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第3章 婚姻承諾の儀
07 紫水晶
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昼。功助たちはそろって一食の特別室でランチを食べている。
メンバーは今日の主役のミュゼリアとベルクリット。そしてミュゼリアの兄ハンス。ベルクリットの両親。それと自分では部外者だと思っている功助も一緒にランチしている。
「ところでミュゼリアさん」
「は、はい。なんでしょうかヴィオレーヌ様」
とフォークを置き背筋を真っ直ぐにするミュゼリア。
「あらあらヴィオレーヌ様ですって。そんなに堅くならないでいいのよ。もうすぐ私たちは親子になるのですから」
とクスクス笑うオレンジ髪の女性。この女性はベルクリットの母ヴィオレーヌ・ラウディーだ。見た目は気品漂う女性だがその中は気さくで友人も多い。
「は、はい…。で、でも」
と困ったように顔を赤くするミュゼリア。
「母上。ミュゼリアを困らせないでください」
水を一口飲むと苦笑するベルクリット。
「何を言っているのですかあなたは。婚姻承諾の儀式も終えたのですからこれであなたの嫁となるのは決まったのです。ミュゼリアさんは我がラウディー家の娘となり私とは義理とは言え親と娘になるのですよ」
わかってるのですかあなたはとブツブツ言いながらフォークに突き刺したハンバーグをパクッと食べた。
「ところでヴィオレーヌ」
「なんですかあなた」
「さっきミュゼリアに何を尋ねようとしたのだ?」
「は?あっ、そうでしたそうでした。忘れるところでした」
コホンと一つ咳ばらいをするヴィオレーヌ。
「ミュゼリアさん。結婚式にはどのようなドレスをお召しになるのかしら?」
「えっ、けけけ結婚式のドドドドレスですかっ!」
「そうよ。あら?もしかしてまだ決まってないの?」
と少し首を傾げるとミュゼリアを見る。ミュゼリアは少しおろおろしながらベルクリットを見てあわあわ言っている。
「母上。まだ詳細は決めていません。というか、式の日取りもまだ決めていません」
「なんですって…!」
ヴィオレーヌの目が吊り上がり息子を睨む。すると目を泳がせおろおろするベルクリット。
「あ、あの…。は、母上…?」
「あなたという人は。ほんとにもう」
と首を振っている。
「わかりました。ベルクリット。食事中はゆっくりとミュゼリアさんとお話したいと思ってましたがそれは後にします」
「それはどういう…?」
「ほんとにもう、あなたにはあきれます。いいですかベルクリット、結婚式というものは女性にとってどれだけの憧れを持っていると思っているのです。神聖な協会で美しいウェディングドレスを着て友人や知り合いに祝していただく。そして竜帝国を守護してくださっている白竜神様の恩前で愛を誓い合う。なんと素晴らしいことなのでしょう」
「は、はあ…」
「ベルクリット。女性の気持ちがまったくわかっていませんねあなたは。いいですかベルクリット…」
「ヴィオレーヌ。もうそのへんで…」
するとヴィオレーヌは夫の顔をキッと睨むと目をつむる。
「あなた!もしかしてベルクリットの肩を持つおつもりですか?!ほんとにもうこの男たちは」
とまた首を振る。するとニコッと微笑むと功助の方を見た。
「ねえねえコースケ様。コースケ様はこんな男たちとは違うのでしょう?シオンベール王女様がお認めになられたお方ですものね。ご婚約はまだと聞いておりますがちゃんと姫様のことはお考えになっているのでしょうね。ここにいる女性の気持ちもわからないような男共とは違うのだと私は思っております」
わざわざテーブルを回り込み功助の横に来て顔を近づけてきた。
「う、うみゃっ!」
奇妙な声をあげて功助は肉の突き刺さったフォークを持ったまま後ろにのけぞってしまう。
「どうなんですのコースケ様っ、ねえねえどうなのですっ!」
「おいおいヴィオレーヌ。コースケ殿が困っているぞ」
「そうです母上。コースケには関係ないと…」
「だまらっしゃい!」
とたんにおとなしくなる父と息子。
その声は小さな声だったがけっこう怖かったりする。
「あ、あはは」
功助がどう切り抜けようかと思った時。
「ヴィオレーヌ様」
とミュゼが小さな声だがはっきりと名前を呼んだ。
