が欲しい。なんでもいいから教えて欲しい。このおっちゃんが知っているかどうかはわからないが少しでも早く元の世界に戻りたい、という気持ちを込めた。
「わわわ、近づき過ぎや近づき過ぎ」
おっちゃんは数歩後退りそんな趣味無いでと額の汗を袖で拭った。
「まあええわ。えーとやな。どうやったんかな。あんまし文献も残ってへんかったかもしれへんけど、ここの城の図書塔にあるかもしれへんで。王さんに聞いてみたらええんとちゃうか」
「国王陛下に…。そうですか。ありがとうございます。聞いてみますね」
「ということはやっぱり兄ちゃんは異世界から来たんやな。でもなんでや?」
「あっ…。ま、まあたぶんそうだと思います。俺にもまだよくわからないんですよ。なんでこんなことになったのか」
「兄ちゃん手ェ止まってんで」
「あ、はい」
とあわてて椅子を拭きだす。
「ところで掃除のおっちゃん。ちょっと聞きたいことがあるんですが」
「なんや。なんでも聞いてや。おっちゃんはなんでも知ってるで」
「なんで姫様は竜になったまま人に戻れないんですか?」
「ああ、それか、それはな、めっちゃ腹立つ……、いや、惨い事件があったんや」
おっちゃんは何もない宙を見つめ言った。
「事件?」
「ああそうや、最悪のな。 あれは十日ほど前やったかな」
掃除のおっちゃんは人に戻れない姫様のことを話し出した。
「朝やった。姫さんはいつもの日課の散歩に行かはったんや。いつもは青の騎士団の誰かが護衛に着くんやけど、その日は空いてる騎士がおらんかってたまたま一人で散歩に行かはったんや。林に行かはったんやけどそこで魔獣に襲われてしもたんや」
「魔獣?」
「そう、魔獣や。悪魔のような魔獣や。まさに天災級のな。ヤツの名は……’フェンリル’)」
「フェンリル……」
「ああそうや。神殺しとも言われる最悪の魔獣や……。そいつに姫さんは左足を噛まれはったんや」
「なんで、なんでそんなとこにフェンリルが?」
「わからん……。林の中にいようと思たら城の高い壁を超えんかったら入れへん。そやけどそんな形跡はどっこにもあらへんかった。それに、ほんまはフェンリルって言うたらバカでかいんやけど、姫さんを襲ったヤツはたかだか3,4メムくらいやったみたいや」
「空を飛んで来たとか……」
「うーん。ちゃうと思うで。空なんか飛べるって聞いたことあらへんし」
「そうなんですか」
「ああそうや。まあ、そんなことはどうでもええねん!それより……、そのケガだけでも大事なんやけど、もっとえらいことになってしもたんや」
「もっとって…?」
「ああ、足を噛まれた姫さんが苦しんでるのにそいつは襲い掛かり人竜球を壊しよったんや」
「じんりゅうきゅう?」
「ああ、知らんわな兄ちゃんは。人竜球ちゅうのは竜族だけに与えられた魔法球や。この球があるさかいに竜族は人化と竜化ができるんや。それを壊されてしもた姫さんは人化でけへんようになってしもたんや」
「そうなんですか。えーと、おっちゃんは竜族ですか?」
「ああ、おっちゃんも竜族やで。あるで見せたろか」
「えっ、いいんですか?」
「かまへんかまへん」
そう言うとおっちゃんは上着の襟元を開いて見せた。ちょうど胸の真ん中にそれはあった。まるで銀色の巨大宇宙人ヒーローの胸にあるような輝く球が。
「どや。これが人竜球や。綺麗なもんやろ。おっちゃんの髪の色とおんなじ色やろ」
「へえ。とても綺麗です。この人竜球を壊されたんですか姫様は」
「そうや。これを壊された時にはたぶんめっちゃ痛かったんとちゃうかな。恐らく死ぬほどの痛みが姫さんを襲ったやろな。ほんで痛みに苦しみながら竜に戻っていったんやろな……」
そういったおっちゃんの目には薄っすらと涙がたまっていた。
「そうなんですか。で、それはもう治ったんですか?俺が出会った時には痛む素振りもなかったみたいですけど」
「ああ。もう人竜球自体は治ったんやけどな。でもその中の魔力がすっからかんになってしもててな。もう二度と人化でけへんようになってしもたんや」
おっちゃんの目からは涙が一粒頬を伝い落ちた。
「おっちゃん……」