「なあにミュゼリアさん。でもねお母様って呼んでほしいわ」
とニコニコとミュゼリアを見るヴィオレーヌ。
「えっ、あ、あ、は、はい。え、えーと…。は、は、母…上…」
「んもう。違う違う。今は家族だけでいるんですから私のことはちゃんとお母様って呼んでちょうだいねミュゼリアさん。じゃなくて、ミュゼちゃん」
と今度はミュゼリアの横に立つとその両手をガシッと握り笑顔のヴィオレーヌ。
「え、ええっ。で、でもでも。あの、その…」
「ミュゼリア。母上の言うとおりにしてやってくれないか」
と横からベルクリットがすまなさそうに言う。
「え、は、はい…で、でも…」
「いいから、な、ミュゼリア」
とすまなさそうに頭をほんの少し下げる。
「え、は、はい。わ、わかりました……。お…、お…、お、お母様」
ミュゼリアの顔は真っ赤に染まった。それこそトマトのように。
「やった!ミュゼちゃんにお母様って呼んでもらったわ!うれしいわ私!」
ピョンと跳ねると胸の前で手を組み満面の笑顔で喜んでいるヴィオレーヌ。
「すまないなミュゼリア。ヴィオレーヌはずっと娘が欲しいと言っていてな。我が家にはベルクリットと弟の男子だけで女子はいなくずっとこの時を待ってたのだ」
「そ、そうでしたか。喜んでいただけて私もうれしいです」
「んもう、そんなことはもうどうでもいいの。とにかく私たちに娘ができたのよ。ほんっと嬉しいわ。ありがとうベルクリット。こんなに良いお嫁さんを見つけてくれて」
「母上」
苦笑するベルクリット。
「これからずっとよろしくねミュゼちゃん」
「は、はいよろしくお願いいたしますお母様」
それを見てホッとする功助。
「ところで何一人でゆったりと食事してるんですかハンスさん」
功助の横で我関せずと食事を続けているハンスに声をかけた。
「ん?なんだ モグモグ 今食事中だから モグモグ 気にするな モグモグ コースケ モグモグ ゴクン」
口いっぱいの肉を呑み込みニヤニヤするハンス。
「ちょっとハンスさん」
功助が軽く睨むと小さく手をあげて耳元で囁く。
「ベルクの母親は昔っからああだから俺は避難してるんだ。気にせずベルクの母親と話しててくれ」
ウシシと奇妙な笑みでまたステーキにかぶりついた。
「ハンスくん。何か言った?」
笑顔でヴィオレーヌがハンスの顔を見た。が、目は笑ってなかった。
「うぐっ ウグウグ…!ウググググッ!」
急にヴィオレーヌに見つめられ肉を喉に詰めるハンス。
「だ、大丈夫ですかハンスさん」
功助は水を手渡すとハンスの背中をパンパン叩いた。
「お疲れ様でしたコースケ様」
夕方。城内の自室。一食を出るとベルクリット親子は一度城下の実家に戻っていった。そしてハンスは青の騎士団詰所に行くと言って別れた。功助とミュゼリアはこうして自室に戻ってきたのだった。
「うん。…って疲れてるのはミュゼだろう」
と苦笑する。
「あはは。いえいえ、私は元気ですよコースケ様」
ニコニコとうれしそうなミュゼリア。
「でもなミュゼ。今夜くらいはベルクリットさんやハンスさんのところに行っててもいいのに」
と苦笑するとミュゼリアはペコッと頭を下げる。
「コースケ様、ありがとうございます。私はコースケ様専属の侍女です。コースケ様をお一人になどできません。しっかりとお世話させていただきます。はい、私が結婚したとして、これは変わりません。もしコースケ様専属を解任を命じられても私は断固拒否いたします」
と胸の前でグーをして頑張るぞオーラを出すミュゼリア。
「ははは。わかったわかった。俺もミュゼ以外の専属侍女は絶対に認めないから。頼むよミュゼ」
「ありがとうございますっ!お任せください!」
と両手を突き上げるミュゼリア。功助もマネして拳を掲げた。
コンコン。
誰かがドアを叩いたようだ。
「はい」
すかさずミュゼリアはドアの前まで行くとどちらさまでしょうかと尋ねた。
「シオンベールでございます」
ミュゼリアが功助の方を向くと頷く功助。
「はい。姫様。どうぞお入りください」
ミュゼリアによってゆっくりとドアは開かれた。そこには微笑を浮かべシオンベールがライラ副侍女長を伴って立っていた。
「どうしたんだシオン。連絡くれたらこっちから行ったのに」
とシオンベールをソファーに促すとありがとうございますと座った。その後ろにライラが立つ。
「いえ。今日はコースケ様にではなくミュゼリアに会いにきたのです」
とうれしそうなシオンベール。
「ミュゼに?」
「はい」
とミュゼリアを見るシオンベール。
「えっ、私にでしょうか?」
と驚くミュゼリア。そしてちょっとおろおろしてしまう。
「えっえっえっ。わたわた私、なな何か無礼を……。でもでも私何も…、もももしかして気付かないうちに何か…」
「ミュゼリア!落ち着きなさい!」
ライラが一喝するとビクッとなりミュゼリアは直立不動となった。
「ライラ、いいのですよ。ミュゼリア」
「は、はいっ!姫様!」
「私はおめでとうを言いにきたのですよ」
とクスクス笑う。
「へ?」
間の抜けたような返事をするミュゼリア。
「ミュゼリア。なんですかその返事は。姫様に対し無礼ですよ」
とまたライラ。
「は、はいっ!申し訳ございません!」
と最敬礼。
「うふふふ。ミュゼリア。今日は婚姻承諾の儀式でしたね。おめでとう」
「あ、ありがとうございます姫様!」
そう言うとまた最敬礼をする。
「ライラ」
「はい」
シオンベールに言われるとライラは大事そうに両手で持っていたものをミュゼリアに差し出した。
「え…?」
「ミュゼリア。姫様がこれをあなたにと」
「え、あ、あの、私にですか…?」
「そうですよミュゼリア。是非受け取っていただけますか?」
「は、…はい。ありがとうございます」
とライラから小さな箱を受け取った。はてと首を傾げるミュゼリア。
「で、でもなぜ私などに…?」
「それは当然ですよミュゼリア。私の戦友が婚姻承諾の儀式をしたのです。これを祝わずにどうします?」
と笑うシオンベール。
「せ、戦友?」
と不思議そうな顔をするミュゼリア。
「ふふふ。そうですよ戦友です。忘れたのですか?あのフェンリルへの攻撃を。コースケ様をお助けするために私とあなたとでフェンリルの左前肢を切断してやりました。あなたと私の力でですよ。これを戦友と言わずしてなんと言うのです?」
とシオンベールはソファーから立つとミュゼの目の前まで行く。
「ひ、姫様」
受け取った箱をその両手でしっかりと持っているミュゼリアのその手にシオンベールは自分の手を重ねるとまた微笑んだ。
「よかったですね。おめでとうミュゼリア」
やさしく声をかけるシオンベール。自分のことのようにとてもうれしそうな笑顔だ。
ひ、姫…様…。あ、ありがとうございます」
ミュゼリアの目から大粒の涙が頬をつたう。次から次と涙は流れた。
「ぐす、ぐす。う、うぅ、う、うぇーん。姫しゃまぁ」
ついに声を出して泣き出した。
「あらあら。困りましたね。大丈夫ですかミュゼリア」
シオンベールは笑顔のままミュゼリアの背中をポンポン叩く。
「さあミュゼリア、その箱を開けてみてください」
「は、はい。グス」
手の甲でゴシゴシと目を擦るとその小さな箱をそっと開けた。
「うわぁ。なんて綺麗なの」
ミュゼリアの顔がデレッとくずれその箱の中からシオンベールからのプレゼントをそっと取り出す。
取り出されたのはピアスのようだった。ミュゼリアの目と同じ薄紫色の宝石が輝くピアス。
「ありがとうございます姫様。こんな素晴らしいものを私ごときに」
そう言うとまた大粒の涙が頬をつたった。
「よかったなミュゼ」
「はい。ありがとうございますコースケ様」
ゴシゴシと目をこすると今度は満面の笑顔だ。
「さあミュゼリア。つけてみてください」
「あ、はい」
ミュゼリアは耳たぶにピアスをつけた。
「姫様、どうですか?」
とシオンベールに見せる。
「よく似合ってますよミュゼリア。あなたの瞳と同じ色にしてよかった」
と微笑むシオンベール。
「これは紫水晶と言って’誠実’という意味があるのです。もちろん魔法が付与されているので壊れる心配も失くす心配もありません。あなたが竜化してもまったく影響のないものとなってますので安心してください」
「はい。ありがとうございます姫様。大切にします。ほんとうにありがとうございました」
と深々と一礼をする。
「コースケ様、どうです、似合いますか?」
今度はその嬉しい笑顔を功助に向ける。
「うん、いいよ。とても綺麗だよ。よかったなミュゼ」
シオンベールの横に立って満面の笑顔のミュゼリアを見つめた。ミュゼリアが動くたびにその紫水晶はキラキラと輝いていた。