こんな掃除のおっちゃんにまで慕われてるあの黄の竜は幸せなんだなと床に落ちた涙の跡をふっと見た。
そして功助はそこから目を離すとおっちゃんの目を見る。
「その人竜球の魔力って補充とかできないんですか?」
「そやな、できたらええねんけどな……。昔々どうにかして助けようと他人の魔力を無理矢理移植したことあったみたいやけど、あかんかったみたいや。そもそも人化するのには自分の魔力と人竜球の魔力を融合させて巨大な魔力にして身体を変化させるんやけど、その人竜球の中の魔力は個体ごとに違うんや。そやから無理矢理他人の魔力を移植されて拒絶反応おこしてしもたみたいでな。移植してる途中で死んでしもたそうや」
「そうなんですか……」
気がつくと掃除のおっちゃんはずっと同じテーブルを拭き続けていた。
「あの、おっちゃん…、、そのフェンリルでしたっけ?その魔獣はどうなったんですか?」
「逃げよった。姫さんの悲鳴を聞いて護衛のもんや何人もの騎士兵士がかけつけたんやけど遅かったわ。今はそのフェンリルの捜索が継続中や。絶対に見つけて落とし前つけたる!まあ、特徴あるさかいにもうすぐ見つかると思うんや。けど相手が相手やしなあ」
「特徴?どんな奴なんですか?」
「それはな、眉間から左頬にかけて剣で切られたような傷跡があんねん」
「剣で切られた傷跡ですか?」
「そうや。いつ誰がその傷をつけたかはわからへんけど確かにそれは剣で切られた傷やっちゅうことや」
「倒せるんですかその神殺しの魔獣」
「そやな。一般の兵士や騎士やったら300人から500人以上で戦うたらええ戦いができるかもしれへんな。竜化した者やったらそれでも20や30体以上でやって勝てるかどうかやろな」
「そんなに強いんですかそいつ」
「ああ。ほんま最悪な魔獣や」
おっちゃんはテーブルをその拳で叩いた。
「人竜球に魔力が戻らなかったらずっと竜のままなんですか?」
「…それやったらええんやけどな……。それがちゃうんや……。人竜球にもしこのまま魔力が戻らんかったらやな、……姫さんはあと十日ほどで……死ぬ…」
「っ!」
おっちゃんは功助の目を見ると悔しそうに目を伏せた。
「…あ、あと10日で…」
「……そうや。だんだん知性がなくなっていって最後には凶暴化して暴れまくってそこらじゅう破壊するんや。ほんで最後の最後には自分で自分の体に噛みついて、噛み続けてほんで死んでいくんや」
「なんとかならないんですかそれは」
「難しいやろな。でも化膿性はたったひとつだけあるみたいやで。おっちゃんは知らんけど」
「誰が知ってるんですか?」
「王さんや」
「えっ?国王陛下が…」
「知ってると思うで。それで兄ちゃんをこの城に呼んだんかもしれへんな」
「はあ、なんでそれで俺を呼んだんですか?」
「さあな。なんでやろな。おっちゃんも知りたいわ」
功助を見つめる掃除のおっちゃん。
「さ、掃除はだいたい終わったわ。おおきに兄ちゃん、二人でしたら早よ終わったわ。たぶんもうすぐバスティーアはんが来はると思うさかいにもうちょっと待っといてや」
おっちゃんは掃除道具を片付けながらそう言った。
「あ、いいえ。こちらもいろいろと教えていただいてありがとうございました」
おっちゃんに一礼する功助。
「なあ兄ちゃん」
「はい」
「姫さんのこと助けてあげてな。兄ちゃんの魔力ならなんとかなるかもしれへんさかい」
「えっ、姫様の…。って、なんとかなるんですか俺の魔力で」
「ああ、なると思うでおっちゃんは。兄ちゃんの魔力はめっちゃ澄んでるさかいにな。頼むわ」
「へ?なんで?……ま、まあなんとかなるならなんとかしてあげたいですけど」
「そうか、おおきにな兄ちゃん。ほんならよろしゅうたのんます」
おっちゃんは深々とお辞儀をした
「ちょ、ちょっとおっちゃん。頭上げてくださいよ。ね」
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功助がすべて言い終わる前におっちゃんは部屋から出て行った。
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