メンバーは今日の主役のミュゼリアとベルクリット。そしてミュゼリアの兄ハンス。ベルクリットの両親。それと自分では部外者だと思っている功助も一緒にランチしている。
「ところでミュゼリアさん」
「は、はい。なんでしょうかヴィオレーヌ様」
とフォークを置き背筋を真っ直ぐにするミュゼリア。
「あらあらヴィオレーヌ様ですって。そんなに堅くならないでいいのよ。もうすぐ私たちは親子になるのですから」
とクスクス笑うオレンジ髪の女性。この女性はベルクリットの母ヴィオレーヌ・ラウディーだ。見た目は気品漂う女性だがその中は気さくで友人も多い。
「は、はい…。で、でも」
と困ったように顔を赤くするミュゼリア。
「母上。ミュゼリアを困らせないでください」
水を一口飲むと苦笑するベルクリット。
「何を言っているのですかあなたは。婚姻承諾の儀式も終えたのですからこれであなたの嫁となるのは決まったのです。ミュゼリアさんは我がラウディー家の娘となり私とは義理とは言え親と娘になるのですよ」
わかってるのですかあなたはとブツブツ言いながらフォークに突き刺したハンバーグをパクッと食べた。
「ところでヴィオレーヌ」
「なんですかあなた」
「さっきミュゼリアに何を尋ねようとしたのだ?」
「は?あっ、そうでしたそうでした。忘れるところでした」
コホンと一つ咳ばらいをするヴィオレーヌ。
「ミュゼリアさん。結婚式にはどのようなドレスをお召しになるのかしら?」
「えっ、けけけ結婚式のドドドドレスですかっ!」
「そうよ。あら?もしかしてまだ決まってないの?」
と少し首を傾げるとミュゼリアを見る。ミュゼリアは少しおろおろしながらベルクリットを見てあわあわ言っている。
「母上。まだ詳細は決めていません。というか、式の日取りもまだ決めていません」
「なんですって…!」
ヴィオレーヌの目が吊り上がり息子を睨む。すると目を泳がせおろおろするベルクリット。
「あ、あの…。は、母上…?」
「あなたという人は。ほんとにもう」
と首を振っている。
「わかりました。ベルクリット。食事中はゆっくりとミュゼリアさんとお話したいと思ってましたがそれは後にします」
「それはどういう…?」
「ほんとにもう、あなたにはあきれます。いいですかベルクリット、結婚式というものは女性にとってどれだけの憧れを持っていると思っているのです。神聖な協会で美しいウェディングドレスを着て友人や知り合いに祝していただく。そして竜帝国を守護してくださっている白竜神様の恩前で愛を誓い合う。なんと素晴らしいことなのでしょう」
「は、はあ…」
「ベルクリット。女性の気持ちがまったくわかっていませんねあなたは。いいですかベルクリット…」
「ヴィオレーヌ。もうそのへんで…」
するとヴィオレーヌは夫の顔をキッと睨むと目をつむる。
「あなた!もしかしてベルクリットの肩を持つおつもりですか?!ほんとにもうこの男たちは」
とまた首を振る。するとニコッと微笑むと功助の方を見た。
「ねえねえコースケ様。コースケ様はこんな男たちとは違うのでしょう?シオンベール王女様がお認めになられたお方ですものね。ご婚約はまだと聞いておりますがちゃんと姫様のことはお考えになっているのでしょうね。ここにいる女性の気持ちもわからないような男共とは違うのだと私は思っております」
わざわざテーブルを回り込み功助の横に来て顔を近づけてきた。
「う、うみゃっ!」
奇妙な声をあげて功助は肉の突き刺さったフォークを持ったまま後ろにのけぞってしまう。
「どうなんですのコースケ様っ、ねえねえどうなのですっ!」
「おいおいヴィオレーヌ。コースケ殿が困っているぞ」
「そうです母上。コースケには関係ないと…」
「だまらっしゃい!」
とたんにおとなしくなる父と息子。
その声は小さな声だったがけっこう怖かったりする。
「あ、あはは」
功助がどう切り抜けようかと思った時。
「ヴィオレーヌ様」
とミュゼが小さな声だがはっきりと名前を呼んだ。
「なあにミュゼリアさん。でもねお母様って呼んでほしいわ」
とニコニコとミュゼリアを見るヴィオレーヌ。
「えっ、あ、あ、は、はい。え、えーと…。は、は、母…上…」
「んもう。違う違う。今は家族だけでいるんですから私のことはちゃんとお母様って呼んでちょうだいねミュゼリアさん。じゃなくて、ミュゼちゃん」
と今度はミュゼリアの横に立つとその両手をガシッと握り笑顔のヴィオレーヌ。
「え、ええっ。で、でもでも。あの、その…」
「ミュゼリア。母上の言うとおりにしてやってくれないか」
と横からベルクリットがすまなさそうに言う。
「え、は、はい…で、でも…」
「いいから、な、ミュゼリア」
とすまなさそうに頭をほんの少し下げる。
「え、は、はい。わ、わかりました……。お…、お…、お、お母様」
ミュゼリアの顔は真っ赤に染まった。それこそトマトのように。
「やった!ミュゼちゃんにお母様って呼んでもらったわ!うれしいわ私!」
ピョンと跳ねると胸の前で手を組み満面の笑顔で喜んでいるヴィオレーヌ。
「すまないなミュゼリア。ヴィオレーヌはずっと娘が欲しいと言っていてな。我が家にはベルクリットと弟の男子だけで女子はいなくずっとこの時を待ってたのだ」
「そ、そうでしたか。喜んでいただけて私もうれしいです」
「んもう、そんなことはもうどうでもいいの。とにかく私たちに娘ができたのよ。ほんっと嬉しいわ。ありがとうベルクリット。こんなに良いお嫁さんを見つけてくれて」
「母上」
苦笑するベルクリット。
「これからずっとよろしくねミュゼちゃん」
「は、はいよろしくお願いいたしますお母様」
それを見てホッとする功助。
「ところで何一人でゆったりと食事してるんですかハンスさん」
功助の横で我関せずと食事を続けているハンスに声をかけた。
「ん?なんだ モグモグ 今食事中だから モグモグ 気にするな モグモグ コースケ モグモグ ゴクン」
口いっぱいの肉を呑み込みニヤニヤするハンス。
「ちょっとハンスさん」
功助が軽く睨むと小さく手をあげて耳元で囁く。
「ベルクの母親は昔っからああだから俺は避難してるんだ。気にせずベルクの母親と話しててくれ」
ウシシと奇妙な笑みでまたステーキにかぶりついた。
「ハンスくん。何か言った?」
笑顔でヴィオレーヌがハンスの顔を見た。が、目は笑ってなかった。
「うぐっ ウグウグ…!ウググググッ!」
急にヴィオレーヌに見つめられ肉を喉に詰めるハンス。
「だ、大丈夫ですかハンスさん」
功助は水を手渡すとハンスの背中をパンパン叩いた。
「お疲れ様でしたコースケ様」
夕方。城内の自室。一食を出るとベルクリット親子は一度城下の実家に戻っていった。そしてハンスは青の騎士団詰所に行くと言って別れた。功助とミュゼリアはこうして自室に戻ってきたのだった。
「うん。…って疲れてるのはミュゼだろう」
と苦笑する。
「あはは。いえいえ、私は元気ですよコースケ様」
ニコニコとうれしそうなミュゼリア。
「でもなミュゼ。今夜くらいはベルクリットさんやハンスさんのところに行っててもいいのに」
と苦笑するとミュゼリアはペコッと頭を下げる。
「コースケ様、ありがとうございます。私はコースケ様専属の侍女です。コースケ様をお一人になどできません。しっかりとお世話させていただきます。はい、私が結婚したとして、これは変わりません。もしコースケ様専属を解任を命じられても私は断固拒否いたします」
と胸の前でグーをして頑張るぞオーラを出すミュゼリア。
「ははは。わかったわかった。俺もミュゼ以外の専属侍女は絶対に認めないから。頼むよミュゼ」
「ありがとうございますっ!お任せください!」
と両手を突き上げるミュゼリア。功助もマネして拳を掲げた。
コンコン。
誰かがドアを叩いたようだ。
「はい」
すかさずミュゼリアはドアの前まで行くとどちらさまでしょうかと尋ねた。
「シオンベールでございます」
ミュゼリアが功助の方を向くと頷く功助。
「はい。姫様。どうぞお入りください」
ミュゼリアによってゆっくりとドアは開かれた。そこには微笑を浮かべシオンベールがライラ副侍女長を伴って立っていた。
「どうしたんだシオン。連絡くれたらこっちから行ったのに」
とシオンベールをソファーに促すとありがとうございますと座った。その後ろにライラが立つ。
「いえ。今日はコースケ様にではなくミュゼリアに会いにきたのです」
とうれしそうなシオンベール。
「ミュゼに?」
「はい」
とミュゼリアを見るシオンベール。
「えっ、私にでしょうか?」
と驚くミュゼリア。そしてちょっとおろおろしてしまう。
「えっえっえっ。わたわた私、なな何か無礼を……。でもでも私何も…、もももしかして気付かないうちに何か…」
「ミュゼリア!落ち着きなさい!」
ライラが一喝するとビクッとなりミュゼリアは直立不動となった。
「ライラ、いいのですよ。ミュゼリア」
「は、はいっ!姫様!」
「私はおめでとうを言いにきたのですよ」
とクスクス笑う。
「へ?」
間の抜けたような返事をするミュゼリア。
「ミュゼリア。なんですかその返事は。姫様に対し無礼ですよ」
とまたライラ。
「は、はいっ!申し訳ございません!」
と最敬礼。
「うふふふ。ミュゼリア。今日は婚姻承諾の儀式でしたね。おめでとう」
「あ、ありがとうございます姫様!」
そう言うとまた最敬礼をする。
「ライラ」
「はい」
シオンベールに言われるとライラは大事そうに両手で持っていたものをミュゼリアに差し出した。
「え…?」
「ミュゼリア。姫様がこれをあなたにと」
「え、あ、あの、私にですか…?」
「そうですよミュゼリア。是非受け取っていただけますか?」
「は、…はい。ありがとうございます」
とライラから小さな箱を受け取った。はてと首を傾げるミュゼリア。
「で、でもなぜ私などに…?」
「それは当然ですよミュゼリア。私の戦友が婚姻承諾の儀式をしたのです。これを祝わずにどうします?」
と笑うシオンベール。
「せ、戦友?」
と不思議そうな顔をするミュゼリア。
「ふふふ。そうですよ戦友です。忘れたのですか?あのフェンリルへの攻撃を。コースケ様をお助けするために私とあなたとでフェンリルの左前肢を切断してやりました。あなたと私の力でですよ。これを戦友と言わずしてなんと言うのです?」
とシオンベールはソファーから立つとミュゼの目の前まで行く。
「ひ、姫様」
受け取った箱をその両手でしっかりと持っているミュゼリアのその手にシオンベールは自分の手を重ねるとまた微笑んだ。
「よかったですね。おめでとうミュゼリア」
やさしく声をかけるシオンベール。自分のことのようにとてもうれしそうな笑顔だ。
ひ、姫…様…。あ、ありがとうございます」
ミュゼリアの目から大粒の涙が頬をつたう。次から次と涙は流れた。
「ぐす、ぐす。う、うぅ、う、うぇーん。姫しゃまぁ」
ついに声を出して泣き出した。
「あらあら。困りましたね。大丈夫ですかミュゼリア」
シオンベールは笑顔のままミュゼリアの背中をポンポン叩く。
「さあミュゼリア、その箱を開けてみてください」
「は、はい。グス」
手の甲でゴシゴシと目を擦るとその小さな箱をそっと開けた。
「うわぁ。なんて綺麗なの」
ミュゼリアの顔がデレッとくずれその箱の中からシオンベールからのプレゼントをそっと取り出す。
取り出されたのはピアスのようだった。ミュゼリアの目と同じ薄紫色の宝石が輝くピアス。
「ありがとうございます姫様。こんな素晴らしいものを私ごときに」
そう言うとまた大粒の涙が頬をつたった。
「よかったなミュゼ」
「はい。ありがとうございますコースケ様」
ゴシゴシと目をこすると今度は満面の笑顔だ。
「さあミュゼリア。つけてみてください」
「あ、はい」
ミュゼリアは耳たぶにピアスをつけた。
「姫様、どうですか?」
とシオンベールに見せる。
「よく似合ってますよミュゼリア。あなたの瞳と同じ色にしてよかった」
と微笑むシオンベール。
「これは紫水晶と言って’誠実’という意味があるのです。もちろん魔法が付与されているので壊れる心配も失くす心配もありません。あなたが竜化してもまったく影響のないものとなってますので安心してください」
「はい。ありがとうございます姫様。大切にします。ほんとうにありがとうございました」
と深々と一礼をする。
「コースケ様、どうです、似合いますか?」
今度はその嬉しい笑顔を功助に向ける。
「うん、いいよ。とても綺麗だよ。よかったなミュゼ」
シオンベールの横に立って満面の笑顔のミュゼリアを見つめた。ミュゼリアが動くたびにその紫水晶はキラキラと輝いていた。
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月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……
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